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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
122/157

*** 122 神山施療室 *** 


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 


 それにしてもさ、家族のたくさんいる生活っていいもんだよな。

 俺が家に帰ると、渋谷たちがいないときには、子供たちが羽出してぱたぱた飛んで来て抱き着いてくれるんだよ。

((ぱぱぁ♡))とか念話で言いながら。


 もし他にひとがいても、念話でお話出来るし。


 どうやら日中は、めーちゃんや天使さんたちに抱かれて森の中を散歩しているそうだ。

 それで俺もオフの日に一緒に散歩したんだけどさ。

 もーリスやら小鳥やらがぞろぞろついてきてタイヘンよ。

 ガイアくんが「だー!」とか言って手を挙げると、小鳥たちが先を争って止まりに来るし。

 こないだなんかイーグルが飛んで来て慌てたわ。

 少し座って休んだ後、エンジェリーナちゃんを抱き上げようとしたら、背中に子リスが5匹もへばりついててビビったし……




 ところで渋谷涼子よ。


 いくら信一郎くんがお腹すいて泣き出したとしてもさ。

 俺の前でいきなりおっぱいポロリして授乳始めんなよな!


 おかげで信一郎くんが泣き出すたびに、俺がびくってするようになっちまったじゃねぇか!



 それで渋谷に文句言ったんだ。


「あら、減るもんじゃないし、別にいいんじゃない?」


 俺のSAN値がどんどこ減って行くんだよっ!




 

 そういえば、ウチの子たちは滅多に泣かないんだけどな。

 お腹空いてもおむつが汚れても、すぐにめーちゃんや育児補助の天使さんたちに念話で伝えられるから。

 

 でもたまに『ぶぎゅ』とか『ぷぎゅ』とか言った後に泣き出すんだわ。

 それであるとき俺気づいちゃったんだけど、そういうヘンな泣き方するときって必ず信一郎くんや渋谷が部屋にいるときなんだ。

 それでめーちゃんに聞いてみたんだよ。


「大丈夫ですよあなたさま。

 あれは渋谷さんたちがいらっしゃるときに飛ぼうとすると、自動的に重力が1.5倍になる魔法をかけてあるだけですから。

 もちろん『身体強化』も同時発動されていますので怪我もしませんし」


 そうか…… 女神さまの躾は厳しいのう……

 

 

 因みに、子供たちのおむつが汚れたときにはもちろん『クリーン』の魔法で綺麗にしてやるんだけどな。

 それでもたまにはあせもが出来てないかとか排泄物の様子とかをチェックがてら、おむつも交換してやるわけだ。

 エンジェリーナちゃんはそういうときでも特に気にした様子は無いんだけど、ガイアくんは女性天使さんにおむつ外されて見られるのはどうやら恥ずかしいらしいんだ。

 特にちんちん摘ままれて裏側とかチェックされるのは。


 それでさ……

 こないだ天使さんにおむつ交換されながら摘ままれてたときに、小さな念話で(……くっころ……)とか言ってたんだよ……


 誰だよヘンな言葉教えたのは……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 最近では上級天使の神山さんとその部下の天使さんたちが3名、ギガンテスに同行してくれているんだ。

