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プロローグ

 2月14日。この日、世界に衝撃が広がった。


 それは俺がチョコレートを誰かから貰ったとかそんなちゃちなもんじゃねぇ。…いや、それでももの凄い奇跡だが…とにかくそんなものじゃない。


 何と…VRMMOが開発されたというのだ。それを自称神様という人物がアイドルのゲリラライブにボーカルロイドが実体化して一緒に歌っているという意味が分からないニュースの中で会場に上がっていきなり告げた。そして日本に向けて言ったのだ。


「創った世界は3個ほど。一つはリアルファンタジー。これはまぁ魔法が使えるのと努力すればかなり強くなる以外はプレイヤーの外見も弄れないし、あんまりゲームって感じはしない。」


 神様はそう言って向けられているカメラを見ることなく続けた。


「次がほのぼの系…これは本当にほのぼのしてる。魔物的なものが出るところもあるが基本ほのぼの。プレイヤーの外見は軽く弄れるから…まぁ…そんな感じ。」


 この世界についての説明は神様がなんか面倒になったようで、適当に打ち切った。


「そして最後に流行りの緩いファンタジー。これは外見弄り放題で、中にいる人間たちも美形揃い。制度も一夫多妻制でやろうと思えばハレムとか作れると思う…まぁ相手が嫌がらなければだがな。」


 最後に微妙に夢の無いことを告げて神様はカメラの方を向いた。


「で、応募についてだが…祈りと自分が望む世界に近いゲームをどっかの【神氣】が多い…まぁ要するに神社かなんかに奉納しろ。ゲーム内容から創った世界の中のどこに行くか決めて、当選者は1週間以内にランダムに100人ほど選ぶ、選ばれて物体を届けられた奴以外は使えない仕様で後、加護がかかるから奪えもしないし、これを持っているからという悪意に対する防護も出来…」


 普通なら詐欺か何かだと思うだろう。だが、それはそんなものじゃない。

 なぜなら現にテレビの中は暴動のような状態になっていたのだ。だが、その神様が何かしているらしく誰も動けない…が、熱気がこちらに伝わってくるようだ…

 俺は最後まで言葉を聞かず、他の誰にも負けない(つもりの)スピードで部屋にあった魂の欠片エロゲを大量に…本当に大量に納めた。心が引き裂かれる思いで奉納した。

 …勿論、保険的にファンタジーな世界を楽しみたいなとも思ったのでそう言ったゲームも納めたが、男の子だからな。どっちかって言ったらそう言った世界に行きたいさ。



 果たして俺は、当選したらしい。その日の夜遅く、俺の頭の中に天啓が響いて来たのだ。


「鈴木 神人かみと(17歳)性格は微妙にシャイボーイ、時々開き直る…ま、いっか。趣味はポップカルチャーで思慮分別はある…うん。大体分かった。当選。1週間以内に《幸運を呼ぶ壺》と説明書、…まぁどうせ読まんだろうから中に入った時に【電子精霊】を付けるんだが…まぁその辺はいいや。とりあえずおめでとう。届いて起動するまで他言すんなよ~色々…」


 その時の俺は思わず跳ねた。そして叫んだ。喜びのあまり夜中というのに駆けずり回った。最後の方に神様が何か言ってたのは聞こえてなかった。


 結果から言えばそれが失敗だった。


 中企業の社長である父親に目を付けられ、売ることを要求される。クラスでは俺が持っているのがバレ、普段から微妙にクラス内のカーストが低かった俺はカースト上位者の寄越せという要求を拒否したことで暴行に発展。一応格闘技…というか杖術をやっているのだが、そんなに都合よく武器が落ちているわけでもなく俺は一方的に殴る蹴る…と言ったことを受けた。

 …天啓の最後の部分がリフレインして俺の蹴られて痛む胸に突き刺さる。


「はぁ…」


 世界中で天啓を受けたという人物は俺以外まだ出ていない。それはそうだろう。少し冷静になれば神様が用意したというVRMMOの価値は分かることだ。所有者が自分に決まるまでバラなければ神様があとは何とかしてくれるのだし、当選したという事は自分以外は分からない。


「俺ってなんて馬鹿なんだろ…」


 口の端が切れて血が出ているのを靴の汚れと一緒に水道で洗い流し、そして俺は光る何かに包まれた。


















(っ!?息がっ…出来ない!?)


