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本編5 雨降りの街ザザ2

 ◆


 多少霞がかった空に剥き出しになった肌色の大地。小雨がパラパラと降り続ける。

 街道から外れた名もなき場所。そこには黒いローブを着た人間の純種達が歩いていた。その向かう先には吸命の杭があり、ステラたち殺戮人形の群れが陣取っている。


「おぉ……あれが……あれこそが神の塔!」

「神の使者様たちもいらっしゃるぞ……!」


 ──彼らは盲目な子羊たち。アトラスフィアの民でありながら旧神メアクリスに縋った異教徒と呼ばれる者たちだった。だがその中に教会で育てられた捨て子も存在する。共に連れられて不安がる子供たちに修道女らしき女性は優しく声をかける。


「大丈夫ですよ、何も怖がる事はありません。神様はちゃんと私達を見ていて下さってますからね」

「う、うん……シスターが一緒だから怖くないよ」

「俺たちなら平気平気!」


 子供たちは気丈に振舞うが、回りの信者の様子がいつもシスターの教会で見る時より凄みがあり、恐ろしく感じていた。皆は靴やズボンの裾を泥で汚しながら進む。もうこれ以上汚れても全く気にしないとでも言わんばかりに進み続ける。

 ……そして、吸命の杭の根元に辿りつくとそこには、ステラが雨が降っているにも関わらず全く雨に濡れた様子も無く立っていた。子羊たちは土で汚れる事も気にせず跪き、その愛らしくも無表情なステラを見上げ祈った。そのステラが口を開く──それは彼らにとって、神から預かりし言葉。


「良く来た、忠実なる、神の子たち」


 その声は細く儚く、硝子の様に透き通った声は子羊達の心に染み込む。しかし、次なる神の試練の言葉は彼らにとってどう捉えられただろうか。


「じゃあ、早速だけど。此処で死んで」


 それは幸福の副音か否や──。


 ◆


 ──スラム街。

 灰色の石造りの老朽化の進んだ建物が立ち並び、所々に緑色のコケが生えている。人気がまだ所々にあり、避難が進んでいないのが現状だった。


「この街の近くに殺戮人形の部隊が来ている! まだ残っている者は軍の指示へ従って避難してくれ!」


 ランページの獣戦士の一人が避難を促す声を上げる。


「こんな事になるならばワシらはメアクリスに逆らうべきでは無かったのだ……!」

「ここを捨ててどこに逃げるってんだよ!」


 建物の窓から住人の様々な声飛び交う。獣戦士の一人が溜息をつくと、同行していたシェリルの肩をポン。と叩き声をかけた。


「ここは俺達に任せてお前さんはお仲間の所へ行ってやんな。なぁに、強引にでも引っ張って連れても良いという許可は得ている」

「すまない、分かった。恩に切る」


 シェリルは教会へ急ぎ走り出す。

 教会はシェリルにとって沢山の思い出が詰まった場所、こんな薄暗くて雨ばかり降る街でも皆の笑顔が集まった場所。

 ──ギイィィィ。天使の羽で装飾された扉が老朽化した木の悲鳴を上げながら開く。


「おい、皆無事か!?]


 シェリルはいつもの調子で明るく出迎えてくれる仲間達とシスターの柔らかい笑顔が見れたという錯覚を一瞬得たが──。そこには人一人として居なかった。


「……もう避難したのか? いや、避難場所には居なかった筈──」


 何か手掛かりになる様な物を探すが、見当たらない。そうしている内に開いたままの入口のドアからシェリルは気配を感じ銃口を向けた。

 そこにはボロボロのコートを来た人間の青年、年は十八程だろうか。腹から血を流しながらドアにもたれかかっていた。


「シェリル……帰って来てくれたんだな……ぐ……」

「ロイド、喋るな!! 今止血する!!」


 それはシェリルのスラムの仲間だった。

 血相を変えてシェリルは後方支援用救急用バッグの中の包帯と止血剤を取り出す。


「俺はもう死ぬ……腹に大穴が空いちまってる、はは、スースーしやがる……」

「くそ!! どうしてこんな事になった!?」


 ロイドの腹を見ると内臓を貫通し、出血も多過ぎる。

 こういった状況はスラムでは稀に有り、シェリルは初めてでは無い。

 相手が生きられるか死ぬかは嫌でも把握出来た。

 ──ロイドは最後の力を振り絞り、言葉を紡ぐ。


「聞け、シスターが俺を撃った。言う事を聞かない子は天罰だってな」

「シスター・エレジアが? お前何を言って──」


 シェリルはロイドが何を言っているのか頭で理解し切るには急過ぎた。

 育ての親である彼女の事はシェリルが一番知っている筈なのだ。


「ごほっ……ごほっ……! 残念だが、嘘じゃねぇよ……空から降ってきた『神の塔』の生贄になれってよ。その後、ガキ共を連れてスラムを出て行ったのを見た」


 シェリルは頷き、言葉に耳を傾ける事しか出来ない。

 ロイドの手を強く握りながら、ただ只管に。

 その目の光が失われるその時まで──。


「犠牲になったのは俺だけじゃ無ぇが死体を探すのは後にしろ……。ガキ共を助けてやれよ、優男……」


 雨は優しく降り続けるが裏腹に──心の傷に痛く染みる物だった。シェリルは首を左右に振ると彼の意志を継いだように拳を握りしめ、立ち上がった。今考えるべきは──このままシスターを追うか、『ランページ』へ報告へ向かうかだ。


