*** 144 WBC開幕 ***
この物語はフィクションであります。
実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……
また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……
みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。
っていうことでさ、なんかドミニカでは毎日のように練習試合が組まれることになったんだよ。
対戦希望が殺到したアメリカでは、代表ピッチャーの消耗を避けるためにもユーキ軍団の登板も認めてもらったし。
ついでにブルペンの一角に『ストライク・ボール判定確認コーナー』も作ってもらったんだ。
そこではアカデミーの練習生たちが交代で投げるのを審判がコールしてるんだけど、その周りや打席は各国代表のコーチやら打者やら投手やらが取り囲んでるんだよ。
そうしたコーナーが8つもあって、各国の代表選手たちが主に外角のストライクゾーンをチェックしてるんだ。
今回のWBCでは外角のゾーンはベースからボール1個分外側で統一してもらってあるんだけどな。
因みに、よくMLBでは審判によって外角のストライクゾーンがボール1個分だったり2個分だったり統一されていないって言われてるけどさ。
あれって実は打者の身長によって打者ごとに変えてるらしいんだ。
もともとストライクゾーンって、『このゾーンに来たら打てるでしょ』っていうゾーンだからさ。
だから身長170センチ以下の選手だったらホームベース通りだけど、170センチ以上185センチまでの選手だったらボール1個分外側で、それ以上の身長なら2個分とか。
だから審判はほとんどの選手の身長を把握してたんだと。
だけどそれだと打者がますます混乱するから、ボール1個分で統一してもらったんだ。
まあ判定コーナーの審判さんたちには追加で日当1000ドル(当時≒13万円)払うようにしたそうで、随分と張り切ってくれていたようだ。
それで結局、ドミニカには参加16か国中15か国が集まっちゃったんだ。
おかげで俺なんか各国の代表選手たちから一緒に写真撮らせてくれとか、サインしてくれとか頼まれてタイヘンよ。
そのせいで毎日夕食後に時間を取って『写真撮影会』やら『サイン会』とかするハメになっちまったけど。
でもさ、日本だけはこのキャンプに参加しなかったんだよ。
2月1日にようやく代表も決まってたんだけど、どうやら代表選手たちが海外生活を嫌がったそうなんだ。
『米とみそ汁が無いところで1か月も暮らすのは耐え難い』
『畳の部屋でないと落ち着かない』
『通訳が4人しかいない』
『英語で話すなんてとんでもない(=話せない)』
とか言ってたらしいわ。
なんで米と味噌と料理人と畳持参で来ないんだ?
欧州のサッカー国代表の海外遠征だって、食材持参と料理人同伴は当たり前になってるぞ?
要はベテランたちが外人と接するのを嫌がっただけか。
それでよく国際大会の代表とかやってるよなぁ。
あーあ、せっかく準備してやってたのが無駄になっちまったか……
それでまあ日本代表は、せめてキャンプでもしようとしたらしいんだけど、ハワイはこの時期は雨期だし、グアムでのキャンプを計画してたそうなんだ。
でもドミニカと同じ理由でボツになって、結局宮崎県でキャンプを張ることになったんだと。
当時まだ沖縄では春季キャンプを張る球団はほとんどいなかったんで、グラウンドやホテルの確保が出来なかったそうなんだ。
でも、この年の冬って日本は大寒気団に覆われてたもんで、宮崎県も相当に寒かったらしいな。
積もりはしなかったけど、雪すら降ってたんだと。
そんなところじゃあ、まともな練習なんか出来ないよなぁ……
アカデミーには続々と各国の代表が集まって来た。
VIP用宿舎はすぐに満員になっちゃったんで抽選で使ってもらうことになっている。
アカデミーの練習生たちの部屋も空けてもらったし、リジルの街や周辺の町のホテルも全て押さえたそうだ。
まあ、練習生たちは体育館やロリンゲス村の公民館でのザコ寝になっちゃったんだけどさ。
迷惑料だって言って大会本部がひとり1000ドル払ってやったら、目ぇまん丸にして喜んでたからまあいいか。
それに昼間は代表選手たちの練習とかも見学出来るしな。
そうそう、各国の取材陣も多かったよ。
テレビカメラも山ほど入ってたし。
なにしろ15か国もの国代表が集まって、毎日何試合も練習試合が組まれてるもんだから、もう取材し放題だよ。
さすがに日本の取材陣は来なかったけど、MHKのディレクターだのスタッフだのが何人も来て大会本部や俺にいろいろ質問してたわ。
まあ彼らにとっても初の国際野球大会だからな。
