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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
109/157

*** 109 防具販売開始 ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 


 そうそう、そういえば俺のポスターが作られることになったんだ。

 横約60センチで縦約1メートルの少し大きめのポスターなんだけど。

 あの俺の『ザ・スロー』と『ザ・キャッチⅡ』と『ウオークオフホームラン』なんかの映像をコンピューターで画像処理して鮮明にしたものだ。


 例えば『ザ・スロー』は、ポスターの上半分は俺が後ろに伸ばした手の上30センチぐらいにボールがあって顔はホームを向いている写真で、下半分は今まさに投げ終わってボールが手から離れたばかりの写真になってるんだよ。

 まあ俺が言うのもなんだけど、なんかすっげぇカッケー写真だ。

 目なんかもう完全に戦闘態勢のときのそれだもんで、幼児に見せると泣くらしいぞ。

 そういえばジョーが、「またあの目ぇしてやがったのか……」とか言ってたけど、どういう意味なんだろうな?


 それから『ザ・キャッチⅡ』は、フェンスの上でジャンプして後ろ向きのままボールを捕球する寸前の写真と、捕球後に空中で回転して体がホームを向いて倒立してる状態の写真だな。

 これがまた宇宙遊泳みたいで実にいいんだよ。

 後ろに写ってる観客はみんな口開けて俺を見てるし……


 それ以外にもウオークオフホームランのインパクトの瞬間とか、チームのみんなが胸に手を当てて敬意を表して並んでくれてた写真とか、みんなの真ん中で地区シリーズ優勝のトロフィーを笑顔で抱えてる場面とか……


 まあ総じていい写真ばっかしだ。


 

 そういう写真のポスターがなんと8種類も作られたんだ。

 原価5ドルで、それを12ドルで売り出すらしい。


 めーちゃんなんか、8種類とも魔法で5倍に大きくして並べて壁に貼ってたわ。

 それ見てうっとりしながら大きくなって来たお腹さすってるよ。



 まあ球団の収入の柱って、放映権料や広告料と入場料収入とこの手のグッズ販売だからな。

 グッズ専門の部署もあって、やたらにたくさんのグッズが売られてるんだ。


 因みに一番高いグッズは選手のユニフォームで、本物と同じ作りなもんだから1着200ドルもするんだぜ。

 それで、今年はどうやら俺の名と背番号30が付いたユニフォームの売り上げがチーム1位になったんだと。



 でさ、渋谷物産のサクラメント駐在員事務所が球団に業者登録して、ポスターを卸値で各種200枚ずつ1600枚も仕入れて来たんだ。

 それで俺に1枚ずつサインしろって言うんだぜ!

