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本編12 ランページ本拠地帰還

 ◆


 中央都市エミーリアへとランページ軍は帰還する。

 街の人々の様々な感情のある視線を浴びながらランページ戦士団本部の砦へと入っていく。

 軍の規模がさほどでもない事から砦の規模はそれ程大きく無く、作りもそれほど強固な訳では無い。

 しかし、これからの事を考えてか敷地内へ新しい施設が建てられようとしていた。


「新兵育成施設の増築か、順調に進んでやがるな」

「おぉー、ボロっちぃ建物が立派になってくね!」

「もうちょい柔らかく言ってくれや、レナ」


 容赦のないレナのボロっちぃ発言にヴォルフがツッコミを入れる。


「俺達は今からマルファスの所へ行く。シェリルはランページへ正式に加入する事にするのか?」

「それについてだが、テレジアの扱いによるな」

「なるほどな、まあ悪い様にはしねぇ。アトラスフィアの民は良くも悪くも緩いからな」


 ヴォルフはシェリルに安心させるかのような笑顔を向けると馬車から降りた。

 続いて他の四人も砦内の敷地へと足を降ろす。

 そしてテレジアの見張りの戦士も何名が同行し、軍の執務室へと歩き辿りついた。

 そしてドアをコンコン。とノックし応答を待つ。


「どうぞ」


 そう中から声がしたのでレナはドアを開け中へ入った。

 すると天井にぶら下がっている箱が何かの仕掛けで開き、紙辺が舞い落ちて来た。

 ──パチパチパチパチパチ!

