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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
114/157

*** 114 オーナー・アソシエーション ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 


 ブレットGMとオーナー・アソシエーションの代表さんたちがドミニカにやってきた。

 どうやら俺のキャンプの視察を兼ねて、来季のMHKとの契約について相談事もあるらしい。


 ブレットたちは、みんなのトレーニングを満足そうに眺めた後、宿舎で俺たちと同じ夕食を食べて、その旨さに随分と驚いていたよ。

 量は半分以下だったけどな。


 夕食後は応接室に場を移して相談とやらを聞くことになった。

 俺に配慮したらしく酒は抜きでコーヒーだけだったが。



「それで、相談というのは日本のMHKとの来季のMLB放映権交渉についてなのだが……

 実は去年、MHKはMLB本部と我がギガンテスに、総額800万ドル(当時≒20億円)の放映権料を支払っていたんだ。

 まあそのうちの半分がギガンテスの取り分だったんだが」


「そうしてMLB本部の規約では、ABCテレビなどの全米ネットワークは別にして、ケーブルテレビなどとの契約ではその加入世帯数が放映権料の基準になっている。

 去年3月の段階でのMHK衛星放送の加入世帯数は50万世帯だったために、放映権料は基準に合わせて800万ドルだったわけなんだが。


 これは1契約当たり160ドル(当時≒4万円)にもなってケーブルテレビそのものの契約料を上回っているのだが、もちろんケーブルテレビ各社はその差額を広告料で補填した上で利益を出しているわけだ」


「ところがだ、MHKの衛星放送加入者数が、君の大活躍もあってこの8か月で10倍の500万世帯になってしまったのだよ。

 視聴率も平均で40%近いというモンスターコンテンツになっているそうだし。


 それで、このままだと大口契約割引を加味しても、来季の放映権契約料が7000万ドル(≒140億円)になってしまうのだ。

 ここ8か月でだいぶ円高が進んでいるが、それでも円ベースで一気に7倍にもなってしまうそうだ」


「まあMHKとしても嬉しい悲鳴を上げているわけだが、なにしろ彼らは準国営放送だからな。

 この莫大な放映権料を広告料で補填出来ずに困っているそうなんだ」


「しかも君だけでなく、日本国民の間ではギガンテスそのものの人気も高まって来ているそうで、来期はギガンテスの全試合を放映したいとの要望も持っている。

 それで必死に工面した金額が5000万ドル(≒100億円)だそうだ。


 だがその金額を呑めば、MLB本部の取り分は3500万ドルで、我がギガンテスの取り分が1500万ドルになってしまう。

 もちろんMLB本部や我々としても、MLBの市場が日本という先進国でこれほどまでに広がったのは大歓迎なんだが……」


「それで我々としても、この条件でMHKとの契約更改をする前に、君にアドバイスを貰いたいと思っているのだよ」



 はは、なんかみんなすっげぇ期待した目で俺を見てるわ……



「何の問題もありません。

 その条件で契約をしてしまっていいでしょう。

 ただし……」


「ただし?」


「今期MHKに提供していた映像は、ギガンテスの協力でサンフランシスコTVが製作した『一般映像』でしたよね」


「その通りだ。

 その『一般映像』を配信した先のABCテレビやケーブルテレビ局などは、その映像の中で攻守交代の際に、自分たちでCMを入れたり君の提唱したバーチャル広告を入れたりしているがな」


