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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
12/157

*** 12 仲間が出来た♪ ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 ダニ先輩は全治1か月の重傷だそうだ。

 すぐに親が病院に駆け付けてきて、俺や学校を訴えてやるとか喚いたそうだが、池袋先輩がしどろもどろながらに状況を説明してくれたらしい。


 ダニ先輩が断固としてファウルカップをつけようとしなかったこと。

 それから過剰な練習で、野球部員50人以上にケガをさせたこと。

 そしてそのうち15人ほどが今も入院中だということを伝えたそうだな。

 そしたら、ダニ先輩の親は「急に用事を思い出した!」って逃げ帰って行ったそうだ。


 まったく、クズの親はやっぱりクズだったか……




 翌日俺は神保さんに用意して貰ったクーラーボックスを持って学校に行った。

 そうして昼休みに許可を貰って氷を買いに行き、クーラーボックスに入れて『テレキネシス』で砕き、『冷蔵魔法』で0度C以下に保っておいたんだ。


 その日は昼過ぎから雨が降り出したんで、放課後は場所を体育館の隅に移して「マッサージ」を続けることになった。


「それではマッサージを続けますが、その前にアイシングをしたいと思います」


「アイシング?」


「痛んだ筋肉を氷で冷やしてやることですね」


「そ、そんなことして却って筋肉が痛まないか?」

「筋肉痛になったら風呂でよく暖めろって……」


「それは無知から来る迷信ですね。そして完全に逆効果です」


「そ、そうなのか?」


「わたしはいつも、トレーニングの後に『アイシング』やってますよ」


「そ、そうか、金メダリストがそう言うのなら……」



 それで俺、アイシングバックを患部に置くたびに、ちょびっとずつ『キュア』をかけてやったんだよ。


「ほんとだ…… また少し痛みが引いた……」

「こ、これ、自宅でも出来るな……」


 それからは先輩たちが手分けして電話連絡してくれてたんで、退部届を出してた1年生も順に治してやることが出来たんだ。

 膝壊してた奴らも、小出しの『キュア』でどんどん治っていったし。



 そんなある日……

 田町先輩が松葉づえをついた大男を連れて来たんだ。


「なあ神田、すまんが頼みがあるんだ。

 こいつは俺のクラスの巣鴨っていうヤツなんだけど、柔道でももの裏の筋肉を痛めちゃったんだ。

 それで……」


「3年の柔道部主将の巣鴨という。

 実は先日もも裏の筋肉を酷く痛めちまってな。

 でも同じように筋肉を痛めていた田町がすぐに歩けるようになったのに驚いて、理由を聞いてみたんだよ。

 そしたら神田くんにマッサージをしてもらったからって言うんだ。

 野球部員でもないのに本当に申し訳ないんだが、来月大会があるんだ。

 俺の足もマッサージしてくれないだろうか。頼む」


(ほほー、1年生の俺相手に丁寧なひとだなぁ)


「もちろんいいっすよ♪」


 そしたらそのひと、「い、痛みが引いた……」とか言って涙目になってたよ。

 その後も、1週間かけてアイシングもして完治させてあげたけど。


「君にはなんとお礼を言ったらいいか……

 何か困ったことがあったら、遠慮なく俺に言って来てくれ。

 柔道部全員が君の力になることを約束する」



<柔道部が仲間になった>



 そしたら評判が評判を呼んで、俺の患者がどんどん増えていったんだ。


<剣道部が仲間になった>

<空手部が仲間になった>

<陸上部が仲間になった>

<男バレが仲間になった>

<サッカー部が仲間になった>

<卓球部が仲間になった>



 まあ、「おい1年、俺の脚も治せ!」とか言ったやつは、握力150キロで患部を握りしめて悶絶させたけど。

 まあ、だいたいにおいて丁寧なひとが多かったよ。

 それからは、氷の買い出しも各部の1年生が交代で行ってくれることにもなったんだ。



 そしてついに……


「ねぇ、キミが神田くん?」


「は、はい」


「アタシ、女バレのキャプテンやってる駒込っていう者なんだけど。

 それで、ホント申し訳ないんだけど、もし出来ればわたしの太ももの酷い筋肉痛も治してもらえないかな……

 来週試合なの」


「は、はいっ!」


 それで俺、アイシングとマッサージをすることになったんだけどさ。

 女子高生のナマふともも、初めて撫でちまったぜ……

 男と違って柔らかいのな……

 でも俺、通算人生経験70年以上のじじいもどきだからさ。

 さすがに50歳以上年下はなー。


「す、すごい! 痛みが引いた……

 あ、ありがとう神田くん♡」



<女バレが仲間になった>



 そしてさらに……


「ねえねえ、あれが神田くんよ」

「あれが金メダリスト神田くん……」

「こうして近くで見るとけっこう可愛いわね♡」

「それに背も高くってかっこいいわ♡」

「じゅるり」


 なんだよ最後のヤツっ!



