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幼稚園児は心配性 2 <広希>

大分遅くなりましたが、続きです。

 ときどきおもう。大人って子どものこと、くうきと同じにおもっているよね?むずかしいコトバがわからなくても、ふんいきでだいたい言っていることってわかるのに。


 でもそれが大人と子どもの『やくそく』だ。

 大人が子どもにリカイしてほしくない話は、聞かなかったことにする。


 だってそういう話って、たいていだれかをキズつけるものだから。

 このばあい、キズつくのはママだ。だからオレは聞こえたコトバもソコにこめられているドロドロしたモノも見えなかったフリをしていた。


 だけど、今はそんなヤクソクまもってられない!

 ママがいやがるような話をするヤツはゆるさない!

 いつもはパパがママを守ってくれる。だけど今パパはいないんだ、だからオレがママを守るんだ……!






「広希?どうしたの?」

「……」


 ようちえんからのかえり道、オレは『はいぼく感』でいっぱいだった。

 オレはママを守ろうと、ゆうきを出して『ママたち』の前に立ちふさがった!

 ……しかしママの前に立ったオレは、そこにいなかったもののようにあつかわれたのだ。


 あたまの上でとびかう話を、歯ぎしりしながら聞くしかなかった……オレは、オレは……なんて『むりょく』なんだ……っ。




『……で、あの人ったら広希君パパに近付こうとしているのよ!気を付けた方が良いわよ。でも本当に広希君パパって素敵よねぇ……心配にならない?ホラ、私達はね、大丈夫だけど―――教室でもすっごく人気があるから』

『やめなさいよ、ちょっと。そこまで踏み込むの』

『でもねぇ、以前はバスケットの選手だったんでしょ?その頃なんかとってもモテたんじゃない?とにかく遙ちゃんママには気を付けてね!』




 ああ、そんなイヤな話ママの聞かせたくなかった……。

 オレは自分の力のなさに、おちこんだ。


 『ママたち』はしんせつそうなフリをしているが、目がギラギラと光っていて『きょうみシンシン』に見えた。ママのはんのうを楽しそうに見ている気がして、モヤモヤした。


 だけどママは『そうなんですか?教えていただいて有難うございます』とだけ言って、ペコリとあたまを下げた。そして『じゃあ、広希行こうか?』ってニコリと笑って手をのばしたのだ。


 『ママたち』は『じゃあ、お先に失礼しますね』と言って歩きだすママをだまってみていたけど―――チラっとふりかえると、またかたまってコショコショ話をしはじめた。なんだかイヤなかんじだ。オレはムカムカした。ママをまもれなかった―――だからおちこんでいるのだ。


 おむかえにはエリもママといっしょに来ていて、だけどエリはようちえんに入ってくるなり、のこっている子どもたちの中にとびこんで行った。エリはだれとでも、年上でも知らない子でもかんけいなく話しかけるし、どこでも元気だ……オレとちがって。

 だからエリは『ママたち』がどんな話をしているかなんて、ぜんぜん知らないのだ。それはまだちっちゃいからかもしれないけど、でもきっとエリはオレと同じ年になってもそんなカンジなんじゃないかって、ときどき思ったりもする。




 ママがエリの手を引いたまま、しゃがんでオレと目をあわせてきた。


「もしかしてお腹痛いの?」


 のんきなママの言いかたに、オレはいらだってしまった。


「あのママたち、いじわるだ」

「え?」

「ハルカちゃんママの話してたけど!だって、あのママたちだってパパのことスキなんだよ!なのにママにあんなこというなんて、いじわるだ!」


 しまった……!

 オレはあわてて口をりょう手でふさいだ。

 こんなこと、言うつもりなかったのに……!


 ママは「ん~?」と首をかたむけて、だまってしまった。

 エリはママとつないだ手をブンブンふりながら、パンマンのテーマをうたっている。どこまでもマイペースだ。


 ヒドいことを言ってしまった……。


 ママはおちこむオレのあたまをなでて立ち上がる。


「帰ろっか?」

「……うん」







 ゴハンを食べて、3人でおフロに入った。ママがキッチンであとかたづけをしているあいだ、オレは本を読んで、エリはテレビを見ていた。エリがウトウトして来たのでママとベッドのヘヤに向かう。

