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「冷たい…。これ、雪だわ」と、母親は少し驚いたように、手の上で色付けされた雪が溶けるのをじっと見ていた。
「冬の花か…。雪だるまのあいつにしか出来ない事だな」と、諒は笑った。
「あら、諒ちゃんのそんな笑顔を見るの久しぶりだわ」
母親は諒の顔を見て、笑った。本当に笑顔を無くしていたのは、諒だった。
諒は、木に目を戻す。すると、木の下に人々が集まっているのが見えた。みんな、木に降り注ぐピンクの雪を不思議そうに眺めている。
「はぁ、はぁ、はぁ、そろそろ疲れてきたぞ。オレ、何かスマートになってきてるし。あんまし、スマートな雪だるまなんて可愛くないじゃん」
スノーマンは、息を切らせていた。
「あーっ、あれって、雪だるまぁ?」
下を見下ろすと、小さな男の子が自分を指差している。
「え?嘘」
「本当だ。そうだよ。雪だるまだよ」
「誰があんな所に?」
「何か動いてない?」
人だかりがいつの間にか出来ている。どうやら、潮時のようだ。ちょうど、瓶の中味も空になった。
「おーい!そこのお前ら、オレを受け止めろ」
人々は雪だるまがしゃべった事に驚いてざわざわとしていたが、スノーマンはそんな事を気にする様子もなかった。
「今から飛び降りんぞ!ちゃんと受け止めてくんねぇと、オレ粉々になっからな!!お前らみんな人殺しになんぞー♪」と、スノーマンは合図もなしに木から飛び降りる。人々はとっさに、手を広げた。
「ドサッ!!」
何人かは、スノーマンの下敷きになった。
「ふぅー、ナイスだぜお前ら」
スノーマンは人を下敷きにしたまま、汗を拭う。そしてすくっと立ち上がると、人込みから出た。くるっと人々の方へ振り向くと、
「メリークリスマス!!」と笑って、駆け足でその場から去って行った。
人々は何が起きたのかわからず、寒い事も忘れ、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「今日は、クリスマスね。去年の事を思い出すわ。スノーマン君が私たちに雪の桜を見せてくれたのよね」と、諒の母親はふふっと笑う。
「あの後、奇跡が起こったように母さん以外の人達も急に病気が回復の方に向かったんだよな。まさか、今年の春が迎えられてそのうえ、一時退院まで許されちゃったもんな」
諒は嬉しそうに、スノーマンの顔を思い浮かべながら笑う。
「でもあれ、桜の木じゃなかったのよ」
「え?」
諒は、きょとんとする。
「桜の木はその隣。今年の桜見たくせに気付かなかったの?」
「そういえば…」
俺が教えたのに…ちゃんと人の話し聞いてなかったな。
前の日に雨が降り、雪が溶けて寒さで凍結した道をスノーマンは歩いていた。
「オレはスノーマン♪可愛いキャラクター♪みんなのアイドルさー♪」
歌っているスノーマンは、つるりと足を滑らした。すると、坂となっている道を勢いよく滑り行く。
「ギャーッ!!誰か止めてー!!!オレ、どうしたらいいのぉっ」
藍田諒編・終