6.討伐準備
神人とシズネは依頼を受けてから今日で準備を整えて村に向かい、明日で討伐を行ってその後村で休憩、そしてその翌日にここに戻って来るという計画を立ててまずは準備のために市へと向かった。
「……へぇ……これは……あ~思ったより凄いんだこれ……」
そこで【観測せし者】状態の神人は周囲の人間がドン引きし、勉強になったとお代を貰わないで商品を貰えるような知識の披露と買い物を行った。
「この果実は……聖水で煮詰めてジャムにすると少量でも魔力が回復する物になるからいっぱい買っておこう。」
「ご、ご主人様。本当にお止め下さい……全部言葉が漏れてます!」
「あ、あぁ……ごめん……」
神人はこれだけ賑やかな市なのだから周囲には聞こえていないつもりでぶつぶつ言っていたのだが神人の認識でいわゆる獣人、亜人と言った種の人間たちには普通に聞こえており、それでサービスと思っていた物が情報を対価にした物であるということを遅れながら理解する。
「むぅ……でも癖になってるなぁ……俺テレビにも突っ込み入れてたし……喋る相手がいないとそう言うのが多く……」
「私がいつでも話を聞きますから!」
「……あ、また出てた?」
「……はい……」
神人の独り言に対して悲しい告白を受けたかのようなシズネの反応に、神人は困った時の【観測せし者】で何とかしてもらうことにした。
(……【観測せし者】さん……念話式へと移行……そんなのあるのか……えっと?魔力の消費が結構大きいけど……俺、間抜けだし……時々発動しておこう。)
結果、何だかよく分からないが選択肢から選ぶ方式ではなく神工知能との会話から様々な能力行使が可能らしい。試しにそれを起動してみる。
『間抜けですね本当に……あなた、現在の魔力値考えて能力の行使をされてはいかがでしょうか?切ってください。』
だが、一方的に馬鹿にされた挙句、切られたようで沈黙が降りる。それに落ち込んでいるとシズネがおろおろしながら声を掛けて来てくれた。
「あ、あの、体調とか何かが悪いのでしょうか?」
「あ、あぁ……心配してくれてありがとう。」
『体調なんかより頭が絶望的に悪いですね。あなたが繋げた物である限りあなたが切らなければこれは終わらないのですが?早く切りなさい愚鈍。』
(……何で、こんなに罵倒されないといけないんだろう……)
そんな内心にも【観測せし者】は答えてくれた。
『罵倒などしていません。事実を告げているだけです。……ただ、もしも口調があまりよろしくないと思われるのでしたらそれはおそらく我々が造物主様の命令で嫌々あなたのような人間、に従っていることによるものです。職務規定にはあなたの質問に答えることは含まれておりますが、その他は危害を与えない限り自由なので……』
(す、すみません……何か、偉い方みたいですね……)
『いいから切ってください。肝心な時に魔力切れなどを起こしたらどうするんですか?』
神人は言われるがままに念話を切った。この機能は止めにしておいた方がいいかもしれない。
「ひ、必要な物は大体揃いましたが……」
先程まで独り言を言い続けていた神人が急に落ち込んだり黙り込んだりしたのを見てシズネは依頼どころか体調が悪いのではないかと心配するが神人は大丈夫の一点張りで立ち上がった。
「……ありがと。じゃあ一回帰るか。」
「はい……」
買った物を荷造りするために二人は一度家に帰ることにして市場から出て行った。
荷造りを終えた後、二人は依頼の村まで移動を開始する。【神武撲殺杖】により強化されている神人は勿論、パト族であるシズネも得に疲れを見せることなく長距離を移動していた。
「シズネは、大丈夫か?」
「は、はい……」
「……ちょっと疲れて来てるかな?座るのに丁度いい感じの岩があるし、休憩しよう。」
それでも流石に何度か休憩は入れる。無理をしているわけではないが気を遣ってくれる主人に対して反論することもないのでシズネは神人の提案を受け入れて神人を見ながら石に腰かけた。
(……それにしても、ご主人様は息一つ上げずに……)
それなりの長距離を移動して来たのにもかかわらず神人は少しも疲れた素振りを見せない。市場に居た時の情緒不安定で体調不良だったように見えたのが嘘のようだ。
それに、自分よりも重い荷物を持っているのにもかかわらず、まだシズネの荷物を持とうか?とまで声を掛けて来る。
それは自分の役割を奪われるという恐怖から丁重に断らせてもらっているが翼人種の自分を遥かに超えている神人の身体能力を見せられてシズネは大きな息を吐いた。
(どうしよう……もっと、お役にたてないと……)
シズネの焦燥感は募る。確かに、食事は危なっかしい物だったが最近では少しずつ知識を得ているようで先程の市では自分でも知らないことをぺらぺらと喋っていた。
戦闘面でも何一つ神人に勝るものはない。残されたのは雑用だけなのに神人は気を遣ってそれすらシズネにあまり押し付けない。
「どうした?」
「い、いえ……そろそろレーモーネ村に着きますので……」
あまりに見ていたからだろうか、神人が訝しげな顔で見返してきた。シズネが咄嗟に誤魔化すと神人はそうなのかと頷いて地図を広げる。
「……適当過ぎてわからないんだよなぁ……」
「今、この辺りです。」
地図が読めないと言う神人だが、シズネはそれすら疑問視している。もしかしたら役に立たない自分に気を遣って何か主人の為に出来ているという自負を持たせるためにそう言っているだけなのではないのか。ふとした時にそんな思考が頭を過るのだ。
尤も、神人は本当に地図が読めない。元いた世界ではナビに頼りきりの生活を送っていたし、地図の精密度も細かさも全然違うのでシズネがいなければ全力で適当に駆けずり回っていただろう。だが、そんなことをシズネが知る由もない。
「……後、4分の1ってところか。じゃあ1時間も歩けば着くな。」
「はい。暗くならない内に進みましょう。」
内心の不安をなるべく見せないようにシズネは神人の言葉に頷き、日が落ちる前に村への道を歩み始めた。