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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
110/157

*** 110 投手コーチング ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 



 俺は八王子製作所の専務さんに頼んで、新しい筋トレマシンを注文した。

 実は、今まで握力や前腕の筋肉を鍛えるウエイトマシンって無かったんだよ。


 ま、まあ俺自身は神界で神保さんが作ってくれたマシンでトレーニングしてたんだけどな。

 まさかそんなものをキャンプに持ち込むわけにはいかないだろ。


 それで仕方ないから、いつもは同僚の野球部員たちにアイソメトリックトレーニングさせてたんだけどさ。

 後は、棒にヒモ巻いて、その紐の先にウエイト付けて紐を巻き取っていくとか。

 それでもやっぱり『最大負荷重量で8回持ち上げる』っていうトレーニングがしたかったんで、新しいマシンを特注してみたんだ。


 そしたら、専務さんが日本から筋トレマシンの開発担当者を呼んでくれたもんで、おかげでかなり詳細な打ち合わせが出来たよ。


 たとえば、円形の小さな輪が5つあって、それでその輪にそれぞれ指を入れて握り込むと、ワイヤーで繋がったウエイトが上がるマシンとか。

 これは可動距離が短いせいでウエイトに正確なバランスが要求される為に、神保さんに頼む以外俺たちの手作りでは製作出来なかったものなんだ。


 それ以外にも金属棒の先端にボールが刺してあって、そのボールを手でつかんで捻るとウエイトが持ち上がるとか。

 あと、投球動作の姿勢でボールを引っ張ると、ボールについたワイヤーがウエイトを持ち上げるとかだな。


 そういう投手専用の筋トレマシンみたいなもんを発注したんだ。

 まあ、20万ドル(当時≒4200万円)も渡せばけっこうなもんを作ってくれるだろう。

 開発担当者は鶴見さんっていう28歳ぐらいの人だったんだけど、ノリノリだったぞ。

 さすがはあの専務さんの部下だな……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 11月中旬、或る日のミリーフィールド。


 俺の前には12人の若い連中がいた。

 キャッチャー3人にピッチャー9人になる。

 そのうち4人がアメリカ出身で、6人がカリビアンで、2人は日本人だった。


 そう、あの野〇くんともうひとり、池谷くんっていう甲子園の準優勝投手がいたんだ。

 2人とも夏の大会の後に日本のギガンテス・アカデミーのセレクションを受けて合格していたのを、俺がサクラメントに呼び寄せたんだよ。



 他の連中は、あのジョナサンも含めて3人がギガンテスのエクスパンド・ロースター組で、あと7人はワイルドキャッツのベンチ入りメンバーだった。

 まだ3Aのウインターリーグはあと1か月ほど日程を残しているけど、エリックによれば、ウインターリーグの順位を犠牲にしてでも彼らに是非コーチングをしてやって欲しいらしい。


