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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
132/157

*** 132 MLB選手会長連合会総会 *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 


 NYから帰宅した俺は、まだ午前中だったこともあって一旦自宅に帰った。

 そしたらさー、リビングで神保さんが四つん這いになって、背中に子供たちを乗せてるんだよー。

 でもって、「ひひーん」とか「パカラッ、パカラッ」とか言いながらお馬さんごっこやってるんだ。

 子供たちはもう念話できゃーきゃー言いながら大喜びしてたけど。


 ま、まあ戸籍上は神保さんはこの子たちのおじいちゃんだからな。

 だからわからなくも無いんだけどさ。


 でも……

 窓から神牛が悲しげな顔して覗いとるぞ。

 それはボクのお仕事なのに、とか言いたげに……


 そしたらそれに気づいた子供たちが、

(今度はうししゃんにのせてもらおう!)

(うん!)

 とかって言って、庭に飛んで行ったんだよ。


 しばらくは神牛の嬉しそうな鳴き声がずっと聞こえてたわ。

 うん、思い遣りのあるいい子に育ってるな……



「こ、こほん……

 お見苦しいところをお見せしてしまいました」


「いえいえ、子供たちの遊び相手になって下さって、どうもありがとうございます」


「それで勇者さま、少々ご報告とご許可を賜りたいことがございまして……」


「なんでしょうか?」


「実はあのサクラメント・プロテクターの防具の全国販売が広がるにつれ、偽物が出回り始めようとしております」


「やっぱり出ましたか……」


「それがもう酷い粗悪品でございまして、あれならば例え正規品の2割の価格で売ったとしても十分な利益が出るでしょうな」


「もう街に出回ってるんですか?」


「いえ、まだ在庫を溜めている段階です。

 ある程度溜まったところで一気に売り抜けるつもりなのでしょう」


「それで、製造者はわかっているんでしょうか」


「はい、すべて〇国の業者でございまして、工場も全て〇国内にありました」


「そうですか……

 まあ、あの国では『知的財産権』などという言葉は完全に無視されていますからねぇ」


「それでご提案なのですが、女神さまのご了承を頂くとともに『神界懲罰部隊』の出動をご許可頂けませんでしょうか」


「な、なんか物騒な名前ですけど大丈夫なんですか?」


「ええ、トップはわたくしの同僚の大天使で、地球名は神竜という者なのですが、まあ荒事専門の特殊部隊と言っていい天使軍団を率いています」


「こ、怖そうな人たちですね。

 あの、それでその方たちに、『非殺傷』の懲罰ってお願い出来るんでしょうか……」


「すべては勇者さまのご指示の通りに……」


「それではその方向でよろしくお願いいたします」


「畏まりました……」



 そしたらさー、その神竜さんっていう大天使さんが率いる懲罰部隊が、みんな〇国に転移して行ったんだわー。

 それも無茶苦茶張り切って。


 それで、『サーチ』で工場探し当てて、製品と工場設備すべてに『腐敗』の呪いをかけちまったんだよ。

 つまり、その偽物防具、ほとんど粗悪なプラスチックで作られてるんだけど、信じがたいことに出来て12時間で腐り始めるんだわー。

 それも猛烈な悪臭を辺りに振りまきながら……


 そんな『呪い』をかけられちまった工場が〇国全土で12か所もあったんだと。

 それで犯人たちは驚いて、原材料のプラスチックを変えてみたりしたんだけど、既に工場にも機械設備にも『呪い』がかかっちまってるもんだからもうどうしようも無かったそうだわ。

 うっかり防具を貨物船に積み込んだりすると、船内の貨物全てに匂いが移って、貨物全滅するそうだし。


 それでとうとう奴らはアメリカ国内の人里離れた場所にも偽物工場を作り始めたんだ。

 どうも〇国特有の細菌やらなんやらのせいだと思ったらしいんだけど、ここからはもっと酷い悪臭が爆散していったんだと。

 それですぐに警察に通報されて、偽造組織は全員がタイホされちゃったそうだわ。



「勇者さま、神竜より、防具だけではなくキャラクターグッズやブランド品、更にはアメリカ映画などの違法コピーも取り締まりたいとの要望が上がって来ておりますが、如何いたしましょうか……」


