*** 137 オーナー会へのアドバイス ***
この物語はフィクションであります。
実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……
また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……
みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。
気を取り直した俺は、その場の全員を見渡してにかっと微笑んだ。
「それだけでなく、出来れば若干でもこの企画に対してご寄付を頂戴出来ましたら……
最初に寄付を下さった方々のお名前は、新球場の正面入り口に設置されるレリーフに刻まれますので」
はは、スタインブレナーさんが苦笑しとるわ。
「我がスタインブレナー一族は500万ドルを寄付する」
「わたしも500万ドルだ」
「ウチは300万ドル」
「わたしも個人資産から200万ドル寄付させて貰おう」
「ウチもだ」
「「「「 わたしも 」」」」
(はは、さすがにオーナー会議のメンバーともなると、みんなケタの違う金持ちだわー)
「ありがとうございます」
「それで提案なんだが、このまま現役選手であるユーキに計画を任せておくのは忍びないのだよ」
「うむ、シーズンオフにもドミニカでの練習生へのコーチングがあるだろうしな」
「それでユーキ、もしよかったらMLB本部に全米高校野球大会の実現計画を任せてみたらどうだろうか。
彼らにはこうした大会を開催するノウハウが十分にあると思うのだが」
「よろしいんですか?」
「もちろんだとも。
そうすればMLBもこの名誉ある事業に参加出来ることになって有難い」
「それではよろしくお願いいたします」
あー、これで俺はもうなんにもしなくてもよさそうだな。
ラクチンだわー。
「ところでこの選手会との交渉案についてはどうする?」
「見たところ反対意見も無い素晴らしい提案だから、このまま妥結するんじゃないかな」
「念のため10月の労使交渉までに細部の詰めを行うとするか」
「はは、史上最短の労使交渉になりそうだな」
「そうそう、その後すぐに年金基金の立ち上げもする必要があるか」
「うむ、ペンションファンドの運用会社の選定を始めておこう」
いっけね! 危うく忘れるところだったわ!
「あのですね、そういえば私の友人たちがまたアドバイスをくれたんです」
「ほう、どんなアドバイスだったのかね?」
「2年前のプラザ合意によってドル高是正策が採られましたが、今や行き過ぎたドル安を是正しようとする動きになっています。
2月に行われたルーブル合意はその主要策でした。
ですが、インフレに悩む西ドイツが、アメリカの反対を押し切って利上げに走る可能性が有るそうですね。
ですから、もし西ドイツが緊急利上げをしたとしたら、世界主要国の協調路線に罅が入ったとして投資家の不安が拡大します。
そうした場合、西ドイツの利上げから1~2か月以内に、過去最大規模の株式市場の暴落が起きるかもしれないとのことです。
まあわたしは株など持っていないので心配は無いんですが」
「ま、まさかあのブラックサーズデーを上回る規模の暴落だと……」
「ええ、1日の下落幅でも下落率でも遥かに上回る可能性が高いと。
なにしろ今は当時と違ってコンピューターによるプログラム売買がありますので、下げの規模が大きくなるそうですね。
そのプログラム売買への規制が無い今は、瞬間的な暴落のリスクが極めて高くなっているそうです」
「ま、また大恐慌が来るというのか……」
「いえいえ、友人たちによれば、米国株式市場は1日で大暴落することで、日柄整理の代わりに値幅整理が行われることになり、その後超長期に渡って上昇を続けていくことになる見込みだそうです。
そうですね、20年ほどで10倍になる可能性があると。
また、そうした『フラッシュ・クラッシュ』を契機にサーキットブレーカーなどの規制も導入されるでしょうから、その後の心配は要らないそうです。
まあ単なる予測ですから当たるとは限りませんけど、もし本当に西独が緊急利上げをしたら警戒してください。
もし株をお持ちでしたら株式先物市場でヘッジ売りをしてもいいかもしれません。
そうして、もしも本当に暴落したら、その日か翌日からまた株を買ってもいいでしょうね。
ですから年金資金の運用のうち、株式での運用はその時点まで待った方がいいと思います。