 気が付くと目の前は真っ暗で何も見えず、息も出来ず、体が押し潰されそうな捻れそうな破裂しそうな不思議な感覚が襲ってきた。


「っ!ぁ!ぁぅぁ!」


 自分が声を出しているのかもわからない。完全にパニックになって…俺はそこで急に息ができるようになったのに気付いた。


「ぷはっ!ゼヒューゼヒュー…」


 無我夢中になって息をする。空気が美味しいというのは本当のことだったと実感していると目の前に黒いローブを着た男が珍しいものを見る目で俺を見ていた。

 そしてその姿に俺は見覚えがあった。


「ゲホ…あれ…あなたは…神様!?」


 それはあのテレビに出ていた神様だったのだ。俺がそう言うと神様は何かなんとも言えないような顔をされた。

 そして俺に何があったのか訊いてきた。


「そうなんです!色々あって…!あの!」


 俺はここに至った経緯をつっかえながら語り始めた。神様は何らかの不思議な石を見つつ俺の言葉を聞いてくれた。


「へぇ、杖術とか使えるんだ。見せてみ。」

「演武とか一応できるんですけど…棒が…」

「【呪具招来じゅぐしょうらい】そらよ。」


 神様は真っ黒な棒を俺に投げてくれた。もう少し長いと良いんだけどな…と思いながらも演武を始めようとすると棒が伸びた。


「うぇっ!?」

「あぁ、30センチから3メートルまでは思った長さに出来る。重さもな。」


 もの凄いものじゃないのかこれ…と思いながら俺は演武を始めた。だが、お気に召さなかったらしい。神様は俺に渡した棒に金の文様が施された感じの棒をどこからか出すと舞い始めた。

 僕はそれを時間を忘れて見惚れていた。美しかったのだ。差し詰めそれは刀剣に魅せられる妖しい美しさ。

 神様が舞を終えると同時に俺は何故か泣いていた。


「ん~?何で泣いてんだ?」

「す…っごく…って…」

「…今俺死にかけだから全然キレないんだけどなぁ…これ位の動きなら出来るように指導要綱的なモノ渡そうか?」


 何故か死にかけらしい神様。餞別と言って黒い棒もくれた。そこからまた話を始める。途中漫画などの話に脱線したが、最終的に戻って全ての話を終えることが出来た。

 そしてその話を聞いた神様の感想は…


「あのエロゲ。お前からだったのか…」


 何か呆れられていた。


「はい。『こんな世界観だったらいいなと思うゲームを祈りと共に送れ』って仰ってたんで…勿論さっきも言いましたけどファンタジー系統も送りましたよ!」

「あー…そりゃ当選するな。インパクトあったし…」


 正直に言って良かった!と思っていたところで神様が少し不思議そうな顔をして訊いてきた。


「ん~…壺が来てからは一応VRMMOに関する悪意への防護的なものは働くはずだが…?」


 それについては痛い所だったのでぼかしていたが…ここまで来て黙ってはいられなかった。


「あ…喋っちゃったんで…」

「自業自得だな。…さて、でも一応ここに居たら死ぬし…送るよ。」


 正直に言うと更に呆れられた。だが、この神様はとても良い方らしく、元の世界に返してくれるようだ。…が、不意に黙ると急に神様は口の端を吊り上げた。

 そして衝撃的なことを言った。


「お前、多分同じクラスの奴等と一緒に異世界からの召喚がかかってる。これじゃ帰れないな。」

「えぇっ!?」


 俺は思わず声を上げた。対する神様は軽く笑っている。


「しかも珍しい世界だな。負の神が創った世界だ…」

「え…と?」


 何かよく分からない言葉が聞えたので分かりません的なオーラを出していると神様が説明してくれるみたいだ。


「まぁよく分からなくていい。…で、あぁ、成程。イカレどもにチート渡してしっちゃかめっちゃかさせて最後にはドーンって感じだな。」


 もの凄い擬音が多くて全然分からなかった。神様は頭を掻いて説明を始めてくれる。


「別に知らなくていいんだがなぁ…気になるなら言うが…簡単に言えば、俺が便宜上呼んでる【負の神】ってのは大体悪いことする神。で、その思考じゃ《破壊することがこの世で最も善いことだ》ってなるわけ。反対に《何かを創ることは悪》って感じ。」


 俺は理解しようと努め、首を傾げる。


(えっと…道徳観が逆ってことかな…?)


 神様は一応待ってくれており、何となく理解したんだろうなと判断したらしく続きを話す。


「そう言った場合だと、《世界を創ることも悪》ってなるから、世界の創造は起きない。それに周りの世界を破壊して回る。」

「最悪じゃないっすか…」


 思わず出た俺の呟きに神様は邪悪な顔を作った。


「全然。『負の神』にとっちゃ寧ろ最高のことだ。…何もなくなったところで最後に残った自身を壊して終わる。この世界は元々無だった。それが一番善い状態だったのだからそこに戻すことこそ至高。ってな感じだな。」


(あるがままの姿に戻すのが最善って思ってるってことか…それで自分すら滅ぼすって…)


 俺が絶句しているのを気にせず神様は顔を普通の状態に戻して続けた。


「で、大体の創造神は『正の神』、命をはぐくみ、守るをモットーにしてる感じ。…これだと世界を創るだろ?」

「はい。」


(これで俺らが生まれたみたいな…あと小説とかに出て来る異世界が出来るんだよな…?)


