夢想列車一人旅
気が付くと俺はそこにいた。
ここはどこだろうと辺りを見渡す。
列に並べられた座席。
つり革が見える。
電車みたいな乗り物だ。
恐らく3両編成。
だがいつもの乗り慣れた電車ではない。
乗客は俺しかいないようだ。
立ち上がり今の状況を探るため、車掌さんを探すことにした。
すると窓の外から不思議な景色が見えた。
どこまでも広がる開けた景色。
薄く、淡い青が広がっていた。
遮るものが何もないため太陽の光が少し眩しい。
速度は早すぎず、かと言って遅くもなく。
景色を眺めるには最適と言える速度で移動していた。
下を見ると、雲の絨毯が敷き詰められていた。
「どこだここは……。飛行機か?」
一体なんの乗り物に乗っているのだろうか。
ふと我に返り、誰かいないか探すことにする。
乗っているこの不思議な乗り物は、ほとんど揺れがないためスムーズに車両間を移動することができた。
最前車両に移動し、車掌さんらしい人を探すが見当たらない。
しかし、俺の他に乗客らしい人がいた。
戸惑い、とりあえず近くの座席に腰をかける。
すると目が合ってしまい、気まずくなったので軽くお辞儀をする。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
おはようございます。……朝なんだろうか。
ここに来る前の記憶がまったくないな……。
いやでも外を見ると朝っぽいしな。
ちょうどいい。
この際だから聞いてみるか。
「ここって何処だがわかりますか?」
「見ての通り、電車の中ですよ」
「でも外が……。」
「夢想列車です」
「むそう、れっしゃ??」
わけが分からず聞き返した。
再び窓の外を眺める。
顔を近づけ、乗り物の側面を見ると、やはり電車らしい形状だ。
しかし機翼のようなものはついていない。
そして前方の窓を見ると俺は驚いた。
電車が進むに連れてレールが敷かれているのである。
枕木や砂利などは敷かれていない。
再び女性に質問をする。
「あの、雲の上なんですか?」
「そうですよ。この電車は空を走っているんです。」
「どこへ向かっているんですか?」
「明日です」
「明日!?」
明日に向かっている?
もうわけがわからない。
「はい。明日です」
今度はニッコリと言った。
「貴方は何者なんですか?」
「私は夢想列車の管理人です」
「は、はぁ」
すると突然アナウンスが流れる。
ブザーが鳴って扉が開く。
どうやら空中に駅があるらしい。
やがて男の子が入ってきて少し離れた席に座った。
普段見慣れたその一連の動作も、何故か目を離さずにはいられなかった。
扉が閉まり再び電車は動き出す。
しばらく続いていた沈黙になんだか耐えられなくなり、再び口を開く。
「管理人さんこの電車はいつ到着するんですか?」
「貴方だとあと30分ほどですかね」
貴方だと?
どういう意味だろうか。
人によって目的地が違うのか?
いや普通に考えたら当たり前か。
……いや、待て。
そもそも俺の行き先って何処だよ。
その本人すら知らないんですけど。
さっきの男の子はどこに向かうんだろうか。
時々駅で停車はするが、人はこない。
外の景色を眺めて時間を潰す。
景色は相変わらずとても綺麗だ。
その光景に俺は初めて飛行機にのった子供のように感動していた。
遥か上から雲を見下ろしているわけではない。
時々出っ張った雲にぶつかり、雲が弾け、車体が雲を纏う。
飛行機よりも速度が遅いので、視界が戻るまで少し時間がかかる。
雲が途切れ、再び遥か遠くまで見渡せるようになると、不思議な動く物体が見えた。
目を凝らし見てみると、それは電車だった。
どうやら、夢想列車は複数あるらしい、乗客が少ないのも少しだけ納得した。
しばらくして電車は速度を落とし、再び駅に停車した。
男の子は席から立ち上がり、降りていく。
扉がしまると、再び電車は速度を上げる。
「あの、さっきの男の子はもう行ってしまったんですか?」
「はい」
「俺はいつ帰れるんですか?」
「もう少しです。」
「行き先は何処なんですか?」
「先程も言いましたが、ここは夢想列車です。貴方が見る空想の世界へ行き届けるのが目的です」
「何の為に?」
「貴方が望むためにです」
「俺が……望んだ?」
「はい。そうです。あなたが望んだ覚えが無くても、無意識のうちに望んだ世界があります」
「そうした世界に行き届けるのがこの列車です」
俺は返す言葉もなく、愕然としていた。
それから何分立っただろうか。
再び電車が停まりると管理人さんが口を開く。
「さぁ。到着しました。電車を降りてから駅に扉があるので、入ってください。それではまた会いましょう」
今度は笑顔で言った
俺は特に何も考えずに電車を降りて駅に足をつける。
そして扉が締まり、電車は出発してしまった。
動き出した電車を眺めるていると、弧を描きながらどんどん遠ざかっていった。
辺りを見渡すとやはり一面に雲が広がっている。
遥か頭上にも雲がかかっていて、雲に挟まれている。
とても不思議に感じた。
管理人に言われたとおりに目の前の扉を開けて入ってみる。
瞬間、力が抜けて、意識が途絶えた。
気が付くと、俺はベットに寝ていた。
なんだかとても長い夢を見ていたような気がした。
寝ぼけ眼で時計を見ると、いつも通りの起床時間。
なんだろう。どうにも思い出せないな。
でもその空白の時間は決して悪い夢ではなかったと思う。
いや、違うな。
いい夢だった。
何故かそんな気がした。
カーテン越しに伝わる朝の日差し。
今日も今日とて朝が来た。
身支度を済ませ、玄関の戸をあける。
気持ちの良い朝日を浴びながら、大きな欠伸〈あくび〉。
今日もまた職場へと向かうのであった。
どう捉えるかはご自由にどうぞ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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