表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
130/157

*** 130 根回し *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 


 メジャーのレギュラーシーズン試合数は162試合もあるため、9連戦とか18連戦も当たり前のように行われる。

 雨天中止なんかの場合でも、翌日すぐにダブルヘッダーになるしな。


 だから、連続試合出場記録とか狙ってる選手は別にして、野手には普通月に1~2回休養日っていうものが与えられるんだよ。

 まあローテーションで投げてるピッチャーにはそういうのは無いんだけど、特に疲れが溜まったと思えば、申し出て休みも貰えるんだ。


 それでフィールドプレーヤーとかが休養日になると、ベンチ入りのアクティブロースターメンバーや3Aからエクスパンドロースター組が呼ばれて試合に出るわけだ。


 それで或る日、あのドミニカの軍団レギオンメンバーがやらかしちまったんだ。


 2アウト1塁で相手の打者がライト線に痛烈な当たりを打ったんだけどな。

 まあ、常識から考えてランナーは3塁を狙うわけよ。

 ライト正面への当たりじゃなくって、ライト線への当たりだったから。


 そしたらさー、軍団レギオンメンバーが、渾身のレーザービームでランナーを3塁でアウトにしちまったんだわ。

 もう客も総立ちで大拍手大歓声よ。

 相手のランナーは首傾げてたけど。


 また別の日には、センターの軍団レギオンメンバーが、ランナーセカンドの時の右中間への打球を本塁送球してアウトにしちまったんだ。

 おかげで客はまた大喜びだ。


 それによく見れば、レーザービームを投げた若い外野手はみんな300番台の背番号着けてるだろ。


 だもんだから、『新ユーキ軍団レギオン誕生!』とか『ユーキ・レーザービーム軍団レギオン登場!』とか言って随分と騒がれてたわ。

 おかげで休んでたレギュラーの外野手もかなりビビってたらしいな。

 でもまあ実力勝負のメジャーなんだからしょうがないよ。


 もっとも、外野手全員からオフのドミニカキャンプへの参加を頼まれちまったけど。




 おかげで多数の球団から金銭トレードの申し込みが殺到したんだわ。


 それでGMのブレットに相談された俺が付けた条件は、


 ・本人に移籍の意志があること。

 ・最低でもエクスパンドロースター契約であること。

 ・エクスパンドでもアクティブでも、最低年俸は15万ドルとすること。

 ・本人が希望すれば300番台の背番号を与えること。

 ・トレードの代償の金銭については応相談。(ブレットに丸投げ)


 だったんだ。


 それでもう5月中には、ワイルドキャッツにいた3人の軍団レギオンメンバーが他チームに移籍して行ったんだよ。


 みんな随分と喜んでたわ。

 全員が俺の手を握って泣いてたしな……


 ルイスも大喜びだったよ。

 なんせアカデミー創設2年にして十分結果を残したんだから。

 おかげでブレットに頼まれて、オフにはプエルトリコのアカデミーでもコーチングすることになっちまったけどさ。


 うーん、また軍団レギオンメンバーが激増しそうだな……




 まあ移籍して行った奴らも頑張ってたようだ。


 打撃はまだまだだったんだけど、普通の守備位置に飛んできたボールだったら、タッチアップされても本塁アウトの確率は50%以上もあったし。

 なにより『魅せる守備プレー』って客が喜ぶのな。

 なんかランナーがいて軍団レギオンメンバーの守備位置に打球が飛ぶと、それだけでもう大歓声が沸き起こるようになったんだと。

 ライト線へのヒットで1塁ランナーがサードを狙わないと、ブーイングが起きるそうだし。


 まあ打撃に関してはまだまだだから、オフのキャンプでみっちり鍛えてやるか……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 依頼から1か月もしないうちに神保さんの超詳細な報告書が届けられた。