 そして何故か響き渡る拍手。


「おめでとう諸君! 敵の軍を見事圧倒したそうじゃないか、全くもって素晴らしいぃぃ!!」

「え、何かなコレ?」


 頭を紙まみれにしながらレナ達は何が起こったのか分からないという様子だ。


「パラパラボックスだな。教会でもやった事がある」

「えぇ、懐かしいですねシェリル」

「とうっ!」


 シェリルとテレジアが続けて入ると執務室の机から細い眼鏡をかけた白い軍服の細身で長身の男が飛び降りた。

 華麗な着地と共にシャープな金髪の前髪を揺らしながらマルファス副戦士長はシェリルへ顔をのばした。


「おぉ……おぉ~~、何という美少女! 目が、心が洗われる様だぁ!!」


 そして自分の胸に両手を手を当てクネクネと体をねじっている。


「何だこの変態は……」

「あ、あぁ~、すまねぇシェリル。こいつ普段はマトモなんだが仕事に追われて切羽つまり出すとこうなるんだ」


 こめかみを押さえながらヴォルフはマルファスをフォローしている。

 シェリルはじと目になりつつも鋭くマルファスを観察していた。


「ふむ……アンタの獲物は片手で持つ刀身の長い武器か? 流派もバレスティ一刀流か?」


 ランページ所属のメンバー達は目が点になる。その予想が当たっていたからだ。


「当たっていた様だな。目には自信がある。大体そいつの顔を見れば嘘をついてるかどうかも分かる。だが最も解せないのはアンタが俺を本当に女だと思っている事だ」

「す、す……」

「す?」


 空気が一瞬停滞する。


「好きです、僕と付き合って下さい」

「俺は男だ……」

「構いません」

「俺にその趣味は無い」

「乗り越えましょう」


 シェリルは話を聞かないマルファスを拒絶し続けているとシエラが間に割り込んだ。


「ちょっと何なんですかあなたは! シェリルは私の友達です! 私を通して貰わないと困ります!」

「あはは! シエラってやっぱり面白いー!」

「おぉ!? あなたは天狼の巫女様ー!? なんとお美しい!!」


 両手を広げてシェリルをかばうシエラを見て状況を楽しんでいるレナ。


「だぁー! 話が進まねぇ!! レナ、コイツを落ちつかせろ!」

「イエッサー、ヴォルフ戦士長!」


 レナはマルファスの背後に素早く回り込むとわき腹やお腹をこちょこちょとくすぐり始めた。


「ふおおぉぉぉ! えくすたしぃーー!!」

「ここがええんかー? ええのんかー?」


 ──三分後。軍服を乱れさせ、息を粗げて汗を滲ませるマルファスが完成。


「ふぅ、ふぅ……レナ、あなたも腕を上げた様ですね」

「喜んでもらえた様で何より何より!」

「落ちついた様だな、さぁ本題に入るぞおめぇら」


 パンパンとヴォルフが手で音を鳴らし場を収める。


「何だこの流れ……」

「人間とハーフブラッドって不思議ですね」

「こいつらが特殊なだけだと思うぞ……」


 シェリルとシエラの小声の会話を無視しつつヴォルフが本題に流れを戻す。


「シスター・テレジア、例の物を見せてやってくれ」

「は、はい。皆さん、私の背中を見て頂けると……」


 シスターは教会服の上着を脱いで皆に背中見せた。

 すると、そこには何かの模様が刻まれた痣があった。

 事前にそれを見ていたシエラが皆へ説明をする。


「これはメアクリスの『烙印』です。私のルーン文字を物質に刻むのとは違い、魂そのものに『永続的』に呪いをかけるという恐ろしい存在の力の使い方です。残念ながら……これを消す方法は見つかっていません」

「なんと……この烙印を刻まれた者がメアクリスの魂に乗っ取られるという事ですか?」


 落ち付いたマルファスが質問をシエラに投げかける。


「はい、その通りです。本体から遠隔的にこの烙印の刻まれた魂へと存在の力で繋ぎ、覆う事で疑似的にメアクリスの魂にする事が出来る呪法です。稼働距離は恐らくアトラスフィア全域には及ぶでしょう」

「と、言う事は敵のボスはこの星に今居るという事ですね」

「そう言う事になります、マルファスさん」

「それならばテレジアはまたいつでも操られる可能性があるって事か……?」


 シェリルが冷静な口調の裏に心配を隠し問いかける。


「そうなりますね……。あとこの傷は乗っ取られるまでは存在しなかった様です。事前に対策が出来るとすればレナさんが『視る』事しかないと思います。烙印の刻まれた箇所にはメアクリスの存在の力の残滓が少なからず残っている筈ですから」

「なるほど……レナが鍵か。それで、テレジアの処遇はどうするつもりなんだ?」

「最大限生活が出来る様に配慮するつもりだ。だが機密性の高い場所になりそうだな……監視に声が届かない様にも工夫するつもりだ。メアクリスは言葉で相手を操れるからな。その辺はマルファスに一任する」

「テレジアには心の支えが必要だ、俺も残る」

「……いいえ、シェリルは皆さんのお力になってください」


 テレジアはシェリルを見つめてそうはっきりそう言った。


「シェリルの足枷にならない事が私の望みですから……」

「でも……」

「あなたはここの皆さんと居る時、とても生き生きとしています。私はそれが知れただけでも十分ですよ」


 その言葉を受け取り、シェリルは拳を握り決意する。


「分かった、必ず俺が母さんを開放する、約束だ」

「あの、テレジアさん。一つだけ聞いてもいいですか?」


 シエラがずっと気になっていた質問をテレジアへと投げかける。


「テレジアさんはどうしてメアクリスを信仰して教会を建てたのですか?」


 シスター・テレジアはシエラへ微笑みかけこう言った。


「昔の神様を忘れようとしない方、神様の世界を去り裏切りの罪を深く捉える方、様々な方がいましたが……私はメアクリス様が可愛そうだと思ったんですよ」


 ◆


 その後テレジアは知られざる施設へと幽閉される事となった。

 皆とお別れを言い、テレジアは戦士に連れられ去って行く。


「さて、次の吸命の杭の封印の前にあなた方三人にはして頂く事があります」

「して頂く事?」


 シエラとレナとシェリルがマルファスに聞き返す。


「まず、シェリル君は先の戦場での功績とその眼力や射撃技術を考慮し、正式なランページへの加入を認めます。そして、あなた達三人には新人の面接官をして貰います。あなた方の目と知識と勘が組み合わさればスパイなど簡単に割り出せるでしょう」


 ──そして、ランページ本拠地砦内の大面接会が開催される。



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