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「母さん、今日は顔を見に来ただけなんだ。こいつを無理矢理付き合わせちゃったから、そろそろ行くな。何か、来たばっかりなのにごめん」と、諒はすまなそうに笑った。
「いいのよ。スノーマンさん、今日は来てくれてありがとうございます」
「いえ、いえ、なんの、なんの」
「じゃあ」
諒はスノーマンの手を引っ張りながら、急いで病院から出た。
「な、何だよ!そんなにオレを母親に会わせたくなかったのか?!」と、引きずられるようにして出て来たスノーマンは、顔を歪める。
「違う。自分の体を見ろ!」
「ん?」
目線を落とす。体から雫がポタポタと流れ落ちている。
「と、溶けてるーっ!!!」
スノーマンは急いで雪が寄せ集めてあった所へ駆け、せっせと雪を体に塗りたくった。
「病院は、暖かくしてあるからな」と、諒はスノーマンの必死な様子を見つめながら言う。
「死ぬーっ!オレ死んじゃうよー」
スノーマンは半ベソをかきながら、雪を塗りたくり続ける。
「おい、その辺でいいんじゃないか?何か、会った時より太めになってるぞ」
「いいんだよ、その方が!溶けにくくしてんの!!オレは、死にたくないのぉ!!」
「あっそ…」
「で、あの人の笑顔をみたいんだな」
「ああ」
「じゃぁ、あの人の好きなものって何なんだ?」
「好きなもの…」
諒は、病院の中庭にある木を見た。
「桜だよ」
「桜?」と、スノーマンも木に目をやる。
「季節じゃねぇな」と、スノーマンは呟く。
「母さんは、2回目の春にはもたないだろうって、医者に言われてんだ。来年がその2回目。だから、悲しそうな顔をしていつも冬空を眺めている。冬は、嫌いだよ」と、諒は笑った。
「冬が来なきゃ、春は来ないぞ」
スノーマンは、真面目な顔をして言った。
「まぁ、オレに任せとけ。桜もいいが、冬の花を見せてやるよ」
「冬の花?」
「…で、何で俺達スーパー来てんの?」
諒は訳がわからず、何かを探すスノーマンの後ろ姿を見ている事だけしか出来なかった。
「ん?ああ…」
スノーマンは、諒の話しを聞いてはいないようで、適当に相槌を打つ。
「…お前、人の話しを聞けよ」
「ああ、うん」
「…聞いてないな」
「うん」
諒は「ボカッ」と、スノーマンの頭を一発殴った。
「何すんだてめぇ!」
スノーマンは諒を睨みつけ、殴られた頭をおさえる。
「ん?あーっ!!頭、へこんでんじゃんかよ!!」
スノーマンはへこんだ部分を撫でて、修復する。
「オレが何をしたってんだよー」と、スノーマンは半ベソをかく。諒はそんなスノーマンを見て、罪悪感が芽生えた。
「ご、ごめん、つい…」
「ついとかうっかりで、済まされない事もあんだぞ!」
スノーマンは号泣しながら、諒に詰め寄る。