第二章「出会い」
第二章『出会い』
ざわざわと緑が揺れて、小鳥のさえずりがかすかに聞こえている。
まだ猛暑が続いている。この世界に秋はない。夏が長いのだ。
森の中は影なので多少な涼しいのだが、見ているだけで暑苦しいマントにフードを被った少年が歩いていた。タケルである。
カスミとの悲しい別れから一ヶ月はたつ。村を出て、町で必要なものを買い、国を出てこの森に入った。
この森の名は『迷』。迷うという言葉からできた名前だ。
森に入ってもう三日はたっている。もう出てもおかしくないはずだ。
――――どうなっているんだ?この森は。
暑さのせいで頭も混乱してくる。コートを脱ぎたいが、脱げば白い髪が見えてしまい何をされるか分からない・・・この森に人がいたらの話だが。
「・・・」
タケルは目の前が真っ白になりその場に倒れてしまった。
―――――涼しい。ここはどこだ?
タケルは目を覚ました。木で作られた天井が見える。どうやらどこかの家らしい。ゆっくりと起き上がり辺りを見回す。特に怪しいものはなく、ベッドとテーブルとイスがいくつかあるだけの質素な部屋。テーブルの上には薬と水が置いてあった。
“ガチャッ”
目の前にあるドアが開き、タケルと同じ年齢くらいの少女が入ってくる。腰まである茶色いストレートの髪。赤に近いピンクのマントで、同色のスカート、手袋をしている。奇妙な格好をしているがその少女にとても似合っている。
「気がついたのね?」
少女はタケルに近づいてくる。タケルは息を潜めた。
「そんなに警戒しないでよ。あたしはあなたの敵じゃないわ。あたしの名前はアイ。ここで魔法の修行をしているの」
――――魔法・・・。昔話だと思っていたが、本当にあったんだな。
魔法とは昔から語り継がれている不思議な力のこと。今では魔法を使うことができる者はごくわずかである。魔法は誰にでもできるわけではない。素質があるものでしか扱えない。つまりアイは選ばれし者なのだ。
「あなたの名前は?それと顔を見せてくれないかしら?」
「・・・・タケル。」
タケルは被っていたフードをとった。驚かれると思っていたが・・・。
「白い髪・・・きれいね。」
タケルにとって初めてのことだった。髪を褒めてくれたのはアイを入れて二人だけ。アイは、タケルから離れてドアの横にある2m近くある杖を手にする。
「あたしね、自分の未来を予知する修行をしていたの。そしたら、あなたが出てきた。あなたは、世界を救う・・・。そしてあなたはあたしにとって必要な存在であり、あたしはあなたにとって必要な存在なの。だから、あなた行こうとしている場所にあたしもついていく。拒否権はないわ。これは予知した未来に繋がるから、未来を変えてはならないの。」
タケルは黙って頷いた。拒否権がないのだから彼女に従うしかない。
アイは微笑んで、
「師匠に伝えてくるね!」
と言い、部屋から出て行った。タケルはフードを被りなおし、ベッドから降りた。かなりの時間寝ていたからか体が軽い。最近ベッドで寝ていなかったのでちょっと名残惜しかった。ベッドの横に置いてあった自分の荷物を手に取り、部屋から出た。廊下にでると、他にもたくさんの部屋があった。民宿なのだろうか。階段を下りてみると、談話室のようになっていてアイがソファに座っていた。
「師匠があなたと話がしたいって!あそこに大きな扉があるでしょ?あの中にいるから。」
アイが指差すほうを見る。今までと違う不思議な扉だった。何かの紋章が描かれていて、それが何を示しているのかは分からない。扉のノブに手をかける。すると、押してもないのに扉が勝手に開き、タケルの体が勝手に部屋に入り、扉が勝手に閉まった。
執務室のような場所だった。大きな机に大きなイス。そこに座っているのは、黒いふちのメガネをかけた物腰のやわらかそうな男性。黒い衣装を身にまとい、本にでてくる魔法使いそのものだった。
「君がアイの予知に出てきた・・・タケルだね?僕はアイの師でナギだ。」
優しく微笑んでいるが、目が笑っていない。イスから立ち上がり、こちらに近づいてくる。タケルよりも背が高いので見上げる形になっている。
