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14.真面目に聞いてます <清美>

清美視点です。

部活から帰ると、私服の高坂先輩が俺の家の敷地から出て来るところだった。

こんなところに、何故?

俺の頭の中で警鐘が鳴った。


「おう、清美。お帰り」

「……高坂先輩。どうして、うちに?」


声がつい上擦ってしまう。なのに高坂先輩は涼しい顔で、プッと吹き出しさえした。俺は不快感に眉をひそめる。


「真面目に聞いているんです。答えて下さい」

「晶ちゃんに家に寄って貰って、遅くなったから送り届けただけだよ」


『晶ちゃん』という親し気な呼び方に微かな不快感を覚える。


ずっと高坂先輩はねーちゃんの事をそう呼んでいた。そしてそれは女の子を呼ぶ時の彼の決まりみたいなもので、誰も彼もを名前呼びする癖があるのを、俺は知っている。


それを今まで不快に感じた事は無かったのに。


「……何で、急に姉に興味持ったんですか。今までそんなこと、無かったのに」


つい眼光に力を込めてしまうのを、止められない。

高坂先輩は俺をあしらうように、苦笑を漏らした。正直そんな仕草も腹立たしい。


「姉は高坂先輩の軽いノリに付き合えるタイプじゃないです」

「俺、別に女の子を弄んでいるわけじゃ無いけど」

「……とにかく姉に近寄らないで下さい」

「何、勘ぐっているんだ?俺と晶ちゃんは、ただの『友達』だよ」

「『友達』って……高坂先輩には他にたくさん女友達がいるじゃないですか。わざわざうちの姉のような真面目な人間で遊ばないでください」

「俺はいつも、真剣だけど?」


何を言っても的を外したような言い方をする高坂先輩に、俺は溜息を吐いた。


話しても無駄だ。


そう感じて―――ナナカマドの横で立ち止まる高坂先輩の脇をすり抜け玄関に向かう。鍵を開けてノブを握ってから―――堪え切れず後ろを振り返ってしまった。


高坂先輩は立ち去らずこちらを見上げていた。

ポケットに両手を入れて鼻歌でも歌っているような、ご機嫌の表情で。


俺はその楽しげな様子を見て呆れてしまった。

彼はいつだって俺をからかい、俺が困っているのを見て嬉しそうに喜ぶのだ。


全く、しょーもない……!


「……姉を送っていただいて、ありがとうございます」

「いーえ。こっちが誘ったからね」

「受験勉強、頑張ってください―――」


いつも俺は彼にからかわれるオモチャに甘んじていた。

部活でからかわれたり、扱かれたりするのは別に良い。そんな事どうでも良かった―――結果としてバスケの実力を伸ばせるのだから。


だけど。




「―――余計な事を考えずに」




俺は意識して鋭い視線を彼に向けた。




ねーちゃんに必要以上に絡んでくるなら、黙っていない。




貼り付いたような薄い笑顔に苛立ちを覚えながらも―――言いたいことだけ言い放ち、俺は玄関の扉を閉めた。







** ** **







ねーちゃんは、高坂先輩に参考書を借りただけだと言う。

高坂先輩のお母さんにトンカツをご馳走になり『ぜひ』にとお土産を持たせて貰ったそうだ。

高坂先輩と2人きりで無かった事に安堵する一方、親に紹介するほど親しい関係になったのかと……胸が焼け付くようにヒリヒリした。

相変わらずねーちゃんの態度は変わらなくて、一定の距離を保って俺に優しく接する。


受験勉強の邪魔はしたくない。

だけど、邪魔をしてT大に受からないようにしてやりたい、という気持ちが消えず俺は自分を律するのにかなりの精神的な労力を消費した。









日曜日。

ねーちゃんは模試に行くと言うので、俺は地崎に誘われるまま、ルバンガ北海道の試合観戦に出掛けた。

最近落ち込みがちな俺を、心配してくれたのだろう……。





だけど、待ち合わせ場所に行って愕然とした。

地崎は1人じゃなかった。地崎の横にイマドキのファッション雑誌から飛び出してきたような美少女が居て、しっかりとその腕に絡み付いていた。


地崎は苦々しい顔で、俺に向って手を上げた。

戸惑う俺に「ごめん、出掛ける直前でコイツにばれちゃって、無理矢理付いて来ちゃったんだ」と耳打ちする地崎。


そうか……良かった。


傷付いた俺の傷を更に抉るためにデートに同行させようとした……という訳では無かったんだ。

最近やさぐれている自覚がある俺は、地崎の誠意を疑った自分を宥める。でも顔色は確実に淀んでいるだろうと思う。鏡を見なくてもそれだけは分かる。


「これ、俺の幼馴染の……」

たける君の彼女の理留りるです!よろしく~」


ギュッと、ますます地崎の腕に強く抱き着く美少女。地崎は若干引き気味だ。


「よろしく。森って言います」


俺も一応、無難に挨拶を返した。


そして俺達は会場へと移動を始めた。

俺、その横に地崎。そしてその腕にぶら下がる美少女、理留。


これ……俺、完全にお邪魔虫だよね??


