思い始める
いつも電車から見る風景。変わらずな風景。変わらない車内の風景。いつもと同じ席に座る自分。まるでこの空間だけが、通常の時間軸とは違う時間軸にあるような感覚を覚える。時計の針がずっと溜まっているような。
誰もがこの変わらない空間に憧れを持つだろう。人間、時が経てば何もかもが変わってしまう。だから人は古来から、不老不死の話や永遠の命の話が絶えないのだろう。
この物語はそんな奇妙で奇怪な時間が止まる空間で起こる不思議な話。
「毎日眺めているけどほんとに変わらないな」
ベランダから眺める少年が、一言ポツリと呟く。
「当たり前でしょ。そういう町なんだから」
後ろの方から声が飛んでくる。
「なんでそんなに毎日眺めてるの」
続けて声が飛んでくる。
「んー。なんとなく。母ちゃんは何か思った事ない?この町のこと」
「もう慣れた。まあもちろん最初はなんで変わらないんだろう、とか。けど考えても分かるわけないんだから途中でやめたよ。そういう町なんだって無理やり納得したよ」
「そっか。やっぱそんなもんか」
少年と母親は会話を少し交わした。そして少年はまたそんなもんかとガッカリしたような表情を一瞬見せた。少年の心には、しこりのような何がずっと体内にあった。それはまるで回らない歯車のような違和感だった。
「ここに住んでいる奴らはみんな同じ年齢にみえるよ。不思議だよ。ここは18歳で皆んな成長が止まる。そこから老ける事もない。時々母ちゃんの事も母ちゃんであることがわからなくなるよ。まあ、もちろん自分も友達もだけど」
少年は、家のベランダから朝食の用意がされているテーブルに向かうまでに、誰に向けて話しているか分からないが、思っていることが口から出ていた。朝食を食べながら少年はパンをかじると共に、自分の中の疑念も飲み込んでいった。
朝食の後は必ず牛乳を飲み干して、寝癖を直して家を出る。ルーティンワークとして毎朝行なっている。その中には自分のいる世界不気味さを考えることを含まれていた。毎日思うからこそ段々と慣れていき、殺されて行くのかもしれない。
少年の朝は日陰に時たま日が差すようなもので、決して明るいものではないのだ。
家を出た後友人と待ち合わせる。学校に行く時には友人と一緒に行く。友人は行ってきますと微笑んで、家に向かって別れを告げた。
「おはよ」
「おはよう」
と挨拶を返す。その顔はいつもと変わらぬ暗そうではれない顔。