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俺と5限目と体育と






うららかな春の日─

窓から降り注ぐ暖かな光は生徒を眠りへといざなう。

船をこいでいるやつ、机に沈んでいるやつ、眠るまいと必死に黒板をにらんでいるやつ…

クラス中が春の日差しの甘い誘惑に負けつつある中、俺の両目はしっかりと開いている。


え?すごいね、真面目だね、って?

よせやい。照れるじゃんか。


この状況で、しかも一番窓際の席にいて、なんで起きていられるのか、って?

それは…


「ポニテ最高…」


窓から見える一年女子の体育の授業を眺めているからさっ☆

けど勘違いしないでほしい。

決して女子の体操着姿や、動くたびに揺れる胸を見るのが目的ではない。前の席で鼻の下を伸ばして彼女たちを見ている下品な男と一緒にされるのは勘弁だ。


俺の目的はただ一つ。

走るたびに揺れる艶やかな黒髪…そう、さゆりちゃんのポニーテールさ!



陸上競技をやっているらしく、グラウンドには、ハードルを跳ぶ生徒や短距離走のタイムを計っている生徒や砂場に向かって跳躍する生徒などがいた。


その中でさゆりちゃんは、自分の背丈ほどの位置にある棒の上を華麗に跳んでいた。

高跳びだ。


綺麗にお尻からマットの上に着地すると、それを見ていた女子生徒たちが一斉にさゆりちゃんのもとへと集まりキャッキャと騒いだ。さゆりちゃんはみんなに囲まれ少し照れくさそうに笑っている。

…ああ、あの輪にまざりたい。



少しすると、またみんながそれぞれの種目をやりに元の場所へ戻って行き、さゆりちゃんも高跳びの列に再び並んだ。


一人が跳び終えるたびにバーの高さが変わり、見ていると運動の得意な子、不得意な子がわかってくる。

さゆりちゃんはその中で一番の記録をあげていた。運動神経がかなり良いみたいだ。



数人が跳び終え、再びさゆりちゃんの番がきた。

期待に胸が膨らむ。


「佐倉」


誰かが俺を呼んだ気がするが、俺は今それどころじゃない。



さゆりちゃんがゆっくりと助走を始めた。ポ

ニーテールが大きく揺れる。



「佐倉」


「今良いところなんだから声かけないでよ」



バーの前で強く踏み切り、背中を反らしてそれを飛び越える。黒髪が体と一緒にバーの上を舞った。

そしてバーに触れることなく身体がマットの上に収まった。


流れる様な身体とポニーテールの動きに興奮していると、


「佐倉!」


と隣から大きな怒号が聞こえてきた。


せっかく人がイイものを見て気分良くなっているのに、それに水を差すなんてKYにも程があるだろ。俺は余韻に浸っていたいのに。


「なんだよ、さっきからうるせーな」


声のする方に顔を向け、不機嫌丸出しの顔でそいつを睨みつける。


……


「あ」


先生でした。


……


ってヤバいヤバいヤバい!!


「あ、えと、すいません。今のはその、ちょっと間違えたってゆーか…。はははっ」


必死に弁解するが、もう手遅れのようだ。

先生はこめかみをひくつかせながら笑っている。目はまったく笑ってないけど…。



「佐倉」


「…はい」


「放課後指導室に来なさい」


「…はい」

















「おはよー」


「よお、変態」


「変態じゃねえ!」


「変態だろ。授業中に女子の体育見て興奮してたんだから。昨日は先生にしっかりお説教されてきたか?」


バカにしたように笑う柳瀬。朝っぱらから嫌味な奴だ。

言いたいことはいくつもあるが、まずこれだけは訂正させてもらおう。


「俺は断じて変態じゃない!」


「…何の自信があってそう言い切れるんだ」


「昨日俺が見てたのは女子の体操着姿ではない!さゆりちゃんのポニーテールだ!こんなやつと一緒にすんなっ!」


俺は自分の前の席の男子を指差して叫んだ。昨日同じ時にグラウンドの光景を見てよだれを垂らしていたやつだ。


「なっ…!俺を巻き込むな!俺は関係ないだろ!」


よだれ男が焦った顔で反論してくる。


「関係ないだぁ!?何言ってんだ、このムッツリスケベが!」


「誰がムッツリスケベだ!」


「オメーだよっ!昨日オメーがよだれ垂らしながら女子の体操着姿見てたの知ってるんだからな!」


「うっ…!そ、そういうお前だって見てたじゃんか!しかも先生に声かけられても気づかないくらい真剣に!!」


「俺が見てたのはさゆりちゃんのポニーテールだ!オメーなんかと一緒にすんなっ!」


「ポニーテール~~!?お前のほうがキモいだろ、変態!」


「違う!変態はオメーだ!」


「変態に変態なんて言われたくないね!」



「おっはー。柳瀬、佐倉朝から何やってるの?」


「ああ小林、おはよう。こいつらはほっとけ。変態どうしで変態って言い合ってるだけだから」


「「変態じゃねえ!」」


「…変態どうし息ぴったりだな」


「「こいつなんかと一緒にするなっ!」」


「…」


「あはは、なんかすごいねー」


ものすごく呆れてる柳瀬とおもしろがってる小林の横で、俺らは先生が入ってくるまで延々と言い合っていた。




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