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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
153/157

*** 153 MLBジャパンリーガーその後2 ***



 教員資格を取得出来て、メソッドコーチングスクールも卒業して、実際に高校に赴任して体育の授業とか野球部の指導とか始めると、元MLBジャパンリーガーの先生だっていうことで、生徒たちの憧れの眼差しが凄いらしいな。

 みんなユーキメソッドで鍛えてたからゴリゴリマッチョッチョだし。

 共学校だと女子高生たちの目がハート形になってるそうだわ。


 2月14日に一番たくさんチョコレート貰えたのが監督だったんで、野球部員たちが悔しがってるそうだし……

 憧れの○○ちゃんが監督にチョコ渡してるの見てorzになってる部員も多いそうだし……



 そんな中でいまさらメソッドに悖る根性練習とか出来るわけないよなぁ。

 あのメソッドは、もう既に本になって日本中で読まれてるんだから。

 だから高校生たちも、昔の日比山みたいに『野球って苦しいものじゃあなくって楽しいものだったんだ』って思えるようになって、それで野球能力もどんどん上がって行ったそうだ。


 そうそう、MLBジャパン出身の奴って野球部員の髪型にも拘らないんだよ。

 プロで坊主にしてる奴なんかいないし、日比山野球部の見学をしても、みんな思い思いの髪型だし。

 最近では全体大付属も自由だし。

 ま、まあ半分ぐらいはモヒカンなんだけど。

 誰のせいだよ……


 

 この新任教師監督たちは、生徒に混じって全ての練習を率先垂範していくんだ。

 筋トレはもちろん、守備練習やバッティング練習もな。

 ボール磨きやグラウンド整備まで。


 ただ、やたらに紅白戦やりたがるんだと。

 どうも自分も野球したいかららしいな。

 遠目から見ると誰が監督で誰が生徒か分からんそうだわ。

 なんかみょーにガタイが良くってフケた高校生がいるなとか思って見てると、そいつが監督だったりするし。

 1点ビハインドの9回裏2アウト満塁から、ボテボテのサードゴロ打って1塁にヘッドスライディングしてる監督とかいるそうだし……


 部員数の多い高校だと、4チームぐらいでリーグ戦やって、最下位のチームに監督が助っ人で入るそうだ。

 部室には『現時点の今シーズン打撃成績ランキング』とかいう表も張ってあって、監督が三冠王だったりするんだと。

 中には生徒たちにベンチ入りメンバーを決めさせている監督もいるんだけど、だいたいはこの打撃ランキングや投手成績ランキングで決まるそうだ。


 監督がピッチャー出身だと、『監督からホームラン打つと無条件でレギュラー』とかいうルールもあって、生徒たちは超熱心に打者用ユーキメソッド熟してるそうだわ。

 まあ即レギュラーも当然だよ。

 もうちょっとでメジャーに上がれそうだった奴からぽんぽんホームラン打てる高校生がいたら、バケモンだよな。

 