 それも写真やら映像やら音声付きの。

 どうやらまた大勢で過去に飛んでって、『隠蔽』で姿消して『録画』して来てくれたらしい。

 大変だったろうにな。



 それで俺も熟読させてもらったんだけどさ。

 こいつぁけっこうヤバいことになってるなぁ……

 仕方ねぇ、俺も少しばかり準備しておくとするか……



 いやまあ、まだシーズンも始まったばかりだもんで、俺も作ろうと思えばけっこう時間が作れるんだ。


 だって、例えばホーム9連戦とかあったとして、俺が投げるのってせいぜい3試合だろ。

 登板翌日は軽く体ほぐすだけだし、試合がナイトゲームだったりすればベンチ入りまでけっこう時間もあるしな。

 それにロードに出てるときだったら、移動の専用機の中でみんなと話をする時間もあるし。



 それでまずは、離陸前の飛行機でジョーに相談してみたんだよ。


「疲れてるところ済まねぇんだけど、選手会の件でけっこうヤベぇことがわかってな。

 それで是非ジョーにも見て貰いてぇ報告書があるんだわ。

 書記長とかいうティム・グロビンに関する報告書なんだけど」


「お前ぇの選手会活動に協力すると言ったのは俺だ。

 それに明日は久しぶりにホームに帰ぇってオフだからな。

 まあ、ちょっとその報告書とやらを見せてみ」


「梗概は1ページに纏めてあるんだけど、中身は100ページもあるんだ。

 済まねぇな……」



 それでフライト中にジョーの様子を見てたんだけどさ。

 なんか鬼の形相でずっと報告書を読んでるんだわ。

 あれ間違いなく2回は読み返してるな。

 なんかペン持って書き込みもしてるし……



 ようやくジョーが報告書をチェックし終わったようだ。


「それでお前ぇ、どうするつもりなんだ……」


「オールスターの後に現地で選手会会長が集まって総会があるんだろ。

 そんときにちょっと暴れてみようかと思ってよ」


「そうか……

 だが少しは援軍もいた方がいいだろうな……」


「だからジョーに頼みがあるんだけど、他のチームの選手会長で信頼出来る奴っているかな」


「任せとけ。

 俺もメジャーで20年以上メシ喰って来たから、それなりにダチも多いんだ。

 まずはそうだな……

 ヤンキースの選手会長でアレックス・モーガンってぇ野郎がいるんだが、奴なら信用出来る。

 それに奴ぁ去年ミスター・カミヤマに膝を治して貰ってるから、お前ぇには恩義を感じてるだろう」


「そしたらさ、メッツ戦でNYに行ったときに、そいつもホームにいたら会わせて貰えないかな」


「おう分かった。もちろん俺も同行する。

 それ以外にも主だったメンツに声かけとくわ。

 全員20年選手だし、けっこう強面も利くしな……」


「助かるぜ」


「いいや、これは俺たちメジャーリーガー全体の問題だ」


「それからさ、大元になってる選手会とオーナーの対立についてなんだけど、俺の和解案をまとめてみたんだ。

 緊急性は無いからこいつもヒマなときに読んどいてくれないかな」


「わかった……」




 さてと、次はウチのオーナー会とブレットだな。

 ホームに帰ったらアポ取ってミーティングの場を設定させて貰うか……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「今日はお忙しいところ、お時間を頂戴して済みません」


「何を言うかね。

 他ならぬ君のことだ。

 どんな話が聞けるかわくわくしながら来たよ」


「はは、それほど楽しい話ではないかもしれませんが。

 まず最初の話題はMLB選手会とオーナー会の対立についてなんです」


「あれには我々も憂慮している。

 選手会の言う『年俸総額上限撤廃』も、コミッショナー代行の言う『年俸総額5年間凍結』も非現実的だ。

 しかも、双方が対立したままだと選手会が来シーズンに全面ストライキをすると言ってるじゃないか。

 それはファンに対する裏切り行為であって、到底許されるものではない」


「しかも、そうした対立の間に入って仲介することが役目のはずのコミッショナーは、高齢のためもあってなにもしていない。

 その上、本来中立の立場であるべきコミッショナーの代行に、ミルウォーキーのオーナーが就任してしまった。

 そのコミッショナー代行が『5年間凍結』の急先鋒なのだからどうしようもないのだよ」


「オーナーの中には反対意見も多いのだが……」


「そのお言葉を聞いて安心しました。

 わたしもストライキは到底容認出来ません。

 ですが、どうやら選手会の主張を取り下げさせる準備は出来そうなんです」


「本当かね! それは朗報だ!」


「だが、それではオーナー会の『年俸総額5年間凍結案』が通ってしまうぞ。

 それではいくらなんでも選手諸君が気の毒だ」


「ええ、それでバディ・セルグ代行にもその主張を引っ込めて貰おうと思いまして……

 ここに彼に関する報告書がありますので、恐縮ですが今お読みいただけませんでしょうか」




「こ、こここ、これは……」


「これは本当のことなのかね!」


「ええ、天に誓って真実です」

(なんせ報告書を書いたのは天の使いだしなぁ……)


