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【転生勇者の野球魂】  作者: 池上雅
第5章 メジャーリーガー篇
102/157

*** 102 『神田メソッド研修会』11 野球能力を上げるための練習 ***



「このように、アメリカの高校生スポーツでは、監督やコーチに不満があれば生徒さんはすぐに野球部を辞めて他の競技に移ってしまうのです。

 さすがに3Aのチームになればそのようなこともありませんが。

 ただし、マイナーチームにも、先ほど申し上げたように過労や故障を避けるために練習には厳格な制限があります。

 筋肉痛や肩肘膝に違和感を覚えた選手は、すぐに練習を中断してストレッチを始めるか、ドクターが常駐する診療所に向かいますし」


((( 本当にそんなことが行われているのか…… )))


((( そんな甘えを一切排除して地獄の特訓を熟して根性を鍛え上げた日本の選手たちが、なぜそんなヤワな大リーガーたちに完膚無きまでに負けたというのだ…… )))


((( ま、まさかいくら根性を鍛え上げても野球は上達しないとでもいうのか…… )))


((( ひょっとして本当に我々は根本的に間違っていたのでは…… )))



(神田: 当り!)



「そうした中で、選手たちは皆筋肉痛にはなりにくい打撃練習には力を入れています。

 ナショナルリーグではピッチャーも打席に立ちますし、同程度の球威のピッチャーでしたら打率が高い方がメジャーに呼ばれますから、ピッチャーもかなり打撃練習はやっていましたね。

 そしてストレッチなどを除いた練習時間実質5時間ほどのうち、ワイルドキャッツでは最近かなり『神田メソッド』に力を入れています」


「『神田メソッド』は大リーグの2軍でも採用されているんですか!」


「はは、向こうでは『ユーキメソッド』と言われているんですが、実は2軍どころかあの世界最強のギガンテスでも採用されています。

 私共の研究室からも、ワイルドキャッツに2人、ギガンテスに2人の合計4人を専門のコーチとして派遣していますし」


「なんと……」


「去年ワールドチャンピオンになれたのは、『ユーキメソッド』のコーチングのおかげもあるということで、4人合わせて1億2000万円もの報酬を払ってくれたのには驚きましたけど」


「い、1億2000万円……」


((( ひ、1人当たり3000万円!

 お、俺の年収の15倍以上っ! )))



(神田: 俺の年俸、登板1試合当たり1000万円超えてるんだけど……

 1試合でこいつらの年収5年分かよ。

 高校野球部コーチの収入ってマジでそんなに安いのか。

 あーだから毎日生徒ぶん殴ってウサ晴らししてるんか……)



「あ、あの…… これから研修して頂ける『神田メソッド』は、本当に同じものなんでしょうか……」


「秘匿部分があるとか……」


「いいえ、全く同じものですよ」


「それを無料で教えて下さるというのですか!」


「い、いくらなんでもそれは……」


「はは、ギガンテスとの契約は、アメリカの他のメジャー球団にはコーチを派遣しないというものだけです。

 それに秘匿するも何も、神田くんは既にこのメソッドの理論をアメリカのスポーツ医学学会の論文誌に投稿して新人賞も貰っていますからね。

 もうとっくに公開されているテクノロジーなのですよ。


 もちろんみなさんもお読みになれます。

 残念ながら日本の論文誌は発行部数が限られているために、大学の研究機関や国立国会図書館などでしか閲覧出来ないのですが、アメリカの論文誌は購入することが出来ます。

 もちろん英語で書かれていますが」


((( くっ…… )))



「ですが、実はあのメソッドはコーチング無しでは難しい部分もありますから、論文を読んだだけでは簡単に真似は出来ないでしょう」


「それにしても、無料での研修とは……」


「これも『神田メソッド』考案者の神田くん自身の言葉なんですが……

『この研修をきっかけに、水を飲ませないとか1日3キロ以上走らせるとか筋トレもさせないとか筋トレさせてもBCAAやリジンを摂取させないとか……

 そういう無知に基づく無謀な練習をさせるアホウな指導者を減らせる役に立つのならば、タダで構いませんから俺のメソッドをどんどん広めてください』だそうです。

 これも、先ほど練習中に生徒さんに水分塩分を補給させることにご了解を頂戴した理由になります」


((( ………………… )))




「それではここで休憩を入れさせて頂きたいと思いますが、その前になにかご質問はございますでしょうか」


「あのぉ~、日比山や東大では、練習中に水を飲んでいるんですよね」


「はい」


「それに筋肉痛になったら練習を休ませるんですよね」


「はい」


「投手は日に120球しか投げずランニングも3キロまでで、野手の個別守備練習も30回程度なんですよね。

 さらに筋トレもたった8回2セットを10種類だけですか」


「はい」


「それでは根性を鍛えるための鍛錬はどのようにやってるんですか?」


「いえ、やっていません」


「えっ!」


「日比山や東大はいわゆる『根性練習』は全くやっていません」


「そ、そんな莫迦な!

