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ハイセンス神童 5話-終編

 泥棒マッチョは隠し通路を滑り降り、帝国基地の外へと出ました。彼女は立ち上がると数歩足を踏み出します。しかし隠し通路を滑り降りてきたロリコン男が、泥棒マッチョの膝の裏に突っ込みました。泥棒マッチョは顔から地面へと倒れこみます。ロリコン男は彼女の方へ向くと、申し訳なさそうに言いました。

「あ、すみません! 大丈夫ですか?」

 ロリコン男は泥棒マッチョを抱き起こすと、自らの両手で彼女の両手首を掴みます。

「いたた。大丈夫なわけないでしょうが! って、捕まってる! 離しなさいよー!」

 泥棒マッチョは涙目になりながら叫びます。そして両手をぶんぶんと振り回しますが、ロリコン男を振り解くことはできませんでした。

 そうこうしている間に、隠し通路からメクシェルが出てきます。彼女は泥棒マッチョの正面に回り込むと、さわやかな笑みを浮かべて話します。

「逃げなくてもいいじゃないですか。ちょっとお話するだけですよ」

「なんでお話するだけで拘束されなきゃならないのよ?」

「全部話す前に逃げられるとあまりに悲しいのでつい」

 泥棒マッチョが尋ねると、メクシェルは辛そうな表情になって答えます。泥棒マッチョはメクシェルから視線を逸らして言います。

「ふーんだ。どうせ演戯なんでしょ? 小屋で気になる相手がいるとか言って、赤い顔で転げ回っていたみたいにさ」

「え? うーん。ああ、あれですか。あれはあなたの息がくすぐったくて転げ回っていただけですよ。演戯じゃありません。気になる相手って言うのはロリコンのことでした。気になるだけですけどね」

 メクシェルは目を閉じて、思い出しながらという感じで話します。ロリコン男は、メクシェルの言葉が嬉しかったのか目から涙をこぼしています。泥棒マッチョは続けて言いました。

「じゃあ道中での嫌がらせみたいな行為にも深い理由があるのね?」

「それは単に楽をしたかっただけですよ。あと暇つぶしも兼ねてます」

 メクシェルはすぐに答えます。泥棒マッチョは疲れたように息を吐くと、少し投げやりな感じで言いました。

「それで何の用よ。私は空腹で今にも倒れそうなのよ」

「心からの、一生に一度のお願いです。私は今から本当の目的を、生きがいでもある人生の目的を言います。どうかお願いです、否定しないで受け入れて下さい。あなたを再び友達だと思えるかも知れないんです。お願いします」

 メクシェルは目に涙を浮かべ、懇願するかのように頭を下げます。ロリコン男は泥棒マッチョの腕を放すと、付け足すように言いました。

「メクシェル様は、あなたを信じられないことが本当に辛いようでした。信じようにも、あなたの否定の言葉を思い出してしまうと。私からも頼みます。どうか否定しないであげてください」

「え。私ってそんな酷いこと言ったっけ? 言われた記憶は一杯あるけど」

 泥棒マッチョは考えるように頬を掻きながら言いました。メクシェルは不安そうな顔で話し始めます。

「私は女神像の伝説を実現したいのです」

「女神像の伝説? それって恋の女神像の?」

 泥棒マッチョが不思議そうな顔で尋ねます。メクシェルは頷きながら答えました。

「はい。恋の女神が私たちの物語を他の神に語るというものです。あなたが私の部屋で音読していたあれですよ」

 言い終わる頃にはメクシェルは再び涙を浮かべていました。泥棒マッチョは驚いたような声で言います。

「内容をバカにしたから怒ってたのね。そうよ。ドアが閉まってたんだから、本が折れたかなんてわかるはずがないわ」

「はい。そのことです。私はその話の主人公になりたくて。でも主人公になるには大事件の状況を変えなければならないから、だから帝国を乗っ取って世界征服をと思いまして」

 メクシェルは言い辛そうに話します。泥棒マッチョは悩んだような表情で言います。

「世界征服ね。そこまでしなくてもいい気もするけど。そもそもなんで物語の主人公になりたいのさ」

「その。私、熱い恋がしたくて。本で読む主人公には心理描写があり、よく恋の悩みを抱いているのです。でも私はどうにもそういう気分にならなくて。だから主人公になり、恋の女神にお膳立てをしてもらいたいのです」

 メクシェルは溜め息をつきながら話します。そして続けて言いました。

「自分勝手だとは思いますがお願いします。私は世界征服をしますが、そんな私を友達として、いえ親友としてずっと認めていただきたいのです。そして、私に名前を教えてください」

