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馬酔木

作者: 伊月煌

初投稿です。伊月と申します。どうぞよしなに。

初めてのお話はとある男女のお話。最後まで読んでいただけると幸いです。


 彼女、セナが大切な家族を失ってからひと月が経った。

ひと月前、貴族であるセナの家が反乱軍に襲われ、火をつけられた。

命からがら逃げてきた彼女と俺、リトはいわゆる弔い合戦をするための旅に出たのだ。


提案したのは俺のほうだった。

「旅に出よう。俺と、2人で。」

 帰る家もなくなった彼女にあの場に残れというのは酷だと思ったし、生きる理由を作るためならなんだってする。人の命を奪うことも厭わない。そう、思っていたからだ。

 彼女の家は大きな家で、俺はそこの使用人の息子だった。両親は彼女のご両親、詰まるところの旦那様と奥様に仕えていた。俺も彼女の護衛を任されるはずだった。はずだった、というのは旦那様も奥様も俺にその任を与える前に亡くなってしまったのだ。

 俺の両親も、死んだ。旦那様と奥様を庇って俺の目の前で死んだ。昔から主に献身的な両親だった。仕事人間で旦那様と奥様、そしてその子供であるセナのことをとても大切にしていた。子供の俺の目から見ても、かなり仕事熱心だったと思う。彼らは自分の主人のためなら命を懸けることだって厭わない人たちだった。だから、本望だっただろう。自分の大切な主を護って死ぬことができたことは。

 親からの愛情を全く受けなかったわけではなかった。それなりに可愛がってもらったし、家族の時間もなかったわけではなかった。だが他の家族、それこそセナの家族と比べたら団欒と呼べる時間は少なかった。だから彼らが死んだとき、俺の目からは何も零れてこなかった。それよりも、セナの安否が心配だったんだと思う。すぐさま、その場を離れた。何かごっそり削がれたかのようななんとも言い表せない喪失感だけを心の中に抱えたまま。


 そこからのことはいまいち覚えていない。思い出したくもない。俺とセナは二人で旅を始めていろんなところに寄りながら、宿を転々としていた。彼女の心の傷を癒すのが先だと思ったからだ。弔い合戦はその後でもいい。

 そう思いながら再び次の地へ向かおうとしていた時の話である。

 ふと、道端に咲いている白い小さな花が目についた。本当に偶然である。もともと花を愛でる趣味もなければ詳しくもない。目についた、その小さな花を何の気なしに触ってみようと手を伸ばした。刹那、横から白い手が俺の手首をつかんだ。

「馬酔木は毒をもっているからむやみやたらに触ってはいけないわ。」

手の主は少し前を歩いていた、セナだった。彼女がまじめな顔で俺を諭した。

「あし、び……?」

「そう。馬が酔う木と書いて、あしび。葉っぱに毒があって馬が食べると酔っぱらっているようになってしまうからそういう字を書くんですって。」

セナは昔からいろいろな本を読んでいた。植物学にも興味がある。さすがだ、何でもよく知ってらっしゃる。

「ほお……こんな綺麗な花が。」

「あら、リトにも花を見て綺麗って思うような感性が備わっているのね。」

セナは意地悪そうな笑みを浮かべた。失敬な。俺はそうごちる。

「でも、なんで急に花になんて目を向けたの?興味ないでしょう。」

セナは俺が花に興味がないのを知っている。持って当然の疑問だった。

「さあ?花があんたみたいだなあと思ったからじゃないか?」

ごまかしても彼女には通用しない。俺は思ったことをそのまま口にした。すると、その言葉に彼女はきょとん、とした。

「なんだよ。」

「いや……私はどちらかというと、貴方にぴったりの花だと思ったから。」

今度は彼女の言葉に俺が目を丸くした。彼女は何を言い出すのかとも思った。

「はあ?この花が?俺に合ってる?どこがだよ。」

「花言葉が、よ。」

彼女は嬉しそうにそう言った。俺が興味を持ってくれたことがうれしいのか、花について話せることが嬉しいのか。後者だろう、と俺は思った。

「俺が馬酔木の花言葉なんざ知るか。今日この花の名前を初めて知ったんだぞ。」

「そうね。」

彼女は笑いながらそう言った。

「なんで俺みたいなんだよ。」

俺がそう尋ねると、彼女がまた意地悪く笑った。

「教えてあげない!」

そんな簡単に知ったらつまらないでしょ!

彼女はそう言って歩を進めた。俺はその後ろ姿に小さく息を漏らす。そして口角を少しだけ上げた。俺との会話の中で彼女が笑ってくれるならそれでいいと思った。

「何にやにやしてるのよ。行きましょう?日が暮れちゃうわ。」

「……ああ。」

答えがわからないことにもやもやしつつ、彼女の後を追った。

 

 旅の楽しみが一つできた。彼女が俺に課した課題。必ず解決してやろう、そう思って歩を進めた。

twitterに掲載したものを加筆修正して載せたものです。

馬酔木という花の花言葉はあえて載せませんので検索をかけて調べていただければと思います。

少しずつTwitter等に挙げた話を書いていければと思います。

この二人はきっと幸せになる、はず。

これからもよろしくお願いいたします。

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