株が急落すれば国債価格は上昇しますから、国債での運用はすぐに始めてもいいでしょう。
それから信託報酬などのコストを抑えるためにも、運用はMLB本部に任せたら如何でしょうか。
会計監査は選手会とオーナー会が共同で行うということで。
まあ、年金基金の運用方針は、S&P500株に50%、米国30年国債に50%の安定運用が理想だそうですから、特に運用に技術は要りませんからね」
「よくわかった……」
「充分に警戒させてもらうとしよう」
(あ、そうだ、このことは渋谷会長さんにも伝えておくか……)
因みにその後の裁判で、投資銀行家オーランダーは大規模詐欺事件のうちの3つの容疑について、それぞれ懲役100年、併せて懲役300年の判決を喰らってたわ。
まあヒト族がそんなに生きていられるわけないんだけどさ。
アメリカってたとえ終身刑の受刑者でも何年とか何割かの刑期を終えると仮出所制度があるからな。
だから仮出所もさせずに一生刑務所に閉じ込めておくには、終身刑よりもこっちの方がいいそうなんだ。
それに奴ぁ全ての財産が損害賠償のために使われちゃって、すってんてんになってるからなぁ。
刑務所にいたほうがメシも喰わせてもらえるし、いいんじゃね?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからの1987年シーズンも順調だったよ。
ユーキ軍団も絶好調だったし。
俺もまた、8月中旬から我儘言って中2日の登板にしてもらったおかげで『40-40』も達成出来たし。
ワールドシリーズでも優勝出来たわ。
ジョーなんか、メジャー最後の打席でホームラン打って大泣きしてたぞ。
まあ、ジョーの引退試合でワールドシリーズ4連覇を決められてよかったかな……
ワールドシリーズ終了から4日後の月曜日。
俺はオーナー会議が開催されるホテルに向かった。
アソシエーション代表のチャールズさんとは現地で合流することになっている。
会議が始まる15時前に会議室に入った俺は驚いた。
その場にいたオーナーさんたちがみんな顔面蒼白なんだ。
中には手がぶるぶる震えているひともいたし。
15時過ぎになると、オーナー会会長のミスター・スタインブレナーが部屋に入って来た。
「諸君、たった今NY株式市場がクローズしたが、NYダウの下げ幅が508ドルを超えた……
これで前日の終値から22%下がったことになり、あの1929年の『暗黒の木曜日』の下落率を大幅に超えたことになる……
市場では、『このままのペースで株の暴落が続けば、今週中にNYダウが無くなってしまう!』とまで言われているそうだ……」
あー、みんな硬直してるよ。
一応警告してたけど、誰もヘッジ売りしてなかったのかな?
そしたらさ、オーナーさんたちが一斉に押し寄せて来たんだ。
でもって、俺に抱き着いたり大笑いしながら肩叩いたり握手を求めて来たりするんだよ。
びっくりしたわ。
ようやく冷静になったみんなは着席したんだけどな。
「まずはユーキ、ワールドシリーズ制覇おめでとう」
「しかも4年連続でナショナルリーグMVPか」
「本当に素晴らしい成績であり大快挙だな」
「それからユーキ、本当にありがとう。
君のおかげで大損を免れることが出来た……」
「わたしもだ。
ざっと計算したところ、5億ドル近く助かっている……」
「うちもだ」
「それはよかったです」
「君の言う通り、西ドイツが緊急利上げをした後に保有株にヘッジ売りをかけていたのだよ」
「実はこの部屋に入って来た時にみなさん顔色が悪かったんで心配していたんですよ」
「はは、それはだな。
史上最大の株式暴落を予言していた人物がいたということに驚愕していたのだよ」
「そうだ、突然株が大暴落してもこれほどまでには驚かなかっただろう。
そんなリスクについては我々は良く知っている。
我々が蒼ざめていたのは、君の後ろに神を見たからなのだ……」
(あの、後ろじゃあなくっていつも隣に座ってますけど……
子供たちが寝ると膝の上に……)
「いつ下がるのかと毎日緊張しながら見ていたが、実際に下がり始めるとこれほどまでに驚くのだな……」
「こんなに驚いたのは何十年ぶりだろうか……」
「しかも莫大な損失を免れたのだ。
感謝の言葉も無い」
「ユーキ、この小切手を受け取ってもらえないだろうか。
そして、すまないが半分を君の友人たちに渡して欲しいのだ。
そして彼らに最大級の賛辞と絶大なる感謝の言葉を」
なんだよこの小切手っ!
