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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第2章 高校野球篇
11/157

*** 11 ダニコーチ入院 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……





 6時10分前になって下校の予鈴が鳴ると、顧問の御茶ノ水先生が出て来た。


「あと10分で下校時刻だよ。早く練習を終えて帰宅しなさい」


 そう言ったところで、先生はようやく薄暗い校庭に横たわる部員たちに気づいたようだ。


「こ、これは……

 鶯谷くん! 生徒たちに何をしたんだっ!」


「い、いやあの……

 こ、根性を鍛えなおしてやろうと思いまして……」


「だからと言って、ここまでしなくてもいいだろうっ!」


「…………」


 その後は、俺は重症者には肩を貸して、みんなでよろよろと帰宅して行ったんだ。



 翌日。

 鶯谷センパイは教頭先生から学校に呼び出されたらしい。


「君はなんということをしてくれたんだね!

 野球部員60人のうち、今日学校に来ているのは6人だけだ!

 54人は病院で治療を受けているし、中には入院した者もいる!

 朝から学校には親からの抗議の電話が殺到しておるぞ!」


「い、いや俺は、いや私は彼らの根性を鍛えてやろうと……」


「それで2時間以上もうさぎ跳びをやらせたというのかっ!

 君が高校生のときに、あまりに故障が多いので、運動部に『うさぎ跳び禁止』の通達を出していたのを忘れたのかっ!」


「あ、いやあの…… 3年になってすぐ退部したので知らなかったんです……

 だ、だから俺が悪いんじゃないですよね?」


「これは、生徒の保護者から損害賠償請求が来るかもしらんぞ。

 もちろん高校と君の両方にだ!」


「ええっ! そ、そんなぁ!」


「今から膝や筋肉を痛めた生徒に全員謝罪しに行くぞ!

 まずは登校している生徒たちからだ!」


「ええええっ!」



 それでも馬鹿コーチは頭を下げなかったそうなんだが……

 額に青筋立てた教頭先生が、コーチの後ろ頭アイアンクローして無理やり頭下げさせたそうだわ。

 教頭先生、全体大出身で身長190センチあって迫力あるからなー。


 教頭先生とともに2日かけて痛んだ全員にお詫びして回った先輩も、コーチ馘だけは免れていたそうだ。

「高校生に過度な練習はさせません」っていう誓約書には捺印させられていたみたいだけど。



 そして翌日木曜日の校庭での練習。

 校庭の隅には松葉づえをついた学生服姿の部員が10人ほどいる。

 ユニフォームを着て立っているのは、俺を含めて6人だけだ。


「なんだ、練習に遅刻するヤツが多すぎるぞっ!

 おい、池袋っ、キャプテンのお前の責任だっ! すぐに全員集合させろっ!」


「あ、あの…… 鶯谷先輩。

 後の部員は全員入院しているか、病院に行っているかです。

 そ、それでも連れて来るんでしょうか……」


「 !!! 」


「そ、それから昨日、1年生は15人が退部届を出しました。

 今日練習に参加出来るのは、本当に6人だけなんですぅ」


「こ、こここ、根性無し共めがっ!」


「せんぱーい、だから言ったでしょうに。

 それに根性とケガは違うものですよー。

 可哀そうに、全治2か月って診断された1年生もいるんですー。

 これ、訴えられたら、せんぱいは『業務上過失傷害罪』に問われるかもですねー♪」


「う、うるせぇっ!」



(なあ、この神田っていう1年生、むちゃくちゃ度胸ないか?)


(うん、あの鶯谷先輩を子ども扱いしてるもんな)


(そういえばあいつ、オリンピックの前に、あの全体大の陸上部で地獄の特訓を乗り超えたらしいぞ)


(あ、俺もそれ雑誌で読んだ。

 毎日30キロ走ったあとに、筋トレもやってたんだろ)


(そのあと、自宅で投球練習毎日500球投げてたとか)


(ひぇー―――っ!)


(そんだけ鍛えてたらクソ度胸もつくよなー)



「そ、それじゃあ今日は守備練習をするっ!

 各人守備位置につけっ!」


「あの…… 鶯谷先輩……」


「なんだ池袋っ!」


「1年の神田以外で今立ってる5人のうち、4人は外野です。

 内野はピッチャーのわたしだけです……」


(こいつ、部員の守備位置も知らねぇのかよ)


「それがどうした!

 さっさと守備位置につかんか!」


「そ、それが、最近校庭での外野の守備練習は危険だとして学校から禁止されたんですぅ。

 これに違反してケガ人出ると廃部にさせられるんでかんべんしてくださいぃ」


「そ、それを早く言わんかぁっ!」


(あー、このキャプテン、肝っ玉ちっちゃいわー)


「そ、それじゃあこの俺様がお前だけに直々にノックしてやるっ!

