最終章「終始」
最終章『終始』
ラスカの国前には門番がたっていなかった。門が人が入れるくらい開いていて、三人はそこから入ることにした。
「・・・これが、ラスカ?」
「そうだぜ?知らなかったのかよ?」
レスが見せてくれた映像とはかなり違っていた。きれいな建物が並んで国民も活気に満ちているはず。
しかし、ボロボロに崩れた建物、国民は一人も見当たらない。
ダオがいうには、何年か前に国の王が死んで、国を治める者がいなくなった。国民は次の王をたてようとした。しかし次の王を決めるために争いが始まり、
国を治めてくれそうな人たちが死んでいった。
残された人々はファイに移住したり、他の国にいったりしていた。それもできない人はただ死を待っていた。
「この国はもう・・・」
「あぁ、誰もいねぇ。死んだんだ」
タケルはその場に崩れ落ちた。ダオとアイが心配してくれているが、その声もタケルには聞こえていない。
――――俺は、何のためにここまで来たんだ?
俺は・・・。
「・・・誰かおられるのですかな?」
近くの建物から老人が出てきた。老人は三人を見て、
「とりあえず、私の家に来なさい。話でもしましょうぞ」
老人はついてくるよう三人にいい、三人は老人の後をついていった。さっきの建物の中に入り、地下につづく階段を下りる。
地下には部屋があり、壁一面に本がぎっしり並んでいた。三人はテーブルに案内され、適当にいすに座った。
「・・・あの、この国に来ればすべてが分かると聞いたのですが。」
タケルは羽織っていたマントをはずした。老人は驚いた様子で白い髪をじっと見つめた。
「よかろう・・・私大臣をしておったときの話じゃ。」
・・・二十年前。先々代の王が死んだ。国のダメージが思いのほか大きく、立ち直るにはかなりの時間がかかった。。しかし十六年前、この国に2人の王子が誕生し、国にまた活気が戻った。
・・・2人の王子、片方は巨大な力を持ち、もう一人は巨大な心を持っていた。
先代の王は、巨大な力を封印し、家来にタチオでその王子を育てるよう命令した。
「・・・つまり、その王子とはお主のことなのじゃ」
「ちょっと待ってください。俺には妹がいます。それに、白い髪の謎も教えてもらっていない」
タケルは身を乗り出した。
「まだ、話は終わっとらん!」
老人は話を続けた。
タケルの質問に答えると、その妹は家来の子供で家来はそのまま死んだか、行方不明。タケルとは何のかかわりもないのだ。
白い髪は、王家の証。王家の者はみな白い髪をしている。
ではなぜ、白い髪が呪われているなどとい噂がたったのか・・・。
それは・・・それよりも昔にさかのぼる。
戦争が絶えなかった頃、ラスカはとても強かった。しかし、そのときの王は戦い方残酷で他の国から恐れられていた。そのせいで白い髪・・・つまりラスカの王家のものは残酷て卑劣な人間だと広まったのだろう。
「タケルは呪われてるわけじゃなかったのね」
――――複雑な気分だ。
この国の王子で、呪われているというのは嘘。
でもこれでは、レスが言ったことと違う。
レスは聞けば不幸になると言っていた。
でも俺は不幸だとは思わない。むしろ幸福だと思っている。
「レスが言ってたことと違う・・・」
「レスじゃと!?」
老人は拳を震えるほど握り締める。その顔は怒っているようにも見え、泣いているようにも見える。
「レスは・・・お主の双子の弟じゃ」
「んだと!?」
ダオはイスから立ち上がった。タケルも驚いている。レスは人間ではないとおもっていた。しかし、タケルとそっくりだった点からみると、双子であってもおかしくはない。
