俺と彼女と待ち伏せと
「…と、いうわけで、今日の放課後は3人で校門の前で彼女を待ち伏せだ!」
「どういうわけだよ。てかなんで俺まで!?」
「友人の恋は応援するものだろ?」
「そうだよ柳瀬!僕と一緒に佐倉を応援しよう!」
「悪いが俺はお前の恋路に興味ないし、どちらかというと失敗することを望んでいるからな。協力する意味がわからん」
「この冷血非道め!」
「何とでも言え」
放課後─
「…くそ、なんで俺まで…」
ものすごく不機嫌な顔で俺を睨みつける柳瀬。校門まで無理矢理連れてきたらずっとこんな調子だ。
まったく、心が狭いな。
「まあそうカリカリするなよ」
「誰のせいだと思ってんだ」
「さあ~?」
柳瀬の顔が一瞬ものすごい形相になったが、すぐにため息をついた。
「…はあ……もういい。さっさとその彼女を探してくれ」
俺の持つ情報のみを頼りに、3人で昇降口から出てくる人並みの中から彼女を探した。(柳瀬は探していたというより眺めていただけだが。)
「見つからないねー」
小林がキョロキョロしながら言う。
俺も辺りを見回す。
「まだ校内にいるのか?」
「てか、このたくさんの人の中からこんな少ない情報だけで本当に彼女のこと見つけられんのかよ」
「大丈夫。俺の愛のパワーがあれば…!」
「…」
なぜだか柳瀬が口を開けて呆れているが、それは無視するとしよう。
「おっ!?」
「佐倉、見つけたの!?」
「やっとか…」
「いや、俺の好みのポニーテールを発見し─いだっ!」
突然柳瀬に思いっきり頭を殴られた。
「何すんだよ!」
「紛らわしいこと言うんじゃねえよ」
「しょうがないだろ?あのポニーテールを見て興奮しない男はいねーよ」
「興奮すんのはお前だけだ。ポニーテールごときにそんなに興奮する意味がわからん」
「ポニーテールをバカにすんじゃねえー!!
…ほら、あの子を見ろよ。あの巻茶ミディポニテを!」
「まきちゃみでぃ…?何それ?」
「ふふふ…それはな、小林。茶髪ミディアムヘアーを巻いたポニーテールのことさ。短めのうえに巻いてあることでフワフワ感が増した女の子らしさ抜群のポニテなのだっ!!」
「おおっ…!なんだかよくわからないけどすごい…!」
「だろ?でもそのもっと上をいく最上級のポニーテールがある…」
「それは…?」
「それは……黒ストロングポニテさっ!!」
「くろすとろん…?」
「長いストレートの黒髪を一つに束ねた…ポニテの頂点…!」
「頂点…!」
「そして俺らが今探している彼女こそ、その頂点に君臨するお方!」
「おお…!!」
「ポニテポニテってうるせーんだよ。ちゃんと探してんの…か……」
「?どうしたんだ柳瀬?」
柳瀬の視線の先を見る。
するとそこには…
「あっ!!いた!!」
「えっ!?…あ、本当だ!くろす…ポニテだ!」
腰ほどまである長い黒髪を揺らして優雅に歩くポニーテールの彼女がいた。
「今日も一段と素敵なポニーテールだ…」
「あの人、顔も結構きれいだね」
「佐倉…どう考えてもあの人、お前には高嶺の花だろ…っておい!?」
俺は柳瀬を無視して彼女のもとへと駆け寄った。
「あの…ちょっといいかな?」
「はい?」
彼女が立ち止まって俺を見た。
明らかに知らない人から突然話しかけられて戸惑っている。
「あ、俺、佐倉。2年8組の佐倉 良平。君は?」
「私は1年4組の灘嶋 さゆりです」
「さゆりちゃんかあ。ねえ、もしよければ俺とお茶しない?さゆりちゃんと話し─」
「お前いきなりナンパしてんじゃねーよ。彼女怯えてんだろ」
「佐倉だいたーん」
柳瀬と小林が遅れてやって来た。
「いやまずはお互いのことを知るべきかなと思ってさ」
「まあ間違った判断じゃないが、もっと誘い方があるだろ。なんださっきのナンパの常套句は」
「お話するならお茶かなあって思って」
「ったく…。えっと、君…名前は?」
「あ、灘嶋 さゆりです」
「灘嶋さん、ごめんね。このバカが迷惑かけたね」
「おい柳瀬、バカとはなんだ!」
「バカはバカだ。それともアホの方が好みか?」
柳瀬の言葉にムカついて殴ってやろうかと思ったが、俺は冷静になって出しかけた拳をこらえた。
さゆりちゃんの前でケンカは良くないだろう。
「ふん…なんとでも言え。俺は心が広いからな」
俺さすが!俺かっこいい!
