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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
16/157

*** 16 練習試合その後 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 さて次は5番打者か。

 吉祥寺先生の初球サインは、落ちながら右に曲がるジャイロね。

 よし、空振りだ。

 次のサインは。

 はは、ナックルだってさ。

 よーし、うまく変化してくれよー。

 この球、日によって変化の仕方や大きさが全然違うからな。

 うりゃっ。



【全体大監督(主審)】


(ん?

 なんだスローボールか?

 い、いや右に曲がった。

 あっ、今度は左だっ!

 あああっ! 少しだが上に曲がった!

 また動いたっ!

 な、ななな、なんだこの球種はっ!)


 そ、そうだ、コールせねば……


「ス、ストライク……」



【再度全体大監督(主審)】

(ああ、吉祥寺先輩がキャッチングを諦めてプロテクターに当てて前に弾いたか……

 そうだな、この球はキャッチャーも捕れないだろう……

 それにしても、この投手、いったいいくつの変化球を持っているというのだろうか……)



 3球目は、またナックルか。

 今の球けっこうよく変化してたからなあ。

 まあ大丈夫だろう。

 よし、空振りで三振だな。


 6番も、ジャイロ、シンカー、フォークで三球三振。

 よしよし。



 3回の表の日比山の攻撃は、7番が三振、8番もボテボテのピーゴロ。

 さて、ついに俺の初打席か。わくわくするな。


 あれ、周りがスローモーションに見えるぞ……

 俺今『クイック』の魔法使ってないのに……

 あ、そうか、今俺集中のあまりゾーンに入ってるのか。

 それじゃあ普通に打ったら、早すぎてタイミング合わないかも。

 よし、溜めまくって打とう!



【全体大監督(主審)】

(初球は外角にボール半分外れるボール球か。

 まあいい選択だな。

 それにしてもこの神田くん、打つ気がまるで無いように見えるが……

 うわっ! ボールがベース付近まで来てからフルスイング!)


 ガキーンっ!


【再び全体大監督(主審)】

(な、なんというスイングスピード!

 こ、この選手は球が速いだけでなく、スイングスピードまで速いのか!

 ああああ、打球はライナーのままバックスクリーン直撃か……

 吉祥寺先輩が言っていた通り、まさに超怪物だ……

 弱点は無いのか?

 スタミナ?

 い、いやこの男はオリンピックマラソンの金メダリストだぞ。

 スタミナは全人類最高レベルだろうに……)



 はは、ベンチに帰ったらダニ先輩が白目になってたわー。




 日比山の1番打者はまだ緊張がほぐれず、ガチガチのまま見送り三振。


 さてと、相手の7、8、9番打者か。

 気を抜かずに慎重に投げるか。

 うーん、みんなボールを見極めようとしてるのかな。

 ほとんど振らずに三者とも見逃しの三振か……



【全体大監督(主審)】

(うむ、皆球筋の観察に切り替えたか。

 それでいい。さすがはウチの生徒たちだ。

 これは練習試合なのだから。

 見たことのない変化球も、一度見れば見たことのある変化球になるからな。

 まあ、今日見てすぐに打てる球ではないが……)



 そして、日比山またも三者凡退の後、迎えた4回の裏。


 さて、一巡して1番打者か。

 まあ俺は吉祥寺先生のサイン通り精一杯投げるだけだがな。

 それもエグい配球のサインで。

 まあ敵さんも、こんだけ球種があると狙い球を絞るのは難しいだろうからなぁ。

 敵ながら同情するよ。


 よしよし、1番は無難に打ち取ったか。

 バント好きの2番はどうするのかな?

 うん、まずはフォークか。

 よし、バント失敗空振り。

 次のスライダーは……

 あ、振ったバットに当たっちまったぜ。

 でも完全に芯を外したボテボテのショートゴロ。


 ああっ! 

 ショートがトンネルっ!

 まいったよなぁ。

 あれぐらい何とかして欲しいけど、所詮はウチの守備かぁ。

 こりゃ俺がなんとかするしかないのかね?


 牽制球は……

 なんか1塁も捕れないだろうな。

 でも一応投げてみるか。

 あーやっぱり後逸。

 おいおい、セカンドもライトもカバーに入ってないんかよ!

 2年生のセンパイ方、野球知ってんのかね?

 その間にランナー3塁まで。


 あ、ベンチでダニ先輩が「ザマミロ神田っ!」とか叫んでる。

 はは、ベンチの全員から睨まれてやんの。

 さらに御茶ノ水先生に、「もう一度暴言を吐いたら退場してもらうよ」とか言われてやんの。あはは。


 んー、1アウト3塁でバッター3番か。

 ここはまあ、スクイズだろうね。

 吉祥寺先生のサインは内角へフォーク。

 まあそうだろうねえ。

 よし、スクイズ空振り。

 3塁ランナー慌てて帰塁。

 吉祥寺先生は3塁には送球せずセーフ。

 まあ送球なんかしたら9割がた落球か後逸するだろうからな。


 2球目は……

 うんうん、カットボールね。

 これも無難だわ。

 またもスクイズ空振りで3塁ランナー必死で帰塁。

 行ったり来たりお疲れ様。


 3球目はまた内角にフォーク。

 はは、またスクイズ試みたけど、やっぱり空振りで2アウト。


 さてと、4番さんにはどうするのかな?

