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血薪物語  作者:
5/11

1-4

今回はアヴィ視点です。

 皆さんこんにちは アーヴィング・ラズニクです。

 今日は皆さんに侯爵家嫡男の華麗なる日常を紹介しようと思います。


 まずは朝。今日はヘレナの当番だったはずです。僕がこの暖かい布団に籠って出てこないのを、あのクールで丁寧な黒髪従者がいかにして引きずり出そうとしてくるのか、非常に楽しみですね。


 とんとん。 


「アヴィ様。失礼いたします」


 カチャリ。


「アヴィ様、おはようございます。朝ですよ、起きてくださいませ」


 まずは順当に声をかけて起こしに来たようですね。無論その程度で起きる僕ではありません。


「すー……。すー……。」

「はぁ……。アヴィ様、起きてください」


 ゆさ、ゆさ。


 ヘレナも声をかけて起きないとみるや、すぐに物理的手段に訴えてきましたね。従者になった当初はいくら声をかけても起きない僕の横で右往左往し、いつまでたっても帰ってこないヘレナに業を煮やしたエヴァに『起きる前のアヴィ様を主と思っていてはいつまでも起こせません!』と怒られていたものなのだけれど。


「駄目のようですね……。仕方ありません、アヴィ様失礼いたします。」


 ぐいい。


 早くも布団を引きはがしに来たようですね。いくら僕とはいえお布団様を引きはがされ、そのぬくもりを失ってしまえば数分しか眠ることはできません。なんとしても布団を掴み、抵抗しなければならないのですが……。左腕が何かに挟まっているようでピクリとも動きません。


 ばさあっ。


「……マリア、貴女一体何をしているのですか?」


 僕の左腕はマリアによって、がっちりと抱きこまれているのです。


「なに、まだ寒い季節だ。アヴィ様がお風邪でも召されては一大事と思ってな。湯たんぽ代わりにしていただこうと……」

「それなら湯たんぽを用意すればいい話でしょう!? 」

「温かくて気持ちよかったよ。ありがとうマリア」

「アヴィ様!?」


 ヘレナは知らないだろうけどマリアが朝起こす担当の日は恒例なんだよね、これ。今日のは間違えたのかヘレナを弄くるためかはわからないけど。あ、やばいそろそろ起きていかないと……


「何を騒いでいるのですかあなたたちは?」


 やっぱり。エヴァが来てしまいました。怒りの矛先がマリアとヘレナに向いている間に横をすり抜けないとご飯が冷めてしまいます。そーっと、そーっと……


「アヴィ様どこへ行かれるのですか?」

「し、食堂へ行こうと……」

「寝巻のままで?」

「いやそれは……」

「主の不始末は従者の不始末、従者の不始末は主の不始末です! 三人ともそこに正座なさい!」

「「「はいぃ!」」」


 ご飯はすっかり冷めてしまっていましたよ……。


 そして遅い朝食を食べ終わるとエヴァ先生の座学の時間です。


「魔法とは一部の一族に受け継がれる固有の能力で、基本的にその一族に受け継がれる能力は変わらず、単一です。各家の切り札でもあるので情報はあまり公開されておらず、研究なども公には進んでいません。とはいえそれぞれの家では研究していますし、他家の情報を収集し研究することも行われています。そして魔法を使う者は魔法師と……。アヴィ様?」


 と、ここでエヴァは何かに気づいた様子です。


「……。どうしたんだいエヴァ?」

「起きてらっしゃいましたか?」


 完全に寝てました。僕の部屋は東向きだから、午前中はぽかぽかしてて気持ちいいんですよね。


「勿論だよ! 今日もエヴァの授業は分かり易くて楽しいなぁ」

「ではアヴィ様。魔術についての説明をお願いします」

「魔術とは一部の才能あるものが使用可能な能力。これは一般人にも発現する可能性があり、人数も魔法師に比べれば多いため研究も進んでいて、火・水・土・風の4つに体系化されている。ただし魔法の平均的な性能に比べれば扱いやすいもののはるかに劣っており、対抗するためにはある程度数を用意する必要があるとされる。魔術を使う者は魔術師といわれる。なお、魔術と魔法を両方使えるものは確認されていない。」

