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Someone's love story:Crescent Moon  作者: 幸見ヶ崎ルナ(さちみがさきるな)
1/1

◆1. 気になるアイツ(That is she who I'm concerned)

…すごい揺れだった。


大きな地震に見舞われたその時、オレ仁藤計は千葉のFM局でラジオ番組の収録中だった。


高層階のスタジオから見える巨大ショッピングモールでは人々が身を寄せ合ってしゃがみ、仕事でしかここに来ることがないオレがうらやましく思っていた、そこにあるはずの『楽し気な空気』は微塵もなく、ただただ不安と恐怖が見て取れた。



(アイツ大丈夫だったかな…?)


そんな中、真っ先に浮かんだのは家族でも『エニタイ』こと俺が属するアイドルグループ“Anytime Anywhere”のメンバー達のことでもなく、「アイツ」のことだった。


自ら『妄想の神』と銘打って、俺の番組にドラマシナリオを送りつけてきたアイツことエミ…。


どういう訳かエミのシナリオに興味を示したディレクターのおかげ…いや、「せい」で、番組中ラジオドラマの演ることになった俺。

声の演者のみならず演出家も掛け持つ俺が言うたら駆け出し脚本家への甘やかしになるので敢えて口にこそ出さないが、俺様がかなりその文才を買っているエミは、十二分にプロで通用するイイものを持っているにも関わらず、未だOLとシナリオライターの二足のわらじを履いている。


今日はウイークデーの金曜日。エミは、晴れた日には富士山の頂を見渡せる、東京隣県の一部上場企業の研究所で働いている。


実を言うと俺は、ジロくん(=エニタイメンバー松野慈朗)が夏ドラ(マ)のロケをした温泉から幾ばくも離れていないその研究所までエミがラジオブースに置き忘れたIDカードを届けに行ったことがある。…何のことはない、収録翌日エミにカードを渡す時間があったのがアイドルの俺だっただけのことだ。


起きたばかりの地震は震度も震源もわからないが、震源によってはあの立派な建物だってどうなっているかわからない。

緊急情報発信地であるラジオ局にいながらの詳しい情報が揃わないことも相まって、オレは「らしくもなく」

アイツのことばかりが気になった。


電話がつながらない非常時はメールの方が早く安否確認ができると聞く。

エミに宛ててメールを1通打ちさえすれば早晩安否確認が出来るはずだった。ただアドレスを交換してから一度も自分発信のメールを打ったことがない気恥ずかしさが俺を躊躇わせていた。

ダミーで他のラジオ関係者のアドレスも入れればいいか…と思ったものの、エミ以外のスタッフが今日はここで俺同様収録に臨んでいることなんてエミだって知っている…。


(おい、四の五の考えてる場合じゃないぞ。)


…俺は心の中のもう一人の『素直な』自分の声に従い、まるで昔の電報ような短いメールを打った。


「請う安否。 K」


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