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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
108/157

*** 108 CM撮り ***


この物語はフィクションであります。

実在する人物や組織、用語に類似する名称が登場したとしても、それはたぶん偶然でありましょう……

また、リアルとは異なる記述があったとしても、それはフィクションだからです……

みなさま、リアルとフィクションを混同されないようにお気をつけ下さいませ。



 



 サンフランシスコでギガンテスの優勝パレードが行われた。


 去年は市内3キロ四方ほどを交通止めにしてパレードしてたけど、今年は市内全域を封鎖してのパレードだそうだ。

 沿道に集まった観衆も120万人近いんだと。


 俺はホームラン王のタイトルを獲ったジョーと一緒に先頭のオープンカーに乗せられたわ。

 ああ、もちろんまたモヒカンの被り物もさせられたよ。

 今年は毛の長さが1メートルもあるやつ。

 しかもモヒカンのサイドに『ミラクルボーイ』とか『ザ・キング・オブ・モヒカン』とか電飾がついてるんだわー。

 さすがに少し首が疲れたんで、途中で『身体強化』かけてたけどな。



 その後の市長公邸での祝賀会も凄かったわ。

 カリフォルニア州選出の上院議員さんが2人(定数2)に、下院議員さんが35人(定数51)も来てたよ。

 どうやら欠席の下院議員さんはロサンゼルス(ドジャース)とアナハイム(エンゼルス)周辺の選挙区のひとだけだったそうだ……




 祝賀会の合間をぬって、俺はジョーに話しかけた。


「なあジョー、俺たちが出資した会社のあの防具なんだけどな。

 それなりに在庫も溜まって来たし、販売を始められそうなんだけどさ。

 販売開始と同時にテレビでCMも打ちたいと思ってるんだよ」


「俺ぁお前ぇとシンヤに全て任せると言ったろうが。

 だがまあいい考えだな」


「それで、ジョーにもそのCMに出て貰いたいんだ。

 もちろん俺も出るけど」


「そのCMで、お前ぇが俺に球ぶつけまくるんか……」


「あ、ああ……」


「それはいいが、それだけじゃあ打者用防具の宣伝が出来ねぇな。

 お、ちょうどいい。標的用の打者が雁首並べて来やがったぜ」


「や、やあ、クリス、フィリー」


「おおユーキ、マジな顔でジョーとなに喋ってんだ」

「面白そうな話なら俺らにも聞かせろよ」


「い、いやそんなに面白いもんでもないんだけどな。

 俺とジョーが防具制作会社に出資してるのは知ってるよな?」


「おお、あの防具を作る会社だろ。

 あの防具のおかげで俺ぁ今シーズン4発もデッドボール喰らったけど、なんともなかったわ」


「俺も内角球が怖くなくなったんでな。

 おかげで打率もずいぶんと上がったぜ」


「それでさ、ようやく生産体制が整ったんで販売を始めようと思うんだが、その前にサクラメントテレビでCMを流したいんだ。

 俺とジョーが出演するんだけど、クリスとフィリーにも出来れば出て貰いたいと思って……」


「それって子供用も売り出すんか?」


「もちろん」


「ってぇことは俺たちギガンテススーパースターズが宣伝して、防具が売れれば売れるほど子供たちが怪我しなくなってってぇ寸法か……」


「いい話じゃねぇか。俺は乗るぜ」


「俺もだ」


「で、でもまだ小さな会社だからクリスたちにあんまり出演料を払えないんだよ……」


「だったらあの肉10キロで手を打とうじゃねぇか」


「おほ! またあの肉喰えるんか♪ 乗った!」


「す、済まねぇな。でもほんとにそんなもんでいいんか?」


「お前ぇはあの肉の価値がわかっちゃいねぇな」


「報酬にあの肉貰えるってわかったら、女房子供が大喜びだぜ♪

 俺が打率部門で8位になったことよりよっぽど喜ぶだろうな…… 

 とほほ……」



 そしたらさー、その会話をまたサンフランシスコ市郡の3人の市長さんたちに聞かれちゃったんだ。


「おお! とうとうあの防具を売り出すのかね!