 早く守備位置につけっ! 後の5人は後ろで球拾いだっ!」


「「「「 はい 」」」」

「うぃ~っす」


「こら神田っ! 返事は『はい!』だっ!」


「はいはい」


「『はい』は1回だ!」


「はぁぁぁぁぁぁ~い」


「こ、この野郎っ!」


「あー、ダニ先輩……」


「うるせぇっ!! 『うぐいす』を略すなっ!」


「じゃあ、うぐいす先輩」


「こっ、こここ、この野郎っ!」


 あー、バット持って近づいて来たよこの馬鹿。


「うぐいすせんぱーい、そんなもん持ってどーする気ですかぁ。

 俺がケガでもしたら、こんどこそコーチ免職ですよぉ♪

 ついでに、『傷 害 罪』ですねー♪


「うぎぎぎぎぎぎぎ……」


「そんなコーチとして威張る練習ばっかりじゃなくって、野球の練習をしましょうよぉ」


「こ、この……

 そ、そうだ、神田っ! お前の希望ポジションはどこだっ!」


「ピッチャーっすけど、それがなにか?」


 先輩はまた薄気味悪い笑みを浮かべた。


「それじゃあ俺様が直々にノックしてやる。マウンドに行け」


(こいつ中学時代は野球やってなかったんだからな。

 俺様のノックでぼろぼろにしてやる……)


「いつでもどうぞー」


「うるせぇっ! 余計なことは言うなっ!」


 すかっ。


 あー、この馬鹿、ノックで空振りしてやんの……


「わははははは、センパイ、ギャグはいいですから早くノックしてくださいよぉ」


「こ、この野郎っ!

 お、俺様の弾丸ノックで徹底的に鍛えてやるっ!」



 まあ、当たり前のことだけど、俺はその緩すぎる打球をことごとく処理したんだ。

 それにしてもこいつの打球遅っそいわー。


「はぁはぁはぁはぁ、ど、どうだっ!」


「あのー、もっと速い打球お願いしますよぉー。

 こんなんじゃ練習にならんですよぉー」


「な、なんだとっ!

 も、もうノックは終わりにしてやるっ!

 あ、有難く思えっ!」


「えー」


「文句ばっかし言ってんじゃねぇっ!」


「へぇ~い」


「そ、そうだ、お前ピッチャー希望だったな!

 俺がテストしてやるから投げてみろ!」


(だからたまには怒鳴らずに喋ってみろよ)


「ありあとあんすー。

 ところでキャッチャーはどうするんですかぁ?」


「特別に高校時代に名キャッチャーと言われた俺様が受けてやるっ!」


(補欠の補欠だったくせに……(神保さん情報))



 センパイはキャッチャーミットを持って座った。


「さあ、全力で投げてみろっ!」


「いやですよぉ、俺まだ肩作ってないですよぉー」


「素人のくせに何言ってんだ! いいから全力投球だっ!」


「皆さん聞きましたかー。

 これで俺が全力投球して肩ぶっこわしたら、センパイのせーですよねー。

 このひと昨日学校側に『今後2度と高校生に過度な練習をさせません』っていう誓約書提出してるのにー」


「な、ななな、なんでそれを知っているんだぁっ!」


「ええーっ! みんな知ってますよぉ~」


「ぐぎぎぎぎぎぎ……

 じ、じゃあ10分だけやるっ! ありがたく思えっ!」


「あれ? キャッチボール受けてくれないんですかぁ?」


「お前にはあの隅のコンクリート壁で十分だっ!」


「へぇ~い」




「ダニせんぱぁ~い。肩出来ましたぁ~」


「だから鶯をつけろと言っただろっ!」


「うぃ~っす。

 あれ、先輩プロテクターは?

 それからメットとマスクとレガースは?」


「お前のヘロヘロ球受けんのには、ミットだけで十分だっ!」


「じゃあ投げません」


「なんだとっ!」


「俺、ヒトゴロシにはなりたくありませんから」


「うるせえっ! いいから投げろっ!」


「みなさん聞きましたよねー。

 俺ちゃんと防具着けてくれって言いましたよねー。

 何度もいいましたよねー。

 だからもしこの人が死んでも、警察で証言してくださいよねー。

『脅されて仕方なく投げてました』って……」


 はは、何人かが頷いてくれてるわ。


「お、おおお、お前がそれほどまでに言うなら、防具着けてやる!

 あ、有難く思えっ!」


「ごっつあんです!

