*** 150 第2回WBC ***
豊田新オーナー会会長は、NPB本部長に就任と同時に有力企業を廻りまくってトップセールスして、日本代表のスポンサーを100億円分も集めちまったそうだ。
ジジイが経営する会社では『あのように弱い日本代表ではスポンサーになる意味は無い!』って言ってほとんど門前払いだったんだそうだけど。
どうやら自分より30センチ以上も背が高くて自分を見下ろし、さらに自分より遥かに若い男が『プロ野球オーナー会会長』と名乗ったことに嫉妬したらしいな。
なんせ全12球団の親会社のうち、日本代表スポンサーに名乗りを上げたのはラクーンズとパンサーズの親会社だけだったそうだし。
だけど若い経営者たちには『日本代表は今がどん底です。ですがこれから若手全員が努力して実力をつけて行きます。そうすれば、貴社のスポンサードで若い日本代表を成長させられたと胸を張って言えることでしょう』ってセールスしたそうなんだ。
そしたら莫大なカネが集まったんだと。
もちろん最大のスポンサーは渋谷物産だったんだけどな。
どうも『儲けの半分は現地に還元』っていう方針は日本国内にも当てはまったようなんだ。
まあ巨額の法人税も払ってたから還元率は1割ほどだったそうだけど。
それにこういうスポンサー契約は、或る程度のカネを払えば『同業他社をスポンサーにしない』っていう契約に出来るだろ。
だからジジイたちの会社は『日本代表支援企業グループ』から締め出されちゃったんだ。
しかも締め出されただけじゃあなくってさ、球団社長会で、
『その莫大な支援金を各球団にも分配しろ!』
『日本代表は全員NPBの選手なのだから当然だ!』
って要求したそうなんだよ。
ったくど厚かましいにも程があるわ。
それで豊田会長が、
「あれは日本代表チームのスポンサーが日本代表支援のために拠出して下さった資金ですので、個別球団に分配する謂れはありません。
各球団に於かれましては独自のスポンサーを探されたら如何でしょうか」って拒絶したんだ。
そしたらさ、臨時で非公開オーナー会議が開かれて、オーナーたちからも代表支援金の分配を強要されたそうなんだわ。
『あの莫大な支援金を各球団に分配しなければ、10球団の合意でキサマをオーナー会会長とNPB本部長から解任するぞ!』って。
パンサーズのオーナーだけは猛反対したそうだけど。
まあNPBの人気低迷でラクーンズとパンサーズ以外の球団は大赤字だったからな。
オーナーのジジイたちも当然この要求が『脅迫罪』や『横領罪』に当たるっていうことは薄々分かってたんだろうけどさ。
ホテルの会議室で行われた非公開のオーナー会議だから、証拠なんか無いってタカくくってたらしいんだ。
まあ自分を尊敬しない生意気な若造をビビらせてカネふんだくって、マウント取ってザマァする誘惑には勝てなかったんだろうけど。
でも、豊田新会長はその場でニカっと微笑んで、
「なんと仰られても、わたしは恐喝に屈して横領を働くことは致しません。
次にお会いするときはたぶん法廷ですね♪」って言ったそうだ。
それでジジイ共は7人が真っ赤になって激怒して、3人が蒼白になって震えるかに分かれたらしい。
どうも豊田会長はポケットに小型テープレコーダーを仕込んでたみたいだな。
スーツのボタンが高感度マイクになってたようだし。(神保さん情報)
もちろん録音は法廷での証拠にはならなかったんだけど、裁判官の心証は大いに左右するから。
その後、臨時オーナー会議では、豊田ラクーンズオーナーのオーナー会会長とNPB事務局長の解任が賛成7反対1、棄権3で決議されちまったんだ。
次期オーナー会会長にはブレーブスのオーナーが手を挙げたそうだ。
ブレーブスは最も赤字の大きな球団で、残り6球団も奇しくも赤字の大きい順だったらしいな。