 根性を鍛えずにどうして強くなれるんですかぁっ!」


「みなさんの指導されている生徒さんの中には、水を飲ませずとも倒れることなく、うさぎ跳びも最も長距離を熟し、長距離ランニングも苦にしないという根性に溢れた生徒さんもいらっしゃると思います。

 それでその生徒さんの野球能力は高いですか?」


((( うっ…… )))


「あなた方の仰る『根性練習』の能力の高さと、その生徒さんの野球そのものの能力の高さは本当に比例していますか?」


((( うううっ…… )))


「『根性があれば勝てる!』という発想は『大和魂があれば勝てる!』として太平洋戦争に突入した愚かな軍部と変わりませんよ?」


((( あうぅぅぅぅっ…… )))



「日比山も東大も、そしてワイルドキャッツもメジャーリーガーもあなた方の仰るいわゆる根性練習は全く行っていません。

 一方で日本のプロ野球選手は高校時代から根性を鍛えまくった結果、プロになれたと仰るのですよね」


「も、もちろん……」


「それでは何故その日本のプロ野球選手たちが、根性練習を全く行ってこなかったメジャーリーガーに完膚無きまでに負けたんですか?」


「そ、そそそ、それは……」


「多分ですが、日本球団の2軍選手たちの練習時間はワイルドキャッツの選手たちの倍はありますでしょう」


「も、もちろんそうでしょう……」


「ですが日本の2軍ではその練習時間の半分以上が根性練習に費やされていますし、おかげで投球練習や守備練習、打撃練習は極度の筋疲労状態と脱水症状の中で行われています。

 筋疲労がない状態で集中力をもって野球の練習が出来たのは、せいぜい30分か1時間ほどでしたでしょう。

 最初に根性練習をしていれば0分です。

 つまり、彼らはまともな状態での野球そのものの練習時間が極めて少なかったために、メジャーリーガーに比べて遥かに劣る野球能力しか得られなかったのですね」


「「「 !!!! 」」」


「これに対してワイルドキャッツの選手たちには、水分不足も筋肉痛もありませんし、ましてや根性練習もしていません。

 つまり、練習時間の全てが『野球能力を上げるための練習』だったのです。

 日本の選手はいくら苦痛に耐えて根性を鍛えても、まともな状態で野球の練習をしなかったために野球は上達しなかったのでしょうね」


「ええええええっ!!!

 そ、そんなことがあるわけないでしょう!

 きっと彼らもなにか特別な根性練習をしてるに違いないですっ!」


「これは『神田メソッド研修会』です。

 そして、神田メソッドには根性を鍛える鍛錬などは本当に全くありません。

 あなたが指導されたいのは『根性鍛錬部』なのであって『野球部』ではないのでしょう」


「えっ……」


「もしどうしても根性練習のノウハウをお知りになりたいのならば、この研修会に参加されるのは全く無意味です。

 根性を鍛えたいのなら、あなたも含めて自衛隊の体験入隊に参加されるか、ボクシングジムにでも行って殴られまくってきてください」


「ええええええええ―――っ!」



((( …………………………… )))



「それでは休憩後は本格的な『神田メソッド』の研修に入りましょう」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 そういえば、ナショナルリーグの他の球団も、薄々『ユーキメソッド』の存在に気が付き始めたんだ。


