【1-3】勇者候補と勇者
ミアン視点に切り替わります。
「グレンは『勇者』に会いたい?」
一応、幼馴染みである彼に聞く。
グレン・ロイヤード=シュルツ。
先日、この国の王から『勇者候補』の称号と『シュルツ男爵』を与えられた男。
まさか夢を実現させるとは思っていなかった。
私は実現してほしい反面、してほしくないと思っていた。
「うーん、会ってみたいとは思うけど、ミアンより会いたいとは思わないな」
予想していた答えだった。何故かグレンは全てにおいて『ミアン』を最優先にする。少しは他の事にも目を向けてほしい。
「そう。じゃあ、グレン」
「なんだい?」
「私が勇者だと言ったら、信じる?」
私は一種の賭けにでた。グレンが信じるか信じないかで彼から『ミアン』を消去しなくてはいけない。
「本当に!?」
彼は目を見開いて、私を見る。本当に彼は分かりやすい。
思った事をそのまま表現する。普段接する事のない性格だからか、彼には色々と世話を焼いた。
「君を守れるような勇者になりたい!」
と言われた時は冗談かと思った。
しかし、時が進むにつれ、本気だと知った。
悪いことをしたと思っている。
罪滅ぼしの様に病で伏せていた彼の母の面倒を見た。
噂はよく聞いた。激戦地で敵将を討ち取った話はかなり有名だ。
だが、彼は『勇者』にはなれなかった。
別に『勇者』が存在したから。
「だから、ミアンはオレより強いんだね!
ミアンが勇者なら、早く言ってほしかったな~」
「……信じるの?」
「うん。だって、ミアンは嘘つかないだろ」
満面の笑みで私を見るグレン。あぁ、そうだ。彼はこういう人だった。
『お前は人の見る目がある』
風に乗って聞こえてきた声。私の頭を撫でるように私に染み込んでくる。
「……そうかもね」
「どうかした?」
「何でもない。
ねぇ、グレン。
旅に出ない? 私と一緒に」
旅の目的は伝えられない。でも、グレンなら、なんとなくで気づくだろう。
「ミアンとなら、オレはどこにでもいくよ。
ミアンがオレの元から去っても、オレは追いかける。
オレがミアンを守る」
昔、あれだけ頼りなかった彼の言葉とは思えない程、私の心に突き刺さった。
「ふふっ、頼りにしてますよ、『勇者様』」
「勇者はミアンだろ」
「私が勇者だと知っているのはグレンだけよ。だから、皆には内緒よ」
「わかった」
彼の笑顔は眩しい。太陽みたいである。
そういえば、彼には渡さないといけないモノがあった。彼が私と一緒に来てくれるのであれば、渡すつもりでいたモノを。
「グレン」
「何?」
「これ、あげるわ」
私の手から彼の手に渡されたのは赤い宝石が1つついている耳飾り。
ただし、片耳のみ。
「片方だけ?」
「うん。もう片方は私がつけている」
そう言って私はグレンに左耳を見せた。そこには先程の耳飾りと同じ物がついている。
「お揃いの耳飾り?」
「そんな感じかな」
「……ありがとう!」
私から物をプレゼントするなんて、今までなかったから、すごく喜んでいる。
これが最初で最後のプレゼントになるかもしれないけど、それは伝えない。
「グレン、7日後に出発でいい?」
本当は早く出てもいいのだが、グレンはここに戻ってきたばかり。少しは家族との時間を設けさせたかった。
「あぁ、いいよ。何処に行くんだい?」
私は次の目的地を彼に言った。
「魔の国ディオーラ」