 でも、高校野球って金属バットだろ。

 だから、ごくたまに出合い頭でホームラン打たれちまうこともあるそうだ。

 そいつは監督がマウンドに両手をついて項垂れる中、部員たちの大歓声を受けて満面のドヤ顔でベース廻ってるらしいな。

 公式戦でそいつが4番に座ることに誰も文句言わないそうだし。



 MLBジャパン出身の監督同士の高校の練習試合もしょっちゅう行われてて、どっちも監督が出場してるそうだ。

 両方ともピッチャー出身の監督だと、『監督同士の息詰まる投手戦』とかになるんだとさ。

 中にはジャイロやカットボールまで投げられる奴もいるし。

 もちろん最初はキャッチャーも捕れないけど、あの八王子製作所製の防具もあるから怪我はしない上に『捕手用ユーキメソッド』ですぐに上達して行くからな。


 ちょっと大人げないけど、なんかすっげぇ楽しそうだよ。



 おかげで紅白戦や練習試合の観客がどんどん増えていったそうなんだ。

 選手たち(含む監督)は、みんな超真剣で楽しそうで、悲壮感なんか全く無いしな。

 通に言わせると日本のプロ野球なんかよりよっぽど面白いんだと。


『視察』と称して野球好きの校長や教職員も入り浸りになったそうだし。

 とうとうグラウンドに小さいながら屋根付きの観客席まで作っちまった私立高校もあったそうだ。

 教育委員会の偉いさんも視察に来て安心して帰って行ったそうだしな。


 それに何よりその高校の入試倍率がどんどん上がって行ったんだよ。

 元MLBジャパンリーガーの監督がいるっていうだけで野球少年たちが入学したがるし、学校見学した中学生たちが、

『こんなに楽しそうに部活してるのか……』とか、

『誰も辛そうにしてない……』とか、

『この野球部なら県大会ベスト4ぐらいまで行けて応援出来そうだし、ひょっとしたら甲子園にも行けるかも……』とかって思って。

 だから女子の入学希望者も増えるそうだ。


 おかげでかつての野球強豪私立とか、理事長が大喜びしてるらしいな。

 それで野球部入部希望者も増えるもんで、翌年以降もMLBジャパン出身の奴をコーチとしてどんどん採用してくれるんだ。

 大卒でMLBジャパンリーガーになった奴らの中には、英語や数学の教員資格持ってる奴らもいたし。



 そのうちに近所のジジババも集まって来て、練習も熱心に見学してるらしい。

 高校から地域の町内会や老人会の集会所なんかに、紅白戦や練習試合の日程表とかが届けられてるそうだしな。


 休日の練習試合なんか、地域の人たちが弁当持って大量に集まって来るんだと。

 はは、ワイルドキャッツのミリーフィールドみたいだな。


 元プロの監督からヒット打ったり、監督を三振させたりする生徒がいると、盛大な拍手が沸き起こるそうだわ。

 



 でもこれな、単に監督が生徒たちと野球で遊んでるように見えて、実は練習としては最高の形態なんだぜ。

 あの五十六さんだって、『言って聞かせて』の前、一番最初に『やってみせ』を持って来てるだろ。


 今までの監督コーチは、大した実力も無い上にトレーニングなんかしてなかったから、すぐにぶくぶくになって『やってみせ』ることなんか不可能だったけどさ。

 

 でも元MLBジャパンリーガーのあいつらなら、高校生に『メソッドを続けて行けばこれぐらいのプレーが出来るようになるんだぞ』っていう最高のお手本を見せてやることが出来るんだ。

 なにしろ奴らは、つい最近までMLBジャパンや全体大っていう日本最高の環境に5年も6年もいた奴らなんだから。

 高校生にとっては、或る意味最高に贅沢な練習環境なんだよ。


 ドミニカキャンプの練習生たちに、現役メジャーリーガーのレギオンメンバーがお手本見せてやってるようなもんなんだ。

 そういう風に努力して進化した先の姿を見せてやれるって、実にいいことなんだよ。

 多少進化出来た現状に満足せずに、常に上を目指すようになるんだ。

 だからこそ俺もドミニカでは練習生たちに間近で投球を見せてやってるんだし。

 そんなことを毎日2年以上も続けてると、とんでもない選手に育っていったりするんだぜ。


 実は奴らはスクールでそういうコーチングの方法論についても学んで来てるからな。

 ま、まあ半分ぐらいは自分も野球がしたいからなんだろうけど……



 それで日曜日には各校とも遠征して他の高校と練習試合とかしてるだろ。

 その遠征にも校長や地元のファンがついて来るようにもなったんだそうだ。


 その試合後に、校長や理事長や町内会長が、

『ところで監督、あの高校はいつも監督がピッチャーをやってるのでわが校には不利じゃないですか』とか、

『ウチはよくこの高校に遠征して来ていますが、この高校はウチに来てくれたことは一度も無いですな』とか言うことがあるんだと。


 でもその監督はにっこり笑って答えるんだそうだ。


『あの監督は、ヤンキース・ジャパンで3年目まで行って、日本のプロ野球球団との交流戦でも3試合20イニングスで被安打は僅か4、自責点もゼロという国内最高峰のピッチャーなんです。

