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【1-2】勇者候補と幼馴染


 オレは家を出て、ミアンが暮らす家に向かう。

ミアンの家は村から少し外れた森の中にある。

森の中と言っても、森の奥ではない。森の奥は隣国の領土であるから、村の人間は誰も森へ近づかない。

「昔より緑が多い感じがするけど、それ以外は変わらないな……」

 何もかも懐かしい。オレは小さい頃から歩き慣れた道を歩く。

昔は歩いても歩いても辿りつかなかった事もあったが、今ではすぐだ。


 ぽっかり森が開いた場所。小さな湖の近くにある小さな小屋。

それがミアンの家だ。

オレはドアを開けたい衝動を抑えながら、ドアをノックする。


コンコン


 返事がない。もう一度ノックする。やはり返事がない。

「寝ているのかな……」

 いや、それはない。

ミアンは微かな物音でもすぐに飛び起きるという特技を持っている。

ノックで起きないなんて、あり得ない。

「出かけているのかな……」

 出直した方がいいかと思い、オレは扉から離れた。

溜息が出る。会いたい人に会えないのがこんなに悲しいモノだとはオレは思っていなかった。

会いたい。

会いたい。

会いたい。

会いたい。

会いたい。

会いたい。


アイタイ



「グレン?」

 懐かしい声。聞き間違える訳ない。ずっと聞きたいと思っていた声だから。

オレは顔をあげた。やっぱり彼女だ。

昔と全然変わらない。

 闇の様な黒髪は腰辺りまであるのに縛らず、風に吹かれてたなびき、髪と同じ色の左目と血の様に紅い右目にはオレしか映っていない。

肌は髪が黒いせいかより白く見え、華奢な身体つき。

「ミアン!」

 オレはミアンを抱きしめようとした。

抱きしめるだけじゃ足りない。彼女の頬や手の甲にキスをしたい。

しかし、それは出来なかった。

 ミアンはオレが抱きしめようとした寸前にオレの右腕を両手で掴み、オレを投げた。

オレが走っていたから、ミアンはほとんど力を使っていないだろう。

さすがミアンだ。

「ただいま」

 オレは寝転んだまま、ミアンに言った。ミアンはオレに近づき、顔を覗き込んできた。

「……おかえり」

 あぁ、この表情も懐かしい。

ミアンは『笑顔』が苦手だ。微笑みとかはできるみたいだけど、『笑顔』は見た事がない。

いつも笑おうとしているけど、どこかひきつっている感がある。

昔はオレの事が嫌いでそんな表情をするのかと思っていたが、それが彼女なりの『笑顔』だと知るのに数年かかった。

「会いたかった」

「そう」

 素っ気ない返事も彼女らしい。

「なぁ」

「何?」

「キスしていい?」

「……頬のみね」

「分かった」

 オレは起き上がり、ミアンの左頬に手を当て、右頬に唇を落とす。

ミアンの肌はまるで日光浴をしたシーツの様に優しく、肌触りがいい。

「抱きしめていい?」

「……いいよ。グレンが帰ってきた記念」

 オレは嬉しくなった。ミアンはあまりスキンシップはしない方だ。

いつもいつも避けられる。いつからか、オレはミアンにキスしたい時や抱きつきたい時はミアンに確認する様になった。

ミアンは頬にする軽いキスは許すが、それ以外は「駄目」の一点張りだった。

 嬉しい。嬉しくて、理性が飛んでしまいそうだ。

ただ、理性を飛ばしたら、ミアンをどうするか分かっているから、我慢だ。

オレは今まで我慢してきたんだ。今回も我慢だ。

 オレはミアンを抱きしめた。

細い。力を込めたら、壊れてしまいそうだ。


――自分のものにしたい


「ミアン」

「何」

「オレ、勇者になったよ」

 本当は『勇者候補』だけど、この国の人にとってはオレは『勇者』と思われている。

オレを『勇者候補』と言うのは王族と一部の貴族だ。

「嘘」

「嘘じゃない」

「グレンは『勇者』じゃなくて『勇者候補』でしょ?」

「……なんで知っているだ?」

 王から『勇者候補』の称号をもらったのは10日ほど前だ。

その事がこんな田舎に噂となってくるのにはもっとかかるはずだ。

「私に知らない事はないよ」

 そう言われると、オレは納得してしまう。

ミアンはオレの知っている事・知らない事、何でも知っている。

昔、なんで知っているのと聞いたら、さっきみたいに「私に知らない事はないよ」と言われた。

それ以上、ミアンは何も言わない。言いたくないのだろう。だから、オレも聞かない事にした。

「オレ、『勇者』にはなれなかったけど、『ミアンの勇者』にはなれるよ」

「『私』の?」

「うん」

「……グレンは『勇者』になりたかったんじゃないの?」

 うん、そうだよ。『勇者』になりたかった。でも、もう『勇者』はいる。

だから、次になりたいモノになる。それが『ミアンの勇者』。

ミアンを守る存在。

「ミアンがそう望むなら、なるよ」

「私はグレンに聞いている」

「オレはミアンがオレになってほしいものになるよ」

「……」

 ミアンがため息をつく。なんかオレ、変な事言ったかな?

「グレン」

「何?」



「グレンは『勇者』に会いたい?」





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