4
スノーマンは、倒れた時に落とした水色のバケツを拾うと、巻いていた黄色いマフラーをその中に入れた。
「ミミをこの中に入れてくれねぇか?オレが抱いたら、こいつ凍え死んじまうからな」
女の子は、猫をバケツにそっと入れた。
「ジングルベル♪ジングルベル♪鈴が鳴るー♪っと」
少し歩いた先に、猫のミミの家はあった。
「ピンポーン」
インターホンを鳴らす。
「…」
誰も出て来ない。
「ピンポーン」
もう一度、鳴らす。
「……」
スノーマンは首はないので、頭を傾ける。
「ニャ?」
ミミも首を傾げる。
「あら、雪だるまさん。何か御用?」と、隣の家から40代くらいの女の人が出て来た。
スノーマンを見て、驚く様子はない。どうやら、着ぐるみを着ていると思っているらしい。
「このミミって猫を届けに来たんですけど」と、スノーマンはバケツに入ったミミを見せる。
「あらぁ。可哀相ねぇ、そこの人なら、引越てしまったわよ」
「引越し先、聞いてませんか?」
女の人はスノーマンに言われ、少し考えた後、腰に巻いていたエプロンのポケットから一枚の紙切れを取出した。
「これ、引越し先のメモよ。もう書き写してあるから、あなたにあげるわ」と、スノーマンは紙切れを貰い礼を言うと、テクテクと歩いて行った。女の人はその後ろ姿を見送っていたが、「あらぁ」と声を上げた。
スノーマンの丸みを帯びていた背中は、何処かに倒れたかでもしたように、平らになっていた。
「この場所に行くには、電車に乗らなきゃだな」
スノーマンは、紙切れを見ながら呟いた。
「ニャー」
「安心しろ。責任持って、ちゃーんと家に届けてやるよ」
駅に着くと、体から赤いガマグチを出した。そこからお金を出し、切符を買うと、マフラーの中にミミを隠して電車に乗った。
ガタン、ガターン
1駅。
ガタン、ガターン
2駅。
「悪い、ミミ。限界だ」
周りの人々は、スノーマンを避けながら、目を丸くして見ている。
スノーマンの体からは、雫がポタポタと流れ落ち、足元には水溜まりが出来ている。次の駅に着くと、ドアが開く前に駆けて飛び出そうとした。
だが、あまりにも慌て過ぎたのが悪かった。ドアが開けきっていなかった為、頭がドアにぶつかって、頭が少し変形した。それでも構わず、外に出た。
「頭が体がーっ!!」
スノーマンは、駅の外に前の雪が残って積み上げられていた場所へと飛び込む。その上に体をゴロゴロと転がす。
体がもとに戻ったところで立ち上がり、ある事に気がつく。
「目が!目が片方ない!!」
地面にはいつくばって探すが、見当たらない。
「雪だるまさん、どうしたの?」
男の子が声をかけてきた。