「レスは人間離れしている。あやつは危険じゃ!母親を殺し、この国を滅ぼした!」
「そのとおり。」
「!?」
皆が入り口付近を見る。レスが壁にもたれかけ立っていた。
「まだ生きてるやつがいたんだ〜・・・消えろ!」
「ぐわぁぁ!」
老人は白い炎に包まれて、こげこげになってしまった。アイは回復魔法を唱えるが、即死だったため意味がなかった。
「おぃ!俺はあのときの屈辱をはらしにきた!俺と勝負しろ!」
そういってダオはレスに殴りかかろうとした。しかしレスは煙になり、パンチをかわす。レスはタケルの前にやってきた。
「どうだ?真実をきいた感想は?」
「・・・俺はお前を許さない」
母を殺し、国を滅ぼしたレスを、実の兄弟だが許すことができなかった。
「へぇ〜・・・俺もお前を許さない」
「・・・なぜ?」
「俺はお前が嫌いだった。母上はお前のことばかり心配して、俺のこと何も見てくれないし、想ってもくれない。お前がいなければ俺はみじめな思いをしなかったんだ!・・・まぁいい、今はそんなこと関係ない。俺はお前以上の力も手に入れた!あとはお前の存在を消すだけだ!」
レスはタケルの胸倉を掴んだ。上に持ち上がり、首が締め付けられる。
「お前さえ消えれば、俺はこの国、いや、この世界の王となる!」
レスは高笑いをし、胸倉を掴んでいたほうの手を白く燃やす。
「・・・これで終わりだ!」
――――もうだめだ!
「ッ!」
掴まれていた胸倉が離される。レスが赤い炎に包まれていた。
「タケルは私の大切な人なの!タケルを傷つけるやつは許さない!」
杖をレスに向け、炎を放ち続ける。
「おい!大丈夫か?」
ダオが咳き込むタケルの背中をさする。
「あいつは俺らがなんとかする!お前はここで休んでろ!」
ダオはタケルの盾となる。
「・・・こんなチンケな炎じゃ俺は倒せない」
レスは炎を一瞬で消した。苦しんでいたはずなのに無傷である。
「じゃあこれならどう!?」
今度は杖から水を出す。水はレスを包み込む。
「じゃあ俺も魔法を使わしてもらうぜ!」
ダオは水の中に手を入れた。
「サンダーボルト!」
電気は水に通りやすい。そのため、電気の威力が増し、大ダメージを負わすことができるのだ。
「・・・雑魚が」
サンダーボルトもレスには効かず、白い炎で水を蒸発させてしまった。
アイは炎・雷・水・土などと色んな魔法を使ったが、どれもレスにはきかない。ダオも自慢の腕力で挑もうとするが、うまくかわされてしまう。しかも攻撃するたびに反撃をくらわされてダオの体もボロボロだ。
「ダオ!」
タケルが叫ぶ。ダオがタケルのほうを向いてニカッと笑う。その瞬間、ダオは白い炎に包まれ、倒れた。
「ダオ!?キャァァ!」
「アイ!」
アイは、炎の輪で体を縛られ動けなくなっていた。その反動で杖が折れる。
「これで邪魔はいなくなった・・・」
レスがこちら近づいてくる。タケルは外に出ようと急いで階段を上った。
外へ出て、広い公園まで走る。
―――ここなら被害が少なくてすむ。
タケルは剣を抜き、レスが来るのを待った。
「・・・そんな剣で俺が切れると思っているのかぁ?」
タケルはレスが背後にいるのを感じ、向きなおす。しかし、タケルは頭を掴まれ、身動きが取れなくなった。アイの師匠のときと同じ、力を抜けて剣をおとしてしまう。
「は・・・はなせ!」
ふと、タケルはアイの師匠が言っていたことを思い出す。
“今度使う時は、君が世界を救うか滅ぼすかだ。”
―――今がそのときだというのか?
俺はこいつを倒すことによって世界を変えることができるのか?
それならば、今こそあの力を使うときだ!
