3.私を買った方
お待たせいたしました。おそらく亀の様な更新ですが更新を再開させていただきます。
尤も、陸亀などは結構速いんですけどね。ウミガメも泳ぐのは速いですし……そんなガラパゴスゾウガメやアカウミガメさんのような速い亀さんたちを目指して頑張ります。
私を買った方は不思議なお人だ。
「あの、それ……皮に毒があります。」
「うっわ危ねぇ!」
誰でも知っている様な事を知らないで危うく死にかけたり。
「……大討伐依頼って……生態系大丈夫なのかこれ?こんなに殺して……」
誰も気にしないようなことを気にしたり。
「【バースト】!【スマッシュ】!」
魔力の発動が自分からではないのに非常に上手く使える上、何だか実践向けとは思えないような杖での戦闘方法でも魔術と同時並行で容易く魔物と戦えたり。
「疲れてない?大丈夫か?」
「あ、だ、大丈夫です。」
奴隷として売られていた物である私を気遣ったり。
「何をなさっているのですか?」
「訓練。」
何故かかなり若い木、いや苗木の上を何度も飛び交うという変な行動を毎日欠かさなかったり。
「ベッドで寝なよ。寒いだろ?」
「……はい。では、頑張りますので知らずにご無礼等ございましたら……」
「だから、そういうのは良いって!」
歳を取ると醜くなるパト族である私の今を買わずに、ただ、純粋に寒くないかと気遣ってくれたり。
「……無理に、とは言わないけどさ……何で奴隷になったのかとか、訊いてみてもいいかな?」
「はい……私の母は年をとってもあまり醜くならなかった珍しいタイプの女性だったのですが、それを見たバジャア族である男性と不義密通を行い母と同族の父に激怒されました。そして、その後出産をしたのですが……な、何とも言えない微妙な子である私が生まれ……」
「そんなことないって。自分を卑下しない方がいいよ。」
酷いことをお尋ねになりながらもこんな不義密通を交わした後の自分のモノで上書きと称して行ったらしい無計画な子作りで産まれた私に同情し、その日の夜はやたらと気遣って豪華な物を食べさせてくれたり。
「昨日はごめんな。何かしたいこと……解放とかは、俺が食あたりで死ぬかもしれないから無理だけど……」
「ふふ……し、失礼しました。」
「あ、笑った?……そっか、よかった……じゃあ、何か楽しい事でも考えられるみたいだし何か、ん?な、何しよっかな……えぇと、何かしたいことない?」
「……………………ありません。お気遣いありがとうございます。」
主人であるのにもかかわらず私の粗相を見逃してくださった上、それをむしろ喜ぶようなそぶりを見せたり。
「『ご馳走様。』……ん?どうかした?」
「……いえ、今何とおっしゃったのか少し気になっただけです。」
「え?『ご馳走様』って……もしかして翻訳できないとかかな?えぇと、要するにご飯を作ってくれた人と命をいただいたことに感謝するってこと……だよね?これはいただきますかな……?ご馳走様はこの食事の為に方々を出向いてくれたことに対する感謝?ん~……取り敢えず、シズネちゃんに美味しかったって言った感じになるかな。」
「あ、ありがとうごじゃいます!」
思い切り噛んでしまった羞恥の念と唐突にそんなことを言われた気恥ずかしさが相まって私の顔はすっかり赤くなってしまった。そんな私を見てご主人様も今言った内容に顔を朱に染めていた。
そんな生活を3ヶ月も行ったのだが、今度は私が変になってしまった。
パト族であるのにもかかわらず幼いころから醜かった私は周囲の嘲笑の対象であり、また家族からしてみればもしかしたら別の子種かもしれない疎ましい存在であった私。
奴隷になってもその扱いは変わらなかったのに、ご主人様に買われてからの生活は一転した。毎日が楽しく、まるで色のない世界から光り輝く世界に出たかのような気分になるのだ。
そんな生活は、私を変にしてしまった。
決して叶わぬものを私に抱かせたのだ。私にとってはどれほど大事な物でも周囲の状況に対してはあまりに儚く、脆い感情。どう足掻いても私では手に入れられないこと。分かっているのに、頭では理解しているのにそれは私を苛む。
私は自分がパト族であることを恨んだ。そして、私は毎日神様に母と同じ体質であるようにお祈りした。母と同じ体質であれば私はパト族としては不出来な物の、一般的にはまだマシな物にはなれる。
ただ、やはりそれは許されないことのようだ。母とは異なり私の体は成長してきている。
先日より―――
胸が膨らみ始めた。
足が痛み、少しずつ成長を始めた。
お尻も丸みを帯び、大きくなり始めた。
―――成長期に入ったのだ。
この時期が近かったからこそ私は安値で売られていた。そのお蔭でこのご主人様に出会えたのは喜ばしいことだが、この状況で来て欲しくなかった。いつまでもあのままでいたかった。
栄養が十分に与えられなければ、万に一つの可能性として母と同じように幼いころの可愛らしさを保てたかもしれないが、ご主人様は私が食事を摂らないと口には出さないが困った顔をする。
それも私が1日以上摂食を行わないと命令と称して食事を摂るように懇願されるのだ。あの顔を見せられてまで奴隷である私が私の叶わない願いの為に命令を拒否することなどできるわけがない。
そして、ついに先日私の顔にも痛みが走った。それは顔にも成長が来たという印。
私はご主人様に懇願して仮面を付けさせていただくことをお願いした。通常無礼であると奴隷を折檻されてもおかしくないのだが、ご主人様は快く許可してくださった。
願わくば、ご主人様が醜く歪んでしまった私の顔を見られることなく、私のことを嫌いにならないで頂ければ、私としては望外の幸いだ。
この想いは生涯、抱え込んで行きます。ご迷惑はおかけしません。どうか私のことを傍に置いてください。