1の後ろにゼロが7つもついてるじゃねぇかっ!
そしたらさー、その場のみんなが小切手に数字書き込み始めちゃったんだわー。
こ、これ全部で2億ドル近いぞ……
「あ、あの……
いくらなんでもこんなには頂けませんよ……」
「いや、是非受け取って欲しい。
特に君の友人たちにはその活動資金が必要なはずだからな」
うーん、それじゃあなにか天使さんたちが喜びそうなことでも考えてみようか……
「ありがとうございます……」
「いや、礼を言うのは我々の方だ」
「ところで、選手会が提出した案に関しては如何でしたでしょうか」
「何の問題も無い。
明日は労使双方が協定書にサインしてそれで終わりだろう。
史上最短で妥結する労使交渉になるだろうな」
「それはなによりです」
(お、そうだ。
みんなが機嫌のいいときにアレ提案してみるか)
「ところでもう一つご提案があるんですけど」
「なんだね?」
「なんでも言ってくれたまえ」
「あの、これからは皆さんの球団でも国内やカリブ海諸国に『アカデミー』を作られるかもしれませんよね」
「そうだ、実際に今検討させているが……」
「ですがせっかくアカデミーで育てた選手を他球団にドラフトで持って行かれてはなんにもなりません。
ですから他球団のアカデミーで育てた選手をドラフト指名する際には、別枠でその球団に対して相応の育成費も払うという制度は如何でしょうか」
「当然のことだな」
「まあドラフト直前にアカデミーに入れられても困るから、アカデミー在籍1年以上の者に限定ということでどうだろうか」
「うむ、賛成だ」
「「「 賛成! 」」」
「それではそれもオーナー会の合意事項ということにしよう」
「ところでチャールズ、ユーキ、ギガンテスはドミニカや日本にアカデミーを作ったろう。
そのアカデミー出身のドミニカ人選手や日本人選手たちは、ユーキ軍団としてメジャーでも大活躍し始めている。
そこで我がヤンキースもドミニカと日本にアカデミーを作りたいと思ったのだがな。
ドミニカはともかく日本の事情はほとんどわからないのだよ。
土地も信じられぬほど高額だそうだし。
だからアカデミー設立のノウハウを教えて貰えないだろうか。
もちろん相応のフィーも払うつもりだ。
それにその方がギガンテス・ジャパンも試合相手が出来ていいのではないかな」
チャールズさんが微笑みながら俺を見た。
「ユーキ、キミはもうギガンテスオーナー会の一員だ。
キミの意見はどうかな」
(ギガンテスだけでなく、他のMLBチームも日本にアカデミーを作ってくれたら、日本の高校球児たちにもっともっと夢を与えてやれるな……)
「ご提案誠にありがとうございます。
全面的にご協力させて頂きたいと思います」
そしたらさ、ヤンキースだけじゃあなくって、ドジャース、レッドソックスも手を挙げたんだよ。
これも野〇くんや池谷くんやイ〇ローくんやユーキ軍団の活躍のおかげだな。
それでチャールズさんとも相談して、格安のノウハウ料でアカデミー設立を手伝ってやることになったんだ。
まあ最大の問題点は球場や練習場をどこに作るかっていうことだったんだけどな。
なにしろバブルが崩壊したとはいえ、日本の土地はまだまだバカ高いし。
そしたらさー、神保さんが日比山が使ってる練習場と宿泊施設以外、あの新木場の大球場やタワーマンション群を全て提供してくれるって言うんだわー。
さすがにタダではマズイんで利用料は貰うけど、ほとんど固定資産税と同額の超格安でな。
それどころか、練習用の球場4つに筋トレ用の巨大体育館や大食堂や診療施設まで造ってくれるっていうんだぜ。
ヒルクライムダッシュ用の走路や選手たち用の英会話教室まであったし。
おかげでヤンキース、ドジャース、レッドソックスは、格安の施設利用料とほとんど人件費だけで日本にアカデミーを設立出来たんだよ。