 その言葉に驚いたのか、ロリコン男が尋ねます。

「え、名前を聞いちゃうんですか? 主人公の座を奪われるかもしれないのでしょう?」

「それはあくまで私の推測ですよ。それに親友になったこの人になら」

「嫌よ。あんたの親友なんて」

 メクシェルが答えますが、それを遮るように泥棒マッチョは言いました。メクシェルは一瞬非常に悲しそうな顔をしましたが、すぐに目を閉じてしかめっ面で言います。

「そうですか。ではもう結構です」

「もう限界なの。私はお腹が減ってるの。私との約束覚えてる? 食べ物を取り返してくれるって言ったわよね。あんた、私のおかげで女神像を見つけたのになんで約束を守ってないのよ。ここまで一緒に来たのに、あんまりに酷いわよ。うっ、うえぅっ。ひ、酷すぎよっ」

 泥棒マッチョは最初は不機嫌そうに言い始めますが、言い終わる頃には涙を流していました。メクシェルは片手で自分のポケットを覆います。泥棒マッチョは袖で涙を拭きながら更に言います。

「うぐっ、あ、あんたなんかっ、えぅっ、うっぐ、絶対信じないっ」

「ちょっと失礼。えい」

 ロリコン男は一声掛けるように言うと、泥棒マッチョのみぞおちに分厚い本の角を叩き込みます。泥棒マッチョは声を上げることなく気を失いました。倒れそうになる泥棒マッチョを支えつつ、ロリコン男は言いました。

「すみません、勝手な真似をしてしまって。どうにも悲しい話は苦手でして。この人はどうしましょう?」

「もう、どうでもいいです」

「本当にいいんですか? セクハラしちゃいますよ? ほーらほら」

 メクシェルが答えると、ロリコン男が泥棒マッチョのお尻を触りながら言います。しかしロリコン男はすぐに怪訝そうな顔をしてお尻を触っていた手の動きを止めます。彼の手は泥棒マッチョの膨らんだポケットを触っていました。そして先端の突起部分を押します。

 その時、隠し通路からマッチョ男が滑り出てきて言いました。

「あ。おい。前のボスから奪った自爆スイッチとかいうカラクリがねえんだが」

 マッチョ男が言い切る前に、彼の言葉を遮るかのように凄まじい爆発音が辺りに響きました。どうやら帝国基地の上階が爆発で消し飛んだようです。ロリコン男が押したのは基地の自爆スイッチでした。基地からは火の手が上がっています。三人はぽかんとした表情で顔を合わせます。

 そうこうしていると、泥棒マッチョが「んー? うるさいわねえ」と言って目を覚ましました。また正面の門からは大勢の村人が出てきます。ロリコン男とメクシェルは泥棒マッチョを引き連れて少し離れた位置に移動しました。マッチョ男も後に続きます。

 外へ出てきた村人達は不満げに次のようなことを叫んでした。

「なにがメクシェル王国よ! 爆発で私たちを殺そうとして!」

「報告してたロリコンもグルだ! 探せ!」

「トップの前任者は絶対に捕まえなさい! 帝国人を力で脅し、村の食料を半分近く食べ尽くしたのは彼です!」

 指名された三人は困ったように笑います。そしてメクシェルはポケットから半分に割れたせんべいを取り出し、不思議そうにしている泥棒マッチョの顔へ投げつけます。

「お茶用のお菓子です。どうぞご自由に」

 メクシェルはそう言って走り去りました。ロリコン男は心の中で「可哀想な二人です。しかしこれはメクシェル様と愛の逃避行を行うまたとないチャンス。恋の女神が私に味方しているのでしょう」などと考えながらメクシェルの後を追います。マッチョ男は「おもしれえ」と呟き、村人たちの方へ突っ込んでいきました。

 泥棒マッチョはせんべいをなんとか受け止めると、そのまますぐに口へと運びました。彼女はこの上なく幸せそうな表情でせんべいを食べます。そしてメクシェルたちの走り去った方へ視線を向けると、「半分のせんべいってことはまだあるよね。追わなきゃ!」と独り言を言います。そしてメクシェルたちの向かった方向へと駆けていきました。

 十数分後、爆発で基地の熱が周りに放出されたからか、世界樹の枝に積もっていた雪が下に落ちました。雪は大きな雪崩となって基地を飲み込み、周りに広がります。雪崩に流されながらマッチョ男は叫びぶのでした。

「ぐわあああぁっ! 逃げておくべきだったぁっ!」

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