 ロースター候補としてヤンキースのキャンプにも呼ばれたこともありますし。

 残念ながらロースターには入れませんでしたけど。


 でもストレートは163キロ出てますし、変化球も6種類も投げられるんで、ウチの生徒たちにとって最高の練習相手になってくれてるんですよ。

 彼の球を見た生徒たちは、甲子園級の高校生が投げた球を見ても子供が投げた球のように見えるそうですからね。

 ですから近隣の高校は、日曜日には交代でここに集まって来て彼に投げて貰っているんです。

 お礼に月に一度は監督たちが集まって、彼にご馳走してるんですわ』


 そうすると校長や理事長や町内会長は、財布から万札取り出して渡してくれるんだとさ。

 生徒の父兄から受け取るのはマズイけど、まあ校長や理事長や町内会長だったら問題ないだろ。


 それ以来グラウンドの観客席には『篤志箱(野球部生徒の父兄の方はご遠慮ください)』が置かれるようにもなったんだと。

 まあ父兄連中は息子が引退してからカネ入れればいいやな。

 だから夏の大会が終わって3年生が引退すると、篤志箱にはびっくりするぐらいのカネが入ってるそうだ。

 県予選で初めてベスト4まで行けた私立の理事長なんか、束で万札突っ込んでるそうだし。


 それでその金額がトンデモな額になったもんだから、監督たちは校長や理事長に相談したそうなんだよ。

 いくらなんでもお礼の食事会費用には多すぎるって。


 それで近隣の元MLBジャパンリーガー監督を擁する高校の校長や理事長が集まって、みんなで相談したらしいんだ。

 そしたらある私立高校が手を挙げて事務局を作り、教育委員会や顧問弁護士にも相談した結果、監督たちの毎年の奨学金返済の肩代わりをしてやることになったんだと。

 その学校法人の野球好きな顧問弁護士が無償で顧問についてくれたりもしたそうだ。

 まあ篤志の基金なんだから、教員監督がどう使っても収賄にはならないからな。


 それでも難色を示した教育委員会のアタマの固いジジイもいたそうなんだけどさ。

 弁護士が、

『ところで皆さんは、あの実に熱心で素晴らしい教員監督さんたちに、時間外手当や休日出勤手当をお支払いになっていらっしゃるのですか?

 教育委員会として支払うよう指導されたり予算を組んでいらっしゃるのですか?

 もし払っていらっしゃらないとしたら、それは重大な労働基準法違反ですな』

 とか言ったら途端に沈黙したそうだ。

 

 その後は一応事務局が3か月に1度ぐらい、篤志のカネがいくら集まったか、そのカネを何に使ったかって会計報告を篤志箱の横に張り出したんだ。


 そうしたら、その会計報告が大騒ぎを引き起こしたんだよ。


 まあ、奨学金返済はみんな知ってたからいいとして、その奨学金基金の名称が『神田勇樹野球指導者育英基金』だったわけだな。

 それを見て地域のジジババがみんなフリーズしちゃったんだ。


『ウチの高校の野球部監督は、あ、あの神田選手から奨学金を借りていたのか!』

 →『なんとすごい監督だろう!』

 →『だが、この監督はまだ若いし給料もそれほど多くないはずだ』

 →『そ、それで万が一奨学金返済が滞ったりしたら……』

 →『そ、それは我が地域の高校の恥であり、ひいては我が県の恥である!』

 →『こ、これは皆でもっと募金して、速やかにその奨学金を返済させるべきだ!』


 っていうことで、地域の人や父兄からの篤志の寄付がますます集まるようになって、あっという間に奨学金が全額返済されちまったんだと。

 それが報道されたりしたんで『篤志箱』は県内全域や全国にも広がっていったそうだ。


 神保さん……

 奨学金基金の名称をあんな風にしてたのって、まさかこれを狙っていたんかな……




 それでも篤志の寄付金にはまだまだ余裕があったそうなんだ。

 おかげで各校は、グラウンドのベンチを日よけで覆うとか、ピッチングマシンや筋トレマシンやティーバッティング用のケージをどんどん増やすことも出来るようになったんだよ。

 アイシング用の製氷機を買ったりな。

 野球部が使ってないときには、筋トレマシンや製氷機は他の部活の連中も使えるし。


 さらに寄付金を集めて、簡単な観客席を作ったり観客を守るフェンスやネットを張ったりもしたそうだ。

 まあ、3000人の観客が1000円ずつ寄付すりゃあそれだけで300万円になるからな。

 金網式の本格的なフェンスじゃなく、ナイロンネットならなんとかなるそうだ。

 なんか偶数月の15日には、郵便局で年金受け取ったジジババが、その帰りにグラウンドに寄って篤志箱に1000円ずつ入れてくんだと。

 お礼に女子マネたちがお茶配ってくれたりするし町内会の知り合いも大勢いるしな。

 もはや完全にグラウンドが地域コミュニティーと化してるそうだ……

 