それで次期WBCの出場選手は7球団から5人ずつにして、日本代表支援基金100億円から1人2億5000万円ずつを『選手強化費用』として分配することも議決しちまったんだ。
もちろん『強化』内容は各球団の自由にして。
その夜は7球団のジジイたちはザマァって狂喜して、茶坊主役員たちを侍らせて盛大に祝杯を挙げてたらしいわ。
それで神保さんが、天使たちが撮影した球団社長会とオーナー会議の様子を録画したブツを豊田会長にプレゼントしたワケよ。
その夜のオーナーたちの宴会で、
『わははは、あのクソ生意気な若造め、我らに屈して黙ってあの支援金を差し出していれば、形だけの会長に留まっていられたものを』とか、
『これで労せずして12億5000万円を巻き上げることが出来たの。
そうそう、そのうちの3億を現金でワシの自宅に持って来るように』とか、
『わざわざ高い金を払ってホテルの会議室を借りたからの。
証拠なぞどこにもあるまいて』とかホザいてた映像もな。
おかげで豊田オーナーは、検察に証拠の音声テープと録画テープを提出して基金横領を告発し、裁判所にはオーナー会会長と事務局長の解任差し止めを求めて提訴出来たんだ。
録画とテープレコーダーの音声が完全に一致したんで検察も色めき立ったそうだな。
それで11球団の球団社長とオーナーが警察に任意出頭を求められたんだけど、激怒した7人のオーナーは、顧問弁護士の説得にも拘わらず出頭を拒否しちまったのよ。
『このワシを呼びつけるとは頭が高いっ!』とか怒鳴ってな。
まあ、頭が高いのはどっちだよ、ってぇ話だ。
それでやっぱり裁判所から逮捕令状出されちまったんだわ。
弁護士は『連行に抵抗すると手錠をかけられますよ』とか耳元で言うし。
人生初の留置場生活はとんでもない屈辱だったそうだ。
同じ房には全身入れ墨のコワいお兄さんとか窃盗犯とか無銭飲食常習犯とかが入房してるし。
大部屋には壁も無い剥き出しの便器がひとつあるだけだし。
それで渡された煎餅布団を持って奥に行こうとしたら、コワいお兄さんたちに、
『馬鹿野郎! 新入りは便所の横だ!』
『ったくジジイのくせにブタ箱の仁義も知らねえのか!』
とか怒鳴られるしな。
見回りの警察官に「わ、ワシのような重要人物は特別室で持て成せ!」とか喚いたら、「そんなもんあるわけないだろ。静かにしろ!」とか孫より若そうな奴に命じられて、衝撃で10分ぐらい固まってたそうだ。
棄権していた3人のオーナーは、あのオーナー会議では原告の主張通り脅迫行為が行われ、横領行為も企図されたために自分は解任議決も横領議決も棄権したって証言したそうだ。
その後の裁判で、顧問弁護士から7人全員が有罪判決を受けるのは確実な情勢であり、金額が大きすぎて執行猶予もつかない可能性が高いっていう報告を受けたジジイたちは、気絶するか座りションベンして人生最大の衝撃を受けてたそうだ。(神保さん情報)
なにしろあの留置場にいたような連中ばっかしと、大部屋で何年も暮らすことになるんだからな。
それでジジイたちは、涙とハナミズ垂らしながら、必死になって豊田オーナーに示談を求めて来たんだそうだ。
もちろん解任決議も撤回して。
幸いにして超巨額の罰金を払うことで執行猶予がついて実刑判決は免れたらしいんだけど、その罰金が横領しようとした金額よりも大きかったんだと。
さらに豊田会長にも巨額の示談金を支払ったそうだ。
その総額は所有するプロ球団の全選手年俸合計の10年分近かったらしいわ。
おかげで自身が経営する親会社の株価まで急落したそうだ。
罰金や示談金は個人が負担するものだけど、どう考えてもオーナーが会社のカネを横領して支払うのは目に見えてたからな。
実際に或る会社なんか、経常利益はほぼ0だったのに会長役員報酬だけ50倍になってたからな。