 それで、練習の無い日の放課後にはたくさんのお姉さんや1年の同級生女子が押しかけてくるようになっちまったんだ。

 でも……

 中にはぜんぜん脚痛めてないひとも混じってるんだよ……

 それで、そういうひとに限って、ブルマー(当時)じゃなくって制服のままなんだ。

 そうして、うつぶせに寝て、スカートめくって「それじゃあお願いね♡」とか言うんだわー。


 あの…… お姉さま……

 可愛らしい花柄のおパンツがちょっとだけ見えてるんですけど……



<おパンツが仲間になった>




 数日後。


 俺がお姉さまたちに囲まれながらマッサージをしていると、神保さんから緊急連絡が入った。


(勇者さまっ! た、たいへんですっ!)


(ど、どどど、どうしました神保さん!)


(女神さまが嫉妬に泣きながら『特大雷魔法(女神級)』の準備を始めましたっ!

 標的はここ日比山高校ですっ!)


(えええええっ!)


 それで俺、ちょっと失礼って叫んでトイレに飛び込んで、神界に転移したんだ。

 そしたらやっぱり女神さまが特大魔法の準備中だったんだよ。


「めーちゃんっ!」


「…… えっ ……」


 い、いや以前女神さまに名前を聞いたら、「地球の女神」って言うんだ。

 でも婚約者呼ぶのにそのまま呼ぶのもなんだから、いろいろ考えてたんだけどさ。

 そのなかのひとつがとっさに出ちまったんだ。


「………………」


「あ、あれは違うんだっ!

 みんなを治療してあげてただけなんだっ!」


「………… もう1回 …………」


「え?」


「もう1回呼んで……」


「め、めーちゃん?」


「もう1回……」



 それで俺、30回ぐらい「めーちゃん」って呼ばされたんだけど……

 どうやら俺がつけた呼び名をめっちゃ気に入ってくれたみたいだ。

 それで、その夜にめーちゃんにもマッサージしてあげることを約束して、ようやく俺は日比山に帰れたんだよ。



 体育館に戻ったら野球部同期の新橋がにたにたしていた。


「おい神田、ずいぶん長いう〇こだったな。

 そんなにたくさん出たんか?」


 手前ぇ新橋、覚えてろよ!




 それで俺はその晩神界に行って、めーちゃんの脚をマッサージしてあげたんだ。

 めーちゃんは、白い羽衣みたいな服の裾をまくってベッドに横になったんだけどさ……


 神さまって…… 下着穿いてないんだな……

 いろいろヤバいもんが丸見えだったわー。



<いろいろヤバいもんが仲間になった♪>




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ところで、なんか野球部の1年生たちって、各クラスで他の運動部のヤツラからすっげぇ大事にされてるんだと。

 まあそうか。

 雲の上のひとである3年のキャプテンたちが、野球部1年の俺に涙目で頭下げて感謝してたからな。

 まあ、当然っちゃ当然か……

 もちろん俺も異様に大事にされるようになってたんだが。


 でも、2年生や3年生の先輩は複雑な心境だったらしい。

 クラスメートから、「お前んとこの1年生すげぇな」とか「やっぱ金メダリストともなると違うなぁ」とか言われると、嫉妬心も芽生えたようだ。

 ついでに好意を持ってた女の子から、「ねぇねぇ、今度神田くんを紹介して♡」とか言われるし。

 さらには、今まで自分たちが理不尽な命令に唯々諾々と従っていたコーチに、俺が公然と反抗しているのも堪えたらしいんだ。




 そうこうしているうちに1か月が経って、あの馬鹿が戻って来た。


 馬鹿コーチは、グラウンドに入って来て立ち竦んだ。

 そこには大量の女子高生がいて、野球部に黄色い声を上げていたからだ。


「きゃー、神田くんこっち向いてー♡」

「ああん、またマッサージしてぇ♡」

「アタシ、今度は胸が筋肉痛なのぉ♡」

「じゅるり」



 だが、馬鹿はやはり馬鹿だった。

 その黄色い声の大半が俺に向けられたものだったことには気づかなかったんだ。


(こ、これはっ! お、俺様の、じ、人生初のモテ期のチャンスっ!)


 馬鹿はすぐにトイレに駆け込んで、鏡で髪型をチェックし、意気揚々とグラウンドに戻って来た。


「やぁ、野球部の後輩諸君! 

 僕がいない間にも僕の指導通り一生懸命練習していていたようだね。

 感心感心」


「あ、ダニ先輩っ、お久しぶりっす」


「手前ぇ神田っ! ちゃんと鶯谷って呼べって言ったろうがぁっ!」



「くすくす、鶯谷先輩を略してダニ先輩ですって」


「神田くんって面白いこと言うのね♪」


「プゲラ」



「ところでセンパイ、おキンタマは無事でしたか?