 もちろん監督たちはみんなで、そのうちに新婚の奥さんも連れて、月に1回寿司屋や焼き肉屋で、投手監督に感謝しながら高級BCAAをたっぷり摂取出来るようになったそうだ。

 

 因みに奥さんたちはほとんどが美人の元教え子や野球部マネージャーのOGな。

 奴らは教職課程の講師たちなんかから『商品には手を出すな!』って耳タコになるほど言われてたけど、でも無事『出荷』してから街で購入する分には全く問題無いわけよ。

 他の教員だって校長だって、かなりの奴らの奥さんが元教え子だしな。

 それにあいつらは土日も野球漬けなんでお相手を探すヒマもないし。


 元MLBジャパンの新任イケメンコーチとかが赴任して来ると、野球部にマネージャー希望女子が殺到するそうだわ。

 ヘタすりゃ野球部員の人数を超えるそうだし……

 重ねて言うが、高校教員なんて地方都市では信用も収入も兼ね備えた超優良物件だからな。


 私立男子校の監督の奥さんは理事長の孫だったりするそうだ。

 最高に優秀な教育者だとして、30年後の理事候補にスカウトされたってぇことか。



 そうして元MLBジャパンの監督たちは、月に一度の賑やかな宴会の中でもフト思うんだ。

 本業である授業は順調、放課後や休日の野球は実に楽しいし、もちろん生徒たちも真剣かつ大いに楽しんでくれている。

 笑顔も絶えないし。


 そして今、目の前にはたいへんなご馳走が並び、隣では少し酒が入って妙に色っぽくなった新婚の奥さんが微笑んでくれている。

 奨学金という借金もあったけど、篤志箱のおかげであっというまに返済されてしまった。


 嗚呼、自分は今なんと幸せなんだろうか……

 そしてこの充実した生活と幸せは誰が齎してくれたものなのだろうか……


 彼ら監督たちは翌日の練習に備えてあまり深酒をしなかったせいで、フトした拍子に誰かが言い出すのである。

『今のこの充実と幸せは誰のおかげなんだろうか』と……


 もちろん自分も努力して来た。

 高校時代はほとんど苦しみだけしか無い練習に耐え、MLBジャパンでも素晴らしいメソッドと環境の中で最大限の努力をして来た。

 MLBジャパンを解雇されたときは悲しかったが、それでもめげずに慣れない勉強にも頑張って、大学も卒業出来たし教員免許も取得出来た。

 生徒たちも頑張ってくれて、夏の予選ではベスト8、ベスト4、決勝まで行くことが出来た。


 そして今あらゆる点で満たされた素晴らしい生活を送っている。

 自分の努力だけでは到底至ることが出来ないと思われる最高の幸福状態である。



『野球というスポーツのお蔭かな……』


 誰かがポツリと言う。


『いや…… 高校時代は野球をしていてもここまで幸せには思わなかったぞ』


『MLBジャパンのお蔭か……』


『いやいや、あの練習は確かに素晴らしかったが、我々が解雇されたときには悲しかっただろうに』


『ならばやはり『神田メソッド』のおかげだろう……』


『そして『メソッド』を考案してくれた神田さんのお蔭か……』


『考案されただけでなく、広めて下さった功績も大きいな』


『奨学金基金を作ってくれたのも神田さんか……』


『全体大の入学定員を増やすために、大学に50億円も寄付して下さったそうだしな……』


『なあ、神田さんのメソッドを忘れたりしないように、8月の『メソッドコーチング研修会2週間コース』にもう一度参加してみないか?』


『それは素晴らしいアイデアだ。みんなで参加するか』


『『『 おう! 』』』


 そうして彼らは真に驚愕することになる。

 なんと8月の研修会には数百人の現役教師監督が集まって来ていたのであった……



 こうして全国の若手野球指導者たちの間に『神田教』が徐々に拡散していったようだ……







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