二 邂逅
二
ちゃんと舗装されている道を、特になんの目的もなく、ぶらぶらと歩いていると、向こう正面に、一人の少年を苛める、おそらく、鋼鉄で作られたものであろう甲冑やとを身につけた、兵士か、あるいは傭兵とおぼしき戦士が、二人いた。けれども、その二人は、『騎士』と断定してしまっても、いいだろう。彼らの身にまとっている鎧には、見覚えがないわけではなかったし、もっともな証拠は、彼らが大事そうに装備している、槍にゆらゆらとぶら下がっている、どこの国のものかは分からなかったけれども、国旗を見てもらえば、それだけで、どこかの国に仕える騎士であることが、容易に伺える。
あまり、私は面倒くさいことが、好きではないので、私は、二人の騎士に苛められている少年を無視して、側を、通り過ぎようとした。
すると、ちょうど、二人の騎士の、すぐ左側を通りかけた私を、彼らは、諫めた。
「おい、そこの女。ここを通りたければ、しっかりと通行料を納めてもらう必要があるのだが」
「すみません、さっき、ちゃんと途中の検問所で、税金を払ったのですが」
私は彼らに釈明を求めると、一方の騎士が、
「ここの道は、俺たちが管理しているゆえに、検問所で税金を払ったとしても、ここでも、別に通行料がいるのだ」
と偉そうに、言った。
なるほど、二人の騎士に苛められている、この少年も、おそらくは、この理不尽な徴収に応えられずに、捕まってしまったのだろう──
「もし、私が料金を払わないと言ったらどうしますか?」
「無論、ここは通れないし、お前は犯罪者として、ろうにぶち込まれるだろう」
「別に、悪いことはしていないのにですか?」
「悪いこと? そんなことは、どうでもいいんだよ。別に、牢屋にぶち込まなくても、奴隷にして、商人に売りつければいい話だ」
そう言うと、一方の騎士は、いきなり、私の肩を強い力で掴んだ。
私は、理解した。
この二人の騎士は、不当に、通行料を取り立てている。多分、それは、私のような旅の人だけではなく、彼らに苛められている、この少年も、同じく対象なのだろう。
財布の中身を、合法的に強奪しては、あげくのはて、奴隷商に売りつけるのか──
そうと分かれば、話は早い。
私は、暴力に訴えた。
誰に──
言うまでもない──
二人の騎士に向けてだ──
私は、私の背中に背負うように、常に携帯している金鎚という武器をその手に持って(四尺ほどの、細長い金属棒の先端に、その硬度があらゆる金属よりも優秀で、また、非常に純度の高い、アダマンタイトという金属の、鎚を取り付けた、長柄の武器)、次に、その金鎚を構えたと同時に、きちんと両手で柄を握って、振りかぶるように腕を正面に持ち上げて、遠心力に任せに、私から見て近い場所に位置していた騎士めがけて、地表から垂直に、それを振り下ろした。
ぎゃしゃん、と騎士のかぶっている兜から、金属がひしゃげる音がした。まるで、紙のごとく、私が金鎚で殴りつけた騎士の兜は、つぶれてしまったのである。そして、同時期に、その騎士は、がらりと地面に崩れ落ちた。それに対して、一方、私の急な攻撃を受けいていない、もう一人の騎士は、開いた口が塞がらないと言わんばかりに、私の行動を見て、ぽかんとしていた。その隙を、私は見逃さない。私は、振り切った金鎚を、地を抉りながら引き戻し、今度は力任せに、もう一人の騎士の腹部に放った。
もし、軽装備だったならば、すでに命はなかったろう──
私の一方的な奇襲を受けた二人の騎士は、その場で倒れた。
ただ、後者の騎士は、腹部によるダメージだったので、前者の騎士のように昏倒することはなく、インパクトの衝撃による激痛で、土壌を這いずる虫のごとく、のたうち回っていた。とはいえ、もう彼らが正気に戻ったとしても、私に危害を加える気力は、すでにないだろう。
私は、一端、金鎚をしまい、戦闘による興奮を押さえて、また、抑制するために、一度だけ、深呼吸をした。
もともと、彼らには用はない──
彼らは、私が戦うべき人間ではないのだ──
ようやく、平常心に戻った私は、さっさとこの場所を立ち去ろうと、歩みを始めた。
けれども、私の足を呼び止める声があった。
私の歩行を妨げる声の正体は、さっきまで二人の騎士に苛められていた、少年だった。