「それでは新しく『国際映像』というものを作ってください。

 いえ、新しくと言っても基本は『一般映像』と同じですのでコストはかからないでしょう。

 そして、この国際映像には攻守交代の際のバーチャル広告として、まずはアメリカ企業の広告をたっぷりと盛り込むんです。

 なんでしたら、バックスクリーン全体をCGの画面にして巨大広告を流してやってもいいでしょうね。


 日本で売りたい製品を持つアメリカ企業にとっては、500万世帯に配信される視聴率40%のコンテンツはまさに垂涎の広告媒体でしょう。

 2000万ドル程度の減収分ぐらいあっという間に取り返せますよ。

 それどころかその何倍もの収益が上がると思います」


「だ、だがMHKは準国営放送なのだからCMなどは流せないだろうに……」


「だからこその『国際映像』なんです。

 昨シーズンも球場内にあった日本企業の広告はMHKの放送映像に映っていたわけですよね。

 ですからMHKもさほどには気にしませんよ。


 それに、もしも『国際映像』ではなく自分たちのクルーを送り込んでの独自映像を作ろうと思えば、それこそ莫大なコストがかかりますから。


 ですから彼らにアドバイスしてやればいいんです。

 番組の最初にアナウンサーに『現地国際映像に基づいて放送しています』と言わせて、時々同じ内容のテロップを流させてやればいいでしょう」


「な、なるほど……」


「現地の放送局が作った『国際映像』なのだから仕方が無いと言い訳させるのか……」


「す、素晴らしいアイデアだ……」


「そのバーチャル広告に音声を被せていいかどうかはMHKとの交渉になるでしょうが。

 まあ音が小さければ、視聴者は実際に球場で流れている音声だと思うでしょうから、MHKもあまり気にしないでしょうね。

 そのおかげで放映権料を40億円も割り引いて貰えるんですし。


 そうしてアメリカ企業のCMを充分に流した後は、今度は日本企業に対して同じような広告を出してみないかと勧誘するんです。

 きっと信じられないほどたくさんの企業が飛びついて来ますよ」


「な、なんと……」


「それで、よろしければ日本国内での広告営業活動については、日本最大級の商社のひとつである渋谷物産の子会社の渋谷エージェンシーを使ってやってください。

 私の学生時代の相棒だった上野というキャッチャーが、オーナー一族の娘婿に入って次期社長候補になってますから、すぐに話は通せます」


「す、素晴らしいじゃないか……」


「それではその方向で話を進めてみよう!」


「「「「 うむ! 」」」」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その晩遅く、応接室にはブレットGMとオーナーアソシエーションの代表たちの姿があった。

 皆、寛ぎながらブランデーグラスを傾けている。



「本当にわざわざドミニカまでやって来た甲斐があったというものだな……」


「そうだな、まさかあのような解決方法があったとは……」


「エリックの言った通りだった。

 彼なら解決方法を考えてくれるとな」


「それにしてもあのユーキという男、なんという凄まじい男であることか……」


「野球能力はもちろんのこと、頭脳までもが超一級品だ」


「さすがはかのスタンフォードから助教授としてのオファーが来る男だな……」


「そしてさらに経営センスも素晴らしいではないかね。

 まさに『智謀湧くが如し』だ……」


「これはもしも広告料が減収分の2000万ドル以上集まった場合には、彼にアイデア料を支払わねばならないと思うが……」


「うむ、最低でも超過分の10%は払わねばならんだろう」


「それに加えてもしも来シーズン以降も彼が活躍した場合は……」


「なにしろMLBオーナー会議での申し合わせで、選手の最高年俸は年20%の増加幅までとなっているからな。

 それで我々オーナーアソシエーションのメンバーが株式を拠出して、彼にメンバーの一員となってもらう必要が出て来るかも知らん」


「もう既にNBA(ナショナル・プロバスケット・アソシエーション)やNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)では行われていることだからな」


「それにしてもだ。

 報酬という面だけではなく、あの頭脳もオーナーメンバーに是非欲しいとは思わないかね?」


「うむ、そのことについて全く異議は無い」


「はは、ブレットがよく言っているように、20年後には彼にGMも任せたいものだ」


「もちろんだ」


「そのためにも、彼にずっとギガンテスに居て貰えるよう我々も知恵を絞ろうではないか」


「「「「 うむ! 」」」」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 神山さんの診療所が完成した。


 超美人施療師さん5人と一緒に練習生やアカデミーの生徒たちの体のケアをしてくれている。

 おかげで大した筋肉痛でもないのに診療所に通い込む奴が増えて困ったけど。

 まあ、そういうやつほど神山さん(かなり厳つい外見)が施療するんですぐに収まったけどな。


 ルイスもまだ雨が降ったりすると足首の古傷が痛むそうなんで、施療を受けるように勧めたんだけどさ。

 たった5回で全く痛まなくなったんで、随分と驚いてたよ。

 おかげでさらに診療所が繁盛してたわ。


 でも俺は神山さんに、池谷くんだけは6か月かけて治してやるように頼んだんだ。

 彼ももう、肩肘を労わることを覚えてもいいだろうと思って。


 そしたらさー、池谷くんがワイルドキャッツを辞めて日本に帰るって言い出したんだわ。




「それで、日本に帰って何をするつもりなんだ?」


「あ、あの……

 実は日本のギガンテスアカデミーに入る前に、ラビッツのスカウトさんに勧誘されてたんです……

 君なら開幕1軍も夢じゃないって……」


(よりによってラビッツかよ……)