 防具の販売の時に、キャッチャー用防具1セットと打者用防具2セットをまとめ買いしてくれたひと先着1600名様に無料で配るんだと。

 ついでに『御名入れサービス』もつけるんだそうだけどな。


 でもさー、キミタチ試しに自分のサイン100回書いてみそ。

 もー脳ミソがゲシュタルト崩壊起こしてへろへろよ。

 それで残りのポスター1500枚を家に持ち帰って1週間ぐらいかけてなんとかサインしようと思ってたんだ。



「勇者さま」


「あ、神保さん」


「よろしければこちらをお使いください」


「なんですか、このマジックペンは?」


「こちらは『マジック・マジックペン』でございます。

 勇者さまの魔力を込められて、1枚だけサインをされれば後は自動的にサインをし続けます」


「で、でもそれって直筆サインにならないんじゃ……」


「なにを仰いますか。

 なにしろ勇者さまの『直魔法サイン』でございますからね。

 単なる直筆よりもむしろ価値は上かと……」


「そ、そういえばそうですね……」



 それでさ、自宅にある倉庫にポスター1500枚積んで1枚だけサインした後に、マジック・マジックペンに『残りも全部サインしておいてくれ』って言ったんだよ。

 そしたらさー、10人ぐらいの天使さんたちがポスターめくって重ねて行く中で、ペンがさらさら動いて俺のサインを書いてるんだよー。

 なんかシュールな光景だったぜ……


 翌朝見てみたら、サイン済みのポスターの上に『マジック・マジックペン』が横たわってたんだ。

「あー、やりとげたぜー」みたいな雰囲気を醸し出しながら……

 思わず「お疲れさん」って言って撫でてやったら、なんか嬉しそうにピコピコ動いてたわ……




 サクラメントの中心街の一等地に渋谷物産のショールームが完成した。

 間口が15メートルもあって、正面にはデカいガラスが3枚ほど嵌め込んである。


 どうやらまた神保さんが2030年に飛んでって、某有名ブランドショップのディスプレイを『撮影魔法』で撮ってきたらしい。

 それをディスプレイ会社の担当者に渡して、同じようにショールームを作れって言ったそうだ。


 おかげで超未来的なデザインになって、これがまた目立つんだわー。

 夜になると上下左右16方向からスポットライトに照らし出されて、クラス1防具が輝いてるもんな。

 捕手用防具を着せてるマネキンはジョーそっくりに作ってあるし、打者用防具のマネキンは俺そっくりだったよ。

 どうやら神保さんが土魔法で作ったらしいんだ。



 因みにこうしたショールームは、よく夜中に壊されて窃盗のいい標的にされるんだけどな。

 毎晩天使たちが見張ってて、きゃっきゃ言いながら窃盗犯を隣のネバダ州の砂漠や、アルカトラズ島に転移させてたよ……

 そいつらもさぞかしびっくりしたろうな……



 ショールームの中に入ると、クラス1からクラス5までの捕手用防具と打者用防具が展示されている。

 それ以外に各種各色のケブラーベストやカラフルでスタイリッシュなヘルメットもだ。


 なんかもう、完全にブランドショップか美術館みたいでスゴいんだぜ。



 同時にサクラメントテレビでCMが流され始めた。

 デイリーサクラメント紙上でもデカい広告が出た。

 来週土曜日の12:00から、まずミリーフィールドの特設売り場で販売開始とのコメントがついて。

 それで、当日『捕手用防具1セットと打者用防具2セットのフルセット』をお買い上げ下さった方は、もれなく俺の直筆サイン入りポスターが貰えるともあったんだ。




 販売開始当日、11:00にミリーフィールドに行った俺は驚いたよ。


 だってあの広い駐車場が満杯なんだぜ。

 しかも特設売り場の前にはとんでもなく長い列が出来てるんだ。

 こ、これ、2000人はいるんじゃねぇか……

 サクラメントテレビのカメラも入ってるし……

 それにどうもなんか嬉しそうに列に並んでるのは年寄りが多いんだ。


 エリックが雨天練習場と大量の椅子を貸してくれたんで、サクラメント・プロテクターの社員たちも総出で列の整理に当たってたよ。


 それで予定を繰り上げて11:15から販売が始まったんだ。

 俺は6つある販売ブースの真ん中でポスターへのサインを頼まれた。

 まあ、実際に直筆ですよっていうデモンストレーションだな。


 それでまた驚いたんだけどさ、クラス5の少年野球用フルセットをみんな8セットとか買っていくんだよ。

 そ、それ1セット1700ドルだから、日本円で計290万円だぞ!


 そうか……

 俺のサイン入りポスター8種類をコンプリートしたいんか……



 それに俺知らなかったんだけど、アメリカでは家業を息子や娘に譲って引退する社長さんは、引退記念に地域のために寄付をする習わしがあるそうなんだ。

 でももうみんなさんざん寄付して来たもんだから、寄付先が公園整備とか花壇造りとか病院への寄付とかしか残ってなかったんだと。

 だからこうした直接子供たちの安全に関わる寄付は、最高の対象だったらしいな。


 ついでにもう11月だから、今寄付すると年度末の税金控除の対象にもなるし、その控除額の上限がちょうど1万5000ドル(≒315万円)だったんで都合も良かったらしいわ。


 それで札束や小切手置いて領収書と引換券と俺のポスター貰った年寄りたちが、別のブースに行って、サンフランシスコ市郡3市の小学校と中学校と高校の名前が表示されているのを見るんだ。