「もしそうなら、これはコミッショナー代行が主張を取り下げるどころの話ではないぞ!」


「そうだ、代行辞任は間違いないだろう!」


「ですから今証拠固めに入っていますが、幸いなことに順調です。

 最終的には連邦捜査局(FBI)中央情報局(CIA)にも伝えねばなりませんし」


「君はその天才的な頭脳に加えて、ここまで優秀なスタッフに伝手があったのか……」


「はは、その伝手についてはあまり追及しないで頂けるとありがたいんですが」


「了解した……」


「ところで、君の力で選手会連合の主張を抑え、併せてオーナー会もコミッショナー代行を更迭することに成功したとしてだな。

 その後の労使交渉はどうなるのだろうか……」


「それにつきましては、今両者の和解案と言いますか妥協案を用意しているところです。

 首尾よく選手会とコミッショナー代行を排除してからお見せしますので、そのときご検討ください」


「そうは言っても君のことだ。

 既に叩き台ぐらいは用意しているのだろう。

 もしよければ、今少し見せて貰えないものだろうか……」


「はは、それではこちらが和解案の梗概になります。

 ご覧頂けますでしょうか」




「こ、これはすごい……」


「うむ、これなら選手会もオーナー会も納得する可能性が高いな……」


「現に私は既に納得しているからな」


「20年後には君はGMの椅子に座っているだろうと言ったが、GMではなくコミッショナーの椅子かもしらんな……」



「はは、お褒めに預かり恐縮です。

 それではその案を中心に和解を進めさせて頂きたいと思うのですが、その前にまずは選手会とオーナー会のトップを排除しなければなりません。

 その際にお願いが2つあります」


「是非聞かせてくれ」


「1つ目は、オールスター戦の後に現地で開催されるオーナー会議にわたしも参加させて頂けませんでしょうか。

 その場でコミッショナー代行に辞任してもらうための準備を進めておきますので」


「それは当然だな。君は既にギガンテスのオーナーの1人なのだから」


「ありがとうございます。

 もうひとつは、辞任を確実にするために他球団のオーナーの方と何人か事前に会わせて頂けませんでしょうか」


「はは、日本人が得意とする『NEMAWASHI』という奴だな。

 了解した。

 ヤンキースのマイケル・スタインブレナーとはハーバードで同じ経営学研究室にいた仲だ。

 まずは彼に紹介することとしよう。

 NYに行ってメッツ戦を終えた後で構わないかね」


「ありがとうございます。もちろん構いません。

 それから、これは私見なのですが、我々はオーナーと選手という対立関係にあるのではなく、MLBという組織の中の同じ構成員だと思うのです。


 なぜならMLBとは、合衆国政府から独占禁止法の適用免除を認められた特別団体であり、球場などの設備に於いても州政府や地元自治体の多大なる援助を受けているからです。

 従いまして、我々はMLB全体、いや野球界全体の繁栄策も考えねばならないと考えました。

 そこでこれも3つほど私案をまとめているところですので、オールスター戦後にご覧いただけませんでしょうか」


「もちろんだよ。

 だがやはり君のことだ。

 もう既に計画書は用意してあるんだろう?」


「はは、敵いませんね。

 それではこちらの計画書をご覧ください」



「これは……」

「これも凄いな……」

「だ、だが特にこの3番目のアイデアについては、莫大な運営費がかかるだろう。

 そのカネをどうするつもりかね?」


「実はその第3案については、有力なスポンサーを1社確保しました。

 初年度は2億ドル、その後5年間でも合計2億ドルを提供して下さるそうです」


「なんと……」

「それは広告と引き換えにということかな?」


「いえ、実はその会社は日本の会社なのですが、海外とのビジネスで儲けた分の半分は現地に還元するといった方針を持った会社でして、そのカネはそうした還元の分ですので対価は不要です」


「ふう、君の才能は人脈の分野にまで広がっていたんだねぇ……」


「まあ、たまたま運に恵まれただけですが。

 ですが、こうした基金が既にあれば、新たな広告主との交渉もしやすくなるでしょう。

 そうですね、広告と引き換えに数千万ドル程度の出資を募るのは容易なのではないでしょうか」


「その通りだ。

 4億ドルもの資金が確保出来ていれば、さらなる追加出資を募るのは簡単だろう」


「現に私はもう私の経営する会社から出資するつもりになっているぞ」


「わたしもだ」


「ありがとうございます。

 そこで、皆さん以外にも出資先を探したいのですが、球団への広告スポンサーやここサンフランシスコ近辺の有力企業への要請をする際に、皆さんのお力をお借りさせて頂けませんでしょうか」


「もちろんだとも」


「それにこれは最高の地元貢献になりそうだしな」


「うむ、サンフランシスコ市長もサクラメント市長も大喜びするだろう。

 もちろん市民もだ」


「重ねてありがとうございます……」


「それではどうだろう、スタッフを集めて『ユーキアイデア実行検討委員会』を作ってみては」


「大賛成だ」


「実現する日が楽しみだな」


「最終的には合衆国政府の協力も必要になると思うのですが……」


「はは、場所も予算も準備してやれば、陳情はたやすいだろう。

 最終的にはMLBオーナー会がホワイトハウスに行って陳情するか……」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