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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
14/157

*** 14 強豪校との練習試合1 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 俺は吉祥寺先生に近づいて行った。


「これで私の持ち球は全て投げました。

 このテストの評価を頂けませんでしょうか。

 100点満点で何点ですか?」


「謹んで1万点を進呈させてくれ……」


「い、いちま……」



「それで私からもお願いがあるんだが……」


「はい、なんでしょう?」


「君の球をもう少し受けさせて貰いたいんだ。

 出来れば私がサインを出してね。

 今すぐサインを覚えるのは無理だろうから、後日でも構わんが」


「それではこちらの紙に球種を書いておきましたので、サインの指の形を書き加えて頂けますか。

 そうしたら、先生の2度手間にならないよう、今すぐ投げられますが」


「わかった」



 サインの指の形を紙に書き込みながら吉祥寺は思った。

 まさかこれだけでサインを覚えられるとは思わんが……

 これだけの防具に守られていればケガはしないで済むだろう。


「コースのサインはどうする?」


「あ、それは先生が構えて下さったミットに収まるように投げますから。

 『ナックルボール』以外はですけど。

 あの球は投げている私にもどう変化するか分からないんです」


「………………」


(投げた本人にもにもわからん変化をする変化球か……

 それでは打者が打てるわけもないな……)



 俺は指のサインが書き加えられた紙を30秒ほど眺めた。

 こういう時に『完全記憶Lv9999』は便利だぜ!


「それじゃあピッチングを再開しますんで、サインをお願いします」


(こヤツ、本当にこれだけでサインを覚えたというのか?

 それでは最初は外角低めに決まる曲がらずに落ちるジャイロから……

 うお! 本当にサイン通りの変化でミットに収まった!

 そ、それでは次はスライダーで……

 ああ、これもサイン通りでミットの真ん中に入ったか。

 ふふ、さらに楽しくなって来たわい……

 コントロールのいいピッチャーをリードするのは実に楽しいわ)



 それで俺、それから150球近くも吉祥寺先生のサイン通り投げたんだ。

 それにしてもさすがだよ。

 投げ出し方向がぜんぜん違うのに、ビビッてミット動かしたりしないんだもんな……

 そうか、一流のキャッチャーに必要なのは、この勇気なのかも知らんな……

 それにしても上手なキャッチャー相手に投げるのは楽しいわー。



 俺と先生のボールを介した親しい会話は、日が傾くまで続いたんだ。


 

「いや今日は実に楽しかったよ。

 久しぶりに現役時代に戻れた気分だった」


「こちらこそこんな時間まで付き合って頂きまして、本当にありがとうございました」


「それでは今晩から練習試合の相手を探すこととしよう」


「それにつきましては、あといくつかお願いがございまして」


「ふむ、言ってみなさい」


「まずは……

 それから……

 次に……」


「それは先日君が言っていた、『守備と打撃が普通に出来るようになれば、君が投げることで甲子園に行ける可能性がある、ということを意識させて、野球部員の覚醒を促す』という趣旨に沿ったものだね」