そのせいで株主総会が超大荒れになって、更に株価が急落したそうだけど。
その後豊田会長はその莫大な示談金すら全額を日本代表支援基金に提供したんだよ。
それが日本中に報道されるともちろん拍手大喝采が沸き起こったんだけど、コトが終われば7人のジジイたちは屈辱と怒りで半狂乱だったそうだ。
まあそりゃそうだよな。
生意気な若造を脅しつけてマウントを取り、ついでに大金を巻き上げようとしたら、警察に逮捕されちまって裁判官の前で頭下げさせられて謝罪させられて、逆に大金巻き上げられちまったんだもんなぁ。
しかも、そのカネは日本代表のために寄贈されて若造が日本中のヒーローになっちまったんだから。
その後、豊田オーナー会会長はアンジーに頼んでMLB監督経験者を中心に日本代表監督を探してもらって、年俸100万ドル(≒当時1億5000万円)で招聘したんだ。
そしたらそれを見た日本球界のOBたちが、大挙してヘッドコーチにしろとかコーチ希望だって来たそうなんだよ。
中には『ワシが顧問をしてやる!』とかいう元監督のよぼよぼジジイまで来たそうなんだけど。
それまでは日本代表や若いオーナー会会長をボロクソに貶してたくせにさ。
でもアンジーが面接してコーチング方針をヒアリングしたら、全員が『まずは徹底して根性を鍛え直す!』とか『投手は日に20キロ走らせる!』とか『野手には毎日ノック500本!』としか言わなかったんだと。
それでコーチも全員アメリカから呼ぶことになったそうだ。
おかげで代表候補の若手たちも随分と外人や英語に慣れていったそうだな、ははは。
それから2年後のWBC日本代表候補選考に際しても、10球団のジジイオーナーたちが『ウチの選手は絶対に出さん!』って声明出してイヤガラセしたんだけどな。
そうした声明の後にインタビューを受けた代表監督が、「いえ、そもそも代表候補にはあの10球団からはエレファンツの1人しか入ってませんから、特に問題ないです」って答えたんで日本中がザマァって爆笑してたわ。
ついでにその1人も記者会見でラクーンズかパンサーズへの移籍を希望します、って言ったんで激怒したエレファンツオーナーが解雇したんだよ。
それで自由契約になった後、本当にラクーンズに年俸5割増しで移籍しちまったんだ。
それでめでたく代表になれたんだけどな。
自由契約なんかにしなけりゃ結構な額の移籍金をゲット出来たのにさ。
オーナーの嫉妬とわがままでローテーションの1番手を失ったエレファンツは、翌年のペナントレースでラビッツと最下位争いしてたわ。
実際に日本代表候補40人に選ばれたのは、ギガンテスからは野〇くんと池谷くんとイチ〇ーくんとワイルドキャッツの松〇くんに加えて、ワイルドキャッツから6人、ギガンテス日本アカデミーから4人、ヤンキースとヤンキース日本アカデミーから5人、ドジャースとドジャース日本アカデミーから4人、レッドソックスとレッドソックス日本アカデミーから4人、残りはラクーンズとパンサーズの若手13人だったんだよ。
各球団の日本アカデミーって3A球団の下部組織じゃあなくって、もう3A球団と同格の扱いになってて、何人もメジャーのエクスパンドロースターに送り込んでたしな。
中には野〇くんたちみたいにアクティブロースターに入れていた奴もいたし。
因みにチームリーダーは2番目の年長でギガンテスのローテーション3番手の野〇くんな。
2番目に年長っていってもまだ24歳だけど。
それ以外にも練習補助員としてバッティングピッチャーとキャッチャーを15人も選んでたぞ。
驚いたことに、この55人の中には日比山高校野球部出身者やなんと東大野球部出身者も入ってたんだぜ。
もちろん代表候補や練習補助員たちには、代表監督の助言で十分な報酬が支払われたんだ。