 そこでまず購入者は『御名入れ』を選ぶんだよ。

 例えば『サクラメント・ダウンタウン・サウスストリート、ジョンスミス寄贈』とか。

 そうして『寄贈先』は各地の小学校や中学校になるんだ。

 まあほとんどは自分が通ってた学校や孫が通ってる小中学校なんだけど。


 そうすると渋谷物産の社員が壁に表示されてる小学校名のところに印をつけて行くんだけど、それで小学校の欄が埋まって行くたびにどよめきが起きるんだ。


 でもさ、別に小学校1つにつき1セットまでとかいう決まりは無いよな。

 キャッチャーだってデカいのと小柄なのが2人いるかもしれないし。

 それでもすぐに小学校の欄が、L、M、Sのサイズ表示で埋まって行くんだよ。


 それでサクラメントの小学校が全部埋まると、なんかため息が漏れてたわ。

 次は中学校が埋まり始めて、高校が埋まり始めて、さらにはサンフランシスコの小学校まで埋まり始めてたけど……


 でもそれだけじゃなくって、自分たちの草野球チーム用に1フルセットとか2フルセットとか買っていく連中も実に多かったんだ。


 中にはクラス1の最高級防具を捕手用と打者用1セットずつ買ってた人までいたもんな。

 なんでも俺とジョーの大ファンで、俺たちが使ってる防具と同じものがどうしても欲しかったんだと。


 それ……

 両方で1万5000ドル(当時≒315万円)なんですけど……


 思わず俺ポスター8種類渡して握手もしてあげたよ。

 なんかそのおっさん泣いてたぞ……

 今日は人生最良の日だとか言いながら……



 もちろん孫連れて来て防具をセット買いしてるジジババも実に多かったわ。

 列の中にサクラメントとサンノゼの市長さんを見つけたときにはびっくりしたけど……


 さらに孫たちにヘルメットやケブラーベストを選ばせてる人も多かったな。

 野球場で観戦するときとか自転車に乗るときとかに着せたいらしい。



 でもさ、そういう子供たちって列に並んでるとすぐに飽きちゃうだろ。

 なんか周りを走りまわってるし。


 そしたらさー、エリックがワイルドキャッツのキャッチャーを連れて来たんだ。

 それで室内練習場で客が座って順番待ってる前で、俺に投球練習しろって言うんだわー。


 ま、まあもちろん投げたけどさ。

 肩が暖まったあとには時速110マイルのストレートとか……

 それも場所が室内練習場だったもんでキャッチングの音が凄いんだ。

 子供たちも耳塞ぎながらイッパツで大人しくなってたよ。


「さあみなさん、とくとご覧ください!