「え、ええ、同様に『非殺傷』であればよろしくお願いしますとお伝えください……」



 まあ、あの映画のビデオテープの違法コピーなんか、映画館で前に座ってる客の後ろ頭とか映ってるそうだからなー。


 それでさ、そうした偽物を作ってる工場が、〇国全土で超悪臭を放ち始めたんだ。


 おかげ深刻な社会問題になるとともに、〇国内では黒社会の幹部や党の要人を中心に破産者が相次いだらしいわ。


 まあこれを機会に少しは知的財産権のことを考えて貰いたいもんだ。

 あの制度は第3世界への恩恵が少ないどころかマイナスだっていう批判もあるけど、ここまで科学を発展させて来た立役者でもあるからな……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 有難いことに、1987年シーズンも俺はオールスターファン投票で1位に選ばれたよ。

 それでまあ頑張って投げたんだけど、さすがに今年は9者連続三振とはいかなかったわ。

 それでもノーヒットには抑えられたけど。

 なんかセンターフライ打ったヤツがヒーロー扱いされてたぞ。

 ベンチのみんなとハイタッチしてたし……


 さて、それじゃあ明日はいよいよグロビンくんと対決だな。




 翌日の昼、MLB選手会連合会総会が開催された。

 ホテルの会議室には全28球団の選手会長と副会長が集まっており、ギガンテスからは俺とフィリーが参加している。


 俺はまず部屋の内外を『サーチ』でチェックした。

 ふむ、爆発物は無いか。まあ当然だけど。

 だが控室には銃が5丁あるか。FBIの連中だな。

 情報提供の見返りに野郎が正体を現すまで待つ約束を守ってくれてるか。

 まあ、盗聴器で話の内容は筒抜けだろうけど。


 お、グロビンの野郎、懐にナイフ呑んでやがる……

 よし!『詳細鑑定』!


 おお! この形状、こりゃ『スペツナズナイフ』だわ!

 へー、実物を見るのは初めてだ。

 あ、これが安全装置でこれがトリガーだな。

 はは、しかもご丁寧にセラミックス製で発射機構はガス圧式か。

 金属探知機から逃れるためだな。

 それじゃあ念のため自分に『身体強化』かけておくか。

 あと声帯以外に『クイック』もだな……




「各球団の選手会長のみなさん、本日は選手会連合の総会にようこそ!

 それではさっそく会合を始めよう。


 まずは昨年の冬にオーナー会が一方的に通告して来た新労使協定についてだ。

 これはなんと球団ごとの年俸総額を5年間も凍結するという暴挙である!

 しかも経営者側の収益から得られる配当金については上限が無いという不公平なものだ。

 我々はこのような一方的暴挙を断じて許すべきではない!


 そこで選手会連合事務局からの提案がある。

 諸君らはシーズン終了後の契約交渉で、是非サインをしないでいて欲しい。

 そうしてメジャーリーガーの全員が来季契約を保留して経営者側が混乱している隙に、我々連合事務局が要求をぶつけよう。


 その要求とは、逆に資本家、い、いや経営者の得る配当を5年間ゼロに凍結し、併せて選手の年俸上限を完全撤廃することである!