 遅い系の球だと4番でもセーフティースクイズあるぞ。

 うん、まずは内角にジャイロでカウント稼ぎか。

 よいしょっと。

 よし、バットにかすりもせず。

 こりゃ打つ気かな。


 次はカットボール。

 その次はフォークか。

 よし! これで三振!

 3アウトチェンジ!


 ふー、エラーが怖いとタイミング外す遅い系の球やスライダーが使えないからけっこうキツイわ。

 なんちゅー縛りプレイだ。


 あれ?

 ベンチにダニがいないぞ?

 ははは、真ん中にエラソーに座ってたのが、一番後ろの隅で小さくなってるわ。


 あー、ウチの攻撃は2三振と緩い内野ゴロですぐ3アウト。

 もうちょっと休ませてくれてもいいのになぁ。


 でも無難に緩急を織り交ぜて、あちらさんも2三振。

 あ、またバットにスライダー当てられちまったけど、サード品川先輩が頑張って、1塁田町先輩も頑張ってアウト。

 それにしても緩い内野ゴロで、なんでこんなにハラハラしなきゃなんないんだよ。

 困ったもんだね。



 6回の表の俺の第2打席は、カーブをフルスイングしてレフトスタンド上部のネット直撃。

 へへ、2打席連続ホームランか。

 あんだけ打撃練習して来た甲斐があったな。



 そのまま双方ほとんど走者を出さないまま、回は進んで9回表の俺の第3打席。

 外角のボール球を強引に引っ張ってレフトフェンス直撃の2塁打。

 まあこんなもんか。

 今度ボールの芯の2ミリ下を打つ練習もしよう。


 最終回の相手の攻撃も3三振で抑えて試合終了。

 終わってみれば2対0で我が日比山高校の勝ち。


 俺の投球成績は……

 あーこれノーヒットノーランかぁ。

 まあ合格だな。

 それに三振24か。

 外野フライどころか内野ゴロも打たせたくないっていうのは、けっこうキツかったよー。





「吉祥寺先輩。

 今日は貴重な経験を誠にありがとうございます。

 ウチの生徒たちも、上には上がいると知ることが出来たでしょう」


「いやこちらこそありがとう。

 無理を言って本当にすまなかった」


「それにしても、途轍もない投手でしたね。

 今すぐプロでも十分に通用するのではないでしょうか……」


「そうだな、私もそう思う」


「特にあの見たことも無い変化球は、どこで覚えたのでしょうか」


「それが、5年間工夫しながら毎日500球ずつ投げているうちに自然に覚えたというのだよ」


「ご、500球ですか…… なんと凄まじい……

 それにしてもあそこまでの変化をするとは……」


「ひとつヒントになるのは、彼の握力かもしれん」


 水道橋監督は唾を呑み込んだ。


「握力ですか…… それでどのぐらいなんですか?」


「150キロだそうだ」


「!!!」


「それがあの変化球の秘密なんだろう」


「これからは彼が我が校の最大のライバルになりそうですね……」


「だが君ももう既に気が付いているだろう。ウチの最大の弱点に」


「ええ、果たして彼の投球を受けられる者がいるかどうかですね」


「その通りだ。

 しかもどうやら彼はわたしに配慮して、100%の変化球は投げていないようなのだ」


「やはりそうでしたか……」


「それにな、こうも言っていたぞ。

『これ以上左右変化の大きな変化球を投げると、投げ出しが打者方向になってしまうことになります。わたしはそんなビーンボールまがいの球を投げたくないんです』だそうだ」


「……やはり超怪物ですね……

 考え方の次元すら違う……」


「まあ、公式戦で私が受けてやれるわけもないからな。

 彼も前途多難だろう」


「あの、どうしても彼の才能を生かせないようであれば、いつでも我が校が受け入れますので。

 あれほどの才能を埋もれさせるわけにはいきません。

 それは日本野球界の損失です」


「ありがとう。わたしもそう思う。

 その際はお願いするかもしれん」


「それにしても……

 彼のおかげでこれからの高校野球、いえ野球界全体が変わって行くでしょうね……」


「そうだろうな。

 その中心となる彼を間近で見ていられるのは野球人として幸せだよ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 全員で学校に戻ると、吉祥寺臨時監督がミーティングを始めた。


「まずは今日の勝利おめでとう。

 特に神田君、練習試合とはいえ、東東京大会の準優勝校相手にノーヒットノーランとは素晴らしい内容だったね」


「そ、それも全てこのわたくしの指導のおかげでして、へへ……」


「鶯谷くん、少し黙っていたまえ」


「ううっ」


「それに、君が神田君にした指導とは、一人でグラウンド整備をさせたり、合宿所の掃除をさせたり、草むしりをさせたことだったのではないかな」


「て、手前ぇ神田、チクりやがったなっ!」


「ということはやはり事実だったのだね」


「あっ」


(馬鹿だ、やっぱりこいつマジモンの馬鹿だ!)



