第3話 レッツゴー!ハワイ旅行
第3話で漸く主人公が初登場とかwww
(夏の海は人の心を開放的にすると言う。日本の異常な人口密度の海でさえそれなのだ。異国の地それもハワイのビーチともなれば、普段は一瞬のパンチラすら許さない鉄壁のガードを誇る女の子といえども、ひと夏の甘い思い出を作ろうと必ずや心もカラダも開放的になる筈だ!俺はこの日に備えて3日間1発もヌかずにフルチャージして来た。絶対にこの3泊5日の修学旅行の間に『大人の階段』を昇ってみせる!)
高校2年生の少年、新堂真央は、そんな青少年にありがちな不純な決意を胸に秘めつつ、鮨詰めにされて縦も横も狭いエコノミー席に座ってシートベルトをしっかりと締め、飛行機の離陸を今か今かと心待ちしていた。
「おいおい、新堂!お前、もう寝る気なのかよ?少しは駄弁ろうぜ?」
目を閉じて妄想、もとい漢の決意をしている行為を寝ようとしていると勘違いした左隣の席の斉藤が、真央の肩を叩きながら話し掛けて来る。
「ハワイまでのフライト時間は約7時間だぞ?お前、着くまでずっと起きてる気なのか?」
真央たちが乗っている便は成田空港を夜に出発し、ホノルル国際空港に現地時間の朝に到着予定なので、このまま斉藤に付き合ってずっと起きていたら、向こうに着いて早々時差ボケを起こしてグロッキーになるのが目に見えている。
斉藤は1年の頃から真央と仲の良い友人ではあるが、真央のこの旅行に於ける真の目的はクラスメイトとの友誼を深めることではなく、あくまでも『大人の階段』を昇ることである。
したがって、たった数日しかない貴重な時間を睡魔に襲われて無駄になど出来る訳がない。
とはいえストレートに会話を拒絶するのも角が立つので、真央は斉藤自身の意思で会話を止める方向に持って行かせられないだろうかと考えたのだった。
「いや、流石にずっと起きてる気はねーけどよ?テンション上がっちまってすぐには寝れねぇって!つーかお前、周りを見てみろよ?いきなり寝ようとしてる奴なんか1人もいないぜ?」
「……みたいだな」
真央が斉藤の指摘に釣られるように周囲を見回してみると、確かに男女共に普段よりも幾分テンション高めでお喋りしている様子が見て取れた。
「だろ?お前も少しは付き合えって!んで、ここだけの話なんだけどよ?実は渡辺さんたちが今日の為に水着を新調したんだよ!!」
斉藤は後半のセリフだけ内緒話をするように真央の耳に手を当て、ごにょごにょと小声で耳打ちして来た。
「そーいや、前にクラスの女子たちが休み時間にそんな話をしてたのを小耳に挟んだよーな……って、何で渡辺さん限定なんだ?しかも断定口調」
男に耳打ちされるとか、不快を通り越して殺意すら感じたが、斉藤の発言に引っ掛かりを覚えたので、私刑は後ほどにすることにして真央は質問を返した。
「ふっふっふ!とりあえず、これを見てみ?」
すると斉藤は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべ、真央の疑問に答える代わりにデジカメを差し出して来た。
「……こ、これはまさか!?」
「どーよ?眠気なんざ一発で吹っ飛んだだろ?」
「あ、あぁ……でも、どーやって撮ったんだ?」
斉藤のデジカメに写っていたのは、渡辺さんを含めたクラスの中でも特にかわいい女子数人が何処かの店で水着の試着をしている画像だった。
流石に試着室にカメラを仕掛けていた訳ではないので裸が写っている画像は1枚も無かったが、普通にかわいい水着姿の画像に混じって、ネタで着たのだと思われる胸を隠す布地が極端に少なくて谷間が凄い事になっている画像や、お尻が丸見えのTバック画像など、彼女らに想いを寄せる男どもが見たら思わず言い値で買ってしまいそうな超激レア画像でデジカメのメモリーカードの容量は埋め尽くされていた。
「先週『偶然』女子更衣室の前を通り掛かった時に、土曜の放課後にそのまま水着を買いに行こうって彼女らが相談してるのが偶然聞こえて来たんだわ。これはもうこっそりと後を付けて激写しろっていう神の御告げだろ?俺は本能に従ったまでよ!」
