三 少年アルト
三
少年の名は、アルトという。それは、彼が私に一方的に教えられた名前であるけれども、彼は私に、
「ねーちゃんの名前、教えてよ」
と大事なことでもお願いするように、尋ねてきた。
「私は、サラだけど」
別に私は、私の名前を隠す理由がないので、ある意味、条件反射的に、言った。
この、アルトという少年の身体には、さっきの騎士によって傷つけられたのか分からないけれども、無数の傷があって、その姿は、見ているだけで、痛痛しいものを感じるものがあった。それも、肌が服の間から露出しているところだけでなくて、衣服がずたずたに引き裂かれているところを見ると、おそらくは、衣類の中も怪我をしているのだろう。そんなことを、私は彼の様子を見て、考察していると、彼は、年相応の男の子のように、元気よく言う。
「ありがとう、サラ。実は俺、ランダルに向かう途中で、あいつらに捕まったんだよ。あいつら、不当に税金を、通行人に取っててさ。ランダルに向かう商人たちは、遠くから来るから、分かんないだろうけどさ、なにせその金額がふざけてんだよ。それに、最近、あいつら、この辺でしつこくて」
なるほど、やはり、あの騎士は、非合法的に、私からお金を取り立てようとしていたのか──
今現在において、私の所持金は、ほとんど零と言っていいほどにないので、それは、危なかった。また、それを裏付けるように、アルトは、付け加える。
「それに、あいつら、通行料の払えないやつを、容赦なく奴隷商に売っちまうだよ。だって、ランダルは、奴隷売りの都市って言うくらいなんだぜ」
「それは、知らなかったけど、一つ聞いていいかしら?」
アルトが勝手に、私に聞かれてもいないのに、ベラベラと喋るさっきの騎士の話は、正直、どうでもいい。それよりも、ランダルのことである。おそらく、彼の話を聞くかぎりでは、ランダルとは、都市の名前だと推測できるけれども、私は、そのランダルという都市を知らない。それどころか、私は、どことなく、いいかげんに、特にはっきりとした目的を持たずに、旅を続けているゆえに、今、どこの国にいるのかすら、分からない状況なのである。
「ねえ、私は今、どこの国にいるのかしら? そして、そのランダルという都市はなにかしら?」
「おいおい、ねーちゃん、自分がどこの国にいるかも知らないで、ここに来たのかよ。ここは、最果ての国の『エウレカ』だろ。この道を真っ直ぐ行けば、すぐに商業都市ランダルだよ」