「ふー、それではまず最初に鶯谷くん、キミは我が校の野球部コーチを辞任してくれたまえ」


「!!! な、なんでですかっ!

 お、俺は献身的に一生懸命野球部のためにっ!」


「本当にそうかな?

 まず最初に、君が一生懸命なのは部員に命令することだけではないのかね?

 現役部員たちの野球能力の向上を目指すことは、全く考えていないとしか思えないのだが」


「そ、そんなことはありませんっ!」


「それに、4月には部員に大量の故障者を出した。

 しかも、反省の色は無く、最初は被害者に頭を下げる事すらしなかった」


「で、でもその後は、謝罪に回って……」


「さらに呆れたのは、今日の試合中の言動だ。

 あの神田くんへのヤジは、到底見過ごすことの出来るものではない。

 君はそれでも自分にコーチとしての資質があると思っているのかね」


「あ、あれはつい……」


「無意識に『つい』出た発言だからこそ問題があるのがわからんのか?」


「うぐぐぐぐ……」


「それにまだ気づかないのかね?

 君はあれほどの投球をする神田くんをベンチ入りもさせずに、東東京大会の2回戦で敗退したのだ。

 これこそコーチとしての資質に決定的に欠けている証拠だと思うがね」


「そ、それは!

 神田の奴が俺に逆らってばかりだから!」


「ほら、君は後輩が自分に従うことしか考えていないのだよ。

 この野球部は我が校の生徒たちのためのものだ。

 君の自尊心を満たすためのものではない。 

 キミも後輩を意のままに従わせることだけでなく、もっと野球のことも考えるべきだったな」


「うぐぐぐぐ……」


「ということで、今日限りでコーチは辞任してくれたまえ」


「い、嫌ですっ! お、俺は辞めませんっ!

 現役部員たちだって俺の指導について来てくれてますっ!」


 吉祥寺先生は大きなため息をついた。


「それでは仕方が無い。

 私も最近知ったのだが、キミは一昨年の3月、大学の野球サークルで暴力事件を起こして警察に逮捕されていたそうだね」


「!!!」


「うさぎ跳びを命じた下級生が自分の命令に従わないのに激高して、バットで殴りつけたそうじゃないか」


「あ、あれはですね……

 た、たまたま素振りのバットが当たってしまっただけで……」


「嘘はやめたまえ。

 そして君は警察に留置され、被害者は救急車で運ばれて、全治2か月の重傷と診断されたそうだな」


「そ、それは誤解でして、じ、事実は違うんで……」


「私は念のため被害者と目撃者に話を聞いたのだ。

 だからいくら言い逃れをしても無駄だぞ」


「!!!!!」



(はは、神保さんが関係者に10万円ずつ渡して、「吉祥寺か御茶ノ水と名乗る者から連絡が来たら、あの傷害事件の詳細を話してやって欲しい」って頼んでいたそうだからな。

 みんな臨時収入に大喜びしてたそうだわ)



「そして、君の両親が巨額の示談金を支払って書類送検だけは免れたそうだね。

 確か金額は100万円だったか」


「…………」


「しかもだ。

 君が我が校野球部のコーチを申し出て来たのはその1か月後だ。

 そして、またもや高校生相手に過剰な練習を命令した。

 君の命じたうさぎ跳びに、部員の怪我を心配した神田くんが異議を申し出た際には、逆に神田くんに倍のうさぎ跳びをさせたそうじゃないか。

 そのあとも1時間以上も腕立て伏せをさせていたそうだし」


「あぅ…… あぅ……」


「これでもうわかっただろう。

 君には指導者としての資質が決定的に欠けている。

 今の言動を見るに人格すらも疑わしい。

 このまま君をコーチにしていれば、大事な生徒たちがまた怪我をするかもしれん。

 学校関係者としてこれを見逃すことは出来ん」


「でっ、でも俺は日比山高校の卒業生です……

 で、ですからたまたま母校を訪れて、たまたま後輩の野球部員にアドバイスを……」


「まだ言うか。

 卒業生といえども、もはや学校関係者ではない。

 もしこれからも我が校の敷地内に入るようなことがあれば、不法侵入で通報することになる。

 無論多摩川グラウンドでもだ」


「!!!!!!」


「さあ、今すぐここから出て行きたまえ」


「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!!」


 あー、ダニ先輩泣きながら走って行っちゃったよー。

 それにしてもあいつ、今までの人生で自省とか反省とかってしたことってあるのかな?




(勇者さま)


(あ、神保さん)


(念のためあのダニにはマーカー魔法をつけておきました。

 他人に危害を加えようとすると発動致します)


(ま、まさか死んだりしませんよね……)


(いえいえ、膀胱が空になるだけでございますよ)


(げげげげげげ……)









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