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第2話 地獄会議(下)

事の起こりは一ヶ月ほど前に遡る。


これまで、天界には強大な力を持つ『神』が長らく君臨していた。


神は人間界での誘惑という名の試練を乗り越え、清らかな魂のまま生を全うした人間を天使へと転生させ、天界で心安らかに何不自由なく生きることを許していた。


しかし、これまで絶対だと信じられて来た『神の座』が突如として代替わりしたことにより、天界の状況が一変してしまう。


新たなる神は、毎晩のように見目麗しい女天使を自分の寝所に連れ込み、彼女らが神に逆らえないのを良いことに、無理矢理犯し始めたのだ。


そして新たなる神はそれだけでは満足せず、今度は男の天使たちに、地獄へと赴いて美しい女を人間、悪魔の種族を問わず天界に拉致して来るように命じたのである。


その結果、戦う術を持たない無力な人間の女だけでなく、魔力の弱い下級悪魔の女すら天使によって拉致されてしまうケースが発生し始める。


この問題の最初にして一番の被害者は『ラスト・シティ』を統治するアスモデウスだった。


色欲の町という名の通り、この町は性風俗産業が全ての中心となっている。


したがって、若く美しい女の比率が他の町と比べて圧倒的に多い為、被害者の数もそれに比例するように膨大な数に上っていた。


少なからぬ数の女を天使に拉致され、町としても大損害を受けただけでなく、ついに先日アスモデウスが囲っている人間の女の一人までもが天使の軍勢に襲われて拉致されてしまったのだ。


事此処に至って漸くアスモデウスも重い腰を上げ、他の町の代表者を集めて対策会議を開く為に動き始めたのだった。






「僕の町では既に若い人間の女性の価格が異常に高騰し、それに伴って品薄になった娼館が今までは見向きもしなかった30歳以上の女性さえも、娼婦として働かせる為にかなりの高額で落札し始めました」


アスモデウスは自分の町の現状を簡潔に説明した。


「む?高額で落札されるのであれば、お主の税収も自動的に増えるということだろう?ならば、むしろ好都合なのではないか?」


アスモデウスの話を聞いたマモンは、首を傾げつつ疑問を投げ掛けた。


「えぇ、マモンさんの仰る通り、確かにオークションによる収入は増大しました。しかし落札価格が上がるということは、少しでも早く資金を回収しようと彼女らを抱く為の価格も自然と高騰することになります。しかし、町の住民や観光客の収入が変わらない以上、今までのように気楽に女性を抱きに来ることが出来なくなってしまいました」


「なるほどね。結果として、税収は下降の一途を辿っていると……で?まさかそれだけだとか言わないわよね?そんなのは貴方の町だけの問題であって、私たちを集めた理由にはならないわよ?」


アスモデウスの補足を聞いたレヴィアタンが続きを言えと催促する。


「はい、問題はもっと深刻です。1つ目は、今まで食料生産に活用していた中年女性の数が減少することによる労働力の低下。2つ目は、女性を気軽に抱けなくなったことによる男性のストレスの上昇とそれに伴うトラブルの増加。3つ目は、これはあくまでも可能性の話ですが、天使による地獄への侵略という線も考えられます」


レヴィアタンに急かされたアスモデウスは、今後起こりうるであろう問題を足早に説明した。


地獄には『神』が代替わりしたという情報がまだ来ていない為、アスモデウスには天使の行動が地獄侵略の下準備のように映っていたのだ。


「確かにこのまま天使(あいつら)に女を浚われ続ければ、万が一天界と戦争になった時に人間どもがそれに併せて反乱を起こす可能性がある。そうなったら食料不足の問題はより深刻になるな」


サタンは顎に手をやりながら、どーしたものかと考え始めた。


「そして最大の問題は、天使たちの目的が不透明なことです。僕が調べた限りでは、天使は若い女性のみを拉致しています。一緒にいた男性は放置し、女性を取り戻そうと抵抗した場合は人間と悪魔を問わず殺害、もしくはかなりの重症を負わせているらしいのです」


「私たち悪魔は兎も角、地獄に堕ちた罪人とはいえ、天使にとって人間は元同族の筈でしょう?にも拘らず若い女は浚って男は殺すって、これはもう完全に盗賊の類じゃない?下手したら、私たち悪魔よりも性質(タチ)悪いんじゃないの?」


レヴィアタンは天使の所業を聞いて、悪魔よりも悪魔らしいと評した。


「やはりカラダが目的なのではないのか?若い女だけを浚う理由など、他にはあるまい?」


「……ですが、天使の数は女性の方が7:3で多いくらいだった筈です。わざわざ危険を冒してまで地獄に女性を調達に来るほど困っているとは思えません。とゆーか、僕が言うのも何ですが【色欲】は彼らにとって大罪の一つの筈です」


そう口ではマモンの意見に反論するアスモデウスだったが、その天使が人間までも殺傷している以上、説得力に欠けることもまた理解していた。


「まずは天使(あいつら)の目的の確認が急務だな。今までは見つけたら殺すように命じていたが、次からはなるべく生け捕りにして目的を吐かせることにしよう。お前らもそれで良いな?」


この会議の主催者はあくまでもアスモデウスの筈なのだが、この中ではサタンに萎縮して半ベソ状態のベリアルに次いで若輩である身であることを理解しているアスモデウスは、自他共に認める地獄の最高戦力であるサタンの決定に異論を唱えることは出来なかった。