ギガンテス・ジャパンも新木場に移転して来たし。
それで俺の提案で4球団の練習はほとんど合同練習にしてもらったんだ。
そしたらギガンテスも含めた4球団は、毎年秋にセレクションを開催して日本の高校生や大学生をアメリカと同じく40人ずつ160人も雇ってくれたんだ。
もちろんこれもアメリカと同じで1年後や2年後に退団勧告を受ける奴も多いんだけど。
ついでに新規加入の3球団は『ユーキ・メソッド』のコーチングも受けさせてくれって言って来たんだよ。
だからまあ団体割引でコーチングフィーは安くしてやったんだけど。
それでワイルドキャッツからコーチを4人とドミニカアカデミーのコーチのうち英語が堪能な奴を4人、日本に派遣したんだ。
なんかルイスはドミニカのアカデミーで、『メジャーリーガー養成コース』だけじゃあなくって『ユーキ・メソッドコーチ養成コース』まで作っちまったようだな。
ヘタに日本人コーチとか雇うとすぐに根性練とか始めちまうから、最初は少なくともメソッドコーチング経験2年以上のアメリカ人とドミニカ人にコーチをやらせたんだ。
それで晴れて入団出来た優秀な高校生や大学生たちは、アカデミーの練習に参加して全員ぶったまげたんだ。
なんせ根性練習なんか全く無いし、水分や塩分摂取は自由だし、投手も含めてランニングは1日3キロまでに制限されてるし、個別守備練習ノックは1日30本までだし、投手はウオームアップも含めて120球以上投げるのを禁止されてるし。
しかも筋肉痛の奴は強制的に練習を休ませられて、診療所に行かされたあとにスポーツマッサージまで受けさせて貰えるし、宿舎の食事はとんでもない量だけどメチャ旨だからな。
筋トレとヒルクライムダッシュはあったけどそれでも両方で1時間半ぐらいしかかからないし。
でさ、日比山で俺がトレーニングコーチになった時みたいに、みんなすぐに気づくんだ。
そういう最高の体調で野球の練習だけやってると、自分の野球能力がみるみる上昇して行くことにな。
日比山と全体大付属と東大の野球部出身者たちは、学生時代の練習方法と全く同じなんでやっぱりぶったまげてたけど……
もちろんギガンテス・ジャパンの選手たちも。
神保さん……
ひょっとして、こういう展開になるのを知っててあんなに広い土地買ってデカい施設を作ってたのか……
それからしばらくして各球団のジャパンアカデミーが軌道に乗ると、土日の昼とかにリーグ戦も行うようになったんだ。
まあマイナーチームのウエストコーストリーグみたいなもんだな。
こうした試合を通じて各球団のコーチが選手たちを査定していくんだけど。
そしたらさ、MHKがこの試合を衛星放送で中継させてくれって言って来たんだ。
他のテレビ局も。
何故かこのMLBジャパンリーグの総合プロデューサーが俺の名前になってたからかもしれないけど……
まあ、MHKも民放も、12時1時の昼休み番組を除いて昼の時間帯の視聴率って微々たるもんだったからな。
番組作るのも大変だったから、昔のドラマや時代劇の再放送とかばっかり流してたし。
でも野球中継だったらそれほど予算も要らないからな。
しかも選手はみんな若い連中ばっかりで、エラそーなおっさんがのたのた動いてるプロ野球とは全く違って実に爽やかだったし。
まあ毎日高校野球中継やってるようなもんだ。
だから、渋谷エージェンシーに依頼して取りまとめ役になってもらって、公平に放映させてやったんだよ。
スタジアムに観客も入れて入場料も取って。
でも元々MLBの規約でこうしたマイナーリーグの放映権料やスタジアムの入場料ってすっごい安いんだ。
もちろんそれだけみんなにベースボールに親しんでもらうことが目的なんだけど。
