7.レーモーネ村
神人とシズネはしばらく歩いて彼らが活動拠点としている大きな町の比較的近くにある大きな村に着いた。
王都の近くの商業都市のお膝下と言っていい距離にあるこの村は人口500名程度であり、この世界、この国ではかなり大きめな村だ。
基本事業は勿論のことながら農業ではあるが、商業都市へ向かう道の宿泊施設を副業としており、ギルドにトレント討伐を依頼できる程度には豊かな暮らしをしている。
「……さてと、依頼主は例によって村長さんだから……大きい家を探せばいいかな?日が暮れる前に挨拶は済ませておきたいんだけど。」
神人は疲れを一切見せずに村に着いてすぐに建物を探し始めた。それに続くシズネは肉まんモドキのお面に隠れて神人からはわからないが少し疲れた表情をしている。
だが、神人はシズネの歩みが遅い事に気付いたので少し立ち止まって周囲を見渡した。
「……少しあの石段に腰かけようシズネ。」
「す、すみません……」
気を遣われたことに恐縮するシズネ。神人はいい加減その辺の扱いに慣れてほしい物だなと思いつつも石段に腰かける。
シズネはその下、地面に正座した。
「……シズネ、石段に、腰かけよう?」
「ですが……」
「あんまりストレスになるなら拒否してもいいけど……地面に座るのあんまり得意じゃないでしょ?」
身分の違いを強烈に意識しているというシズネと奴隷や身分の違いにあまり意識が向いていない神人にはずれが生じるのはしょうがないと思いつつも自分がどういう扱いをしようとしているのかは察して欲しいと思いつつシズネに再度石段に座らないか尋ねてようやく座らせることに成功した。
そうして少し休憩を取っていると周囲に人が集まって来始めた。しかもどうやらあんまり歓迎ムードと言うわけではないらしく、かなり警戒が強い。
そんな警戒心マックスの村人たちに囲まれれば神人たちにも警戒心が生まれるのは当然で臨戦態勢に入りながら周囲を見た。そんな神人たちに村人たちが機先を制するかのように尋ねてきた。
「おめら、ここで見ねぇ顔だが、何だ?」
何呼ばわりされてムッと来た神人は少し苛立たしげに、そして自分の身分を明かすかのようにギルドから渡されていた依頼書を出しながら答えた。
「ヴィルグランのギルドから派遣されたD級冒険者のジンだ。レーモーネ村に被害を出したトレントの討伐に来た。」
「あんれ!?」
声をかけて来た村人は依頼書とジンの顔を何度か見比べて数度大きく目を瞬かせた後に尋ねてくる。
「も、もうおいでなすったか……明日、明後日辺りと……ありがとうごぜぇますだ。すぐに宿をご案内させていただきます。」
「いや、依頼人の方に行って先に挨拶の方を……」
先程は馬鹿にされてムッとしていた神人だが、気を取り直して村長への挨拶を行うために場所を尋ねる。すると彼は意外そうな顔をした。
「……若くて急速に昇級してるから鼻持ちなんねぇ奴が来ると思ってたら思ってたのと違ったな。」
「そだなぁ……」
囲んでいる一角の男たちがそんな会話をしているのを小耳にはさみながら神人は男の案内を受けてシズネを連れ、村長の家に向かう。
村長の家は普通の家より若干広いと思えるだけでこの村の一般的な家と大して変わりはない作りだった。
その家の中に案内人の男、そしてシズネを伴って入ると40代半ばと言った風貌の白髪の目立ち始めている男が出迎えた。
「おぉ、もう来てくださったのか。本当に優秀な方ですな……先程は村の者どもにより御不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。ギルドの転送音から明日辺りの御到着と思っておりまして……」
「いえ、お気になさらず。ヴィルグランのD級冒険者、ジンです。明日の内に討伐をしたいと思いますので本日はよろしくお願いします。」
「これはこれはご丁寧に。ヴィルグランに比べると貧相な村ではありますが精一杯のおもてなしをさせていただきますので、よろしくお願いします。」
そんな会話から入った二人はしばらくトレントの特徴や被害、そしてどの辺りに出没するのかなどといった話を行い、神人の方からも安心させるためにある程度の戦法などの情報提供を行う。
一頻りそれらの話が済むと村長からの直々のお願いを聞いて退屈そうに、だがずっと神人のことを警戒していた案内人の男に連れられて本日の宿へと案内されることになる。
「……厄介だなぁ。」
食事や体の浄化などを済ませた神人はあてがわれた部屋の中でそう呟き、シズネはそれにすぐに反応する。彼女は先日の市場での一件の後、神人が何かを言っている場合に反応を欠かさないようにしたのだ。
「どうかなさいましたか?」
「ぅお……また声に出てたか……」
「はい。」
神人の反応にやはり声に出す癖が出来てるのか……と思ったシズネは彼女の御主人に自分が何を言っているのか自覚してもらい、もう少し自分の行動について考えてもらおうと決意を新たにする。
それはさておき、神人は頭を掻きながらシズネに何が厄介なのか答える。
「森の中で火を使うなって言われたからさぁ……トレントを燃やすことができないし、トレントの実に寄ってくる魔物もどうしようかなって……」
「え……」
シズネはまず冗談を言っているのだと思ってちょっとだけ笑うかどうか迷う。
「風魔法とかで斬るかなぁ……でもすぐに再生するらしいんだよな……」
そして冗談ではないと分かったシズネは固まった。トレントが森の中に居るのは当たり前だし、人家に近い入会地の森の中では火を使わないようにすることは基本だ。
それに、トレントの実に魔物が惹き寄せられることも子どもでも知っている当然のことなのだ。
シズネはその辺のことを当然知っていて討伐に来たと思っていた。神人はサマエル薬の材料としてトレントを使うことを知っている位なのだからトレントについてかなり詳しいはずと思っていたのだ。
「あの……ちょっと、僭越ながらトレントについて説明をさせてもらってもいいですか……?」
「うん?いいよ。寧ろお願い。」
シズネはあまり詳しくはないものの、事前にしっかりとヴィルグランのギルドで調べておいた資料を思い出して神人に説明を行う。ただ、途中で神人があんまり面白くなさそうにしていたのでシズネは攻撃方法や回避方法、その他の情報を大幅にカットして簡潔に説明をした。
「うん。要するに顔になってる洞の少し上辺りにある魔核を切れば死ぬんだね。わかった。それで斬ったコアを持って帰って討伐完了。」
「……はい。」
簡潔な説明を何度かリテイクして神人に理解してもらったのはその日の夕暮後だった。