「で、ですからテスト生として入団させてもらって、そこで鍛えてもらって来年のドラフトで指名してもらおうと思って……」


「そうか、わかった……

 まあキミの人生を決めるのはキミ自身だからな。

 ただしひとつだけアドバイスがある」


「は、はい……」


「肩や肘を壊して投げられなくなったら、東大医学部の原宿先生に診察してもらえ。

 今から紹介状を用意するから、それを持っていけば診てもらえるだろう」


「は、はい、こんな俺に本当にありがとうございます……」



 まあ仕方が無いよな。

 これ一種の強迫神経症だもの。

 1回自分の体をぶっ壊さないと目が覚めないだろう……



 そんなことがあったんで俺は野〇くんも気にして見てたんだ。

 でもこいつ、けっこう肝太いのな。

 同僚の日本人がいなくなってもぜんぜん動じて無かったわ。

 それどころか付けてやった英会話講師に教わって、たどたどしい英語でみんなに話しかけてたよ。

 それに、俺だけじゃなくってミゲルやジョナサンにも仲良くしてもらってるみたいだし。



 それで俺、奴を見てるうちに気づいたんだ。

 こいつ、夜の自由時間に宿舎の裏でトレーニングしてたんだよ。

 それも空手風の中段蹴りや下段蹴りの。


 それで俺も興味が湧いて、近くに行って見てたんだわ。


 ほほー、なかなか腰の入ったいい蹴りじゃないか。

 きっとこいつ、腸腰筋や腹斜筋が発達してるんだな。



「あっ、か、神田さん!」


「邪魔してすまんな。俺に構わず続けてくれ」


「あ、あの……

 な、なんでこんな蹴りの訓練とかしてるんだって、お聞きにならないんですか……」


「ん? キミは球威を上げるために腰の回転の力も使おうとしてるんだろ」


「な、なんでわかったんですか……」


「だって昼の投球練習ではキミのフォームがどこかぎこちなかったもんなぁ。

 あれいつものフォームじゃないんだろ」


「そ、そんなことまでわかるんですか……」


(さ、さすがは神田さんだ……)


「これは推測だけど、キミはいったんバッターに背中を向けるぐらい腰を回してから体幹の筋肉も目いっぱい使って投げてたんじゃないか?」


「は、はい…… す、すいません……」


「なんで謝るんだ?」


「だ、だって……

 そんな変則フォームで投げるなって仰らないんですか?」


「ははは、そんなこと言うわけ無いだろうに。

 メジャーのピッチャーなんか変則フォームだらけだぞ」


「あの…… あのあのあの……

 お、俺日本のスカウトに言われたんです……

 こ、この変則フォームは直すべきだって……

 それでエレファンツの2軍コーチのところに連れてかれて、フォームを見てもらったんです……

 そしたらやっぱりそのフォームじゃ使い物にならないって。

 そ、それでドラフト下位で指名してやるから、ファームで俺がフォーム改造してやるって言うんです……


 で、でも俺、この腰を使った投げ方じゃないと球威が出ないんです。

 それでギガンテスアカデミーの入団テストを受けたんですけど、試験官のアメリカ人がなんにも言わなかったんですよ。

 それで入団させてもらえて、ドミニカにも来させてもらって……

 しかも『ユーキ軍団レギオン』のメンバーにも入れて貰えて……」


「ユーキ軍団レギオン? なんだそりゃ?」


「あ、はい、今回選抜されたメンバーのことをそう言うそうです。

 アメリカ人たちが話しているのを聞きました」


「そ、そうか……

 ところでなんで、キミは元々のフォームを俺に隠していたんだ?」


「そ、それは……

 もしも神田さんにダメだって言われたら、俺もう行くところが無くなりますから……」


「わはははは、俺が練習生のフォームに文句付けるわけ無いだろうに。

 それにそれはメジャーでは御法度だぞ。

 コーチはアドバイスはするけど、練習を強要したりましてやフォーム改造を強制するなんて有り得ないからなぁ」


「そ、それじゃあ俺、元のフォームで投げてもいいんですか?」


「いいも悪いもそれを決めるのはキミだろうに。

 その代わり、結果に責任を持つのもキミだけどな」


「は、はい、もちろんです。

 それにしても、なんでエレファンツのコーチは俺のフォームを改造しようとしたんでしょうか……」


「ああそれな。

 そうすれば、キミが1軍で活躍するようになったら、『俺のおかげだ!』って主張出来るからだよ。

 そうなれば1軍のコーチに上がれて給料も増えるし有名にもなれるからな。

 だから日本のコーチたちはすべての新人のフォームをイジリまくるんだ。

 5人ぐらいのコーチがよってたかって違うフォームを押し付けて来たりもするし」


「そ、そんな……

 それでフォーム改造に失敗して俺が育たなかったらどうするんですか?」


「あはは、そのときは『あいつには元々素質も根性も無かったんです』って言えばいいだろう。

 そうすればコーチの責任にはならないからな」


「ひ、酷い……」


「だからこそ日本のプロって弱っちいんだよ。

 キミも日本でのギガンテスの試合を見たろ」


「はい…… ギガンテスは信じられないほど強かったです……」


「俺にはな、恩人はたくさんいるけど野球の恩師はいないんだよ。

 プロの野球選手は自分が自分の恩師になるべきだからな」


「自分が自分の恩師……」


「だからキミも自分で考えて自分で練習な。

 まあ、俺もアドバイスぐらいはするけど、別に従わなくっても気にしないし」


「は、はいっ! あ、ありがとうございましたっ!」


「そうそう、早速アドバイスさせてもらうとな。

 さっきのキミの蹴りの練習、あれ『筋持久力』のための鍛錬なんだよ。

 だから『筋瞬発力』を付けるためのウエイトトレーニングも取り入れた方がいいな。

 これからそのためのマシンを開発してみるから、ちょっと待っててくれ」


「はいっ!!!」





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