だから放映権料なんかメジャーの20分の1だし、入場料も内野指定席大人800円、外野200円とかだったんだ。
さすがにバックネット裏席だけはそれなりに高かったけど。
中学生以下の子供料金は内野指定席200円、外野席無料とかな。
もちろんスタンドには酒や鳴り物持ち込み禁止で警備員も大勢いるし。
女性&家族連れ専用席もあるしな。
そしたら、これがとんでもない人気になっちまったんだ。
東京への修学旅行生なんかみんなこの試合を観たがるし。
特に中学や高校の先輩たちが惜しくも県大会ベスト4とかで負けて、甲子園に応援に行けなかった学校の生徒なんかは、どうしても先輩たちの応援に行きたいって言うそうだ。
なにしろそうした選手が初年度だけで160人、2年目からも250人近くもいるんだからな。
スタジアムに来たいって希望する学校の数は相当なもんになっていったんだ。
それに今や日本中でMLBは大人気だし、テレビでも全国放送されてるし、なにより自分たちとさほど歳も違わない若い連中がアメリカのメジャーリーガー目指して懸命に努力しているしな。
生徒たちはそういう風に先輩たちが努力してる姿を見て、けっこう感動するそうだ。
だから教育的にも非常によろしいんだとさ。
それで外野に修学旅行生専用席とかも作ってやったんだよ。
ま、まあ東京の盛り場なんかを歩かせるよりは、生徒たちを球場に詰め込んでおいた方が引率の教師もよっぽど安心だろうしな。
球場周辺にも高層ホテルとかばんばん建ち始めたんで東京都も大喜びしてたし。
おかげでスポンサーが大量に押し寄せて来たんだよ。
特に若い人向けの商品を扱う企業とかが。
おかげであっという間に4球団は大幅黒字になったしな……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうそう、MLBオーナー会議翌日の選手会とオーナー会の労使交渉も終始和やかだったよ。
選手会連合の会長である俺とオーナー会会長のミスター・スタインブレナーが協定書にサインして握手して……
だけどさ、最後にセレモニーをやらされたんだ。
俺の今後4年間の年棒増加を、20%ずつ上がる契約から15%ずつ上がる契約書に書き直すやつだ。
それで俺が新契約書にサインしたら、その場の選手会長さんたちとオーナーさんたちから盛大な拍手を貰っちまったわ……
労使交渉が終わって自宅に帰った俺を、渋谷物産の会長さんと社長さんが待ち構えていた。
「神田くん、またもやありがとう」
「?」
「君のアドバイスに従って、西ドイツが緊急利上げした後に手持ちの取引先企業株や銀行株にヘッジ売りをかけさせたのだ」
「残念ながら日本にはまだ株式先物市場が存在していないが、連動率を計算してNYダウ先物でヘッジ売りをしておいた。
昨日全て買い戻したが、おかげで800億円も助かったのだ」
「いえまあ、ヘッジ売りですから。
その分現物株の評価損もあったでしょうに」
「だが損失を回避出来たのは事実だ。
それに君の友人の言う通りに数年で株価が回復するとすれば、それは純利益になる」
「はは、涼子などは手持ち株のヘッジ以外にも、余分に株先を1500万ドル分ショートして300万ドルも儲けていたよ」
な、なんだと!
あ、あいつ、また俺の年俸以上に儲けたのかよぉぉぉ―――っ!
とほほほほほ……
「あら神田くん、帰ってたのね。
また儲けさせてくれてどうもありがとう♪
ほら、信一郎くんもゆーきおじちゃんにお礼をいいまちょうねー♪
「ばぶー♡」
とほほほほほほほほほほほ……
「そうそう、それでこのおカネを使って、今度サクラメントに家を買うことにしたの。
今まで住まわせてくれて本当にありがとう」
「お、おおそうか。
でもたまには遊びに来てくれな。めーちゃんや子供たちも喜ぶから」
「ええ、ぜひそうさせてね♪」