「はい、そうして私が相手を完封出来たなら、もうひとつだけお願いがあります」


「言ってみたまえ」


「それは、……をお願いしたいと思っています。

 また、そのためにこちらの資料を用意させて頂きました」


「こ、これは……」


「出来ればこの資料は、野球部顧問の御茶ノ水先生にもお見せ願えませんでしょうか」


「わかった。すべて了解した」


「ありがとうございます……」


「ふふ、私はね、さっきの投球練習を通じて、まるで君が長年の野球仲間になったような気がしておるのだよ。

 あれはそれだけ濃い、至福の時間だった……

 鳥肌も止まらなかったよ。

 野球仲間である君が甲子園を目指そうとするのを助けるのは当然のことだ」


「あ、ありがとうございます……」


「その代わりと言ってはなんだが、これからも時間があるときには私と投球練習をしてくれないだろうか。

 そうだ、練習試合の日程が決まったら、なるべくたくさんキャッチングの練習をさせて欲しい」


「は、はい。畏まりました……」




 その日の夜。


「神保さん、折り入ってお願いがあります」


「お聞かせくださいませ」


「もしかしたら、野球部の練習場所が必要になるかもしれないんです。

 ですから、狭くても構わないんですけど、うちの高校から近いグラウンドを借りていただくことをお願いするかもしれません」


 神保さんが微笑んだ。


「畏まりました」


「それからですね。

 ウエイトトレーニング用の機器が必要になるかもしれないんです」


「それでは最新鋭のマシンを購入することに致しましょうか」


「い、いえ、それでは大金がかかってしまいますし、そんなカネを誰が出してくれたのか詮索されても困ります。

 ですから、出来れば最新のマシンと同じようなトレーニングの出来る機器を、手作り風で作ってみたいと思ってるんです。

 例えば鉄パイプを溶接したり、ウエイトの鉄の代わりに籠に入れた石を使うとかで」


 神保さんはさらに嬉しそうな顔をした。


「畏まりました。

 すべて私共にお任せくださいませ……」




 その日の夜、吉祥寺教頭は久しぶりに学生時代の一つ下の後輩に電話をかけた。


「こ、これはこれは吉祥寺先輩!

 ご無沙汰しておりまして申し訳ございません!」


「はは、お互いもういい歳だ。

 学生時代のような上下関係は必要無いよ」


「ですが、大学野球部時代の1つ上の代のキャプテンで、大学選手権で優勝した際のMVPだった大先輩ですからねぇ。

 身に沁みついた尊敬の念はいつまで経っても無くならないものですよ」


「君だって、私の次の主将だっただろうに」


「はは、先輩と比べられて辛かったですわ」


「ははは。

 それで今日電話させてもらったのはだな。

 母校の付属高校の野球部監督をしている君に、折り入って頼みがあるからなんだ」


「承ります……」


「夏の大会を終えたばかりで誠に申し訳ないんだが……」


「いえいえ、東東京大会の決勝戦で負けた悔しさを晴らすための酒も、ようやく抜けたところですわ」


「そうか、それでは単刀直入に言おう。

 ウチの野球部と練習試合をしては貰えないだろうか。

 出来れば今度の土曜日か日曜日に」


「そ、それは……

 もちろん構いませんが、ちょっと実力差がありすぎて、そちらの生徒さんが委縮したりしませんかね」


「部員のほとんどはそうかもしれないな。

 だがひとり、怪物、いや超怪物を見つけたのだよ」


「ほう、どんな超怪物なんですか?」


「彼はピッチャーなんだが……

 我々の現役時代の2枚看板ピッチャーを覚えているかな?」


「もちろんですよ。

 本格派速球投手の浅草橋先輩と変化球投手の両国ですよね」


「うむ、今日わたしはその男の球を3時間も受けていたんだ。

 それもガチガチに防具で固めた格好でな」


「先輩自ら受けられたんですか……」


「そして、その男の直球は、浅草橋の2段階上を行くものだ。

 変化球に至っては、両国の10段階上を行く」


「ご、ご冗談を……

 あ、先輩はこと野球に関しては冗談はけっして言われない方でしたね……」


「うむ。そやつは8種類もの変化球を持っている。

 しかも、抜群のコントロール付きである上に、その変化球8種類のうち、6種類は私の知らない変化球だった」


「ほ、本当ですかっ!

 で、ですが確か日比山高校は2回戦負けだった記憶があります。

 それほどの投手がいながら……」


「はは、愚かなコーチの理不尽な命令に逆らったために、ベンチ入りすらさせてもらっていなかったよ。

 ついでにまだ1年生だしな」


「1年生っ!