 もしこの要求を認めないならば、我々は一致団結して来季の全試合に於いてストライキを行おう!」


 選手会長の一人が手を挙げた。


「書記長さんよ。

 そんなことしたら、来期俺たちは年俸を受け取れないだろ?」


 グロビンは嫌らしくにったりと笑った。


「安心してくれたまえ。

 連合には諸君の労働の汗の結晶である組合費が十分に蓄えられており、来年1月から半年分の諸君の年俸を支給するだけの資金が用意されている」


「だけんどそれ以降はどうするんだ?」


「それも安心してくれたまえ。

 我々の固い団結によって実際にストに突入すれば経営者たちはすぐに腰砕けになるだろう。

 しかもそのときには、人民、い、いやアメリカ国民の支持も十分に得られていると思われる。

 なにしろ国民の95%は労働者であって、資本家は5%に過ぎないのだから。


 しかも間違いなく他の多くのユニオンも呼応してストライキに突入してくれるものと確信している。

 その後はゼネストに至って、我々労働者が全面勝利する可能性も非常に高い。

 現にいくつかのユニオンとは協調体制の確約も貰っている。


 しかもだ。

 我々の正義に賛同してくれるスポンサーまで確保してある。

 もしも6月までに経営者側が敗北しなかった場合でも、そのスポンサーが諸君の年俸を補填してくれる約束になっているのだ」


「な、なるほど……」


「さらに経営者側を完全敗北に追い込めれば、配当金を得られなくなった経営者はすぐに球団を売却しようとするだろう。

 そのときには我々選手会連合が、全ての球団株式を圧倒的低価格で買い取ってやろうではないか!

 そのための資金提供先も既に用意してあるんだ。


 そうすれば、我々労働者による労働者のための球団が作れるのだよ。

 つまり我々の労働の成果は、すべて我々の物になるのだ!」


「すげぇ話だな……」


「そうだ、素晴らしい話だろう。

 それでは選手会連合の総意として、この活動方針を議決する前に、もう少し諸君からの質問を受け付けよう。

 なんでも聞いてくれたまえ」



 あー、そろそろ俺の出番か……


「なあ書記長さん、質問じゃあないんだけどよ。

 ちょっと動議を提出させて貰えるかな……」


「おおミラクルボーイ。

 どんな動議かな。

 書記長補佐にでも立候補したいのかい? ははは」


「いや、あんたの連合会書記長の解任動議なんだ」


「なっ!」


「あんたさ、アメリカ共産党の党員なんだろ。

 ついでにソビエト共産党の秘密党員でもあって、ソビエト内での役職はKGBの海外工作員なんだよな」


「い、いきなり何を言い出すんだね。

 そ、そんなことがあるわけ無いじゃないか……」


「アメリカ共産党の党員ナンバーは0385321、ソビエト共産党の党員ナンバーは確かUS325425だったか……」


「…………」


「秘密工作員としてのコードネームは『書記長』だったな」


「な、なんだと……」

「こ、こいつ、『アカ』だったんか……」

「道理でストライキやりたがるはずだ……」


「い、言いがかりは止めたまえっ!」


「それにあんたの経歴には、大学時代に野球部生活を一時中断してイギリスのオックスフォードに2年間の留学をしたって書いてあるよな。

 だけど実際には留学したのはロシア共和国のレーニン大学だったんだろ。

 そこで組合組織論とアジテーションを学んでご優秀な成績を修められたそうだな。

 ついでにステロイド漬けになってパワー上げて、その後はアメリカに戻ってメジャーリーガーとしてMLBに潜入出来たわけだ」


「で、でっち上げはいい加減にしたまえっ!

 な、何を証拠にそのようなことを言い出したのだっ!」


「証拠か……

 それじゃあこの映像を見て貰おうか」



 スクリーンに映し出されたのは、マントと学生帽を被り、手には卒業証書らしきものを持った笑顔のグロビンの姿だった。

 その後ろには、レーニンの銅像とソビエト連邦の旗も見えている。



 映像が室内に切り替わった。

 奥側の壁にはアメリカ共産党旗とやはりソビエト社会主義共和国連邦の旗も見える。


同志タワリシチアメリカ共産党書記長ミヒャエル・ブルネンコ!

