*** 151 MLBジャパン12球団 ***
もちろんこうしたWBCでの日本人選手の活躍は、MLBのオーナーたちも見ていたんだ。
それで追加でなんと8球団が日本でアカデミーを設立したいって言って来たんだよ。
モントリオールとかアトランタとかアナハイムとかデトロイトとかな。
ドミニカやプエルトリコにアカデミーを作っても金銭的にはかなりの持ち出しになるけど、4球団のジャパンアカデミーはびっくりするほどの黒字だったし。
高額年俸貰えそうな奴はすぐにアメリカ本土のメジャーに昇格して行くから、選手の年俸高騰とかも有り得ないしな。
そうそう、新規進出の8球団向けに『プロ用ユーキマシンフルセットシリーズ(総計40種類、お値段総額2000万円也)』が24セットも売れたんで鶴見さんがまた嬉し泣きしてたぞ。
その噂を聞いて全国の野球強豪大学なんかから引き合いも来るようになったそうだし。
もし買ってくれたら専門の営業マンがマシンの使い方をコーチしにいくんだけど、みんな超ムキムキなんで客がびっくりするそうだ。
そいつらは会社の業務として筋トレやってるそうだな、あははは。
その後俺から八王子製作所にピッチングマシンも製造販売してくれって依頼したんだ。
これから日比山や全体大付属みたいに守備練習に使う高校が増えると思って。
アメリカのパテント持ち企業には俺がライセンス料を払うから、日本で安価で扱いやすい物を作ってくれってな。
アメリカの企業は俺がライセンス料を払うって言ったら無茶苦茶驚いてたわ。
『あのミラクルボーイもライセンスを買ったピッチングマシン!』って宣伝してもいいか、って聞くからOKしたら、びっくりするほど安くしてくれたよ。
それで鶴見さんたちが開発してくれたマシンって、俺の要望で目隠しもついてるんだ。
ピッチングマシンって、それが向いてる方向で球がどっちに打ち出されるかわかっちゃうからな。
こういうマシンって、当時アメリカで買うと200万円近くしたんだけど、さすがは鶴見さんたちで、利益込みでも70万円で作ってくれたよ。
ついでに俺が日比山時代に使ってた手作り風バーベルもお願いしたんだ。
あの本チャンのバーの左右から鉄製の籠がぶら下がってて、膝を痛めずにウエイトスクワットとかが出来るやつな。
足を守るフットガードは既にウエイトトレーニング用のものがあるし。
このバーベルはバーも含めて2万円だったから野球部の予算で買えるだろ。
ベンチプレス用のベンチやスクワット用の支持架も1万円で作ってくれたし。
新規参入MLBジャパンチームのためには、新木場に隣接する辰巳地区と東雲地区と豊洲地区に球場を8つも造って進出させてやることになったんだ。
巨大スタジアム付きの球場だと建設にかなりの時間がかかるけど、臨海副都心は企業誘致用にすっかり整地も終わってるから、観客席の小さな練習用球場を造るだけだったらそれほど大変じゃあないから。
出資者も集まったんで5万人収容の大球場の建設も2棟分始まったし。
さらにあと2棟分の用地確保も出来たし。
まあどう考えても日本最強のコンテンツになるのは間違いないからな。
これで臨海副都心東部はもう野球のテーマパークみたいだよ。
なーんにも無かった土地に球場だの選手用宿舎だの巨大ホテルだのがどんどこ建ち始めたもんで、出資者の中には大喜びしてる東京都まで入ってたんだぜ。
それでどうも信用等級も上がったようで、さらに出資者が集まってたわ。
「ねえ神田くん、新球場の命名権っていくらぐらいするの?」
「これから50億円で募集するそうだ」
「じゃあその50億円、私が出すわ♪」
「渋谷よ……
お前まさか命名権買って『信一郎くんスタジアム』とかいう名前にするつもりじゃないダロウな……」
「もちろんそのつもりよ♪」
「却下! 絶対に却下っ! 天地がひっくり返っても却下ぁぁぁ―――っ!」
「ええ~っ」
「勇者さま、その50億円、神界が出してもよろしいでしょうか。
いえどうせならスタジアム2つ分で100億円を……」
「ま、まさか神保さん、『ガイアくんスタジアム』とか『エンジェリーナちゃんスタジアム』とか……」
「もちろんそのつもりでございます♪」
「謹んで却下させていただきますっ!」
「ええ~っ」
(それにしても、『勇者球場』とか『女神さまスタジアム』じゃあなかったんだな……)
(ふっふっふ……
あの新木場に造った最初の大球場の正面入り口には『勇者さまと女神さまの愛の球場』と神界文字で大きく書かれているのですが……
さすがの勇者さまも神界文字はお読みになれなかったようですね♪
まあ、新たに造られる2つの大球場には、また神界文字で『ガイアさまスタジアム』と『エンジェリーナさまスタジアム』とこっそり書いておきますか……)
それからしばらくして、新木場の大球場と辰巳地区に出来た2つの大球場の入り口付近の装飾が、夜になると薄っすら光ってるって話題になったんだよ……
テレビ局まで取材に来ちゃったし……
どうやら神保さんたちが俺に内緒で付けた神界文字の球場名の看板だったらしいんだけど……
大天使が書いた看板とか光っちゃうの当たり前でしょっ!