 そうして、ホームでの試合が終わるとクラブハウス内の施療室で、ロードの試合後はホテルの部屋で、そうして移動日には飛行機の中で俺たちのケアをしてくれているんだよ。


 特に優先されるのはその日投げたピッチャーだけど、それ以外にも筋肉に張りがある奴らとか古傷を抱えた連中にも施療をしてくれているし。


 それで、最近ではみんなが施療費を払うようになってくれたんだ。

 まあ基本料金は30分で20ドルほどだけど、治りが良かったり高給取りのベテランだとチップ込みで50ドルとか払ってるやつもいるし。


 おかげで天使さんたちも、みんなで下界食べ歩きツアーとか始めてなんか楽しそうなんだ。


 そういうケアのせいもあってか、ギガンテスのメンバーはみんな絶好調よ。

 多少筋肉やら腱やらに問題があってもすぐに治っちまうからな。



 そんな或る日、ロードゲームの後に、フィリーが帯同して来ていたブレットになんか話しかけてるんだ。

 そしたらブレットが笑いながら俺を指さしてるんだよ。



「な、なあユーキ、すまねえがちょっと頼みがあるんだ」


「なんだいフィリー」


「あのよ、今日の対戦相手のブレーブスに、俺の高校のチーム時代からのダチ公がいるんだ。

 そいつ、今足首捻挫してて故障者リストに入ってるんだけど、治りが遅くって困ってるんだよ。

 それでミスター神山に頼んで診てもらえないかと思って……」


「ブレットはいいって言ったのかい?」


「あのスタッフはユーキが連れて来た連中だから、ユーキがいいって言えば構わんとさ」


「それじゃあ神山さんに頼んでおくよ。

 それに明日の試合後はホームに戻るから、一緒にそいつもサンフランシスコに行って明日からも診てもらったらどうかな」


「おお、ありがとうよ……」


「なあに、おんなじ商売仲間だからなぁ」




 そうなんだよ。俺いつも思ってたんだ。

 俺たちの仕事って確かに強くなって勝つことなんだけど、MLB全体のことを考えたら、もっと必要なことはあるんじゃないかって思うんだ。


 たとえばさ、ある街にパン屋が3件あったとしようか。

 それでそのうちの2軒がそれぞれ営業努力した結果、1軒が赤字に苦しんで廃業したとするだろ。

 そうすりゃあ残りの2軒は大儲けだよな。

 なにしろ街の人たちのニーズを分け合えるんだから、売り上げが1.5倍近くになるだろうし。


 だけどさ、MLBは違うと思うんだ。

 例えばひとつのチームが万年最下位に苦しんで、観客動員も落ち込んで赤字経営が続いてたとして、それでもし倒産とか廃業とかになっちまってみろよ。

 それで他球団がその分儲かるかっていうとそんなことないよな。

 それどころかリーグのチーム数が奇数になっちまって、せっかくの土日に試合が出来ないチームが出て来ちまうんだぜ。


 それに今のうちはいいけど、もしこのままずっとギガンテスが首位独走なんていうことになったら、ウチの収入はともかくとして、他チームの観客動員数が激減しちゃうかもしれないし。


 だからMLB全体で考えれば、本当は優勝チームの勝率はせいぜい60%程度になった方がいいんじゃないかって思うんだ。

 その方がペナントレース全体が盛り上がるから。



 それになにより、このMLBっていう組織は、連邦政府や州や市からさまざまな特権を与えられた特別団体だからな。


 その特権の最たるもんは、まずは独占禁止法の認定免除だろう。

 今みたいに28チームでリーグを作って、新たなチームの参入を認めないっていうのは、これだけ独占禁止法の厳しい国にあっては例外中の例外だろうからなぁ。

 まあ、あと数年でMLBの総意でもう2チーム増やして、『中地区』も作ることになるはずだけど。


 それからもうひとつの特権は、各チームがホームにしている球場は、全て地元自治体の負担で建てられているっていうことなんだ。

 つまり、各球団はホームパークが老朽化してもその建て替え費用なんかを一切心配する必要が無いわけだな。

 まあ地元自治体にとっても、新球場建設は公共工事という有効需要創出で雇用対策にもなるし、なによりプロ野球チームを抱えているっていうことで、ホテルや旅行業界も潤うし、住民にも喜ばれるしな。



 ということはだ。

 このMLBっていうものは、独立経営の営利団体同士が戦うっていう側面と、MLBっていう組織全体で興行しているっていう側面の両方を持っているっていうことなんだよ。


 ま、まあ、俺も一介の選手で経営者じゃないんだから、俺の考えることじゃあないと思うんだけどさ。

 せめて、他の球団のケガによる戦力低下ぐらいは助けてやってもいいんじゃないかって思ったんだ。

 だっておんなじMLBっていう組織の一員でもあるんだから。


 そんな風に考えてもいたもんだから、ブレットに相談してみたんだよ。



「さすがだなユーキ。

 ゲームが終われば敵味方無く同じ野球選手というわけか……

 了解した。

 ホームのクラブハウスの診療所で他チームの選手も受け入れることにしよう」


 もちろん神山さんにも頭下げてお願いしたよ。

 そしたら以前の神保さんと同じようにアタマ抱えられて起こされたわ。


御頭みかしらをお下げ頂くなど滅相もございません……

 すべては勇者さまの御心みこころのままに……」


 こうして神山診療所は他チームの選手たちにも開放されたんだ。



 そしたらさー、予想外に客が集まっちまったんだよ。

 考えてみればメジャーリーガーってけっこう移籍が多いだろ。

 だから、前にいたチームで怪我してる友人とかいたりするから、口コミでどんどん客が増えていったんだ。

 まあ実際神山さんたちの腕(魔法)は確かだからな。



 そうそう、こうしたマッサージルームを開くに当たって神保さんに調べてもらったんだけどさ。

 アメリカでは州ごとにこうしたマッサージ師の認可を出してるんだよ。

 でも、カリフォルニア州ってそうした認可制度の無い州だったんだ。

 ま、まあ、カリフォルニア州だけじゃないんだろうけど。

 人口も多いし面積も広いから、とてもじゃないけど監督出来ないっていうことなんだろうけどな。


 だから、他チームのある州でこうした施療をして報酬を受け取ると違法行為になる可能性があるけど、サンフランシスコでやればなんの問題も無いわけよ。


 こうして、周辺のホテルに泊まり込みながら神山診療室の列に並ぶ奴が増えていったんだ。

 実際すぐ治ってチームに復帰出来てるから、列はそんなに長くならなかったけど。


 でも……

 なんか最近では『ミラクルボーイ診療室』とか言われ始めたそうなんだわ……

 まあ、『大災厄診療室』じゃないからいいか……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ギガンテスは勝率80%近くをキープしながらナショナルリーグ西地区の首位を独走していた。


