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スノーマンはショックと焦りの為、言葉を口にする事が出来ない。泣きながら、ふるふると首を横に振る。
「元気だして」
男の子は、アーモンドチョコレートを雪だるまにあげ、去って行った。
今日は、何だか自分が余計に惨めに感じる。貰ったアーモンドチョコレートをじっと見つめた。
もしかしたら…。と、アーモンドチョコレートを無くなった目の場所に押し込む。
「見える…」
今さらながら、自分の体は何でもありだと思った。
「ニャー」
「悪いな。電車の中は、暖房がきいててムリなんだ。時間がかかるけど、歩いて行くぞ」と、スノーマンは猫に言う。
しばらく歩いた。もう、辺りも暗い。雪が降り始めていた。
「大降りになんな」と、スノーマンは段々と大きくなる雪の粒を見ながら、呟いた。
周りの家々には、暖かい明かりが点っている。スノーマンは、淋しそうな眼でそれを見つめた。
「ウニャーン」
猫はそんなスノーマンを察したのか、自分がここにいるよと鳴いたように聞こえた。
「煮干しまだあるぞ。くれてやる」と、スノーマンはバケツの中に残りの煮干しを入れた。
「早く家に届けてやるからな」
スノーマンは真面目な顔をして、さっきよりも足を速めた。
朝が明けるのは、早く感じた。猫はマフラーの中に潜り、丸まって眠っていた。スノーマンは眠気を抑え、歩き続けた。
多分この調子だと、着くには日が落ちている頃だろう。そんな事をぼーっとした頭で考えていると、ふと、ある事を思い出した。
今日は、12月24日。自分の誕生日だ。
「とうとう、22になっちまったよ」と、苦笑いした。あの父親のせいで、5回目のクリスマス。
いつになったら、もとに戻れるのだろう?ずっと、この体のままなのか?
冬にはこうやって歩き廻れるが、夏は冷凍庫の中で夏眠状態。この体に慣れてしまった。そう感じる自分が恐ろしい。
今まで願いを叶えた9人の顔を思い出す。…あれ?でも、そんなに悪い事ばっかりじゃなかったかも…。
「ここだな」やっと目的の場所に着いた。空は予想通り、暗くなっていた。紙切れを見て、確認する。間違いない。
「ピンポーン」
インターホンを鳴らした。
「はーい」
中から女の子の声がし、扉が開かれる。小学6年生くらいの女の子が出て来た。
「ニャーッ!!」
ミミは嬉しそうに、バケツから飛び降り、女の子のもとへ駆ける。
「ミミ!!」
女の子はしゃがみ込み、手を広げミミを受け止めた。
「会いたかったよぉ」と、女の子はミミのふわふわな毛に頬を擦り寄せる。スノーマンは、その光景に自分の口元が緩んでいる事に気がつかなかった。
女の子はミミを抱いたまま立ち上がり、スノーマンに向かって微笑んだ。
「ありがとう。白髪の天使さん」
スノーマンはこの時、自分の胸が暖かくなるのを感じた。幸せを与えるのも悪くないなと、ちょっぴり思った。そして、笑顔になった。
「メリークリスマス」
「あー、見てママ!!真っ白な人だ!教会にいる天使さんみたいだよお」
スノーマンは、親子連れとすれ違った。何を指しているのだろうと、振り返る。
「本当ね」と母親は、にっこりと笑っている。だが、辺りにはその親子と自分しかいない。しかも、自分の方を見ているような…。
スノーマンは、近くの家の窓に自分の姿を映した。
何故だか生まれた時から真っ白な髪、母親譲りの青い瞳、男の割りには、白い肌。真っ白な洋服を着た男が目の前に映っていた。
「オレ…もとに戻ってる…?」
何でもとに戻っているとかそんなの気にならなかった。ただ、嬉しかった。
「やったー!!」
ガッツポーズをし、思わず星が煌めく空に向かって叫んだ。
「バカヤロー!近所迷惑だ!!」
「あ…す、すいません…」
もしかしたら、サンタと一緒に白髪の天使があなたのもとへ幸福の金色の粉を振り撒きにやって来るかもしれません。皆さんに幸福が訪れるますように。
『Merry Christmas!!』
冬風雪太編・終