古代武器ならぬ古代兵器
この世界に転生してから一年がたった。歩けるようになり、舌ったらずだが、喋れるようにもなり、魔法も少しは使えるようになった。といっても、母様に教えてもらったわけではなく、母様の書庫にあった魔道書を読んだだけだけど。初めて母様とフェルミルさんと呼んだときは、二人とも涙を流していた。そんなに嬉しかったのだろうか?はじめは、この世界に転生したことに戸惑っていたけど、夢にまで見た異世界転生。せっかく異世界転生したんだから、楽しまないと損でしょ。
一つ心配なのが、私が産まれてからずっと、父様の姿を見たことがないということ。母子家庭なのだろうか。それとも離婚とか?
そう心配していたけど、その心配は杞憂に終わった。
いつものように、フェルミルさんとソファーに座って本を読ませてもらっていると、玄関の扉が勢いよく開いた。
「リリム!帰ったぞ!」
「ひゃあ!」
「あなた!フリージアが驚いているでしょうが!」
「あぃだ!」
び、びっくりした。そうか、あれが父様か。……なんだろう。考古学者というかなんというか、遺跡に一晩中潜ってそうな感じがする。黒髪と黒目をして、かなりかっこいい。……母様も父様も美形だから、わたしは将来どうなるのだろうか。ちょっと興味ある。
「お、おお!こ、これが、僕の子供!?……リリムに似て、とても可愛らしい子だ」
ソファーに座っている私を見た父様は、膝をついて涙を流していた。……これって、泣くこと?
「とうさま、なんでないているのですか?」
「う、うぅ、まだ一歳なのに言葉を話せるなんて……」
落ち着かせるために声をかけたのに、なんでさらに泣くのよ。わからないなぁ。
「そういえばお嬢様って、自分の顔を鏡で見たことがなかったですね。少し待っててくださいね?」
「はい」
うーん、どうなってんだろ、ちょっと楽しみ。少し待つと、フェルミルさんが鏡を持ってきた。
「……だれですか?これ」
うん、鏡を覗いて見たら、別人が映ってた。本当に誰?なんか想像していたよりもずっと可愛いけど。
きらきらと輝く銀色の髪に、吸い込まれそうなほど綺麗な菫色の瞳。雪のように白く透き通った肌。ピンと尖った耳。まさに絵本の中に出てくるお姫様のような女の子が……ってだれ!?本当に誰!?
「先祖返りってやつですよね?これ」
「そう、ですね」
隔世遺伝よりも、確かに先祖返りの方が正しいかもしれない。エルフは魔法順応能力や魔力適応能力が高く、魔法に秀でた種族。稀に純粋なエルフより、ハーフエルフの方が魔法に秀でることがあると聞くけど、私はその稀に含まれるらしい。
ちなみに、父様の名前は、ヴァルディエ・フェルマール。職業は、考古学者兼研究者らしい。
「さて、あなた?フリージアを置いて、一年も家に帰ってこなかった理由を、教えてもらえるかしら?」
「い、いや〜、潜った遺跡が珍しくて、つい」
……馬鹿だ。まさかとは思ったけど、私の想像通りの人だとは思わなかった。
「はぁ〜。それで、あなたのことだから、なにもなく戻ってきたりはしないんでしょ?」
「そうなんだよ!リリム!古代武器が見つかったんだ!」
父様は、そうはしゃいで、菫色をした複合弓を取り出した。
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覇絶の破魔弓 系統:コンポジットボウ 古代兵器
持ち手を選ぶ弓。この弓が選んだ持ち手しか弦を引けず、扱うことが出来ない。
その代わり、持ち手がこの弓を放った時、すべてを拒絶し、破壊するであろう。
付加属性:全属性
【破魔の矢】【矢束の破魔矢】【炸裂の破魔矢】【風矢】【氷矢】【焔矢】【水矢】【土矢】【雷矢】【毒矢】【光矢】【闇矢】
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なぜだか、父様が取り出した複合弓を見ただけで、名前とどういうものかが理解できた。それよりも……
「へいき?」
遺跡など専門の父様が言うには、アーティファクトというのは古代武器のことを指すことらしい。人類の技術は一度、天変地異によって、遥か昔に消滅したらしい。原因は詳しくわかっていないが。それにより、昔ほど強力な武器は作ることが出来ないため、今な武器より昔の武器の方が強く、この弓のように壊れずに残っているのは珍しいため、古代武器と呼ばれているとか。付加属性は、その古代武器につけられている属性を指す言葉で、【破魔の矢】などは、RPGでいうスキルのようなもので、指定の言葉を発することで使うことが出来るらしい。
この弓のことを話したら、母様とフェルミルさんと父様が、口を開けて驚いていた。
「も、もしかして、こ、ここ、この弓のことが、わかるのか?」
「はい。はぜつのはまゆみというなまえで、ふかぞくせいは、ぜんぞくせいです」
?そんなに驚くことかな?確かにチート級の武器だけど、使えなければ意味がないじゃない。
「とくべつなことなのですか?」
「当たり前だ。古代武器のことが理解できるということは、その古代武器を扱えるということだ。まさか娘が扱えるとは、神よ!ありがとう!」
「特別なことなのよ。フリージア、あなたは天才よ」
そりゃすごい。確かに特別。というより、多分先祖返りがすごいんじゃないかな。
「つかってみても、いいですか?」
「ええ、いいわよ。私が魔法で支えててあげる」
ということで、近くの草原へ出ることになった。
「それでは、その弓をかしてください」
草原についた私は、父様から覇絶の破魔弓を受け取った。
母様達の話が本当ならば、この弓は、私が使えるはず。
弓を受け取った瞬間、弓が、強烈な光を発した。
「まぶしい!」
なになに!?ちょっ、目が!
「やっぱり、この子は天才よ!」
「ああ、そうだな!」
やっと光が収まり、目を開けたときには、菫色だった弓は、若草色に変わっていて、さらに形と変わっていた。
……姿を変えた弓は、長年扱ったかのように手に馴染んだ。不思議な弓。
「母様、どういうことですか?」
「古代武器は、持ち手を選んだ証として、その持ち手が心の中に秘めている色と、その持ち手に相応しい形へ、姿を変えるの」
ということは、私はこの弓の持ち手なった、ということなんだ。……一度、使ってみよっと。
「やをください」
「はいはい。《フライ》」
矢を受けとり、弦にかけて、目一杯引く。狙うは、迫ってくる積乱雲。
「はぁっ!」
そして、放つ。放った途端、なにかが抜けた感じがした。放った矢は、光の筋を描きながら積乱雲を貫いた。貫いた積乱雲に大きい穴が空き、そのまま霧散して消えた。……やばい、強すぎる。
「……弓も凄いけど、フリージアも凄いわね」
「そうですね。私達が倒れるほどの魔力を吸われていて、それなのに汗の一つもかいていないのですからね」
うーん、まあ、そこは先祖返りってところじゃないかなぁ。
「それじゃ、帰りましょうか」
「はい!」
早く帰って寝たいな。眠いし。