 そんなことを思っていると神様は続けて言う。


「だから大体の世界じゃ同じような世界観が広がる。『正の神が創る正義の思考』がな…殺しはいけないとか盗みは駄目とか…で、実際お前らもそう思ってるだろ?」

「そりゃそうですね。」


 俺も立派とは言えないが少なくとも道徳心は持ち合わせているつもりだ。今神様が言った正義・・は当たり前のことだと知っている。

 だが、神様は哂った。


「俺は正でも負でもない化物だが…どっちもどうでもいいと思ってる。生きるも死ぬも同じことさ。死ぬことで絶望する人もいれば救済される人もいる。」

「…それで…その…何が言いたいんですか?」


 俺は何だかよく分からなくなってきた上、話がまた脱線して来ていた気がするので話の軌道修正を行う。

 神様は言った。


「要するに、お前が行く世界の創造神は珍しい【負の神】、思考はおそらく怠惰。何をしても全ては徒労って思ってる奴。そいつがお前のクラスを世界に呼んで、何かしら成果を上げたところで全部破壊して正が間違ってると思って悦に浸りたいんだろうな。」


 俺が絶句している中、神様は笑って続けた。


「アレだ。他の世界を侵略する力がないから自世界で済まして悦に浸るとか…高校でぼっちになってる奴が小学校に乱入して俺は強い!って威張ってるようなもんだ…」


 そんなの酷過ぎる。何をしても結局は滅ぼされるならそんな世界に行くことなんて全く望まない。

 俺は神様に懇願した。


「お願いです!元の世界に…」

「嫌だ。その神がやってるのはお前基準じゃ悪いことかもしれないが俺から見ると別に悪いことじゃないしな。」

「そこを何とかお願いします!」


 俺は必死に頼んだ。それはもう死にたくないからだ。だが、神様は笑ったままだ。


「ん~…仮にその神に介入してイラッと来て間違えてぶち殺したらその世界の崩壊が起きるし。単純にお前を救うために異世界の民皆殺しにしたいならいいけど?代わりにアレだ。お前の夢の中に殺された人々の人生と無念が流れるけど…」


 それは流石に…でも!と俺は悲痛な声を上げる。


「そんな!折角VRMMOで遊べると思ったのに!チーレムが!」

「作ればいいじゃん。向こうの神も最初有頂天にした方が後で叩き潰すときに楽しいってチートくれるって言ってんじゃん。それに美女とか美少女揃いだぞ?」


 それは違う。…というか、俺にはできない。


「クラス…って言うより何か素の自分を知ってる奴がいるのにそんなに大それたことはできません!それに何しても最終的に壊されるんでしょう!?」

「…流石シャイボーイ…俺の目に狂いはなかったな。ってかまぁ…そうだな。」


 神様はそう言ってまた笑った。その後も身の丈を語っていくと、吐き出して楽になったのか、少し落ち着いて来た。

 そして神様は俺の頭に手を翳すと何かしたようだ。俺は何をしたのかという顔をしていたらしく、神様の方から何をしたのか教えてくれた。


「自然死すればVRMMO…ってか俺が創った世界に転生するようにした。」

「マジですか!?自然死!?」


 俺は驚きと歓喜のあまりに大声を出した。だが、神様は平然と答えてくれる。


「うん。殺されれば魂が結構減るから殺されたら転生しても記憶がもたんけど。」


 その歓喜はすぐに消し飛ばされた。さっき、何かをしたらそこの世界の創造神に殺されると言われたばかりなのだ。

 俺はまた叫ぶ。


「無理ゲーじゃないですか!神がチート持たせて皆殺しにするんですよね!?」

「バレなければいい。速攻逃げれば?俺基準でそこまで強くない奴だからずっと全員の監視は出来ないはずだぞ。」


 しれっと言う神様に俺は強くないなら…もしかしてその世界の神を倒せば自然死できるんでは…?と望みをかけて訊いてみた。だがその返答は残酷だった。


「…因みに神様基準で強くないって…」

「ん~…大体…君の考える少年漫画の主人公全員が束になって闘えばギリ勝てると思うレベル。」

「滅茶苦茶だ!」


 勝てるわけがない。だが、隠れれば大丈夫らしい。やるしかない…色々考えている俺を見て神様は俺にノートをくれた。


「何も対価なしに能力を渡すのはアレだから冒険譚を書いてもらおうか。それなら少しばっかり協力してやろう。」

「マジっすか!?ありがとうございます!」


 俺の考えが及ばない神を弱い方と言える神様からの授かりものだ。冒険譚の100や200くらい喜んで書こう。


「死ぬまで書けよ。死んだら俺が創った世界で俺に書き上げたのを渡すように。…あ、その時に俺が死んでるか忘れてたらその世界に行かないから。」

「ハイ!」


 何がかんだ詳細を言ってくれた神様は最後に俺に【観測せし者シュレディンガー】という神様の知恵を借りる能力を渡してくれた後消えていった。


「よし!大往生を遂げるために頑張るぞ!」


 自身の体も消える中で、俺は自分に気合を入れるためにそう声を出した。




 ここまでありがとうございます!


 神様と神人くんの認識の間には実は結構大きな差があります…知っている漫画の量という点で…

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