「君は・・・僕の予知にも出てきた。君が世界を滅ぼしてしまうという予知をね。弟子のアイは君が世界を救うという予知を見たようだけど、僕とアイでは、どちらの可能性が高いかといえば、僕の可能性のほうが高い。だから君はここで死んでもらおう。」
ナギはタケルの頭に手をかざした。タケルは抵抗しようとナギの手を掴もうとしたが、体が言うことを聞かない。ナギはブツブツと呪文のようなものを唱えた。タケルの頭に置かれていた手が青白く光りだす。力が吸い取られていく感覚がした。力が抜けて、朦朧としてくる。
――――これが、魔法・・・か。
もうダメだ・・・タケルがそう思った瞬間。頭の中から声がした。
“開放しなさい”
・・・と。それは自分を殺そうとしている男の声だった。こんなやつの言うことなど聞いてやるものかと、タケルは薄れゆく意識の中でも抵抗しつづけた。
“しかたがない。無理にでも開放しよう”
吸い取られていく感覚が増す。意識が飛んでしまう寸前に、あることを思い出した。それは、タケルに身に覚えのない記憶。
「この子の力は巨大すぎる!」
「しかし!この子の力を使えば、世界はわが国のものだ!」
「封印するべき力だ!この子の力は諸刃の剣となるだろう!」
城の中で大臣たちが、もめている。その中心で口論を黙って聞いていた女。その女は赤ん坊を愛おしそうに抱いている。
「姫!ご決断を!」
「私は、この子の力を利用したくはありません。亡き愛しい人との子・・・この子の力を封印しましょう。」
女は、封印の儀式を行った。
「この子供の力、我の力を持って封印す。この力開放しようとものならば、言葉を示すなり。その言葉とは・・・・」
「・・・レリース(開放)」
タケルが発した言葉により、何かがあふれ出した。男が手を離すと、タケルの体が光り浮いた。白い髪が輝いてみえる。タケルが目を覚ます。光るのを止め、体も地に着いた。
「・・・嘘をついてごめんね。こうでもしないかぎり、君の力が開放できなかったんだ。」
タケルは今ので体力を消耗したらしく、息を切らしてその場に座り込んだ。
「ハァ・はぁ・・どういう、ことだ?」
「殺そうとしたのは嘘だ。でも、僕はたしかに君が世界を滅ぼす予知を見た。そして、君が世界を変える予知も見た。こんなこと一度もなかった。」
ナギは回復魔法だと言って、タケルに手を近づける。すると、不思議なことにタケルの体力が戻ってきている。
「・・・しかし、共通しているところがある。それは、僕が君の力の解放をすること。そこからどちらになるかは君次第・・・ってところかな?」
「今のは?」
「君の今持っている力を吸収し、君の中にあるもう一つの力を呼び起こそうとしたんだ。本当は君自身がしたほうがよかったんだけどね、変な記憶を見ただろう?それは無理やり記憶を引っ張り出したからなんだ。」
タケルは立ち上がり、ナギを見た。今までとは違う優しい眼をしていた。
「タケル!」
アイが扉を勢いよく開けた。
「アイ。もう少し、静かに扉を開けなさい。」
ナギが半分笑いながら言う。アイは顔を真っ赤にして、すみませんと謝った。ナギはイスに座りなおし、頬杖をつく。
「タケルくん、君のその白い髪は何を意味しているか、分かるかい?」
黒い煙と同じ質問をされ、少々驚いた。タケルは首を横にふる。
「いずれ君にも分かる日がくる。今までとても辛い思いをしてきたんだね、でもこれからもっと辛い思いをしなければならない。覚悟はできているかな?」
タケルは頷いた。すると、ナギは微笑み、アイに問いかける。
「アイ。この少年を助けてあげなさい。そして、悪い方向へ進まないように君が導くんだ。できるかな?」
タケルの隣にいたアイも頷いた。
「そうか・・・では行ってきなさい。旅に必要なものは玄関においてある」
「はい!」
「・・・それと、タケルくん。開放したおかげで少しは強くなった。しかしあの大きな力はいつでも使えるというわけではない。今度使う時は、君が世界を救うか滅ぼすかだ。」
「・・・はい」
2人はナギのいる部屋を後にした。玄関には剣が置いてあった。タケルが使う用らしい。
「じゃあ、ラスカ目指して出発!」
こうしてアイが仲間に加わった。