「・・・レリース(開放)」
タケルがあの時のように青白い光を放つ。レスはひるみ、後ろに下がった。
「それがお前の本当の力か・・・おもしれぇ」
レスは白い炎をタケルに向けて放つ。しかし今のタケルには白い炎は通用しない。仕返しとばかりにタケルもレスに赤い炎を放つ。
アイとは比べ物にならないほど熱く、大きい。レスは急いでシールドをはるが、少しやけどをしたようだ。
タケルはレスに近づいていった。レスは白い炎をガムシャラに打ち続けるがタケルには効かない。
「なぜだ!?なぜ、お前にそんな力があるんだ!俺もその力が欲しかった。こんな感情あっても無駄なのに!」
レスは泣き叫んだ。感情が豊かなせいか、悔しさと悲しさがレスを襲い、涙が止まらなくなっている。
い
「・・・俺には感情がない。だからお前がものすごく羨ましい。」
「俺が・・・羨ましい?嘘だ!こんな醜い感情、誰が欲しがる!」
「感情がないなんて、死んでるのと一緒だ。感情があるからより強くなれる。」
「でも、お前は強い。感情がないのに」
「俺のは感情に似た何かだ。仲間たち一緒に旅したことで、俺は感情に似たものを感じた。それが俺を強くした」
「・・・俺も強くなれるかな?」
「・・・なれるさ」
「・・・でも、もう無理だ。」
「なぜ?」
「だって・・・もう悪魔に心を売っちまった」
今までのレスの顔が一変した。目は赤く光り、口を裂け、歯がむき出しになっている。
まるで・・・悪魔のように。
「ヒャアハハハハ!コイツノ感情ハ消エタ!コノ体ハ俺ノモノダ!」
レスは黒い煙になり、国を、いや、世界を覆いつくす。
「コノ世界ヲ滅ボス!コノ世界ヲ俺ノモノニスルンダ!」
レスは雷と竜巻を起こし、他の国を襲う。
「やめろ!レス!」
「もうレスは死んだ!何を言っても無駄だ!」
タケルはレスをとめようと光を放とうとした。しかし、体力が削られているため、光を出せるくらいの体力がない。
「くそッ!」
「ハハハハッ!・・・・ッ!?」
レスに異変が起きた、急に苦しみ始め、黒い煙が縮んだ。やがて人の姿に戻り、その場に座りこむ。
タケルは最後の力を振り絞り、レスにちかよった。
「剣をよこせ!」
レスはタケルの腰に差してあった剣を抜く。そして、レスは自分に剣を刺した。
「レス!?」
「・・・ぐっ!こ、これでいんだよ。こ、これで世界は救われる。」
「何言ってるんだよ!なんで!?」
「俺の中にある悪魔は俺が死なないと死なない。だから・・・」
「・・・あ、あにうえ、この世界の王となってね」
レスはそのまま動かなくなった。
数日後・・・。
ダオと別れた二人は、アイの師匠のいる家に帰っていた。
「・・・君は、これからどうする気だい?」
ナギは折れた杖を直していた。
「・・・またラスカに戻ります。今度は王として」
フッとナギは笑った。
「師匠!私、タケルと一緒にラスカに戻りたいんです!タケル、いいでしょ?」
アイが窓からはいってきた。薪割りをしていたようで木屑が頭についている。
「あぁ・・・俺は構わない。」
口元を軽く緩め、目を細める。
「今・・タケルくん、笑ったね。」
――――これが笑うということなのか。
タケルはあの戦い後、感情を取り戻していった。笑ったのは今日が初めてである。
「笑ったほうがステキよ!」
アイがタケルに抱きつく。タケルは顔を赤らめて戸惑う。それを見たナギは可笑しくて笑ってしまった。
「タケルくん、これですべて終わったわけではないよ?これからが始まりだ。」
「はい」
タケルとアイはまた旅に出掛けた。
これから始まるもののために・・・。
2人が旅立った後。
「結局、あの予知は当たっていたの?」
「もちろん♪レスが世界を滅ぼそうとし、タケルが世界を救っただろう?」
「それって無理やり当たってる風に言ってない?」
「そんなことないさ、でも君がレスにとり憑かれてくれたから、予知が当たったんだだよ?ありがとう・・・カスミ」
「どういたしまして♪」
完