球数制限とか登板間隔制限とか見慣れないルールもいっぱいあったし。
俺にも熱心に(かつ丁重に)アドバイスを求めて来たんで真面目に答えてあげたんだ。
そういえば、そのうちに各国代表のユニフォームに続々と広告が付き始めたんだよ。
もちろん本大会でユニフォームに広告付けるのは禁止されてるけど、でもここでの試合は『練習試合』だろ。
だから、各国のスポンサーたちが練習試合の自国放映用にスポンサーとして名乗りを上げ始めたんだと。
まあ、総当たり戦で1チームにつき最低で14試合も見られるからな。
それで各国代表とも相当に潤ったんで、キューバ以外はどの国もキャンプの滞在費用を払ってくれることになったんだ。
MLBの本部長さんもにこにこだったよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2月も下旬に入った。
ドミニカでのキャンプというか各国代表たちの練習試合も全て終了した。
まあ球場がたくさんあるから、どの国の代表も日本を除く全ての国と対戦出来て満足そうだったわ。
打ち上げパーティーも大盛況だったし。
後になっていくつかのマスコミが書いてたけど、真の国際親善試合はドミニカで行われたみたいだな……
2月26日にはどの国のチームも一旦サンフランシスコに移動して2月28日の開会式に参加する予定になっている。
そのためのチャーター機も3機用意されてたし。
開会式後にはアメリカ対メキシコの1試合だけ行われて、2日後の3月1日からはアメリカ南部の各州に分かれて予選リーグが行われる。
まあ北部の州はまだ寒いし。
それでさ、なんと開会式にはジョージ・H・W・ブッシュ大統領が来てくれて、始球式もしてくれたんだ。
試合が始まるとホームベース裏席の前から2列目でレーガン元大統領と並んで座って楽しそうに会話してたけど。
因みに大統領さんたちの前後はシークレットサービスが固めてて、全員が防具着けてグラブ持ってるんだわ。
なんかホワイトハウスの裏庭で随分とキャッチングの練習をしてたそうだぞ。
もちろん大統領さんたちも専用防具を着けてくれてたよ。
まあ俺が投げるときだけはライズ用ネットが降りて来るから大丈夫なんだけど、俺が降板したりウチの攻撃中にはネットは上がるからな。
シークレット・サービスさんたちには、大統領さんたちを確りガードしてもらいたいもんだ。
この試合では、俺は1回から3回までを任された。
大会の提唱者っていうこともあるし、超VIPも来てるからなんだろうけど。
でもさ、先発マスクを告げられたロジャーくんが、緊張のあまりもう顔面蒼白になって震えてるんだわ。
そしたらアレックス・モーガンがダグアウトでのしのし歩いて近づいて来たんだよ。
「おいロジャー、緊張してるか?」
「ひ、ひゃい……」
「あー、手も震えてるか……
そうか、おいお前ぇたち、アレやるぞ」
「「「 へいっ! 」」」
なんだなんだ?
ヤンキースのデカイのが3人、ロジャーくんを取り囲んだぞ。
それもグラウンドから見えないようにして。
一発殴って気合でも入れんのか?
「おいロジャー、ズボンのベルトを緩めろ」
「は?」
「いいから緩めろ!」
「は、はひぃっ!」
「よし、そしたらパンツに手ぇ突っ込んでキンタマ握れ」
「は?」
「いいからキンタマぁぎゅっと握るんだよ!
お前ぇまさかキンタマ無ぇわけじゃないんだろ!」
「は、はいっ!」
「しっかり握ったな」
「はい……」
「そしたらな、キンタマを下に引っ張るんだ。きゅーっとな」
「は?」
「早く引っ張れ!」
「は、はははは、はいっ!」
「どうだぁ、縮み上がってたキンタマ下がったか」
「は、はい、下がりました……」
「よーし、これでもう大丈夫だ。安心しろ。
キンタマ縮んだままでまともなプレーなんぞ出来るわけが無ぇからな」
アレクが微笑んだ。
「これはな、今から20年以上も前に俺がメジャーデビューするときに、先輩キャッチャーから教わった『儀式』なんだ。
あんときの俺もお前ぇみたいに震えてたからなぁ。
でもキンタマ引っ張って伸ばしたおかげで俺はまともにプレー出来たんだ。
だからヤンキースで若いのがメジャーデビューするときには、必ずこの『儀式』をやらせてるのよ。
また縮み上がったら攻守交替のときにでも引っ張ってやれや」
そう言ってアレクはロジャーくんににっこりと微笑みかけたんだ。
「あ、あああ、ありがとうございますっ!」
はは、ロジャーくんが涙目になってるわ。
顔色も戻ったし手の震えも収まったようだし。
そしたらさー、その場にいた若い選手たちがみんなズボンのベルトを緩めてパンツに手ぇ突っ込み始めたんだよ。
「馬鹿野郎っ!
カメラのうちの1台は必ずダグアウトを向いてるのを忘れたんか!
『アメリカ代表は全員インキンだった!』とか言われちまったらどうすんだっ!