 かけブトンをかけても、エリは目をさまさない。ママがオレのフトンを首まで引き上げてくれて、ニコリと笑った。


 そのやさしいエガオを見ていたら、ナミダが出てきた。

 あわててフトンをかぶる。


「どうしたの?!」


 ママのビックリした声。どうしようもなく悲しかったんだ。

 フトンの中からあやまった。


「ママごめん、ゴメンね」

「なに?どうしたの?」


 ママはわからないみたいだった。オレはフトンをめくっておき上がった。


「オレ……ママにイヤなことを言った……」

「ええ?いつ?」

「ようちえんの……かえりに。ようちえんのママたちがパパのことスキだって……」


 オレが小さい声で言うと、ママが目を見ひらいた。


「あっ……ああ!……えっと」


 ママはやっと思いだしたようだ。タメイキをはきだすようにホッとムネをなでてそう言った。


 ちょっとママって『ドンカン』なんじゃないか?ってイラっとする。

 オレがこんなになやんでいるのに。


「ママこそゴメンね。広希、ママのこと大事に思ってくれたんだよね?」


 コクリとうなずく。ナミダが口に入ってしょっぱい。ママがマクラのよこにあるティッシュをとって、オレのほっぺたをやさしくふいてくれた。するとフシギとナミダはスッと止まる。ママの手はまほうの手だ。オレがようやくかおを上げると、ママは目をほそめてオレを見ていた。


「あのね、広希。聞いてくれるかな」


 変わらないママの声のちょうしに、オレのむねのモヤモヤもうすくなってきた。


「あのさ、パパってモテるよね?」

「うん」


 知ってる。今日もモテてたし。パパいなかったけど。

 だからうなずいた。オレがうなずくのを見て、ママはニコリと笑った。


「ママがパパと子供の頃からずっと一緒って知ってるでしょ?パパねぇ……子どものころからずっとモテモテなの。明るくてカッコ良かったから、むかしっから女の子にモテモテなの」

「……そうなの?」

「うん。それってしょうがないよね?パパのせいでもないし。ママもパパのこと、カッコイイと思うもん。だから他のママがパパのこと『カッコイイ』って好きになるの、当り前かなぁって」

「でも……」


 ママが言うことは、なんとなくわかる。

 だけど―――モヤモヤがおちつかない。




「他のママに……パパ、とられたりしない?」




 オレがそう言うと、ママはビックリしたように目を見開いたのだった。


 ようちえんで仲良しのダイスケがいなくなった。ちがう『ほいくえん』にかようことになったんだ。『ひっこすんだ』って言ってた。

 パパがちがう女の人と『ケッコン』することになって、だからダイスケママとダイスケはおばあちゃんとくらさなきゃならないんだって。


 ママはオレの話をだまって聞いていた。それからちょっと考えてから、口をひらいた。


「うーん、そっか。そういうことがあったんだね」


 『ママたち』とうわさ話をしないから、ママはそういうことは知らなかったようだ。オレはダイスケから話を聞いたけど『ママたち』はダイスケパパとダイスケママのことを知っているみたいで、おむかえの時にパパとハルカママの話をするみたいに、むちゅうになって話していたからイヤになるくらいだったんだ。


 ママはオレの手をにぎって言った。


「もしパパに好きな女の人が出来たら……うん。でももしそうなっても、パパが広希のパパだってことも、パパが広希とエリを大事に思うことは変わらないよ。たぶんダイスケ君のパパだってダイスケ君の事を大事に思っているのは変わらないんじゃないかな?」

「でも……!」


 オレはカッとなってママの手をギュッとにぎった。




「オレはやだ!ママとパパがいっしょじゃなきゃ……ヤダよ!」




 大きな声におどろいたのかパチパチとまばたきをしてから。ママはゆっくりと目をほそめた。


「うん、ママもいやだな」

「やだ、やだよ!」


 わがままみたいでこんな言いかた、ホントはしたくなかった。

 だけど止まらない。ママはオレの手をもう一つの手でつつみこんだ。


「大丈夫。ママ、パパを誰かに取られそうになっても頑張るから」

「ホント?」

「ホント、ホント。ママだってパパと一緒にいたいモン。ぜったいパパのこと諦めないから―――だから安心して?」

「ホントに?」

「うん、ゴメンね。心配させちゃって。パパだって大丈夫。だってパパ、広希とエリとママのこと……大好きだから。皆を悲しませるようなこと、絶対しないと思う」


 しっかりとオレの目を見て大きくうなずくママの大きな目。

 それを見て、ようやくオレはホッとしたんだ。




 ママが『大丈夫』って、やくそくしてくれた。

 だからきっと―――大丈夫。




 そうしてまたベッドによこになって、首までフトンをぴっちりかけて目をつぶる。ママがひさしぶりに手でトントンと体をたたいてくれる。トントン……というリズムをかぞえているうちに、トロトロあたまの中がとろけて来ていつのまにかねむってしまった。


広希視点はここまでになります。

締めにもう一話大人視点で追加する予定です。

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