 ◆


「ご報告します、ヴォルフ獣戦士長! 住民の避難の方なのですが、一部の者達は避難意志が薄く誘導に手間取っているとの事です!」

「チッ、やはりこの街は一筋縄じゃ行かねぇか。死人が出てからじゃ遅ぇ! ここの兵をさらに百人連れて強引にでも避難させろ!! その後は住人達の護衛を頼む!」

「了解致しました!」


 ランページの後方支援部隊の戦士の一人がヴォルフへの報告を終え、次の指示を受けると住民の説得へと戻って行った。ヴォルフは腕を組みながらレナとシエラが馬車から下りてくるのをそのまま待っていると、ようやくといった具合で二人が順に降りて来た。


「おい、お前らどうした? 何か元気が無ぇみたいに見えるが」

「そんな事無いよ! ねー、シエラ?」

「はい! 私達は元気な花の十六歳ですよね、レナ!」


 両手を絡め合いながらヴォルフの方を見る二人の息の合ったポーズにヴォルフは狼狽えた。


「お、おぅ! そ、そうだな? 元気で仲が良いのは良い事だな!」


(馬車の中で何があったんだこいつら……)


 ヴォルフは目を閉じて頭を少し項垂れながらゴシゴシと赤色の獣耳を掻いて気持ちを整理した。そこに馬に乗った斥候の戦士がパシャパシャと地面の水を跳ねながら街の外から現れる。


「ご苦労、救命の杭の周辺の状況はどうだった?」

「ご報告します。杭の根元に滞在する人形の数、約三百程を望遠鏡で視認。人間の純種と思われる者達が多数、20名程と思われます。黒いローブを着用している者が二十名程。その中で教会の修道服を着た女が一名と子供が4名程です。身なりからして子供達はスラムの子供ではないかと……」

「何だと!? 誰が敵か分からねぇ! 異教徒の奴らは大人しいだけかと思ってたら……ここで動きやがったか。……というか奴ら、子供まで人質を使おうって腹かよ!! くそ……分かった。……それでイヴ・イルシオンはその中に居たか?」

「いえ、イヴ・イルシオンよりも背丈が少し低く、あまり見た事の無い黒いドレスを来た子供は確認しています。髪色は金髪で長い両側の髪の毛を結んでいました」


 ヴォルフは一緒にいる人間たちの情報と、そのドレスの子供の容姿の情報に不安を覚えたが、一先ず次の事を考える事にした。


「分かった、それで戦場の足場のと回りの地形の方はどうだ?」

「現在の雨の状況ですと問題は無いのですが、杭周辺の地面の土は柔らかく、雨の量が増えると足場が悪くなる可能性があります。また周囲はほぼ平地で隠れる所などは見当たりません」


 戦士達に比べて殺戮人形達は身軽だ、足場が酷くなる前に決行したい。殺戮人形は雨だろうがなんだろうが動じない。どしゃ降りの雨でランページ側の士気が下がる事も予想しなければならない。


「分かった、少しばかり時間が必要だ、休んでてくれ」


 その言葉を聞くと斥候の兵士役目を終え戻って行く。


「シエラ、知恵を貸してくれ。俺一人じゃどうにもなりそうに無ぇ」

「お話は聞かせて頂きました。私にも作戦があります」

「私も一緒に考えるよ! 任せておいて!」


 二人で話を始めようとしている所にレナが名乗りを上げる。


「おぅ、何だか今日は特にやる気じゃねぇかレナ」

「ふふ、敵さんは私という切り札がいる事に愕然とするのだ!」


 レナはいつもの調子で元気なポーズでそう言ったが、その後はいつもより真剣な表情をしていた。


「……シェリルからも意見を聞きたかったんだけどな、後方支援部隊として教会に向かわせたが、まさか敵のど真ん中に居るシスターってのは……まさかな」


 ──数分後。


「吸命の杭へ向けて行軍を開始する! 覚悟はいいかお前ら!!]

「──オオォォォオ!!」


 ヴォルフが号令を掲げると、戦士達が闘志がわき上がる様な雄叫びを上げる。ついに一本目の杭の封印の為、約八百もの戦士達が行軍を開始する──。

 ──そして、遂に戦争が始まる。刻は太陽が真上から傾き落ち始める頃。雨の勢いに変化は無い。

 ただ一つだけ、決定的に違う事があった。巨大な吸命の杭にツタが巻きつき、そこから紫色の水晶の蕾が三つ咲いていた。

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