めーちゃんたちは放っておくといつも体が光っちゃうから『隠蔽』で光らないようにしてるけどさ!
洗濯しためーちゃんの服とかパンツとか、子供たちのおむつカバーとか、物干し台でビカビカに光ってるんだかんね!
子供たちが夜庭を飛んでると、尻のおむつカバーが光っててホタルみたいなんだかんね!
最近『隠蔽』使って点滅させながら飛ぶワザまで覚えてるんだかんね!
最初に見た時は、庭中を巨大ホタルが飛び交ってるように見えて腰抜かしちゃったんだぞ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
新規参入8球団は無事に開業してセレクションも行い、練習も開始した。
この8球団も『ユーキメソッド』コーチングを希望したんで、また団体様特別割引料金で引き受けてやったんだ。
このころになると、ドミニカの『ユーキメソッドコーチングスクール』の卒業生もけっこういたからな。
中には引退後にわざわざドミニカに行って、このスクールに入ってコーチ研修受けてた元メジャーリーガーもいるんだぜ。
『俺が若いころにもこんなメソッドがあったらよかったのに……』とか言ってるそうだけど。
それでしばらくするとMLBジャパン12球団が毎日のようにリーグ戦を始めたワケよ。
3つの大球場で1日2試合ずつとか。
もちろんこれも大人気になって、連日テレビ中継されてたわ。
日本中から家族連れが続々と臨海副都心にやって来てホテルに泊まり、父ちゃんは野球観戦三昧、母ちゃんと子供たちはネズミーランド三昧とかな。
東京都もホテルから上野動物園とか東京タワーとか浅草とか銀座を巡回する都バス路線をばんばん増やしてたし。
ゆりかもめや臨海線の建設も急ピッチで進み始めたし、レインボーブリッジも出来て首都高お台場線も続々と延伸されてたし。
なにより、この12球団は高校生や大学生を毎年480人も雇ってくれるようになったんだ。
おかげで日本の球団は、ラクーンズとパンサーズを除いて、いくらドラフトで選手を指名してもほとんど誰にも来てもらえなくなっちゃったんだよ。
来てくれたとしても、MLB球団のセレクションに掛からなかった7位や8位指名の奴とかばっかりだし。
因みにMLB球団のセレクションは12球団合同で1週間もかけて行って、それで選ばれた選手480人を各球団が順番に指名していく制度にしといたわ。
まあ日本全国から5000人ぐらい高校生や大学生が来るから、それぐらい時間がかかっちまうんだけど。
それから毎年秋にMLBジャパンリーグの優勝チームとNPBの優勝チームの交流試合も始めるようになったんだ。
『ジャパンシリーズ』とか言って。
まあNPB側はいつもラクーンズかパンサーズだったよ。
このシリーズはけっこう接戦でいい勝負してたわ。
さすがにこのときは入場料も放映権料も高かったけど、視聴率とかトンデモだったんで、みんな喜んでカネ払ってくれるんだ。
おかげで参加各球団は大いに潤ったし。
そのうちラクーンズとパンサーズはMLBジャパンリーグに所属したらどうかとか話題に上がるようにもなってたな。
それにMLBジャパン側はアメリカのMLBと同じシステムで、こうした収入のうちけっこうな割合をプールして、収入の低い球団に分配してたんだよ。
もっともそんな球団はそのうちほとんどいなくなったんだけど、まあ参入して日も浅い球団は助かってたみたいだわ。
日本でもこうした制度を採用すればよかったのにな。
でも儲かってる球団のオーナーが、『ワシの球団の儲けは全てワシのものじゃ!』とか言って、そういう再分配制度は想像の埒外にあったようだ。
勝ちまくって人気が出て儲かった球団がいても、その儲けは『負けてくれた球団がいたからだ』っていうことには気が付かなかったらしいわ。
その後球団社長会で、あのラクーンズの豊田オーナーに10球団の社長たちが懇願したそうなんだ。