 でも去年のことに懲りてたから、10人に候補者を絞った後にドミニカでのキャンプの内容とキャンプ周辺にはなんにも無いことを伝えたそうだ。

 それでも俺のコーチングが受けられるっていうことで、全員が志願したらしいな。



「さて諸君、我々は明日ドミニカに向けて出発する。

 現地では2か月半ほど野球漬けの日々になるだろう。

 そうしたキャンプを前にして、今日はこれからサンフランシスコの日本食レストランでディナーをご馳走したいと思う。

 それでは出発しよう」



 俺たち選手一行に、エリックとコーチ2人、スタッフ2人、それから渋谷物産サクラメント出張所長さんと八王子製作所の鶴見さんを加えた総勢20人はバスに乗り込んだ。

 そうして所長さんイチオシの、サンフランシスコ最高の寿司バーに向かったんだ。


 当時のアメリカって健康食ブームの一環として日本食、特に寿司が流行ってたんだけど、もちろん高級食なんでアメリカ人でもセレブしか行かないような店だったんだよ。

 さすがはサンフランシスコの店で、モヒカンにした板前さんは俺が来たんで大喜びしてたわ。



 その店で俺はまず全員にメニューを見せたんだ。

 そう…… 

『スシ』ディナーコースが『ウメ』の50ドル(≒1万円)から『マツ』の120ドル(≒2万5000円)までのやつ。

 もちろん俺が注文したのは全員「マツ」だったけどな。


 エリックや所長さん以外は全員値段見て震え上がっていたぞ。

 そんな値段のメシなんか喰ったこと無かっただろうし。

 みんな寄り目になってメニュー睨みつけてて笑えたわ。


 それでお通しが出た後は、カツオの叩きが出て来たんだよ。

 薄切りにしたカツオの上にミョウガとニンニクが散らしてあって、ポン酢がかけてあるやつ。


 それを見たエリックと日本人以外の全員がまたもフリーズしたんだ。

 生の魚なんか生まれてこの方喰ったこと無かっただろうし。


 でもさ、なんせ2万5000円のコースだろ。

 つまりは超高級食材なわけだ。

 しかも俺や所長さんや鶴見さんたちが旨そうに喰ってるし。

 ま、まあ実際に旨かったけど。


 それでみんな恐る恐る喰い始めたんだ。

 ミゲルなんか涙目になってたぞ……


 でも、喰ってみると実に旨いわけよ。

 すぐにみんな夢中で喰い始めてたわ。


 そうして椀物だの箸休めだのが続いたあとで、とうとう寿司が出て来たわけだ。


 まあまたみんな恐る恐る口に運んだあとは夢中で喰い始めてたわ。



「店長さん。

 全員に中トロと炙りトロと赤身とヅケを2貫ずつ追加でお願いします」


「へい!」



「な、なあユーキ、その『トロ』ってひとつ12ドルって書いてあるんだけど……」


「おうミゲル、そうだ、トロっていうのは寿司の中でも最も高いやつなんだわ」


「い、今注文した分だけでひとり80ドル(≒1万7000円)……」


 それでまた所長さんとエリック以外フリーズしちゃったんだけどな。

 まあでもみんな若いし体も大きいしで、他に追加したネタも良く喰ってたよ。



 みんな腹いっぱいになって茶も飲んだあとに、会計になった。


 店長さんが持って来たレシート見たら6000ドル(≒125万円)って書いてあったわ。

 けっこうマケてくれたみたいだな。


 ミゲルが蒼い顔して俺を見た。


「な、なあユーキ、そ、その…… いくらだったんだい……」


 その瞬間、若い奴らが全員俺を注目した。


「20人でちょうど6000ドルだな」


 若いのがまた全員盛大に硬直してたよ。

 なんか漫画だったら『ががーん!』とか効果音がつきそうなカンジで……

 絵ヅラ的には『最後の晩餐』だな。


 それで俺はサービス料も含めてテーブルに7000ドル置いて店を出たんだ。



 ふっふっふ……


 なんでわざわざこんなことしたのか……

 実は2つの目的があるのだよ。


 1つ目はもちろん、『メジャーのアクティブロースターに入って活躍出来ればこれぐらいの散財はなんでもないんだぞ』って教えてやること。

 もう1つは、実はドミニカの首都の南に漁港があって、そこではクロマグロやカツオなんかの水揚げもあったんだ。

 それでBCAAが超豊富な生のクロマグロとカツオをドミニカ・アカデミーのメニューに加えようと思ったのさ。


 いきなり食堂で出してもみんな驚いて喰わないだろうけど、こうして都会の高級レストランで一度喰わせておけば、こいつらがいい見本になってくれるだろうな。

 へへへ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 俺たちはドミニカのギガンテス・アカデミーに到着した。


