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乱暴な口調だけど、誉められると素直に嬉しい。
「それを何度も繰り返していけばいいんだ。簡単だろ?」
「うん」と、明はこくりと頷く。
「あのさ、スノーマンって、何で人の願い事を叶えてくれるの?」
「それはだな、話せば長く…って、おい!口より手を動かせ!!そこ違うぞ」
「え?え?」
「ここだ。…クリスマスまで時間がない。今日からいつでも何処でも絶え間無く、マフラーを編むんだ」
そう言った後、スノーマンはいきなり自分の体に片手をズボッと突っ込んだ。
「ガサ、ゴソ」
明はぎょっと目を丸くする。
「よっと!」
体から手を出すと、その手には赤い携帯電話が握りしめられていた。
「今からメアドを教えてやる。それで、わかんないところを聞け」と、スノーマンは穴の開いたお腹を撫でながら言った。
「…う…ん」
二人は、アドレスを交換しあった。雪だるまとアドレスを交換するなんて…。明は、登録し終えた携帯を見つめた。
それから二人の二人三脚の日々が始まった。スノーマンと初めて会ってから1週間が過ぎ、2週間目へと突入。…ついにクリスマス前日。
「やった!出来たよ!!スッチー」
明は、出来たマフラーをスノーマンに見せる。
「目は粗いけど、それだけできれば上出来だ」
スノーマンは腕を組み、ゆっくりとこくりと頷いた。
「あとは、先輩に渡すんだね。でも…貰ってくれるかな?」
「あいつに拒む理由はない」とスノーマンは、にっこりと笑った。そして、体に手を突っ込み、二枚のチケットを取出した。
「これでデートに誘え」
くしゃくしゃになったチケットを差し出す。明は、それを黙って受け取った。チケットは、ひんやりと冷たかった。
「デートに誘ってOKすればもう、願いが叶ったも同然だろ」
MISSION
マフラーを渡し、デートに誘え!!
「健闘を祈る!!」
スノーマンはびしっと敬礼し、明もつられて、敬礼をした。
それは、それは互いに素晴らしい敬礼だったという…。
明は高鳴る心臓の鼓動をおさえながら、好きな人の家の前に立っていた。
スノーマンはこっそり影から、明を見守る。
「ピンポーン」
インターホンを鳴らす。
「はい」という返事とともに、玄関の扉が開かれる。
「あ、明ちゃん」
先輩は、にこっと笑顔を向けてくれた。明はその笑顔に失神しそうになったが、ぐっと踏ん張り、言葉を口にしようと、口を開く。
「あ、あ、あのの…わ、私、マフラー…」
文章になってない。今の明にとって、単語を並べるのがやっとだった。
明はサッと、手編みのマフラーを渡す。
「僕に?うわあ、ありがとう」
先輩は、マフラーを受け取ってくれた。
「あの、先輩!私、私…」