 それでギガンテススーパースターズがCM撮りするのか!

 それ私たちにも見学させてくれ!

 ウチの用具補助金承認担当者も連れて行くから、一緒に承認も受けてしまえばいいな」


「ユーキとジョーがサクラメント市長や市の職員の前でパフォーマンスを行ったと聞いてな。

 我がサンノゼ市ではいつやってくれるのかずっと待ってたんだよ」


「ならば、キャンドルスティックパークでCM撮りも承認もまとめてやってしまったらどうだ?」


「素晴らしい!

 そうだ、友人たちも連れて行っていいかな。

 証人が多いほどそのCMがヤラセではないとはっきり言えるぞ」


「え、ええ、もちろんですよ……」



 それでその場にブレットにも来てもらって、あれよあれよという間にCMと承認会の話がまとまっていったんだ……

 球団が使ってるCM撮り専門の会社も紹介してくれるっていうし。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


 1週間後、CM撮影会兼承認会当日。


 予定時刻前にキャンドルスティック・パークに行った俺は驚いたよ。

 だってホームベースの脇にスタンドが出来てるんだぜ。

 そこでは100人近い人たちが飲み物片手に楽しそうに喋ってるし。


 それがまた錚々たるメンツでさ。

 ほとんど祝賀会のとき並みなんだわ。




 CM撮りが始まった。


 まずはジョーがフル装備で出て来てキャッチボックスにしゃがみ、大きな声で言うんだ。


「おいミラクルボーイ! 思いっきり投げ込んで来いやぁ!」


「おう! 取り損ねて怪我ぁすんなよ!」


 それで俺が投げたストレートを、ジョーが捕球せずに防具でカインカイン弾くんだよ。

 このシーンは実際のCMでは早回しにして、マシンガンみたいにボールが当たっているようにするそうだ。

 はは、防具に弾かれて観客席に飛んでったボールは、観客の間にいるワイルドキャッツの若手たちが捕球してるよ。

 まあVIPたちに怪我をさせるわけにはいかないからな。


 ジョーは最後にマスクにボールを受けて後ろにひっくり返った。

 そしてすぐに起き上がる。


「おいおい、お前ぇの球はこの程度の威力なのかよ。

 蚊が刺したほどにも感じなかったぞ。

 これでよく最多勝のタイトルなんぞ取れたもんだ。

 おい、お前たちも試してみろや」


「「 おう! 」」


 フィリーが右打席に、クリスが左打席に入った。

 もちろん2人とも打者用防具フル装備の上にフェイスガード付きヘルメットを装着している。

 俺はそれぞれにまた10球ほどデッドボールをぶつけたんだ。


「ほんとだ、ぜんぜん痛くないぞ!」

「はは、リーグMVP投手の球とか言っても大したこと無かったんだな」


 そこでマスクを脱いだジョーが大写しになる。

 そしてマジな顔で言うんだ。


「野球少年たちよ。

 野球って面白いよな。

 でもな、その面白くって楽しい野球で怪我をしたらつまんないだろ。

 だから、デッドボールや自打球が当たっても怪我しないように、ちゃんと防具を付けような」


 そうしてギガンテスの誇るクリンナップトリオが並んで立って、にっこり微笑むんだ。

 まあこんなシーンを、数回繰り返して録画していったんだよ。



 そしたらさー、なんとキャッチャー用防具フル装備のサンフランシスコ市長さんが出て来たんだよ。

 どうやらシニアリーグでのポジションはキャッチャーらしいんだ。

 それで俺に投げろって言うんだわ。


 仕方無いから130キロぐらいのストレートを投げたんだけど、これも捕球せずに全部防具で弾くんだ。

 最後はやっぱりマスクで弾いて後ろにひっくり返ってたけど。


 俺は走って行ってすぐに助け起こしたよ。

 そしたらさ、市長さんが立ち上がってマスクを脱いでにっこり微笑み、カメラに向かって大きな声で言ったんだ。


「サンフランシスコ市郡のみんな!