 既に大方の施設は完成していて、後はフェンス外側の造成工事を残すだけになっている。


 それで俺、その工事見て思いついちゃったんだ。


 その辺りの土地って緩やかな斜面になってるんだけど、グラウンドを水平に作るために、斜面を削って法面になってる部分があったんだよ。

 今はそこが崩れて来ないように杭やコンクリを打って補強工事してたんだ。


 で、俺はルイスに頼んで、その工事に変更を加えてもらったんだわ。


 そう……

 法面をコンクリとアスファルトで平らにして、そこにアンツーカーの走路を作って貰うことにしたんだ。

 1つは水平距離30メートルの走路に対して15メートル上がる斜面。

 だからまあ角度は30度か。

 この走路を5本、幅はやや広めにとってもらった。

 もう1つは、やっぱり30メートルの走路に対して10メートル上がるものにしたんだ。

 これで『ヒルクライム』のダッシュが出来るようになったんだよ。



 脚の筋力自体は筋トレで上げられるんだけどさ、それだけじゃあ充分じゃなくってその筋肉の筋持久力もつけなきゃなんないよな。

 そのためには軽度の負荷を持った運動を回数こなす必要があるから、今までは平地で30メートルダッシュ30本とかやってたんだ。

 でも、どうも最近それだけじゃ負荷が足りないような気がしてたんで、こうした『ヒルクライム』のダッシュがしたかったんだよ。


 ま、まあ練習生たちはあとで『ヘルクライム』とか呼ぶようになってたけど……



 それ以外にもルイスに頼んでいろいろと試してみたんだ。


 まずは鶴見さんのための工房作りだ。

 これは当面の間鶴見さんに滞在してもらって、俺の考えた筋トレマシンその他を作ってもらう場所になる。


 それから、これも少々無理を言って、俺たちの為だけの食事メニューも作ったんだ。

 いくら大工が腕を上げる練習をしても、材料が無いと家は建たないからな。



 それでさ、人体が自力で合成出来ずに食物から摂取しなきゃなんない必須アミノ酸って9種類あるんだけど、これらについてはWHOが1日当たりの推奨摂取量を発表してるんだ。

 例えば、体重100キロの奴だったら、イソロイシンは2000mg、ロイシンは3900mg、リジンは3000mgとか。


 それから『アミノ酸の桶』っていう興味深い概念があるんだ。


 例えば9種類のうち8種類の必須アミノ酸をWHOの推奨値通りに摂ったとしようか。

 でも残りの1種類を70%しか食べなかったとするだろ。

 そうすると、せっかく食べた8種類のアミノ酸も70%しか活用されずに、あとの30%は分解されて体外に排出されちまうんだよ。

 その際には腎臓や肝臓にも負担がかかるし。


 つまりまあ、9枚の板で作られた桶があったとして、その中で1枚だけ長さの短い板があると、この桶に水を入れても、短い板の高さの分だけしか水は入らないっていう比喩なんだ。

 だからそれ以外のアミノ酸がみんな無駄になっちまうっていう概念だな。

 単に無駄になるだけならまだしも、肝臓で分解したり腎臓で濾しとったりする分、内臓に負担もかかるし。


 だからよく耳にする言葉があるよな。

『バランスのいい食事を摂りましょう』って。

 これは必須アミノ酸や準必須アミノ酸やビタミンなんかを満遍なく摂りましょうっていう意味だったわけだ。


 でも、俺は大いに不満だったんだよ。

 だってどの本見ても、『バランスのいい食事』の具体例が出て無いんだぜ。

 何と何と何のバランスに留意すべきなのかも書いてないし。


 例えば和定食なんかバランスがいいってよく書いてあるけど、それ1食で推奨摂取量の何%になってるとかもどこにも書いてないし。

 同じ体重100キロでも、ガンガンにトレーニングしてる奴とほとんど運動してないやつの必要量の違いも書いてないし。



 だから俺、また自分で実験してみたんだ。


 実は俺、もう自分や他人の生体内物質の動きが『見える』ようになってただけじゃあなくって、素材や料理を見ても、必須アミノ酸や準必須アミノ酸なんかの合有量も『見える』ようになってたからな。


 それで俺が標準的なトレーニングをすると、WHO基準の約320%までは摂取したアミノ酸が体内で有効活用されることがわかったんだ。

 筋肉に変わったり代謝のエネルギーになったりして。


 それで神保さんに頼んでまたあの天使メイド部隊に来て貰ったんだ。

 ついでにめーちゃんに頼んで、3人に『鑑定』と『サーチ』の能力も授けてもらったんで、俺と同じように食材や料理を見ただけで、そこに含まれる必須アミノ酸やビタミンやミネラルの合有量も分かるようになってたし。


 それでまずは現地で手に入る食材を並べてみて、俺と3人で各種栄養素の配合量をチェックしていったんだ。


 だけどさ、やっぱり筋肉を作るBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)を多く含む食材が足りなかったんだよ。

 牛や豚の肉には多いんだけど、加熱するとかなり合有量が落ちちゃうし。

 だから神保さんに頼んで、サントドミンゴの漁港でクロマグロやカツオを入手する態勢を作ってもらったわけだな。


 それで神保さんは、地球名神谷っていう上級天使さんとそのサポートの天使さんたちをサントドミンゴに配置してくれたんだ。





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