 だから俺も少し心配してたんだ。

 他のチームの観客動員数とかが減っちまっていないかって。


 ただまあ、俺が登板するときにはビジターゲームでも超満員になってたから多少は安心してたけど。


 どうやらみんな、一度は球場に来てあの新型カーブを自分の目で見てみたいと思うらしいんだ。

 実際テレビ中継だと、主にカメラはセンター方向かホームベース裏からピッチャーとバッターを映しているだろ。

 だけどあのカーブって、普通の映像だとボールが一瞬画面からハミ出ちまうんだわ。

 カーブの軌道を全部画面に収めようとすると、今度は選手の映像が小さくなって見えにくくなっちゃうし。

 だからほとんどのテレビ局の中継では、新型カーブは一旦画面から消えちまってたんだ。

 すぐにVTRで引いた映像が映されはするんだけど。


 それでも俺が新型カーブを投げるたびにスタンドで大歓声が起きるもんだから、自分でも一度はボールパークに足を運んで実物を見たくなるそうなんだよ。



 それから、この頃ブレットやガイエルに頼んだんだ。

『もっと俺を代打で使ってくれ』ってさ。

 一応俺も去年ホームラン38本の実績があったから。


 それにユーキ軍団レギオンの連中も頑張ってて、勝ち星もホールドもセーブも着々と積み上げてたし。

 だから、万が一のことを考えて俺をリリーフとして温存しておく必要もなかったんで、早い回からでも俺を代打で使いやすくなっていたようだ。


 おかげで俺の打席機会も随分増えたし、ホームランの数もけっこうなものになっていったんだ。

 それになにより、登板が無い日でも俺が3試合に2試合ぐらいの割合で代打に出るもんだから、ビジターゲームの観客数もけっこう増えたらしいな。

 まだ多少は空席もあったけど、それでも下位同士の対戦カードよりは相当に客は入っていたそうだ。




 そんな或る日、俺は移動中の専用機の中でまたブレットに呼ばれたんだよ。


「いやユーキ、今日も実に見事なピッチングだったな」


「ありがとうございます」


「それで今日、対戦相手のGMが私を訪ねて来て、礼を言われたのだよ」


「散発3安打で完封されちゃったのにですか?」


「ははは、それは多少残念そうだったが、まずは何よりもキミが登板予定だったために、ボールパークが満員になっていたからな」


「どうやらあの新型カーブには随分と客寄せ効果があるみたいですねぇ」


「その通りだ。

 長年の野球ファンでもあんな球は見たことが無いだろうし。

 だが礼を言われたのはそれだけじゃないんだ。

 あのミスターカミヤマの診療室のおかげで、故障していたレギュラークラスがたった1週間でチームに復帰出来たそうなんだ。

 これには随分と感謝されたよ」


「それはよかったですねぇ」


「それで君に相談なんだがな。

 来月のオールスターゲームの折に全球団のGMが集まる会議があるのだが、そこでGMたちに『ミラクルボーイ診療所』のことを伝えても構わないだろうか」


「ええ、念のために神山さんにも聞いてみますが、たぶん大丈夫だと思います」


「ありがとう」


「いえいえ、なんせ同業者仲間のためですし」




 それで俺は神山さんに頼んでみたんだ。

 まあ、もちろん神山さんたちは快く了解してくれたんだけどな。


 だからまためーちゃんにも頼んで、神山さんたちを労ってもらうことにしたんだよ。

 それで神保さんが、神山さんとその配下の天使さんたちをめーちゃんの『下界公邸』に呼んで、女神さまから感謝の御言葉みことばを頂戴出来たわけだ。


 そしたらさ、そのときめーちゃんの両腕に抱かれていたガイアくんとエンジェリーナちゃんが、念話を発したんだそうだ。


(お母しゃま、このおじしゃんたち、ぱぱしゃんをおてちゅだいしてくれてるの?)


(それでお母しゃまがおれいをいってるの?)


(そうよ、この天使さんたちはあなたたちのパパのために働いてくださっているの♪)



 そしたらさー、ガイアくんとエンジェリーナちゃんが、神山さんたちが跪いてる前までぱたぱた飛んで行ったんだと。


(おじしゃんたち、ぱぱしゃんをおてちゅだいしてくれてあいがとうございましゅ)

(あいがとうございましゅ)


 それでぺこって頭下げたそうなんだ。


 おかげで神山さんたちはもーたいへんよ。

 あの厳つい神山さんが、体を震わせて目から涙噴出しながら大号泣してたそうだわ……





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