 そ、そんな秘密兵器をわたしに見せて構わないのですか?」


「あの球は5回や10回見ただけで打つのは難しいぞ。

 この私が、衰えているとはいえ10球中ミットの真ん中で捕れたのは1回で、前に零したのが4回、残りは後逸したパスボールだったからな」


「………………」


「あれは夢を見ているかのような球だった……

 きっと君も興味を持つだろう」


「わかりました。

 今度の日曜日、10時から私共のグラウンドで如何でしょうか」


「ありがとう。

 ついでにこれは練習試合ということで、いくつかルール上の提案があるんだが……」


「お聞かせください」


「まずは……

 それから……」


「それは…… なるほど……

 構いません。それでは当日よろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしく」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 火曜日の校庭での練習開始前。


 グラウンドに吉祥寺教頭先生が現れた。


「鶯谷コーチ。すまんが全員を集合させてくれたまえ」


「は、はいっ」



「みんなその場に座ってくれ。

 突然だが、顧問の御茶ノ水先生のご了解を得て、当面の間、私が野球部の臨時監督を務めることにした」


「えっ! そ、そんな……」


「鶯谷くん、なにか問題があるかね?」


「い、いえ、とんでもないっ!」


 俺はため息を吐いた。

(こいつ、いつも威張りくさってるくせに、目上にはてんで弱っちいのな……)



「そして、さらに突然だが、今度の日曜日に他校と練習試合をすることになった。

 場所は相手校のグラウンドで、試合開始は10時からだ。

 尚、部員は全員参加とする。

 控えの選手もよく試合を見ているように。きっと得るものがあるだろう。

 集合はこの校庭に朝8時だ。

 私が引率して行くし、顧問の御茶ノ水先生も同伴して下さる」


 田町先輩が手を挙げた。

「相手の高校はどこですか?」


「全国体育大学付属高校だ」


「げえっ!」

「ぜ、全体大付属!」

「東東京大会決勝戦で、惜しくも5対4破れて甲子園を逃したあの……」

「せ、先生! いくらなんでも無茶なんじゃあ……」


「なに、同じ高校生だ。

 胸を借りるつもりで頑張って来なさい」


「そ、そんな……」



 鶯谷コーチが立ち上がった。


「よぉしっ! お前ら明日水曜日と金曜日の校庭使用権を、他の運動部から譲ってもらって来いっ!

 それから土曜日の多摩川グラウンドの使用権もサッカー部から譲ってもらえ!

 今から特訓を開始するっ!」


 あーこの馬鹿張り切っちゃってまあ。



「いや、特訓は禁止する。また、練習も今日と木曜だけだ」


「そ、そんな……」


「鶯谷コーチに特訓など任せたら、また部員全員が故障するからな」


「うっ……」


「そんなことになったら、せっかく日程を組んでくれた先方に申し訳が立たないぞ」


「は、はい……」


(で、でも、こっそり隠れて特訓を……

 そしてもし当日の練習試合で少しでも善戦出来れば、俺のコーチとしての評価が……)


「言っておくが、学校側に隠れて特訓などしたら、君をコーチから解任するからな」


「!!!!」

(そ、そんな……)


「部員諸君はもし隠れての特訓など命じられたら、すぐに私まで報告して欲しい。

 私からの連絡は以上だ」



 あはは、吉祥寺先生、練習が始まってもずっとグラウンドに居たままだわ。

 あー、ダニ先輩がすっかり萎れちゃってまぁ……



 そして翌日、俺はまた吉祥寺先生と校舎裏で投球練習をした。金曜日も。

 それから土曜日にも軽い投球練習を行った。


(このひとやっぱさすがだわ。

 もうパスボールも無いし(除くナックル)、変化球もほとんどミットの芯で捕ってるよ。

 ま、まあ俺のコントロールが良くってミット目掛けて投げてるせいもあるんだろうけど……)




 そして練習試合当日。

 朝校庭に集合し、吉祥寺教頭と御茶ノ水先生に引率された俺たちは、電車で全体大のグラウンドに移動した。


「ま、マジかよ……」

「スタンドがあるよ……」

「こ、これ3000人は入れるぞ……」

「ナイター照明まである……」



「センパイ方~、野球はスタンドや照明でやるもんじゃないですよー。

 もっとリラックスして行きましょうよぉ~♪」


「う、うるせい神田っ!

 お前は少し黙ってろっ!」


 あははは、ダニ先輩が一番ビビってたもんだから、怒ってるわー。









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