 それに当然トレードなんかでギガンテスやワイルドキャッツから獲得する選手もいるんで、そいつらからメソッドを聞き出したらしいんだよ。


 でもなー。

 そいつがティーバッティング始めたら、『こんなリトルリーグみたいな練習やってられるか!』って言って誰もやらないんだと。

 メトロノーム訓練なんかみんな笑って馬鹿にしてたそうだし。

 動体視力訓練も、ソフトが無けりゃなんも出来んわな。

 それで首周りの筋トレを各自が勝手に始めたもんだから、首を痛めて全治1か月とかいうヤツが続出したそうなんだ。

 それでそのチームでは『ユーキ・メソッド』禁止になっちまったんだと。



 みんなアフォ~だよなあ。

 元になった論文も読まずにトレーニングコーチもいないのにそんなことしたって、効果が無いのは当たり前じゃん。


 ウチの場合はジョーっていう強力な推進者がいたしな。

 1億2000万円も年俸払ってコーチ呼んで、チームリーダー兼トレーニングマネージャーが毎日真面目にやってたら、みんなだって真剣に取り組むだろうに。

 しかもそれで打撃成績も爆上がりしてたんだし。


 お手軽に模倣出来ると思う方が間違いなんだわー。




 それから5年ほどで、日本の高校野球界には随分と興味深いことが起こったんだ。


 全体大付属高校って、確かに甲子園常連校だったんだけど、それまでは甲子園ベスト4が最高成績で優勝経験は無かったんだよ。

 それが『神田メソッド』を採用して、さらに1試合で平均3人以上のピッチャーに投げさせるようになって、1年後にはとうとう初優勝を飾ったんだ。


 しかもそれからも付属中学から『神田メソッド』を実践して来た連中が上がって来るもんだから、『春夏甲子園8連覇』とかやらかしちまったんだ。

 もちろん全体大も明治神宮大会4連覇とか。

 もう練習試合はプロの2軍相手にやってて、勝率5割以上だそうだし。



 原宿先生は『神田メソッド研修会』を毎年開催するようになったんだけど、研修参加者の中には少ないながら若い監督もいるだろ。

 もちろん教員監督で、それも進学校の監督が多かったし、中には体育科以外の教師もいたわけだ。

 そういう連中は野球の経験が無い奴も多かったんだけど、その分研究熱心だったんで各地で開催されていたコーチ研修会にも参加してたんだな。


 でもさ、そういう体育会系じゃない若い教員たちは、普通のコーチング研修に疑問と不満だらけだったそうなんだよ。

 まあそりゃそうだよな。

 そういう研修の場に高野連合から派遣されるような『講師』って、元強豪高校野球部監督とかコーチとかばっかりだろ。

 つまりまあ脳筋どころか碌に字も読めず、論理的思考能力とか皆無な奴らばっかりだもんな。


 例えば、

『あの、なぜ野球の練習なのにうさぎ跳びなどをするのでしょうか』とか質問すると、『根性を鍛えるためだ!』とかしか言わないしな。


 それで、

『なぜ根性を鍛えると野球に上達出来るのでしょうか』とか聞いても『そんなことは当たり前だろう!』とか怒り始めるし。


『ところでそもそも『根性』とは何なのでしょうか』とか聞くとさ、もう質問者の胸倉掴んで『貴様俺を舐めてるのかぁっ!』とか激怒して怒鳴り散らすワケだ。


 そう、当時の『指導者』って、自分の『指導』に他人が従うのが当たり前であって、質問された経験なんかまるで無かったんだよ。

 自分が若いころにも質問とかしたこと無かったし、与えられた練習を疑問に思ったことも無かったし。

 だから質問イコール自分の権威への反抗としか捉えられなかったんだ。

 そういう指導者層の知的能力の欠如と怠惰のせいで、当時の野球選手たちの野球能力は完全に停滞してたんだな。


 そうした『講師』連中は、高野連合に戻っても、

『やはり大卒の教員監督は生意気で反抗的である!』

『すぐにも高校野球界から大卒監督を排除すべきであるっ!』

 とかホザいてたわけだ。

 まあ本人は劣等感の裏返しだっていうことには気づいてないんだろうけど。


 

 でもさ、たまたま原宿研修会に参加した若い教師たちは、その場でもう感動しまくったわけだ。

 なにしろ非論理的な練習は全て否定されているし、如何なる質問に対しても科学的、論理的な答えが返って来るしな。

 そもそもいくら質問しても原宿先生はむしろ喜んでいるし。

 しかも生化学だの栄養学だのって自分が知らなかった知見がバンバン出て来る上に、それが全てあの神田選手が開発して実践し、世界の学会でも認められた成果なんだから。




「あの…… ところで多くの指導者の方がよく口にされる『根性』とは本質的に何なのでしょうか」


「そうですね、現在の指導者の方にとって、あのような定量分析が出来ない抽象的概念は非常に都合のいいものなので、みなさんが好んで使われていらっしゃるだけのものだと思います」