とゆーか、現状ではそれ以上の有効な手が思い浮かばないのも事実なので、そもそも反論のしようがないのだが……


「それでは、今回の会議はこれで終了とします。ベルフェゴールさんには僕が親書を書いておきます。それと、今後天使から重要な情報を手に入れることが出来たら、再び会議を開き情報を共有することにしましょう。本日は僕の急な招集に快く応じて頂き有難う御座いました」


アスモデウスは席を立ち、深々と頭を下げて感謝を示した。


「さてと、それでは急いで家に戻るとするか」


今のサタンの顔からは先刻ベリアルに向けたような冷酷な表情の欠片も感じ取ることは出来ず、どこにでもいるような子煩悩な父親の顔を覗かせていた。


「くっ……折角サタン様との時間を堪能してたのに、またすぐに離れ離れになってしまうなんて……きっと、これが愛の試練という物なのね?」


妻帯者であるサタンに長年横恋慕し続けているレヴィアタンは、他の女と結婚して子供までいる状況ですら、放置プレイの一種のような物だとありえないほど前向きに解釈していた。


「アタイもぼちぼち帰ろうかね?ベル、お前もいつまで喰ってんだい?てゆーか、ちゃんと話聞いてたのか?」


マモンは、会議中まともに発言することもなく、サタンがベリアルに殴り掛かった時ですら空気を読まずにひたすらムシャムシャと食べ続けていたベルゼブブに視線を送った。


「モグモグ、モグモグ、モグモグ……ゴックン!うん!天使を捕まえれば良いんでしょ?」


「おぉ?ベルめ、意外にもちゃんと聞いていたようだな?……念の為だが、捕まえた後どーするかも分かってるよな?」


マモンは若干不安になったので、重ねて聞いてみることにした。


「え、えーっと…………食べる?」


どーやら、食欲娘には今のが限界だったようである。


「喰えるか!?てゆーか、別の意味に聞こえるわい!えぇーい、さっさと来い!帰りの道中でその少ない脳味噌に叩き込んでくれるわ!!」


先ほどまでカラダが目的じゃないのか?とか話していた所為で『天使を食べる』という言葉が卑猥な意味に聞こえてしまい、思わず顔が赤くなってしまったマモンは、それを誤魔化すようにベルゼブブの首根っこを掴んで引き摺りながら部屋を出て行った。


「えーっと……ベリアル嬢はお帰りにならないのですか?」


アスモデウスは、俯いて席に座ったままのベリアルに声を掛けた。


「……ろ………………して」


「……え?何ですか?」


微かにベリアルが声を発したような気がしたが、アスモデウスには声が小さすぎて聞き取れなかった。


「くっ……お風呂と着替えを貸してって言ったのよ!それくらい察しなさいよ!バカッ!!」


ベリアルの下着(パンツ)はシルク製の為、吸収性に富んでいるという訳ではなく、彼女が漏らしてしまったおしっこは下着(パンツ)を透過し、今やスカートにまでその版図を広げてしまっていたのだった。


そしてそれに気付いたベリアルはもはや立ち上がることすら適わず、屈辱にも男であるアスモデウスに助けを請うしか道は残されていなかった。


「お風呂くらいいくらでも貸してあげるけど、この屋敷には混浴しかないよ?この意味が分かるよね?」


アスモデウスはベリアルに風呂を貸す条件に自分との混浴を要求した。


女の弱みに付け込んだゲスな要求だが【色欲】を冠する悪魔としては、むしろ軽すぎる要求であるとも言える。


「うぅ……」


ベリアルは無言の肯定で内股気味に席を立ち上がった。


「ちなみにスポンジの類は置いてないから、ベリアル嬢のカラダでボディソープを泡立てて、僕の身体を全身隅々まで綺麗にしてよね?」


アスモデウスはニヤニヤと笑みを浮かべながら、現役アイドルの洗体マッサージに心を躍らせた。


「くっ……もし指一本触れてみなさい?消し炭にしてやるからね?」


ベリアルはいつでも魔法を発動出来る状態にしつつ、スキップでもしそうなアスモデウスの後ろに付いてノロノロと歩き始めた。


その後、アスモデウスにどんな変態的なプレイを要求されたのか、彼女が語ることは生涯なかったという……

ここまで読んだ限りだと、アスモデウスが主人公っぽい感じがしますが、彼は主人公のライバルキャラの予定です。


彼らの位置関係を時計で表現すると、12時にアスモデウス、2時にベリアル、4時にレヴィアタン、6時にサタン、8時にマモン、10時にベルゼブブという感じです。


……え?ベルフェゴール?


どーせ来る訳がないので、最初から席を用意してませんが何か問題でも?


それと、当作品ではルシフェル=サタン説を採用した影響で【傲慢】をベリアルにしています。


大罪と各キャラの対応は


【傲慢】・・・ベリアル


【嫉妬】・・・レヴィアタン


【憤怒】・・・サタン(ルシフェル)


【怠惰】・・・ベルフェゴール


【強欲】・・・マモン


【暴食】・・・ベルゼブブ


【色欲】・・・アスモデウス


といった感じです。


俄か知識で書いているので、変な所があったら指摘して頂けると助かります。

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