『このままでは本当に日本プロ野球が衰退して無くなってしまう!』
『なんとかしてくれ!』って。
まあ、要求でも恫喝でもなく『懇願』な。
オーナーのジジイたちは、あの脅迫事件以来自分の配下以外の奴と会話するとパニック障害起こすようになっちゃってたもんだから引き籠りになってたし、ラクーンズオーナーの顔も見たくなかったから、球団社長たちを呼びつけて「な、なんとかしろっ!」って喚いてただけだったし。
それで球団社長たちからの懇願だったらしいんだけど。
(『なんとかしろ!』…… それは無能な経営者の常套句……)
その後豊田オーナーはMLBジャパン本部に相談に来て、本部は顧問のアンジーを通じて俺にも連絡をよこしたんだ。
それで俺とアンジーが話し合って、MLBジャパン12球団と日本プロ野球12球団の交流戦を企画してやったんだよ。
条件は、
『試合は全て東京臨海副都心のMLBジャパン球場で行うこと』
『テレビ放映権収入と入場料収入は全てMLBジャパン球団側の収入とすること』
『ただし、地元TVで流した野球中継のCM料は日本プロ野球球団側の収入として構わないこと』
にしたんだけどな。
それでも10球団はこの条件を呑んだんだ。
少しでも収入になって人気が回復すればいいと思って。
それにオーナーに『何とかするために手を打ちましたぁ!』って報告出来るしな。
それで各球団総当たりの交流試合が開催されたんだわ。
でもさー、ラクーンズにはマックスとラニーがいるし、パンサーズにもドミニカキャンプ卒業生のユーキ軍団メンバーもいるだろ。
だからMLBジャパン球団と互角以上に戦ったんだけど、それ以外の日本球団はMLBジャパン球団にボコボコにされちゃったんだわ。
以前からジャパン球団作ってたギガンテスとヤンキースなんかの4球団はNPB10球団相手に全勝だったし。
それで平均年齢37歳とかの日本10球団が平均年齢22歳のマイナー球団とかに勝率5%以下よ。
全試合での得失点差合計が4ケタに届いちまってたし……
ついでに選手の退場要件もMLBと同じになってたもんで、全144試合でNPB10球団の退場者がのべ300人を超えたんだぜ。
もちろんMLB側はゼロだったけど。
それで球団社長たちがさらに顔面蒼白になっちゃったんだ。
これでようやく、人気が無いのは実力が無い上にマナーすら無かったからだって気づいたようだな。
ついでに各球団首脳は、MLB球場が鳴り物と酒持ち込み禁止に加えて禁煙で、家族連れ席や女性専用席まであるのに驚いてたし。
アル中の球団社長は、持ち込もうとした一升瓶を入り口で預けさせられて呆然としてたそうだ。
試合途中で手がぶるぶる震え始めたし、譫妄症状も出て奇声も発し始めたんで、部下が慌てて外に連れ出したんだけど、返してもらった一升瓶ラッパ飲みしてようやく治まったらしいわ。
いや就職した同級生とかに聞いたんだけどさ。
日本のサラリーマンって、マジでアル中とか泥酔時に奇癖を発症してる奴が多いらしいな。
それも年齢が上でサラリーマン経験の長い奴ほど。
前夜の酒の席での会話を一切覚えていない課長とか、飲んだ帰りに大通りでタクシー降りて自宅に帰る途中、次々に服を脱ぎ棄てて自宅のドアを開けた時にはパンイチで、玄関でそのパンツ脱ぐ次長とか、泥酔したまま東京駅で東海道線に乗って、週一で翌朝熱海だの浜松だの名古屋だのにいる部長とか……
か、閑話休題な……
それで10球団はMLBジャパンに監督やコーチの派遣を依頼して来たんだわ。
俺とアンジーの返答は、
『2軍改革も練習改革も行っていない球団への監督、コーチ派遣は認められない』
『そんなことよりも、シーズン終了後に今の監督やコーチを東大原宿研究室の『神田メソッド研修会』に派遣して、1週間の研修を受けさせろ』
『研修終了後にはギガンテス・ジャパン球団の練習見学を認める』
だったんだ。
それでみんなアメリカに行って監督やコーチを雇おうとしたらしいんだけどさ。