「と、おっしゃいますと?」


「まず、多くの指導者の方は『勝つために根性をつけろ!』『そのために俺の言う通りにしろ!』と仰いますね。

 それで予選などで好成績を上げると、『俺の指導のおかげだ!』と言うことが出来ます。

 ですが、もし成績が悪ければ『お前たちの根性が足りなかったからだ!』とも言えるのですよ。

 このように便利なためにみなさん根性論を好まれるのでしょう」


「は、はぁ……」


「そのように根性論を濫用すれば、

『何故あれほどまでに根性を鍛えたのに負けてしまったのだろうか』

『そうか、根性の鍛え方が足りなかったのだな!』

 という具合に反省もしなくて済みますしね。

 

 つまり根性論とは『知的考察が出来ない方が縋りつくための方便』であり、『進歩や変化を嫌う老人性病質者が毎日同じことを繰り返すための言い訳』でもあるのでしょう」


「うわぁ……」


「また、根性論の根幹を為す概念として、『いったん野球を志して野球部に入部したからには、辛いとか苦しいとかの理由で途中で辞めてはいけない』という考え方もあります。

 これはまあ指導者だけでなく生徒さんも持っている思い込みですが。


 そして、こうした生徒さんの思い込みは、『自分の命令で他人が苦しむことによってエンドルフィンを得られる』という社会病質者ソシオパス的性癖を持った指導者の方にとっては非常に都合のよいものなのですよ。

 なにしろどれだけ理不尽で無意味な『根性錬』をしても、誰も大怪我で運動不能になったという以外の理由では辞めませんからね。

 おかげでその性癖がますます肥大化して行きますので、特にご年配の指導者の方ほど重症化していきます」


「は、はぁ……」


「私共の研究室では、研究の一環としてこうした社会病質ソシオパス指導者の行動も調査しようと試みたことがあります。

 ですが、実際に練習などの実地調査に行くと、例え名刺を渡して身分証まで見せて他校の偵察ではないと証明したとしても、監督さんの方針で一切の練習見学が出来ないことがほとんどでした。

 どうやらそうした見学者を追い払うことが、若手のコーチさんたちの仕事になっているようですね。


 そして、そういう野球部ほど監督やコーチの方が『根性』という言葉を口にされることが多く、また大怪我で退部される生徒さんが多かったようでした。

 それも筋挫傷や靭帯損傷によるものだけではなく、木刀や拳で殴られたりする傷害事件によるものが半数以上を占めています。

 このように、『根性』という言葉は犯罪行為の隠蔽のためにも使われているのですよ」


「うわわわ……」


「それにしても不思議です。

 自校の練習を非公開にされている方々の練習ほど工夫が見られないのです。

 要はうさぎ跳びに始まる根性錬と1000本ノックと長距離走と過剰な投げ込みしかさせていません。

 つまり他校に知られたくないノウハウなどは全く存在しないのです。


 にも拘わらずなぜ練習を非公開にしているのか。

 これはやはり殴る蹴るの暴行犯罪を隠蔽するためとしか思えません。

 ということはですね、彼らは心の片隅に刑法に反することを行っているという認識があるのですよ。

 要は確信犯としての反社会的勢力なわけです。

 今後はいつの日か司法組織に逮捕され、法的措置を取られた上に巨額の賠償金支払いを命じられるでしょうね。


 それでも監督さんがそうした不法行為を続けていかれるならば、それは本人が裁かれても致し方ないことでしょう。

 まあ生徒さんは気の毒ではありますが。

 ですが、ここにお見えになられていらっしゃる方の中にはコーチの方も多いことと思われます。

 そうした方々は、逮捕される前に速やかにそうした反社会的上司のいる職場からは離脱されることを強くお勧めさせていただきます」

 


 まあ、それで研修参加者のうちジジイ監督や中年のコーチは額にぶっとい青筋立てて激怒してたそうだし、若いコーチ連中は顔面蒼白になってたそうだわ。

 まあ思い当たることが山ほどあったんだろうな。



「そうそう、そういえば神田くんが『根性』について興味深いことを言っていました。


 彼が言うには、

『わたしにはいわゆる『根性』とか『精神力』と呼ばれるものがほとんど無いんですよ。

 というよりも、野球能力を上げるためにはそんなものは全く必要無いと思っていますし。


 例えば筋力を上げて球速を速くしたいとか、バットスイングを速くして打球の飛距離を伸ばしたいという目標を立てたとします。

 そうした際にも、『最も楽をしながら、かつ短時間の努力で目標を達成するにはどうしたらいいか』って常に考えてるぐらいですから。

 そうすれば筋疲労の無い状態で多くの種類の練習が出来ますしね。

 日々の投球練習も、120球以上投げると必要以上に疲れるのでそこで止めてしまうぐらいですし。


 そのような合理的な方法を模索するために、他の研究者の方が書いた論文なんかもよく読んでいますし、その中でもこれはと思ったものについては自分の体で実践して効果を確認しています。

