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血薪物語  作者:
8/11

2-1

この話から2章です。

「以上だ。退席したまえ」

「はい。本日はお忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございました。失礼いたします」


 カチャ……パタン。


「ふーっ……。さてマグザ、どうかね?彼は君のクラスになる予定なのだが。」

「面接官に私を指名したのはそういうわけですか……。まだ合否やクラス分けは確定していないはずでは?」

「侯爵家の嫡男が不合格だったなどと聞いたことがないだろう?クラス分けは……あのお方と彼らだけは理事会からの指示だ。同じクラスにせよ、とのな。」

「なるほど、そういう訳ですか。しかしどうして私のクラスに?」

「君なら彼等の肩書にたじろぐことなく、きちんと締めてくれるだろうからね」


 締めた結果の責任を取るのも俺という訳だ、と口には出さず毒づくマグザ。


「わかりました。なんとかしましょう。」

「そう言ってくれると思っていたよ。それで改めて聞くが、どうかね?彼、アーヴィング・ラズニクは?」

「そうですな。あの年の貴族の子弟にしては随分と落ち着いていたのでは?あの年頃だと、爵位を傘に借りて尊大に振る舞うか、親の元を離れて怯えるかが多く、落ち着いて面接を受ける者は少数。その中でも彼はとくに落ち着いていたように見えました。学校生活への意欲も高そうです。」

「ふーむ。たしかに学校生活を楽しみにしておったな」

「後は……、友達の話時は少し暗い表情をしていましたね。これはやむを得ないことかもしれませんが」

「ラズニク家、であるからなぁ……」

「正直、私も教師という立場でなければあまり関わりになりたくないですな。ラズニク家の嫡男の面接と聞いた時はどうなる事かと思いました。話してみると物わかりの良い、素直な少年と思いましたが」

「だがそのような少年でもラズニクの魔法師なのだ、と思うと逆に恐ろしくないかね?」

「人の皮を被った……と言っては非礼でしょうか。理事会も良くラズニク家の者をあの方とセットにしましたな?」

「彼の祖父は陛下の友人にして相談役だからな、その辺りも関係しているのだろうさ。それに新入生の中には侯爵以上の家柄はラズニク家以外にない。それで殿下の相方を外れたとあってはラズニク家の機嫌を損ねかねん。理事会のお偉方もそれは避けたかったのだろうて」

「政治、ですな」


 政治にはいい思い出がないのですがね、とマグザは嘆息した。


「政治は嫌いかね? とはいえここには貴族の子弟が毎年ごまんと入学するのだ。子供とはいえ嫌でも政治には関り続けねばならんさ。手始めに君には担当するクラスの編成をしてもらおう。殿下とラズニク達を含んだ上でうまいことバランスをとってくれたまえ。新入生の魔法師、魔術師のリストと面接結果はこれにまとめてある。三日以内にクラスを編成し、提出してもらおう」

「わかりました。それでは急ぎますので失礼します」

「ああ、頑張ってくれたまえ」


 ガチャ、バタン。


 貴族の複雑怪奇な勢力図に平民を加えて、それをうまく振り分けるのに3日とはな……。そう呟いてマグザは教員室へ足早に戻っていった。


 マグザ・レスコー一代士爵。魔術の豊かな才能を持ち、王立学校を次席で卒業した後、国軍へ入り南方領土係争地域における非正規戦で活躍するも、膝に矢を受けてしまい、その後遺症で前線勤務が困難に。そこで実戦経験のあるほぼ現役の魔術師、という稀有な存在を見込まれ軍を退役、一代士爵の位を与えられ王立学校の魔術・戦術クラスの教員となっている。爵位を気にせず指導を行うため、毎年それが問題となっている。



 一方こちらは面接が終わり、校長室を出て待合室に戻ったアヴィ


「アヴィ様、お疲れ様です。王都へ来てすぐの面接でしたが、問題ありませんか?」

「一時はどうなるかと思ったけど、案外なんとかなるものだね」


 アヴィは面接の一時間前に王都に着いたばかりであり、ほとんど着の身着のままで面接へ臨んだのだ。これは何もアヴィ達がのんびりしすぎたわけでも、ラズニク領から王都までの間になにかイベントが起こったわけでもなく、ただ単なるアヴィの両親による伝え忘れである。アヴィの言うところの『いつもの』だ。


「面接の方はいかがでしたか?」

「無難な感じだったかな?いくつか学校について簡単な質問をされただけだったよ。ヘレナ達も心配することないんじゃないかな」

「私達だけが入学できないなどということは万一にもあってはなりませんからね。とはいえ心配なのはマリアの事だけですが」


 ヘレナ・マリアも魔法師として入学するため、後日に面接が行われる予定だ。


 王都貴族街の外れにある王立学校。その正門から徒歩で5分ほどの、これもまだ貴族街の外れといっていい場所にラズニク家王都屋敷はある。そこへのんびりと手を繋ぎながら帰る二人。


「楽しそうですね?アヴィ様」

「いよいよあの地獄の訓練が終わって外に出れると思うとね……。もう箸が転がっても面白いよ」

「一日一回の確認は続けるつもりなのですが……」

「それでも今までに比べれば遙かにましだよ。最近はもう午後はほとんどずっと火達磨だからね……」


 6才の誕生日以降の6年間、ほぼ毎日のように訓練を続けてきたアヴィ。それから解放されるというだけでもずいぶんの楽しそうだ。


「5時間以上も炎に耐えられるようになられたのは素晴らしい成長ですよ。炎も止めることこそできませんが、大きくはできるようになりましたし」

「その代り料理やら風呂焚きにはこき使われたけどね……。あと全身燃やすと止めた時に全裸なのがね」

「家計が助かってアリア様が喜んでいましたよ。あと服に関しては……まぁしかたないでしょう。マリアは役得などと言っておりましたが」

「あのショタコンめ……」

「あ、ほら急ぎませんとマリアが待ち切れずにご飯を食べてしまうかもしれません」

「それはない……とは言い切れないのがね」


 などと話しながら屋敷へ戻ると、門の脇で掃除をしながら帰りを待っていたマリアに手を繋いでいることをおちょくられ、怒るヘレナと逃げるマリア。その光景をニヤニヤと眺めるアヴィ。


 あの6歳の誕生日から6年半経ち、12才になったアヴィは王立学校へこの9月から入学するのだ。


 このようにして王都での暮らしは始まった。

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