何を話して良いか分からず、黙々と3人で目的地を目指した。

やがて沈黙が気まずくなって来て……俺は口を開いた。


「地崎とは幼馴染なの?」

「はい!お隣でずっと一緒です」

「そっか……高校は何処?T高じゃないよね」


こんな可愛い子が学校にいたら、噂になっているだろう。俺はこの子の存在を学校で見かけた事も聞いた事も無かったから、違う学校なのだろうと推測した。




「高校生じゃ、ありません。今中1ですっ。健君と一緒の中学でーす」




中1……。


わー、子供だ~。




メイクもばっちりで隙の無い装いの彼女は、下手したら年上に見られるかもしれない。言われて気付いたが口元にどことなくあどけなさが残っているし、ほっぺたがぷりぷりしていて確かに去年まで小学生だった名残りが残っている。


「大人っぽいね」


俺はつい、ちらりと地崎を一瞥してしまった。

地崎はバツが悪そうに、苦々しい顔をしていた。俺の顔にアリアリと『ロリコン』と書いてあるのが分かったのかもしれない。


「雑誌の読者モデルやっているから、見た目はこんなだけど中身は子供だぜ」


地崎が言うと、理留さん……いや理留ちゃんは「ひどーい」と言って拳を作ってポカリと地崎の腕を軽く殴った。


わー……全然痛くなさそう。


(いちゃいちゃしてるなー)


という俺の視線を地崎は受け流した。会場に着いたので、地崎が受付カウンターを示した。


「あそこでチケット買おうぜ」

「ああ」

「理留、ここで帰れよ。別にバスケの試合に興味無いだろ?」


地崎がそう言って理留ちゃんの腕を外すと、彼女はこの世の終わりのような絶望の表情を作った。


「やだっ、理留も行く」

「テレビで試合観戦していても、いっつも寝ちゃうだろ、お前。チケットの無駄だ」

「寝ないモンっ」

「……理留」


地崎が諭すように、優しい声で言うと理留ちゃんは首を振った。


「だって……っ、せっかくモデルのバイト休みで健君に会えると思ったのにっ。いっつも部活ばっかりで家にいないし、夜遅いからって平日は会いに行っちゃ駄目って言うし……理留良い子にして待ってたのにっヒドイよっ」

「仕方ないだろ?理留は夜すぐ眠っちゃうんだから」

「でも……っ」


痴話喧嘩が始まってしまった。


俺は大変居心地が悪い。まして、おそらく2人の逢瀬の時間を減らしたのは自分なのだ。俺の落ち込みようを見てられなかった地崎が、きっと俺を励まそうと休みを潰して試合観戦に誘ってくれたんだ。


いたたまれなくて、俺は2人の会話に割って入った。


「地崎、良いだろ。一緒に行こう。寝ちゃったら寝ちゃったで良いしさ」


言った途端パアッと光が差したように、理留ちゃんが笑顔になった。

両手を胸の前で組み、俺を嬉しそうに見上げる。


「ありがとう!!……えっとー」

「森」

「森君!ありがとー」


さっき名乗ったばかりなのに、名前は覚えてくれてなかったらしい。きっと地崎しか目に入ってなかったのだろう。お礼を言う理留ちゃんの笑顔は全開の無邪気さで、年相応に見えた。

俺のねーちゃんもよく年下に見られるけれど、こんな幼い笑顔を見ると、本来自分は年上好きなんだなって自覚する。幾ら可愛くても大人っぽく装っても、ほとんど小学生に近い子供と付き合うなんて、俺には無理だ。


なんだか地崎を見る目が変わっちゃうなぁ……。


そう言えば、地崎『経験済』の筈だけど、まさかこの子と……?いや、地崎の態度を見ると、理留ちゃんを子供扱いしているから……違うような気がする。じゃあ、もしかしてこの子と付き合う前に既に誰かと……?




……大人だ……。




本当に俺の地崎の見る目は一変したのだった。







** ** **







自由席のチケットを取り、コートに向った。

暫く揉めていた所為か自由席はだいたい埋まっていて、3人分並んだ空席をやっと見つけて座る。両側は既に席とりされているらしく、ジャケットが置かれていた。


物珍しそうに質問する理留ちゃんと、何だかんだ言いながら優しく丁寧に説明する地崎の遣り取りを聞きながらコートを見ていた。すると俺の横に、席を取っていた人物が戻ってきた。




「すいません」




聞き覚えのある声に振り向く。

其処に座ったのは―――鴻池だった。



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