キンタマ引っ張りたけりゃあダグアウト裏に行ってやれ!」
わはははは、みんな慌ててダグアウト裏に向かったよ。
はは、ロジャーくんも笑ってるわ。
それにしてもさすがだわ。
全員を一撃でリラックスさせたか……
これが代表キャプテンのキャプテンシーなんだな……
こんな頼れる選手会長がいるからヤンキースはあんなに強ぇのか……
ところで……
奴らの触ったボールにゃぁ触りたくねぇんだがどうすんべか?
こっそり全員に『クリーン』でもかけておくか。
アメリカ代表チームに万が一にもインキンが蔓延したらシャレになんねぇからな……
さて、後は俺が踏ん張って投げるだけだ。
お、プレイボールの声がかかってもロジャーくんは冷静だわ。
はは、初球は予定通り8メートル級カーブか。
まあジョーに言われて1回から3回までの基本配球は全部暗記させられてたみたいだからなぁ。
おー、やっぱり8メートル級投げると大歓声か。
はは、大統領さんと前大統領さんも拍手してくれてるわ。
よし、次は高速ナックルだな。
その次は2.5メートルジャイロだったか。
よしよし、メキシコの先頭打者はバットを振りもせずに口開けてるだけだわ。
その後も俺はこの3種類の球種を軸に、カットとシンカーと180キロストレートを混ぜて相手打線を封じていったんだ。
まあやっぱり3回まで9人連続三球三振だったけど。
よし、これで俺の今日の仕事は終わりだ。
あー、4回の表にロジャーくんがグラウンドに出て行こうとしとる。
交代のアナウンスも聞こえないぐらい集中してたんだな。
まるで俺が5年前にデビューしたときみたいだわ、ははは。
試合が終わった。
うん、強豪メキシコ相手に8-1で勝てたか。
上出来だよ。
客も随分と喜んでたし、後で聞いたんだけどテレビの視聴率もスーパーボウル並みだったそうだ。
よかったよかった……
それでその日は俺は『転移』で自宅に帰ったんだ。
そしたらさ、ガイアがおむつに手ぇ突っ込んで、なにやら引っ張ってるんだよ……
エンジェリーナはそれを羨まし気に見てたんだけどな。
ガイアがおむつから手を抜いて満足そうに(ふぅ~)とか言ってたら、エンジェリーナがいきなりガイアのおむつに手ぇ突っ込んで、何やらを思いっきり下に引っ張ったんだ……
(ぴぃ――――――――――――――――――――――っ!)
あー、神保さんの自動撮影魔法の映像を見てたんか……
あれ俺の視線バージョンもあるからなぁ……
ガイアよ。
緊張もしてないのにエンジェリーナの前でそれを引っ張るのは止めた方がいいぞ……
それに、パパがお前用のファウルカップを作ってやるから、当面はおむつの上からそれを着けるがよい。
それでガードされてエンジェリーナは少し悔しそうな顔してたんだけどさ。
翌朝エンジェリーナがいないなとか思ってたら、神牛の牛舎の方から、
「ぐももももぉぉぉぉ―――――――――――――――――っ!」
とか叫び声が聞こえて来てたよ……
ところでエンジェリーナよ。
なんでそんなにパパと一緒にお風呂に入りたがるのかな?
どうやらキミは男の子のことを『引っ張ると音の出るおもちゃ』だと勘違いしているようだな……
あー、とうとう邸にいる天使見習いさんたちも狙い始めたか。
邸中で『ぴぃ――――――っ』っていう悲鳴が聞こえ始めてるよ。
そしたらさ、めーちゃんがエンジェリーナに魔法をかけたんだよ。
男の子のちんちんに触るとおしりを思いっきり抓られる魔法だそうだ。
(ぴぃ―――――――――――っ!)
ああ、今度はエンジェリーナの悲鳴が響き渡ってるわー。
よしよし、これで被害は無くなるかな……
余談なんだけどさ。
俺もめーちゃんもこの魔法のことをすっかり忘れてたんだ。
だってエンジェリーナもすぐにそんなことしなくなってたから。
それでエンジェリーナが適齢期になってお相手も見つかって結婚式を挙げた夜、新婚旅行先で久しぶりにエンジェリーナの悲鳴が響き渡ったそうなんだよ。
「ぴぃ――――――――――――――っ!」って……
なぜなんだろーなー。(棒読み)
それですぐにぷりぷり怒ったエンジェリーナが転移して来て、なにやらめーちゃんに文句言ってるんだ。
それでめーちゃんがエンジェリーナを宥めながら、なんかの魔法を解除してやってたんだけどさ。
そしたらエンジェがいそいそとまた転移していったんだよ。
いったい何の魔法を解除したんだろーなー。(棒読み)