 これこそ世界最速のストレートです!」


 なんかエリックもノリノリだったわー。

 ま、まあファンサービスだもんな……


 で、俺が50球ほど投げ終わると、次に出て来たのがベンチプレス用の機器よ。

 それで俺、トレーニングパンツとアンダーシャツ姿でベンプレやらされたんだ……


「それではこれからミラクルボーイが、自身の持つ400キロの世界記録に挑戦致します!」


 420キロのバーベルが出来上がると、みんな目が真ん丸になってたわ。

 実物をお見せ出来ないのが残念だけど、この420キロバーベルって見ただけで笑っちゃうぐらいデカいんだぜ。まるで漫画だわ。

 ワイルドキャッツの選手たちまで大勢見に来てるし。


 それで俺もノリノリでノーギアでバーベル挙げたらもう大歓声よ。

 まあ客が喜んでくれてなによりだ。



 そんなこんなで予定時間を大幅にオーバーして、ようやく夕方には販売会が終わったんだ。


 渋谷物産の社員たちの集計によると、その日1日でクラス3のフルセットが310セット、クラス4が508セット、そしてクラス5が実に1523セットも売れたんだと。


 それ以外にもメットやベストも売れに売れてたから、総売上高が2500万ドルになっちまったそうだ。

 それって日本円で50億円以上だぞ……



 これさ……

 売り上げ50億円のうち、八王子製作所に支払う特許料12%や渋谷物産に払う販売管理費も含めて、原価って68%だったんだ。

 だから粗利が32%で16億円もあったんだわ。

 ま、まあまだここから法人税は払わなきゃなんないけどな。

 でも、この粗利を出資比率で割って特許料も加えると、八王子製作所の取り分は10憶円にもなるんだぜ。

 つまり上野は日本から持ち込んだ5億円を使って、あっという間に200%の利益を上げたことになるんだよ。


 なんか上野のヤツ、喜びを通り越して顔が蒼ざめてたわ……




 翌日日曜日のゴールデンタイムには、サクラメントテレビの特集番組でこの販売会の様子が流された。

 購入者の列の前で俺が投げたり筋トレする様子もばっちりな。

 それで市内すべての小中学校や高校に防具フルセットが3セットも寄贈されるって報道されて、学校関係者は大喜びしてたそうだ。


 逆に、補助金用意して待ち構えてたサクラメント市の担当者はがっかりしてたそうだけど……




 翌月曜日から商品の配送が始まった。


 名入れが終わったものから順次、購入時に登録されていた配送場所に届けられて行く。

 自分で寄贈先に直接持ち込みたい人は自宅へ。

 ほとんどの分は小中学校や高校への直接配送になる。

 さすがはクーリエ便で、事前に電話で宛先人が登録先住所にいるかどうか確認してから配達するし、配送先が学校なら野球クラブの管理責任者の所在を確認して直接渡していくんだ。



 で、これは俺のアイデアだったんだけど、30人ほどいるクーリエたち全員にクラス3の防具を身に着けさせたんだよ。

 みんな、バイクや自転車の大型荷台に縦長の箱に梱包されたセット1式を乗せて市内中を走り回っているんだけど、これが実に目立つんだ。

 最初は黒装束のクーリエたちを見てぎょっとする人もいるんだけど、でもすぐにテレビで見慣れたギガンテスの選手が着けてるものと同じだってわかるし。


 へへ、どうだい、最高の宣伝だろ。 

 配送がたまたま昼休みと重なると、クーリエたちが校庭でガキンチョ軍団に包囲されて身動き取れなくなるそうだしな。


 サクラメント・クーリエではワイルドキャッツを解雇されてた連中も新たに雇ってたよ。

 ほとんどがまだあんまり英語が喋れない連中だったそうだけど、この仕事にそれほど語学力は要らないからなぁ。

 実際、フルセットって到底一人で運べる量じゃないからだいたい3人で配送するんで、新人でも市内の地理に詳しい先輩の後についていけばいいし。


 まあ仕事としては重労働に分類されるから給料もいいけど、ついこないだまで野球漬けだった若い連中には、軽労働にしか思えないそうだし。

 それに先輩と話してるうちに英語も覚えるし。


 こうして、サクラメント市内全域の全ての学校465校には、3週間ほどで防具セットが行き渡ったんだ。

 箱の中にはさすがの渋谷物産が用意したカラー印刷の厚い説明書が入ってて、生徒たちは歓声を上げながら試着しているそうだ。


 そしたらさー、野球クラブの入部希望者が激増したのはもちろん、キャッチャー希望者も殺到したんだと。


 それまではキャッチャーってあんまり人気無かったそうなんだ。

 まあ立ったり座ったり疲れるし、ファウルチップで痛いメに遭う可能性が大きなポジションだからな。

 それがキャッチャーになればあの防具が着けられるっていうんで、希望者激増だと。

 中にはチームの半分がキャッチャーになりたがった学校もあるらしい。


 それを聞いたジョーはいつもの通り「ふん」とか言って不愛想だったけどさ、でもなんかすっげぇ嬉しそうだったぜ……




 それからもショールームでの防具販売は絶好調だった。


 会社帰りのお父さん連中が子供にメットやケブラーベストを買って行くんだ。

 ついでにネックガードもかなり売れてたけど。

 別に野球やってなくても、普段の生活の中でも使えるし。

 アメリカ人って子供の安全にナーバスだしな。

 それにメットなんか今まで見たこと無いほどクールなんで、子供も欲しがるそうだ。



 さらにはサンフランシスコやサンノゼでもショールームが作られて販売も始まる予定になっている。

 もちろんあの話題のCMも流し始めてるし。



 これでもう防具販売は上野に任せておいても大丈夫かな……





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