まず球団首脳陣のジジイたちが、日本語も通じない米も味噌汁も無い国になんか誰も行きたがらなかったんだ。
それでエージェントを通じて監督やコーチを探したんだけど、アメリカの野球人はみんなあの第1回日本代表の態度の悪さと実力の無さを見てただろ。
しかもその10球団の選手たちは第2回の代表に選ばれてなかったのも有名だし。
だから、よっぽどの高額年俸を提示しないと誰も来てくれなかったんだよ。
監督経験者で契約金3000万、年俸1億5000万、コーチ3人で合計2億とか。
加えて通訳も雇わなきゃならないし、住宅も用意してやらなきゃなんないし。
エージェントのフィーは契約金や年俸の2割とかだから、エージェントも高額年俸のメンツばっかり推薦して来るし。
ただでさえ人気低迷で大赤字なもんだから、誰もそんなカネは出せなかったんだ。
日本人監督だったら1000万円かせいぜい1500万円で、コーチだったら800万円も出せば雇えるからな。
それで仕方なく自分の球団の監督やコーチを原宿研究室の研修に送り込んだんだけどさ。
日本の球団の監督やコーチって、みんな選手上がりの脳筋野郎ばっかしだろ。
だから自分が若いころ押し付けられた練習とか、自分が押し付けてる練習しか想像出来なかったんだ。
それで全員が練習中に選手に水を飲ませることに猛反発して、研修参加承諾書にサインしなかったんだよ。
仕方がないんで、各球団フロントは全員を解雇して『承諾書』にサインすることを条件に新たに監督とコーチを雇ったんだけどな。
こいつらが『神田メソッド』の内容を一切信用しなかったんだ。
今まで自分がやってきたこと、やらせてきたことと全て真逆だったから。
研修終了後にギガンテス・ジャパン球団の練習を見学させてやっても、
『なんで根性練習を見せないんだ!』とか、
『守備練習や投球練習がこんなに少ないはずがない!』とか、
『投手はどこで隠れて走っているんだ!』とか文句ばっかり言ってたそうなんだ。
中には練習中に水を飲んでた選手や、PCで動体視力訓練をしていた選手を怒鳴りつけてたアフォ~もいたそうだし。
まあすぐにお帰り願って、球団側に即日解雇されてたそうだけど。
それで希望者には早朝から深夜まで選手たちに張り付いて見学することを許してやったんだけどさ。
実際に1週間密着して見学しても、誰も根性錬も長距離ランニングもしてなかったのに呆然としてたそうだな。
なんでこんなヤワな練習しかしていない若造たちに自分のチームのベテランたちがボコボコにされちまったのか、全く理解出来なかったそうだ。
いくら根性を鍛えても、野球の練習をしないと、それも万全の体調で練習しないと野球は上達しない、っていうことに気づけた奴は1人もいなかったそうだわ。
ただ、彼らが唯一納得出来たのが選手たちの食事メニューだったんだ。
それで自分の球団のファームや若手たちに大量のメシを喰わせ始めたんだけどさ。
あれだけ栄養バランスについて教えてもらってたのに、そんなこと一切考えてなかったんで、選手がみるみる肥満し始めて余計に使い物にならなくなっちまったんだ。
全員に毎日無理やりトンカツ10枚とかカラアゲ1キロとか喰わせてたらしいし。
それでエレファンツの若手たちの平均体脂肪率なんか30%超えたそうだわ。
みんなユニフォームが着られなくなって新調するハメになったそうだし。
巷じゃあ、エレファンツじゃなくってピッグスになっちまったとか、『腹だけエレファンツ』とか言われて笑い者になってたし。
やっぱり考えることの出来ないアフォ~たちは何をやらせてもアフォ~だよなぁ。
こうして日本プロ野球界の低迷は、ラクーンズとパンサーズを除いて続いていったんだよ。
中にはとうとう身売りする球団も出て来てたし……
球団社長がオーナーに、『赤字を何とかしろと言われたんで、身売りして赤字をゼロにすることにしましたぁ♪』とか言ったらしいわ……




