七 捕まる
七
まず、私は、今の状況がなにを指し示していることなのか、思考した。それは、言うまでもなく、私とアルトが、いかなる理由で、複数の騎士に槍を向けられているということなのだけれども、私には、彼らの、その動機が分からなかった。
すると、その中の一人の騎士が(おそらく、その騎士は、リーダー格なんだろうことが予想できたが、確証はできない)、声を発生しやすいように、顔面に覆われている兜の鉄板を、どうやら、それは蝶番で上下することが出来るらしく、それを上にして、その騎士は、覇気のある、怒鳴るような声で、言う。
…………。
わりと、イケメンだった──
「お前たち二人は、ランダル周辺で、我我、騎士の二人に暴行を加えた件で、傷害罪として、逮捕する」
ああ──
なるほど──
とはいえ、おかしな話だと私は思った。というのは、ランダル周辺にいた、あの騎士は、私とアルトに、不当な徴収をしようと試みたのだ。けれども、今は、それは特に、重視する問題ではない。もっとも、重要なのは、なぜ、ここにいる騎士たちが、私が、あの騎士に暴行を振るったことを知っているかということである。
贔屓目で見積もっても、私が暴行を振るった、ランダル周辺にいた二人の騎士は、今は戦闘不能で、それどころか、行動すら怪しい状態で、しばらくは動けないはずだ。それにも関わらず、ランダル周辺で起こったことが、ランダル内にいる人間に、すでに露見している。
すると、さっきの騎士が、私とアルトに、付け加えるように、言う。
「しらばっくれても、無駄だ。さっき、私は、ランダル周辺をパトロールしていた仲間から『念話通信』で、お前たちの情報を知り得たのだ」
そして、騎士は、私とアルトを捕縛する寸前まで成功したことを、さながら、自慢げに、誰もいない空に向けて、報告する。
耳に手をあてて──
遠くの誰かに、それを伝達するように──
おそらく、念話通信とは、騎士の、耳に手を当てる行為のことを示しているのだろう。けれども、無論、私は、私の手を耳に当てても、遠くに声を届けることは出来ない。あくまで、これは私の予想だが、騎士の言う『念話通信』というのは、このランダルで、その知名度を高めているという、魔法の一つなのだろう。
魔法は、火を起こすことや、風を起こすことだって、つまり、この世界にある自然すら、変動させることが可能なのである。ならば、遠くの人間に、意志を伝令することなんて、容易いことではないのだろうか。
「お前たちに、危害を加えるつもりは、ない。大人しくして、我我についてこい」
騎士は、私とアルトに、謙虚に連行されることを、要求した。けれども、その意見には、私は同意しかねた。
ただ、少しでも、私かアルトが反抗の意志を見せると、騎士は、それぞれが手に持つ槍を、私とアルトもろとも、一突きで刺し殺すような勢いで、威嚇するのだった。
私は、私のすぐ側にいる、アルトの様子を見た。
アルトは、まるで石のように硬直していた。
私の身はともかく、アルトの身の安全を考慮すれば、ここは大人しく騎士に同行するのが、正しい決断である。
私は、警戒心を解いて、その場でゆっくりと、諸手を上げた。刹那、それを見かねた騎士は、ぴくりと槍の先を、私の方に近づけたが、敵意のない私の行動を確認すると、私とアルトのもとに恐る恐る駆け寄り、縄で両腕を封じた。