「……完璧です」


 エヴァには申し訳ないけど魔法とか魔術みたいな面白そうなものはとっくの昔にこっそり父上の書斎で読んでいるんですよね。エヴァには悪いけれど、座学が魔法魔術の間は休憩に当てさせてもらいます。なんせ午後がつらいので……



 というわけで昼食をはさんで、午後は中庭で実技の時間です。僕には虐待にしか思えないのですが。


 そもそもこの訓練というのは僕の血の権能があまりにもじゃじゃ馬で、それを何とか最低限制御できるようにするために行っているのです。

 どの程度じゃじゃ馬か具体的に言うと、ほんの少しでも血を炎に変質させると、際限なく炎が血を消費して燃え続けるのです。血醒の儀の時などは傷口が大きかったこともあって、レキュペールの癒し手達の助けがあってなお、全身を包むほど燃え広がっていたそうです。本来能力を使う意思なしに、血は変質し続けないはずなのですが……。

 余談ですが、ひどいことにその時の僕を見て父上は


「学生の時のキャンプファイヤーを思い出したよ」


 などと宣ったそうです。僕は薪か何かですかという話ですよ。


 それで、僕が今行っている訓練というのは


「はい、ではアヴィ様指出してください」

「……どうぞ」


 ぷちっ。


「っつ……」

「傷はこれで良し。マリア、ヘレナ、準備はいいですね?」

「問題ありませんエヴァ様」

「私も同じく」


 エヴァによって指先に針で穴を開けられ


「それではアヴィ様、どうぞ」

「ん……」


 ちょろっ……ぼお、ぼおおおお。


「熱い! 熱い熱い熱いいいい!?」


 血を変質させ、右手を火達磨にし


「アヴィ様! 炎を抑え込むのです!」

「アヴィ様! 頑張ってくださいませ」

「アヴィ様、頑張れ!」


 それでもなお数分間放置され


「ここまでですね、ヘレナ、マリア」

「「はい」」


 血醒の儀の時のように、マリアが炎を相殺し、ヘレナが傷口を癒すことで炎の噴出を止める、ここまでが”1セット”なのです。


「はぁっ、はぁっ、時間伸びた?」

「今回は昨日までと変わりはありませんが、それでも最初のころに比べれば1分近くは限界まで長くなっていますよ。確実に炎への耐性はついているかと」

「単に体力が増えただけじゃあないのかな……」

「そのようなことはありません。この調子で続けていけばいずれは炎に対する完全な耐性、あるいは炎に対する制御のどちらかを習得することができるでしょう」

「だといいんだけど……」

「ふふ、そのように屁理屈が言えるなら体力の方は大丈夫みたいですね。もう一度行きますよ」


 この訓練を毎日、僕がぶっ倒れるまで5回程繰り返すのです。

 訓練の後は夕食を何とか胃に詰め込み、マリアとヘレナどちらかの手で丸洗いされた後、ベッドへ押し込まれます。マリアとヘレナによる丸洗いは、最初は拒否したのですが、そうすると次の日からは拒否できる体力も残らない程度の訓練にされてしまいました。僕が侯爵になった暁にはラズニク領内にはあまねく児童相談所を設けることを最優先課題とするべきでしょう。こんなの絶対おかしいよ!



 ……というわけで、僕の華麗なる一日はいかがでしたでしょうか?少なくともエヴァが部屋に来るところまでは華麗だったと思うのですが。


「アヴィ様?そろそろ寝られませんと明日に響きますよ?」

「ああヘレナ、ちょうど終わったところだから今から寝るよ」

「一体何を書かれていたのです?随分と熱心に机に向かわれていたようですが」

「将来ラズニク領を継いだ時に何をしたいかと、その原動力の覚書……かな」

「既に今からそのようなことをお考えとは……流石ですアヴィ様」

「ははは、ソンナコトナイヨ。じゃあもう寝るから。お休みヘレナ」

「はい。おやすみなさい、アヴィ様」


 それでは皆さん、おやすみなさい。


これにて第1章が終了となります。


第1章の用語説明と登場人物紹介がこの後にあります。

文章が稚拙なため背景などがわかりづらいところも多かったと思いますので、是非そちらをご覧になってからもう一度第1章をお読みいただければ幸いです。


ブックマーク・評価・感想等、作者が飛んで喜びますので、是非よろしくお願いします。

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