 もう野球で怪我をする時代は終わったんだ!

 これからはギガンテスの選手たちのように、怪我をすることなく野球が楽しめるぞ!」って……



 俺は感動しながらも心配したよ。

 公職にあるひとがこんな一企業のCMなんかに出ていいんかね……



 そしたら案の定CMの放映が開始された後、市議会で野党共和党の代表が質問に立ったんだ。

 如何にも神経質そうな中年のおばちゃん議員だったけど。


 そうしてやっぱり一企業のCMに出た市長を糾弾したんだ。

 市長にあるまじき行為だ、場合によっては解任決議案を提出するとかリコール運動を起こすとか喚き散らしてな。


 そしたらさ、答弁に立った市長が議場を見渡して堂々たる態度で微笑んだんだ。



「確かに市長が一企業のCMに登場するなどという行為は前代未聞です。

 ですが、あのCMで防具が普及すればそれだけ野球の事故は減るのです。

 去年1年間でデッドボールや自打球を受けて病院に運び込まれた方は、3市合計で312人もいました。

 そのうち155人は子供たちです。

 わたくしは、子供たちも含めた市民のみなさんの怪我を無くすために、敢えてあのCMに出ました。

 もちろん頼まれたわけではなく自主的にですし、謝礼ももちろん受領しておりません」


 ここで市長さんは一旦言葉を切って、微笑みながら議場を見渡した。


「子供たちの怪我が無くなるのならば、わたくしは問責決議案でしょうが解任決議案でしょうが甘んじて受ける覚悟であります!」



 議場の議員さんたちは全員立ち上がって拍手したそうだ。

 もちろん野党共和党の議員さんたちも。


 ああ、この市長さんもおとこだったんだな……


 どうやらそれで市長の支持率も20%近く上昇したんだと。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 サクラメント・チタニウムの会議室には主要メンバーが揃っていた。

 アメリア社長を始めとしたサクラメントの企業の社長さんたち、八王子製作所の専務さん、渋谷物産サクラメント駐在員事務所の所長さんに加えて、サンフランシスコ支社の支社長さん。

 それからもちろん俺と渋谷夫妻。


 渋谷物産のひとたちまでモヒカンになってたのには笑ったわ。

 いくらなんでもモヒカンにしないと取引しないわけじゃないのに。

 たまに東京の本社に出張すると、みんなギョッとするそうだし。


 でもサンフランシスコ支社から来たって言うと、みんな「ああなるほど」って言って納得してくれるんだと。

 なんだよそれ……



 そうそう、その場でみんなにギガンテスのロゴやデザインがタダで使えるようになったことを報告したら、すっげぇ喜ばれたよ。

 これで随分売れ行きが違うだろう。

 もっとも俺がギガンテスにいる間だけだって聞いて、ずっといてくれって懇願されたけど……


 それで喜んだ専務さんが塗装用の機械を調達して、塗装専門のラインも作るそうだ。

 それで少し販売開始が遅れることになったんだけど、まあ構わんだろ。


 それからサクラメント・プロテクターと渋谷物産の間で販売代理店契約が締結された。

 サクラメントの社長さんたちには誰も小売りの経験が無かったからな。


 販売代理のフィーは、小売価格の10%と格安だったよ。

 普通は20%から30%になるそうなんだ。

 まあさすがに社長令嬢と次期社長候補の御威光だわ。



 翌日から渋谷物産は、サクラメント市内の目抜き通りにショールーム用の店舗を探し始めた。

 どうやら、サクラメント・プロテクターを出来うる限り助けろっていう副会長さんからの指示もあったらしいんだけど、既にドル売りヘッジで800億円も助かってたから、そのお礼っていう意味もあったんだろう。