 ソビエト共産党党員ナンバーUS325425、ティモシー・グロビン、ご命令により出頭致しましたっ!」


同志タワリシチグロビン、いやコードネーム『書記長』。

 そんなに固くならずにその椅子に座ってくれたまえ」


「はっ!」


「さっそくだが、ソビエトのKGB本部から極秘指令書が届いた。

 君が努力の末にMLB選手会連合の書記長の地位に到達したことを祝福すると共に、MLB選手会連合による全面ストライキを実行せよとの指令だ。

 計画通りに1年に及ぶ長期ストライキに成功すれば、君にはアメリカ共産党西海岸支部長補佐の地位が約束されている。


 また、他のユニオンに潜入させている工作員が全面ストライキに合流すれば、この国で共産主義革命を誘発することも不可能ではない。

 なにしろこの国は5%の資本家が95%の人民を奴隷にして搾取している歪な国だからな。


 そうなれば、君は最初の大型ストライキを勃発させた功績でソビエト共産党の幹部に抜擢されるだろう。

 場合によっては将来16番目のソビエト連邦構成国になるアメリカ共和国の党書記長になることも夢ではない。

 共産主義革命の大義のために奮励努力してくれたまえ」


「ははっ! 共産主義革命の大義のためにっ!」



 俺はVTRのスイッチを切った。


「さてと書記長さんとやら。

 これでもシラを切ろうってのかい?」


「ぐぅぅぅぅぅぅ……

 な、なぜこんな映像が存在するんだ……」



「この野郎、俺たちをアカの手先にするつもりだったんかい……」

「なぁにが労働者の権利だよ。自分の出世しか考えてなかったくせに」

「あー、あやうく騙されるところだったわ」

「ユーキのおかげで助かったわ」


「ということで、俺は選手会連合の書記長さんとやらの解任動議を提出する。

 この動議の採決に賛成してくれる奴ぁ、済まねえが手を挙げてくれねぇか?」


 即座に24本の手が上がった。

 副書記長2人はどうしていいかわからずにおろおろしている。

 まあこいつらも被害者なんだろうけどな。



「それじゃあもう一度、この野郎の解任に賛成する奴は手を挙げてくんない」


 また即座に24本の手が上がった。


「さて元書記長さんよ。

 そろそろズラかった方がいいんじゃねぇか?

 KGBは任務に失敗した奴にゃあ容赦しねえっていうからな。

 でも安心しろや、そのドアの向こうには優しいFBIのお兄さんたちが5人も控えているんだ。

 きっとアンタをKGBから守ってくれるぜ」


「こ、この野郎……

 て、手前ぇだけは許せねぇ…… ぶっ殺してやる!」


 お、こいつやっぱりナイフ取り出したか……


 はは、それにしてもヒト族の殺気なんて可愛いもんだな。

 いくらイキがっても、所詮はゴブリンソルジャー程度か……

 良くてオークぐらいだわ。



「そんなオモチャでどうするつもりなんだぁ?」



 そのとき部屋のドアが大きく開かれた。


「そこまでだ!

 ティモシー・グロビン、非合法活動並びに殺人未遂の容疑で逮捕する!

 ナイフを床に捨てて手を頭の後ろで組めっ!」



 あー、グロビンくん、醜く顔歪めて笑っちゃってまぁ……


「死ねやぁっ! この野郎っ!」


 野郎がスペツナズナイフのトリガーを引いた。


 バシュッ!


 はは、さすがに火薬式じゃなく空気圧式だけあって、飛び出した刃のスピードが遅っそいわ。

 時速80キロってぇところか。

 お、でも、狙いだけは正確だな。

 真っすぐ俺の心臓目掛けて飛んで来てるじゃねぇか。

 戦闘訓練も相当受けてたんだな。


 だが……

『クイック』をかけた俺にはガキの投げたボールほどにも感じられんわ。



 俺は飛んできた刃を右手の親指と人差し指でつまんでやった。


 まあ『身体強化』までかけてるからなぁ。

 今だったらアンチマテリアルライフルの弾丸でもつまんでやるぜ♪

 ついでにマッハ3で投げ返してやれるけどな。



 あー、まさかナイフの刃が飛ぶとは思わんかったんだろうな。

 全員が硬直しとるわー。


 はは、グロビンの野郎もだ。





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