 そうした根性無しのわたしにとって、『体づくりのためには筋トレ3割食事7割』なんていうのは最高の方法論ですね。

 なにしろ食べることについては『根性』なんて要りませんし。

 必要なのは栄養素を吟味して必要量を確認するという『知的努力』だけですから。


 それに、野球能力を上げるための練習については、最大の敵は筋疲労と水分塩分の不足による運動能力の低下なんです。

 これらを避けられた上に、練習がより楽で効果的に出来れば最高ですよね。

 そうした点で、メトロノーム訓練や動体視力訓練なんかも素晴らしいですよ。

 なんせ座ったままで夜に部屋の中でも出来るわけですから。

 根性も要らずに短時間で効果的に打率が上がるなんて言うこと無いでしょう。


 つまりですね、アスリート本人やその指導者にとって最も大事なのは、トレーニング方法を考察するという知的能力じゃないかと思うんです。

 そうした知的な努力が困難な気の毒な方々が縋りつくのが『根性』という抽象論なのではないでしょうか。


 ですが、その『根性を鍛えるための練習』とやらが、多少なりとも野球能力の向上に役に立つならともかく、実際にはアスリートの故障を誘発したり、甚だしきは運動能力の低下を齎していますからね。

 それも全国的に。


 おかげで、少し科学的なトレーニング方法を考案するだけで甲子園で3連覇して6大学野球でも8連覇出来ましたから。

 あれはわたしや仲間たちの努力の結果と言うよりも、他の全てのチームが『根性練習』のおかげで停滞していてくれたからだと思います。

 そういう意味で『根性練習』にも感謝しないといけませんかね、ははは』

 だそうです」


「「「 ……………… 」」」

  



 それでさ、若い教員監督連中はそうした科学的で合理的な練習方法にすっかり感銘を受けて、生徒たちに『神田メソッド』を全部説明して自校の野球部でも試しに実践し始めたんだよ。

 まあ本当にガリガリの進学校だと毎日の練習は生徒たちも嫌がる奴は多かったそうなんだけど。

 だから3年生は練習参加自由にして、2年生も夏以降は参加自由にして、1年生主体に試しに毎日練習をしてみようっていうことにしたそうなんだ。

 それも平日は5時まで、休日も3時までの練習にしたんで、塾なんかに行きたい奴も行こうと思えば行けるわけだな。


 もちろん筋トレはするけど、水は飲み放題だし根性練習もランニングも無しで。

 地域の鉄工所とかに頼み込んで、あの籠型バーベルも作って貰ったそうだし。

 なんか監督が河原で石拾って来て、重さ計ってウエイトも作ってたらしいな。


 それに筋肉痛の奴は練習休ませるし、ピッチャーはウオームアップも含めて120球しか投げさせないし。

 グラウンドの隅では監督やマネージャーが大豆潰したりミキサーで野菜ジュース作ったりしてるし。

 なんか1年生たちも、神田選手が考案したあの日比山と同じ練習方法だって聞いてワクテカだったらしいな。

 

 そしたらさ、やっぱり1年生たちが疲れない練習に驚いたそうなんだ。

 まあ俺が日比山のコーチ始めたころとおんなじだ。

 特にティーバッティングは喜んでたそうだし、筋トレもみるみるウエイトが増えてみんなマッチョになって行くからな。


 それで、1年後の夏前に新2年生チームと3年生主体のチームで紅白戦やってみたそうなんだよ。

 3試合ぐらいやって夏の大会のベンチ入りメンバーを決めるためにって。


 そしたらやっぱり3年生チームは2年生チームにボコボコにされちまったそうなんだ。

 3試合とも2年生チームの圧勝で、得失点差合計20点以上とか。

 おかげで夏の大会のレギュラーは全員2年生になったらしいんだ。


 しかもそのノーシードの進学校2年生チームが、いわゆる野球強豪校って言われるような私立や工業高校や商業高校をパカスカ負かして、とうとう県大会ベスト4とかにまで行っちまったんだと。

 なんか強豪校の監督たちは呆然としてたそうだわ。

 野球部員たちは学校中のヒーローになってるしな。





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