最低でも500万円、最高で4000万円な。
アメリカ人には、名誉さえあれば報酬は払わなくていいなんていう発想は無いし。
おかげで年俸の少ない若手たちも随分と喜んでたそうだ。
この55人はWBC前に11月の段階からグアムでキャンプ張って1月にはドミニカ入りしたんだ。
そこで国際練習試合を50試合も熟してたわ。
その試合は、練習風景も含めてすべて日本で放映されたんで、さらに莫大な協賛金が集まったんだ。
代表候補たちの練習試合でのユニフォームは広告だらけだったし、その場でCM撮りも行われてたし。
やっぱりみんな、自分の会社の広告つけた若い連中が元気よく努力してるの見て喜んだらしいな。
練習試合以外の時間には全員が『打者用ユーキメソッド』と『投手用ユーキメソッド』と『外野手用ユーキメソッド』でみっちり練習してたし。
それぞれのグループのリーダーは、松〇くんと野〇くんとイチ〇ーくんだったわ。
たまに俺もピッチャーたちに変化球の投げ方教えてやったりもしたし。
そのおかげかどうか、みんなの実力もみるみる上がって行ったみたいだな。
そうそう、ドミニカでの日本代表の練習や練習試合の後に、モヒカン頭のヤタラにガタイのいいおっさんがボール磨きしてたんだ。
すっげぇ丁寧に。
目を近づけてボール1個1個凝視して汚れや傷が無いかってチェックしてたようなんだけど、真剣さのあまりに寄り目になってたんで笑いそうになったわ。
そしたらさ、そいつが俺と野〇くんが話してるのを見かけて慌てて手を洗って、必死の形相で最敬礼しながら握手して貰えないかって言って来たんだよ。
そいつ、なんとNPBオーナー会会長の豊田オーナーだったんだぜ。
どうやら俺が高校3年になっても大学4年になってもボール磨きしてたって聞いて、感激して真似してたらしいんだわ。
それでまあ、マックスやレニーも世話になってることだし、何度か一緒にメシとか喰ったりしたんだ。
「明日のランチもご一緒に如何ですか」とか言ったら、10時ごろからレストラン入り口前にそわそわしながら立ってたんで驚いたけど。
なんか腰の低いいいヤツだったわ。
野球に関する情熱はすごかったけど。
そういえば、2月になって日本対アメリカの練習試合があったんで、俺が投げてやろうとしたんだけどな。
そしたら、野〇くんと池谷くんとイチ〇ーくんと松〇くんに取り囲まれて、『ボスの変化球なんか見せられたら打者がみんな調子崩すからヤメてください!』って真顔で怒られちゃったんだわ……
それで会長さんがすっげぇ残念そうにしてたんで、後でロジャーくんの後ろにネット立てて練習を間近で見せてやったら、涙ぼろぼろ零しながら感激してたぞ。
8メートル級カーブ投げたら、後ろから嗚咽が聞こえて来たんでロジャーくんがびっくりしてたけど。
俺の球見て驚く奴は多いけど、泣いた奴はあの甲子園以来だわ……
実際のWBCでも野〇くんと池谷くんと日本人ユーキ軍団の力投に加えて、イチ〇ーくんと松〇くんを筆頭に日本人メジャーリーガーが打ちまくったんで、予選リーグ通過どころか決勝トーナメントでもプエルトリコに勝って金星挙げてたよ。
準決勝では惜しくもドミニカに3-4で負けちゃってたけど、それでも堂々の世界ベスト4だよな。
前回大会とは雲泥の差だわ。
なんか日本中が大喜びしてたそうで、それでさらに大量のスポンサーが集まったそうだ。
代表が呼ばれてない10球団は笑い者になってたし。
ドミニカのレギュラーになってたミゲルに後で聞いたんだけど、ドミニカの監督は最後までおっかない顔でピリピリしてたそうだわ。
アドレナリン使い果たして試合後はぐったりしてたそうだし。
なんかコーチたちに肩を貸して貰ってロッカールームに引き上げていったんだと。