 ついでに渋谷物産はサンフランシスコ市内の小さなクーリエ便の会社を買収して、サクラメントに出張所を作ってたわ。

 クーリエ便っていうのは主に会社同士なんかで書類や小包を配達する会社のことだ。

 このころのアメリカにも宅配便みたいなもんの会社は出来始めてたんだけど、これが酷かったらしいんだわ。

 配達先が留守だったりすると、平気で玄関先に荷物置いて来たりするし。

 雨が降っててもな。


 だから、配送料は若干高いんだけど、『手渡し』を確約してるクーリエ便を使うことにしたそうだ。


 この会社は渋谷物産もけっこう使ってたそうなんだけど、社長が親身に教育してたおかげで、クーリエたちが相当に真面目だったそうなんだ。

 それでその会社を買収した後も、その社長に経営をすべて任せたらしいな。



 その日からみんなで忙しく準備に入った。

 特に工場のスタッフはたいへんだよ。

 給料も上げたし強化プラスチックや皮革製品やケブラー繊維加工の協力会社からも臨時で助っ人従業員さんも来たけど。

 ワイルドキャッツを解雇された連中も8人ばかり雇ったそうだ。


 それでも従業員が足りなさそうだったんで、上野がアメリアさんにどうしてもっと人を雇わないのか聞いてみたんだと。

 そしたらアメリアさんがにっこり微笑んで教えてくれたそうなんだ。



「あのねシンヤ、会社にとって大事なものってたくさんあると思うの。

 商品の知名度だったり技術力だったり組織だったり社長のリーダーシップだったりね。

 でもわたしが最も大事だと思うのは、従業員の真摯さなの。

 ほら、うちは航空機エンジンのタービンブレードや人口骨なんかのチタン製品を作っていたでしょ。

 だから製品が不良品だったりすると、それが即人の命に関わって来てたのよ。

 それで主人と一緒に、一生懸命真面目な社員を育てて来たの。

 今のうちの社員は絶対に手を抜かないわ。

 それはもうシンヤもコースケも工場で働いてて気づいてるでしょ」


「はい、みなさん実に真面目なんで驚きました……」


「そうなの、私たちみたいな会社には最初から器用な子は要らないのよ。

 だって真面目に10年も働いていれば、みんなマイスターになれるんですもの」


「なるほど……」


「それでね、そうした真面目な人たちの職場にいっぺんに大勢新人を入れてごらんなさい。

 必ずその新人たちは『真面目にやってもサボってても給料一緒だもんな』って言ってみんなで手を抜き始めるの。

 元からいた従業員たちが何を言っても徒党を組んで言うことを聞かないし。

 だから雇うときは必ず一人ずつ雇うことにしてたの。


 そうして、真面目に働く20人のグループの中に入れて半年もすれば、その子もそれが当たり前だって思って真面目に働くようになるのよ。

 特に不良品を見つけた時には大げさに褒めてあげたりもして。

 仮に2人いっぺんに雇ったとしたら、必ず職場は別にするわ。

 そうして真面目な社員になる教育は、その職場の人たちに任せるのね」


「だから先日雇った8人も、全員違うラインに入れたんですね……」


「ふふ、あなたもよく見てるわね。

 それから、私はアパートメント経営もしてるの。

 それで従業員たちには格安で貸してあげてるんだけど、街の各地にわざと離れた場所に8棟も建ててるのよ。

 まとめて建てた方がコスト的には安かったんでしょうけど。

 そうして今度入社した子たちは全員違うアパートメントに入れてあげたの。

 最初は心細いでしょうけど、それぞれの寮には必ず同じ国出身の先輩たちがいるから、きっと彼らが面倒を見てくれるわ」


「なるほど…… よくわかりました……

 ご教授ありがとうございました」


 そしたらアメリアさんは、さらに微笑んで言ったそうだ。


「それでもあなたとコースケのように、工場勤務の初日から社員たちを感動させて受け入れられたのは初めて見たわ。

 あれはもう真面目とかいう次元を超越してたわね。

 きっとあなたたちは将来素晴らしい経営者になることでしょう……」









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誠にありがとうございます。深甚なる感謝を。



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