垣沼 明(かきぬま あかり)編1
雪がはらはらと舞始めていた。明はダウンジャケットに手を入れ、道を歩いていた。
寒さで鼻が少し赤くなっていた。
「雪か…」
灰色の空を見上げた。白い雪が空から降ってくる。
「おい!そこの赤っ鼻」
明は誰かの声を聞き取った。辺りを見回す。誰もいない公園前。
「ん?」
明は、砂場の近くにある雪だるまを見つけた。
おかしい。
今、雪は降り始めたばかり。まだ積もってもいない。なのに、何故ここに雪だるま?
明はその雪だるまに近づいた。下から上まで眺める。雪でできているみたいだ。
「いたずら?」
「何がいたずらなんだ?」
また声がした。どうやらさっきの声は、聞き間違えではないらしい。
「誰?何処にいるの?」
再び辺りを見回すが、公園にいるのは、自分とこの雪だるまだけ。他には誰もいない。
「ここだよ。ここ」
明は気づいた。この声は、すぐ近くだ。
そう、それは自分の目の前からのように。でも、目の前は人ではなく、雪だるまだ。頭に一瞬、非現実的な事が浮かんだ。
「まさか…ね」
雪だるまを見て、笑った。
「お前、鈍感だな」
声がした。さすがに段々、気味が悪くなってきた。
「おーい」
雪だるまの手が挙がり、左右に揺れた。明はぎょっとして、後ずさる。
「やっと気付いたか?」
雪だるまは、手を振り続けている。
「しゃ、しゃべってる!!!」
明の顔は、蒼白となった。
「そう、見た目は雪だるまだが、オレはしゃべる。オレは、スノーマン。よろしくな♪」
雪だるまは、意気揚々としゃべっている。不気味だ。
「な、な、な」
明は何も言えず、口をパクパクさせている。
「オレは、お前の願いを叶えてやる。願い事を言ってみろ。たいていの事なら、叶えてやるぞ」
雪だるまが願いを叶える?雪だるまが…?
「普通、この時期ってサンタじゃない?何で雪だるまなのよ」
震えながらも、明はツッコんだ。
「サンタなんてぇのは、願いなんて叶えちゃくれねぇよ。夢とやら胸糞悪いもんを与えるだけさ」
あんたは、夢いっぱいの体しているくせに夢がなさ過ぎだよ。と、明は雪だるまの暴言にもツッコミを入れたかったが、何をされるかわからないので黙っていた。
「で、お前の願い事は?」
「…何でも叶えてくれるの?」
明は少し怖さを忘れ始め、興味を示し出した。
「たいていの事はなっ」
「恋愛は?」
「恋愛?」
雪だるまは、明を見上げた。
上から下まで一度眺める。
ショートカットの髪、その髪形のせいでそう見えるのか、少年のような顔立ち。
凹凸のない体にダウンジャケット、セーター、下は短パンにブーツ。
どうも、子供くさく感じる。