 なんか10倍ぐらいに腫れてたそうで」


「きゃははは、おキンタマだって!」


「それも10倍に腫れてたんですって!」


「なんか信楽焼のタヌキの置物みたぁ~い♪」


「プゲラゲラゲラ」



「こ、コノヤロ神田っ! お、覚えてろよ――――っ!」


 あーダニ先輩涙目で走って帰っちゃったよー。

 まあいっか……



 それからダニ先輩は平日の校庭での練習には来なくなったんだ。

 でも日曜日の多摩川グラウンドの練習には来るんだよ。

 さすがの俺の追っかけも、多摩川までは来なかったから。



 そしてある日。


「おい神田、ちょっと来いっ!」


「なんすか?」


「明日俺様の大学に連れてって、知り合いに紹介してやるからありがたく思え!

 そのときは大人しくするんだぞ!」


「えー、それってセンパイが『俺はあの金メダリストの神田に野球を教えてやってるんだぜ』って自慢したんでしょー。

 そしたら、『ウソつけー』とか『だったら連れて来いよー』とかって言われたんですよねー」


「う、うるせえっ!

 余計なこと言わずに黙ってついてくればいいんだっ!」


「えー、でもセンパイが、『こいつが俺様の舎弟の神田だ』って俺を紹介した時、俺が『うるせえダニ! 気安く俺に話しかけんじゃねぇ!』って言ったらど-しますー?」


「な、ななな、なんだと! も、もも、もういっぺん言ってみろっ!」


「だから仮定の話ですってばー」


「も、もういいっ!」


 やっぱこいつ、中学生並みの思考形態だよなー。




 そうして、それからのダニ先輩の俺への扱いはますます陰険になっていったんだ……


「おい神田っ! 

 来週までにこのデコボコのグラウンドを平らに整備しておけっ!」


「うぃ~っす」


「おい神田っ! 

 来週までにこのグラウンドの草むしりやっておけっ!」


「うぃ~っす」


「おい神田っ! 

 来週までにボールを全部磨いて、合宿施設も掃除しておけっ!」


「うぃ~っす」



 まぁ、俺も思ったんだわ。

「これも高校野球なんかな」って。

 だからまあやってやったんだけどな。

 もちろん全部夜中に遠隔魔法で出来るからさ。

 1分もかからないし。


 だから1週間経つたびに、ダニ先輩の「ぬぐぐぐ」の声が大きくなって行ったんだわ。

 そういえば、1年の同期たちが手伝ってくれるって言ったんだけど、ありがとうって丁重に遠慮しておいたよ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 とうとう夏の全国高校野球大会が始まった。

 我が日比山高校は、1回戦は同じ都立の進学校に辛勝したものの、2回戦はコールド負け。

 まああんまり強くはないと思っていたけど、ここまでヘタクソだったとはな……


 この大会が終わると3年生は引退する。

 なんかみんな、引退が決まっても泣いたりしないんだな。

 なんか、ようやく辛い部活が終わったってほっとした顔だわ……



 次の日曜日。


 ダニ先輩がエラそーに宣言した。


「それでは新チームのメンバーを発表する!

 まずキャプテンだが、田町、お前やれ!」


「はい!」


「それでは次にレギュラーメンバーだが、ピッチャーは田畑、西日暮里、御徒町だ、それからキャッチャーは……」


 こうしてレギュラーの発表が続いて行ったんだけどさ、それが終わると新キャプテンの田町先輩が発言したんだ。


「あの、鶯谷コーチ」


「なんだ」


「神田もレギュラー陣に入れてやって貰えませんでしょうか。

 こいつ凄い球投げますから」


「バカ野郎っ! 

 こんなコーチの言うこと聞かねえやつ、レギュラーなんかにしてやるワケないだろう!」


「で、ですが……」


「グダグダ言ってると、お前もレギュラーから外すぞっ!」



 あー、やっぱりかよ。

 こいつにとって、俺たち野球部が強くなるとか勝つとかはどうでもいいことなんだな。

 ただただ自分の権力欲が満たされればそれでいい、っていうことか……


 こういう指導者ってけっこういるよなー。

 でもって、「次の試合は絶対勝て!」っていう命令に従えずに負けたりすると、命令を守れなかったとか、俺に恥をかかせやがってとか言って激怒するんだよなー。

 どうしてそんなやつに監督だのコーチだのってやらせておくんかね。


 まあ、どんなに無能でやる気のない教師でも辞めさせられないっていうのと同じなんだろうな。


 でもこのままじゃツマンナイよ。


 俺がもう少し動いてみるか……










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