 あ、ところでセンパイ、ファウルカップつけてます?」


「要らねぇよそんなもんっ!」


「あーでしたらせめて段ボールかなんか入れといて下さいよ。

 そうですね、4つ折りにして。

 それからタオルも3枚ぐらい」


「だから要らねぇって言ってんだろうがっ!」


「へいへい、どうなっても知りませんからねー」



 そうして俺は、ど真ん中に時速150キロ・・・・・・・の速球を投げ込んだんだ。


 ばちっ。


「ぎゃぁっ!」


 あー、ミットの土手に当ててるわー。

 これ間違いなく手首イっちゃったなー。


「ふ、ふん、棒球だな!」


 あ、右手をミットの裏に当てて構えてる……

 右手も使って捕球する気か……


「それじゃあ次は本気出しますねー」


「…………」


「うりゃっ!」


 時速158キロの球が唸りを上げて飛んでいく。


 べち――ん。


「ぐわぁぁっ!」


 あー、また土手かよ。これ左手首完全にイっちゃってるわー。

 まあ、このレベルの球って、ミットの真ん中で捕球しないとこうなるわなー。


「て、テストは終わりだ! お、お前は不合格だっ!」


「えー、なんでですかぁ~?」


「す、ストレートしか投げられん奴が高校野球で通用するわけないだろうにっ!」


「それじゃあ最後に俺の変化球受けてくださいよー。

 落ちる変化球っす」


「い、1球だけだからなっ!」


 それで俺、今投げられる最高の落差80センチの渾身のフォークを投げたんだ。

 投げ出し方向ど真ん中で。

 ワンバンするだろうけど、センパイの股間を抜けて行くように。


 でもさ、ミットは低めに構えたものの、投げ出し方向がセンパイの顔面方向だったんで、センパイは思わず深くしゃがんで逃げようとしたんだ。

 そのせいで……


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」


 あー、逃げたせいでタマがタマに当たっちまったかー。

 でもボールは勢いよく後ろに飛んでってるから、たぶんかすっただけだろう。

 あ、センパイが白目剥いて泡拭いてる……

 仕方ねぇ、救急車呼んでやるか……



 池袋キャプテンがつきそって、センパイが救急車で運ばれていった。

 その晩、センパイのキンタマは、10倍ほどに腫れあがっていたそうだ……



「それではみなさん、もしよかったら打席に立ってみませんか?

 俺のストレートと変化球を見てもらいたいんです。

 ユニフォームを着ていない方でも是非どうぞ。

 あ、俺コントロールには自信がありますんで、デッドボールはありませんよ」

(万が一当たりそうになったら『テレキネシス』でボールの軌道曲げられるし)


「キャッチャーはどうするんだ?」


「まあ、必要無いでしょう」


「そ、それじゃあ見せてもらおうか」


 2年の田町センパイがギクシャク歩きながら打席に入った。

 俺は158キロの豪速球をど真ん中に投げ込む。

 あー、センパイ、後ろに逃げようとしたけど足が動かないんでひっくり返っちゃったよー。


「大丈夫っすか?」


「あ、ああ、大丈夫だ。

 そ、それにしても、お前なんていう球を投げるんだよ……」


「まあ、毎日けっこう練習してましたから。

 それでどうしますか? 終わりにしますか?」


「いや、もう一回見せてくれ。

 それからさっきの落ちる球も頼む」


(おー、このひとけっこうガッツあるじゃん)


 田町センパイは、今度は逃げずに球を見ていた。

 その分顔色は蒼白になってたけど。


 その後も俺は希望者20人ほどに3球ずつ投げてやったんだ。

 みんなひっくり返ったり蒼白になったりしてたわ。




「ところで田町センパイ、俺のマッサージ受けてみませんか?」


「お前そんなこと出来るのか?」


「ええ、オリンピック後に入院していた病院で選手団に帯同して来たスポーツドクターさんに教わったんです。

 上手だって随分褒められました」


「そ、そんなすごいひとに褒められたんか……

 それなら、すまんがやってもらおうかな……」


(はは、このひとやっぱりいいひとだな……)


 そのあとは、田町センパイにグラウンドの隅に敷いたマットの上に腹ばいになってもらい、脚にいかにもそれっぽいマッサージをしてあげたんだよ。

 もちろんこっそり『キュアLv0.01』を少しだけかけながら。


 15分ほどのマッサージが終わって田町センパイが立ち上がった。


「あ、脚の痛みが半分ぐらいになった! 

 そ、それになんとか歩けるっ……

 す、すごいよ神田っ! ほんとに治り始めたよっ!」


「よかったです」


(まあ、半分治るように『キュア(超勇者級)』を調整してたからな。


 それ見てた全員が俺のマッサージを希望したよ。

 みんなもう足があんまり痛くなくなったって大喜びだったわ。

 でも、半分ぐらい終わったところで、下校の鐘が鳴ったんだ。


「それでは、明日の放課後に続きをやります。

 もう一つの治療方法も試してみますね。

 あ、もしよかったら、今日いない方にも声をかけてあげて頂けませんでしょうか」


「「「 わかった! 」」」










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