「随分と俗っぽい神様もいたもんだな……」
「いやぁー、あの日は家に帰ってから5発もヌいちまったよ。これとか見てみ?ちょーエロくね?」
斉藤はそう言いながら、イヤホンを片方真央に渡しつつ、特にお気に入りなのだと思われる『動画』を再生した。
そこには、かなり際どい水着を着て顔を真っ赤にした渡辺さんが、クラスメイトに指示されてグラビアアイドルのような扇情的なポーズを次々に取っている光景が映し出されていた。
「……斉藤」
「ん?何だ?」
「渡辺さんたちにバラされたくなければ、データを全て俺に寄越せ!」
「ちょ、お前!親友を裏切る気か?」
「あとついでに修学旅行中に盗さ……もとい青春の1ページを収めたメモリー(カード)もだ。断れば……分かるよな?」
真央は斉藤の両肩に手を置きながら優しく諭した。
「俺にだけリスクを負わせて、美味しい所だけ持って行こうとするなんて、悪魔かお前は?『小さな魔王』の名は伊達じゃねーな?」
「一言余計だ!」
真央は右手を斉藤の肩から離し、そのまま頭を鷲掴んでアイアンクローを掛ける。
「痛たたたたたっ!!ギブッ!ギブッ!」
「ったく、小さいのはてめぇのアレだろーが?」
「ちょ、お前に言われると男としての自信を失いそうになるから、マジで勘弁してくれよ……」
真央の身長は159.8cmであり、平均的な男子高校生と比べてかなり低い。
当然クラスでも断トツの最下位であり、むしろちょっと大きい女子にすら負ける始末である。
しかし、それに反比例するように身体能力は非常に高く、特に握力はリンゴを片手で握り潰せるほどだった。
結果として付いた渾名は『小さな魔王』。
これは真央の名前と低い身長、もう少し髪を伸ばせば女子に見紛うほどに整った中性的な容姿、そしてそれらに反して非常に優れた身体能力も持ち、さらには通常時ですら他の男たちの戦闘時のサイズを上回っているという凶悪なブツを隠し持っているという噂こそが、その渾名の最大の由来だった。
「そろそろ離陸時間だ。全員シートベルトがちゃんと装着されているか、もう一度確認しておけよ?」
真央の心無い一言に斉藤が凹み始めた矢先、前の方の席に座っている担任の体育教師(30歳独身)が受け持ちの生徒に向けて声を掛けた。
「おい斉藤、デジカメ貸してくれ!渡辺さんの艶姿を見ながら、ビーチでどーやって彼女に声を掛けるか、イメージトレーニングするからよ」
真央は右手でシートベルトがちゃんと固定されているか入念に確認しつつ、左手を斉藤の目の前に差し出してデジカメを要求した。
「イメトレって……お前、渡辺さん狙いだったのか?」
抵抗は無意味と悟った斉藤は、渋々真央の手の上にデジカメを乗せつつ聞いて来る。
「最有力候補の1人ではあるな。折角童貞卒業するなら、かわいい女の子の方が良いに決まってるだろ?」
真央は何を馬鹿なことを?とでも言いたげに斉藤を見つめ返した。
「今まで100人以上の男が告って、全員その場で返り討ちに遭ったって噂だぜ?止めとけ止めとけ!心の傷が増えるだけさ!」
「バカめ!戦う前から諦めてどーする?ハワイの海なんて、これ以上無いロケーションじゃねーか?万が一にも可能性があるなら、俺は全力で行くぜ?」
言葉だけ聞くとちょっと格好良いことを言っているっぽいのだが、現実はデジカメに写ったクラスメイトの谷間に目を奪われてニヤけながらの発言だった為、完全に下心丸出しであった。
「そーかよ。まぁ精々頑張れや?億が一にもお前が渡辺さんをゲット出来たら、おっぱい画像の一つくらいは回してくれよな?」
「文字通りおっぱいだけなら撮ってやっても良いぜ?」
「いや、そこは顔も一緒に写ってなきゃ意味ねーだろ!?」
真央は斉藤のツッコミを華麗にスルーしつつ、雑談以上猥談未満な内容を駄弁りながらデジカメのデータを眺め、半日後に迫った人生初のナンパをシュミレーションし始めるのだった。
渡辺さんの出番は今回は名前だけでしたが、そのうち正式に登場予定です。
役回りは……言わせんな、恥ずかしい。