「へえ、立派だな。でもじゃあその握りしめた拳はなんだ?俺を殴ろうとしていたんじゃないのか?」
柳瀬が不敵に笑う。
俺は拳をとっさに隠した。
「俺が暴力を奮うわけないだろ?さゆりちゃんと出会った瞬間から、俺の心は輝いてるんだ。例えるなら、そう、この満開の桜のように…!」
「桜とともに散ってしまえ」
柳瀬がそう言った瞬間、突風が吹いた。
そして満開だった桜の木から花びらが大量に散り去った。
「ああ!佐倉の桜が散っちゃったー!」
「なっ…!?」
「佐倉、残念だったな」
柳瀬がポンと肩を叩いた。
「てめっ縁起でもないこと言うな!」
「佐倉の恋が一瞬で終わっちゃったよー!」
「小林!?」
「ほら、小林もそう言ってるんだ。あきらめろ。」
「柳瀬が変なこと言ったせいだろ!」
「ふふっ」
今まで黙っていたさゆりちゃんがいきなり笑った。
驚いて3人で彼女を見つめる。
「みなさんおもしろいですね。見ていて楽しいです。」
くすくす笑うさゆりちゃんのポニーテールが肩の動きに連動して揺れる。
やばい、まじでこれはツボだ。
「楽しんでもらえたのなら良かった。ところでさゆりちゃん、俺に君の髪を触ら─」
「やめろ変態」
「─せ いだっ!てめぇ何しやがんだ!」
「灘嶋さんを変態から守っただけだ」
「俺は変態じゃねえ!」
「そうだ!佐倉はポニーテールを見ると興奮しちゃうし、ポニーテールについて興奮しながら熱く語っちゃうけど、変態じゃないぞ!」
「小林、それフォローになってないから。むしろ彼女に佐倉の変態度合いを教えちゃってるから。」
「あれ?」
首を傾げる小林を俺と柳瀬で呆れて見てると、再びくすくすと笑う声が聞こえた。
「みなさん本当に仲が良いんですね」
「良くないから」
さゆりちゃんの言葉にかぶせるように柳瀬が反論する。
そこまで否定しなくてもいいじゃんか。
「見ていて飽きないです。ぜひまたお話を聞かせてください。」
「もちろん!てか今日このまま遊ばない?」
「お誘いは嬉しいんですけど、今日はこれから用事があるので。ごめんなさい。」
「そっかあ。じゃあまた誘うねっ!」
「はい、ぜひ」
優しく微笑むさゆりちゃん。まるで天使だ。
「…それではそろそろ失礼しますね」
「あ、うん。じゃあまたねー!」
軽く頭を下げて去っていくさゆりちゃんに大きく手を振りながら、その後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。
「…はあ。やっぱり最高だなあ…あのポニーテール…」
「変態が」
柳瀬に何を言われても気にならなくなるほどに、あのポニーテールは美しい。
それに、その麗しのポニーテールの彼女に、微笑まれ、俺と遊びたいとまで言われたのだ。
もう気分は最高潮だ。
「なー小林、初デートはどこがいいかなぁ?やっぱり遊園地とか?」
「水族館とか映画とかもいいと思う!」
「それもいいなあ。うーん…なあ、柳瀬。お前はどこがオススメだ?」
「…てかさ、お前、彼女の連絡先聞いたのか?」
「え?」
「連絡先知らないのに、どうやってデート誘うんだよ」
…
……
「…あ"ーーーーーーーーー!!!!!」
桜舞う校門の前、俺の叫び声がこだまする。
彼女と結ばれるまでには、もう少し時間がかかりそうだ─